第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(4)

 



爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-

QB/WRコーチ  小野 宏

 
(1)“日本代表”との対決 (5)OLたちの詩 (9)ロジスティックス
(2)二つのノーハドル (6)ショットガンの5年 (10)カズタの物語
(3)人が変わる時 (7)ラン&シュートへの挑戦 (11)後世畏るべし
(4)ゴール前の罠 (8)マネジメント改革  
 
(4)ゴール前の罠

追撃のアクセル

 タイト・マン・カバーも気にせず秋山がスラントからのアウトでなんなく第1ダウン。これも電工としては勝負所と考えての6人ブリッツだった。しかも、脇坂と三輪を入れてきた。OLたちは周到に準備していた。組織的に適切に対応をした。1対1でも新谷が脇坂をきれいにプロテクションしたうえに寥がもらしたDEにまでパンチを入れた。
 2年生QB浅海がロールキープして9ヤードゲイン。OLのブロックはあまりよくなかったが、自慢の快速でパシュートを振り切って切れ上がった。
 フック系のパスは全員がカバーされていて三原が投げ捨てた。
 第3ダウン残り1ヤード。電工はさらに奥の手を出してくる。6人ラッシュで7人目はスパイして、カバーはフリーセイフティを置かないC-0(カバー・ゼロ)。萬代が外から浅く入ってくるルート。真ん中ががら空きになった。三原がラッシュを逃げながらぎりぎりで投げて成功。このシリーズ、三原が投げた瞬間に常に山中がサックしかけている。OLの中の3人は互角以上の勝負をしている。やはり外からのラッシュが危ない――。
 次は再三ヒットしているヒッチ系のパスをコールしたが、OLBが読んでいてもう少しでインタセプトされるところだった。しかし、同時に内側のレシーバーが空いていることが見えた。
 
WR#91萬代(晃)。春シーズン、秋リーグ戦と度重なる負傷により戦線離脱していたが、ライスボウルの舞台で完全復帰を果たした。
 次はオープンサイドのアウト。CB野村がマン・ツー・マンのルックからプレーが始まると同時に半身になって下がるベイル・テクニックでゾーン・カバーに下がった。岸と三原は「あ・うん」の呼吸だった。ぴったりサイドライン際に投げて岸がキャッチしながら足をインバウンズに残して成功。老練な野村がさまざまな手を使ってQB・WRを惑わせようとするが、まったく動じない。電工も必死でDLがクロス(スタント)をかけてきているが、OLがうまく処理している。山中をついにDLに入れて本格的にラッシュさせてきた。
 第3ダウン。残った1ヤードは横山のインサイドランでしっかりとってGL前3ヤードでの第1ダウン。ただ、また脇坂がフリーのようにして入ってきて横山をタックルした。考えられない。あれほど脇坂を止める方策を考えて練習したのに。T寥も脇坂に割られてどう対処していいのか分からず、第1ダウンを取ったものの、経験したことのない“怪物”の威力にしゃがみこんでしまった。

落とし穴

 ほぼ確実にタッチダウンを奪えるはずだった。しかし、落とし穴があった。マン・ツー・マンを狙って出したプレーだったが、電工は前回のゴール前でピックされたこともあり、マンにディスガイズ(偽装)しておいてゾーンに変える「わな」を仕掛けていた。また、ベストラッシャーで常時オープンサイドにいるLB山中をDLに戻して狭いサイドのDEにもってきていたのは想定外だった。アンバランス隊形を敷いたのが裏目にでた。TE韓が山中をブロックしなければならないミスマッチが発生してしまった。山中があっさり韓のプロテクションを振り切って三原の背後からサック。ボールがこぼれてリカバーされた。電工の戦術的な奥深さにはめられたのか。あるいは、ひょっとするとこの位置からはショットガンでは攻めてこないと考えて、3TEのランを想定して守備をコールしたのかもしれない。いずれにしてもGL前3ヤード、第1ダウンで得点を逸したのは痛い・・・。

あ・うん

 しかし、守備がなお踏ん張ってパントに追い込み、自陣42ヤードからの攻撃。ロールから20ヤードのスローバックのフック。三原の強肩と秋山の奥の脅威があってこそのプレーである。電工は今度は3人ラッシュに変えて8人を後ろに下げて守ろうとした。サインに緩急をつけてQBを惑わし、なんとかパスゲームの調子を崩そうとしている。しかし、これはたまたまその影響が一番少ないプレーだった。禍福はあざなえる縄のごとし。攻守のサインの当たり外れもまたしかり。
 ショベルで平田が7ヤードゲイン。これも3人ラッシュ。このシリーズは下がって守るつもりかもしれない。上村がずっとうまいブロックを続けている。
 QBドロウで第1ダウン。やはり3メン。カバーは2manでレシーバーのカバーに人数を割いていた。これも「当たり」である。
 オプションからQBキープになった。電工は3人ラッシュの守備が裏目に出て、GLに近づいてきたこともあって再びブリッツに転じた。これも我々からすれば「当たり」である。上村、福田、中山がきれいにブリッツを処理した。しかし、タックルを受けて三原が傷ついた。足を引きずっている。どうするか。自分で倒れないとノーハドルのため、交代させられない。タイムアウトを取るわけにはいかない。
 ショベル、ノーゲイン。第3ダウン4ヤード。ヒッチ系のパス。ただし、OLBがずっと流れていることが分かっていたのでインサイドを狙うことはベンチで打ち合わせていた。想定どおりに柴田が空いて第1ダウン更新。三原をいったん下げて加納と入れ替えたが、25秒計がゼロに近づきタイムアウトをコールせざるを得なかったことで結果的に三原に確認ができた。「いけます」。「よし、いけ」。ゴール前8ヤード。狭いサイドに一人だけセットした岸のアンド・ゴー。CBがぴったりとくっついていた。エンドゾーンを超えては意味がないのでリードボールは投げられない。高い位置へのパスはDBに振り向かれたときにインタセプトのリスクがある。どこへ投げるべきか-どこへボールが飛んでくるか。2人の心は空間を隔ててつながっていた。考える時間は0.5秒あったかどうか。低い弾道のパスが、DB山田の背中を超えて飛んできた。岸がエンドラインぎりぎりで倒れこみながらキャッチした。膨大な時間をともにした者同士だけが共有する感覚。想定どおりでない状況での一瞬の判断で大切なのは、絶対的な「信頼感」なのだ。31-38。勝利への道がわずかに見えてきた瞬間だった。
 
  エンドゾーンの奥ギリギリで芸術的なキャッチを見せたWR#1岸。この日数々の難しいキャッチを決め、チームを奮い立たせた。そしてこの得点で遂に1タッチダウン差に迫った。

次へ