第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(7)

 



爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-

QB/WRコーチ  小野 宏

 
(1)“日本代表”との対決 (5)OLたちの詩 (9)ロジスティックス
(2)二つのノーハドル (6)ショットガンの5年 (10)カズタの物語
(3)人が変わる時 (7)ラン&シュートへの挑戦 (11)後世畏るべし
(4)ゴール前の罠 (8)マネジメント改革  
 
(7)ラン&シュートへの挑戦

革命的パッシングゲーム

 そして、我々がたどりついた結論が「ラン&シュート」だった。ハワイ大から伝授を受けてきた究極のドロップパスゲーム(正確にはスプリント)のオフェンスである。
 ラン&シュートは、1980年代終盤にNFLヒューストン・オイラーズとデトロイト・ライオンズで出現してカレッジフットボールにも広がった5歩スプリントを基本にした革命的なパッシングゲームの戦術体系である。
 もともとはライオンズでシルバー・ストレッチと異名をとった攻撃を率いたマウス・デービスが源であり、その教えを受けたグループの1人がハワイ大のヘッドコーチ、ジュン・ジョーンズである(2008年度からサザンメソヂスト大学ヘッドコーチ)。オプションルートをふんだんに入れたパッケージで、圧倒的なまでにドロップバックパスに偏ったオフェンスなのだ。
 それ以前にカレッジでパッシングゲームをリードしていたのはブリガムヤング大学(BYU)だった。私が大学4年生の時に当時の広瀬慶次郎ヘッドコーチ(現・高等部総監督)がショットガンで導入した際のパッシングゲームのモデルはBYUのものが中心だった。当時BYUは、ジム・マクマーン(1986年シカゴ・ベアーズでスーパーボウル優勝)、スティーブ・ヤング(1994年49ersでスーパーボウルMVP)、タイ・デトマーなど卒業生を次々にNFLに送り込んでいた。
 このパッシングゲームも守備のカバレッジに応じてルートを変更していた。しかし、あくまでもカバーの変化に対する最小限の変更であって、その後に進んだカバレッジの種類の増加やディスガイズ(カバーの偽装)のテクニックには対応が困難になっていった。戦術の進歩は狐と狸の化かし合いのようなものだ。守備戦術の進展により、より高度にシステム化されたオプションルートが組み込まれ、複数のレシーバーが目の前のカバレッジに対して自動的に常に有効なルートを走る「ラン&シュート」が出現した。

扱いにくい戦術

 ただ、米国でも一定の流行を見せたが、オイラーズもライオンズもスーパーボウルには結局届かなかった。頂点を目指すには、パスにあまりに特化しすぎていてバランスを欠き、結果的に守備に狙いを絞られる、というのが一般的な印象だったと思う。パッシングゲームの進化の主流にはならなかった。その後は、NFLサンフランシスコ49ers・ヘッドコーチのビル・ウオルシュが5-10ヤードのショートパスを精確に通す「nickel&dimeオフェンス」を構築し、ウォルシュ・ファミリーがプロ、カレッジのコーチに散り、ウエスト・コースト・オフェンスとしてさまざまなレベルにまで波及した。
 その後、ラン&シュートの流行はすぼみ、今はハワイ大だけがこのpass orientedの戦術を続けている(ハワイ大も2007年レギュラーシーズンは初の11戦全勝を記録し、シュガーボウルに出場した)。日本では関学が1990年に武田建先生がオフェンスコーチに復帰した際にラン&シュートを導入し、京大が続いて1991年に導入した。いずれも一定の成果を収めながら、重要なゲームで敗戦を喫したのを機に断念した経緯がある。リスクが高いのでその後はどのチームも手を出さなかった。しかし、だからこそ習得できれば我々だけに大きなアドバンテージが出てくる。
 このラン&シュートの元祖ジュン・ジョーンズの片腕であるハワイ大学のQBコーチ、ダン・モリソンが2004年にニューエラボウルで来日したのを機に2005年から毎年関学として5月の連休にクリニックとして招いてきた。その中で少しずつノウハウを蓄積してきた。この戦術は普遍性が低く、非常に特化したさまざまな細かいノウハウが積み上げられて体系だっている。部分的に導入することはできない。取り組みが中途半端では成果が出ない。熟練するのに相当な時間がかかる。ある一定のレベルに達しなければ労力に見合う果実を得られない。しかし、一定のレベルを超えると爆発が起きる、という扱いにくい可燃ガスのような攻撃なのだ。

KGオフェンスのDNA

 もう一つの面は、知識集約型のオフェンスであることだ。ドロップパスに特化したノウハウが凝縮されている。まったく思いも寄らぬところに問題となる重い扉を開くカギが隠されていたりする。QBに高い資質が要求されるが、しかし米国トップレベルのQBでないとできないというわけではない――最初は難しいと思っていたが継続している間に我々でもある程度可能だと思えるようになってきた。関学はもともと「パスの関学」を伝統としている。そのDNAを引き継ぎ、進化させるためにこそ「ラン&シュート」の会得に狙いを絞った。
 従来から我々が築き上げてきたオフェンスは、ランとプレーアクションパスを軸として戦術的な駆け引きに長けていることが特徴だった。これにラン&シュートを加えて核に据え、新たなKGオフェンスの構築を目指した。そうした大きな戦略的な取り組みが徐々に奏功してきたことがライスボウルでの「爆発」につながった。
 
 
  2004年のニューエラボウルでの来日をきっかけに、2005年から続けて招聘し、ラン&シュートの手ほどきを受けたハワイ大学QBコーチ、ダン・モリソン氏。(左から2番目。左は広瀬高等部総監督、右から神田、小野)

次へ