安全に対する取組について

 関西学院大学ファイターズでは、2003年8月の夏季合宿の練習中において平郡雷太君(当時4年生)が心不全で亡くなるという、重大な事故が起きました。チームは事故の報告書をまとめ、改めて重篤事故防止に全力で取り組むことを誓いました。このページでは、我が部の安全に対する具体的な取組を紹介させていただきます。
 


1.重篤事故を予防するための方策

(1)熱中症の予防策

■ 暑熱馴化
 8月1日に始まる夏季練習の前段階から徐々に高い気温の中で動くことに身体を慣れさせていく。夏季練習の初期段階は 上半身のみのスタイルで練習を行い、その後フルスタイルでの練習へと移行させていくというように調整を行う。

■ 練習時間帯の制限
 夏季(8~9月)の練習時間は、気温の低い早朝もしくは午後4時半以降に限定している。

■ 環境暑熱計による練習環境の管理
 WBGT(湿球黒球温度)の値が28~31℃の場合は、休憩をこまめに挟みつつ状況を逐次確認しながら実施し、31℃以上の場合は練習開始時間を遅らせて気温の低下を待つ。
 WBGTとは、労働環境において作業者が受ける暑熱環境による熱ストレスの評価を行う簡便な指標であり、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れて、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算する。WBGT基準値指数に基づく附属書A「WBGT熱ストレス指数の基準値表」に示される基準値で、28℃以上では激しい運動は避けるよう、31℃以上では特別の場合以外は運動を中止すべきと定められている。

■ 水分補給
 夏季の練習は、通常の Squeeze bottle に加え、試合時に使用している大型のポリバケツ3つに0.3%の食塩水と氷を入れ、グラウンドに出し、自分の好きなタイミングで水分補給ができるようにしている。 また、毎日の 練習前と練習後に体重測定を行い、体重が大幅に減少している者については、日常生活および練習中の水分補給を積極的に行うように指示している。

■ 合宿期間の体調管理
 8月中旬に行う夏季合宿においては、午前・午後の練習の前後に体重、体温の計測、体調のチェックをトレーナーが全選手に行っている。

(2)頭部外傷の予防策

■ MRI(核磁気共鳴断層装置)検査
 入部する時点で全員がMRIによる頭部(脳)の断面画像を撮影して脳神経外科医の診断を仰ぎ、コンタクトを伴うアメリカンフットボールに対する適性を確認する。

■ 首、僧帽筋の強化
 コンタクトの際に 頭部が振られるスピードを和らげる為に、頭部の付け根である首、僧帽筋を トレーニングで 強化する。

■ 適正なヒット技術を習得
 ヒットの瞬間は、きちんと顔を上げていること(フェイスアップ)、あごをひき、首を肩の中に埋めるような状態をとること(ブルネック)、両手を活用してヘルメットだけのコンタクトにならないようにすることなどをしっかり身につける。

■ 夏季練習時の水分補給
 脱水によって脳震盪および頭部外傷が起こりやすくなる可能性があり、生活においても練習中においても水分補給はこまめにするように指導している。

■ 体調管理の徹底
 頭痛、発熱、睡 眠不足などについては本人の申告を基本として、トレーナーが体調管理に注意している。

■ 合宿期間の体調管理
 8月中旬に行う夏季合宿においては、午前・午後の練習の前後に全選手の体重、体温、頭痛の有無、などをトレーナーが確認して体調のチェックを行う。

■ ヘルメットの軽量化を図る
 過去の頭部外傷事例の分析から医師が指摘しているとおり、重いヘルメットはより速い頭部の回転を引き起こし、頭部外傷を引き起こす誘因となる。できるだけ重量の軽いヘルメット、フェイスガードの利用を啓蒙している。特に近年は頻繁に新商品がリリースされるため、毎シーズン開始時にルールを改定し、安全講習会で全選手に説明している。



■ CogSport の導入
 重篤な頭部外傷の発生率と脳震盪の発生率には相関関係がある。重篤事故を防ぐには脳震盪に対する的確なマネジメントが欠かせない。脳震盪は脳の認知機能の低下を招き、練習復帰には外見上の回復だけでなく脳認知機能の回復を確認することが必要である。 CogSport では脳震盪から表面上回復したように見える選手を復帰させる際に、ウェブ上で反応速度、反応の正確さ、記憶力などを測るテストを行い、本人の正常時の数値と比較して脳機能が完全に回復しているかどうかを検証するシステムである。このテストによる脳震盪のデータを蓄積し、年間の発生率を指標として減少に努める。

■ 脳震盪から復帰までのプロセス設定とその遵守
 脳震盪を発症した場合、
 ①脳外科で CTスキャン、MRI 検査を含めて受診する。
 ②自覚症状がなくなった段階で Cogsport のフォローアップテストを行う。
 ③テストによって正常な状態に回復したことをチームドクターに報告し、復帰の承認を受ける。
 ④監督が最終的に復帰させるかどうか判断する。

(3)頸椎損傷の予防策

■ 適正なヒット技術を習得
 ヒットの瞬間は、きちんと顔を上げていること(フェイスアップ)、あごをひき、首を肩の中に埋めるような状態をとること(ブルネック)、両手を活用してヘルメットだけのコンタクトにならないようにすることなどをしっかり身につける。

■ ヘルメットを武器にした当たり方の禁止
 頭頂部を使ったヒット(スピアリング)の禁止を徹底する。

■ 首、僧帽筋の強化

■ レシービングでの回転キャッチの禁止およびランナーの前転禁止
 レシーバーが捕球する際に、飛び込んで空中で前方に回転する動作は、角度によって地面と頭部が衝突し、頚椎の傷害が起きる可能性がある。また、すべてのボールキャリアが倒れる際に前転してはならない。回転の動作中に後方から相手選手に当たられるのは非常に危険である。倒れる際も顔を上げておくこと、回転する場合は前方ではなく横転または斜めに回転して頭部が地面と衝突するのを防ぐ。

■ 正しい防具の装着の指導
 ネックロールなどを使用する場合、ショルダーパッドに適切に固定させるように指導する。

(4)心不全の予防策

■ 総合的な健康診断の実施
  年に1回、クラブ検診として、内科診察、尿検査、血液検査、血圧、心電図の検査を行っている。なかでも心電図は直接、心臓を調べる検査なので、外部の専門医に再チェックを依頼し、必要に応じて負荷心電図、ホルター心電図の検査も行っている。

■ AEDの配備
 突然死の主要原因である「心室細動」への対策として、AED (自動体外式除細動器)をグラウンドに配備している。

■ 救急救命講習会への参加
  毎年、シーズン前には監督以下の指導者および学生のトレーナー等が救急救命講習会を受け、心肺蘇生術および AED 利用の訓練を行う。
 

  



2.事故発生時の対応について

(1)練習時

 重大事故が発生したときには、以下のように学生トレーナーが中心となって、マネージャーを含めた学生スタッフが①~⑧を分担し、迅速に対応できるようにしている。

 ① 直接事故に対応し、指示を出す者、救急車の要請・各方面への連絡を中継する者
 ② CPR(心肺蘇生法)を実施する者
 ③ AEDを手配する者
 ④ 救急車を要請する者
 ⑤ 救急車の誘導にあたる者
 ⑥ 経過を記録する者
 ⑦ 事後処理、選手の誘導を行う者
 ⑧ 状況によっては体位変換を補助する者

 コーチ陣も万が一に備えて、救急救命の講習を受けている。
 以上のように役割分担をしているが、その時々の状況によって臨機応変に対応できるようにしている。

(2)試合時

 原則としては練習時と同様であるが、試合時はメディカルスタッフが帯同しており、救急車到着までの処置はメディカルスタッフの指示を仰ぎながら行う。
 試合時の救急車要請は、試合運営責任者を通じて行う。
 

3.メディカルスタッフの体制

シニアメディカルスタッフ:中村公雄(歯科)
メディカルスタッフ:吉矢晋一(整形外科)、山口基(整形外科)、青山直樹(整形外科・1995年卒)、安保和之(歯科)、増田英人(歯科)、寺井彰三郎(整形外科)
トレーナー:西岡宗徳(1987年卒)、高島裕之(2002年卒)
学生トレーナー
 

4.医療機関との協力関係の構築

(1)夏季合宿

 夏季合宿(兵庫県・東鉢伏高原)を行う前に、現地の八鹿病院、出合診療所、養父消防署を訪問して、合宿の日程・場所を連絡し、練習中に事故が発生すればできる限り迅速に対応してもらえるよう要請している。また、夏季合宿はメディカルスタッフが交代しながら全日程に参加してもらえるよう調整を行っている。

(2)練習・試合時

 頭部傷害については西宮協立脳神経外科病院、整形外科外傷は主に明和病院、あんしんクリニックで診ていただいており、日常的に両病院の専門医とトレーナーが連携をとっている。
 学校にもっとも近い甲東消防署には救急救命講習会を開いてもらうなどして、協力体制を構築している。
 また、試合時については全ての試合にメディカルスタッフが帯同している。