第61回(2007年度)ライスボウル特設コラム(2)

 



爆発(explosion) -史上最高のパスゲーム-

QB/WRコーチ  小野 宏


(1)“日本代表”との対決 (5)OLたちの詩 (9)ロジスティックス
(2)二つのノーハドル (6)ショットガンの5年 (10)カズタの物語
(3)人が変わる時 (7)ラン&シュートへの挑戦 (11)後世畏るべし
(4)ゴール前の罠 (8)マネジメント改革  

(2)二つのノーハドル

もう一つのノーハドル

 しかし、前半、7割方プランは成功してかなりゲインを奪っていたのだが、いくつかのキーポイントで誤算があり、最大2本のTDを取れる状況にありながら3点にとどまってしまった。逆に相手は31点。松下電工からすれば完全に安全圏に入った、と考えただろう。
 後半はキックオフリターンから。もともと第4クオーター勝負と考えていたのだから、このままシナリオどおりに我慢して終盤に万一のチャンスが訪れるのを待つべきか。しかし、もし後半最初のシリーズで得点できず、逆に先に相手が点を取れば試合は完全に終わってしまう。ほとんど見えなくなっている勝利の可能性を再び手繰り寄せるにはどの手を打てばいいか。
 前半は最初のシリーズからノーハドル・オフェンスを展開していたが、実はノーハドルは2種類、準備していた。シフト・モーションを組み込んだスロー・ノーハドルと、パーソネルグループを4ワイドレシーバーに限定し、フォーメーションも単純にし、交代も最小限にして、ドロップのパスを軸に短いインターバルでテンポアップして進めていくクイック・ノーハドルである。残り2分以内になってから使うことを想定して「2 minutes」と呼んでいたが、この試合に限ってはゲーム途中で使うことも想定の中に入れて作成していた。

「パスは絶対通る!」

 後半のキックオフリターンを迎える時間が近づく中で決断を迫られていた。1分前。「よし、2 minutes行くぞ」。有線でつながっているサイドラインの控えQB幸田が、オフェンスの選手たちにコーチの決断を怒鳴るように伝えた。決断の決め手は、外的な要因ではなかった。合理的でも客観的でもない。内発的な衝動である。「首の皮がつながって試合が生きているうちに、我々のパッシングゲームをあいつらに思い切りやらせてやりたい」。前述したとおり、我々のパッシングゲームは過去の歴史の中でも飛びぬけたレベルになっていた。しかし、リーグ戦、甲子園ボウルを通じてゲームではパスは抑制的にしか使ってこなかった。トータルで勝つためにはリスクを減らし、ラン・パスのバランスをもって攻め、相手に的を絞らせないことがもっとも重要だからだ。しかし、いざとなればパスだけでゲームを作ることが十分可能なレベルにいる、という自負がQB、WRの選手たちにはあった。また、この試合の前半、点は取れなかったものの、三原もWR陣も私も確信していた。「プロテクションさえ持てば、パスは絶対に通る!」。ハーフタイムにもそのことを確認しあった。よし、いよいよKGパッシングゲームの本当の力を披露するときが来た。

 

 

主将の執念

 まず、岸に一番基本的なヒッチ系のパスがきれいに通り、ラン・アフター・キャッチで17ヤードをゲイン。スプリントしたサイドのDLがクロスしたが、OLとRBでなんとか処理をした。前半、最初のシリーズの途中でベンチに下げたG岡田をフィールドに戻していた。秋の初戦で脱臼した膝を年末の練習で再び脱臼してしまい、この日も医師の了解は取っていたものの「ぶっつけ本番」。選手紹介で走っている間にひざが抜けるような状態で、プレーさせることをいったん断念したが、本人の度重なる出場要請に神田コーチが根負けした。医師には最悪でも後遺症は残らないことを確認していた。1年間重圧の中でチームを背負ってきた主将に「動けなくなるまでやらしてください」と直訴されれば、合理的な判断もクソもない。
 続くプレーでは三原が1番目のレシーバーをあきらめて2番目のターゲット榊原の5ヤード・インに通した。RB平田のブロックはDEにかわされ、QBに間に合いかけた。前半何度か通ったシャベルパスは松下電工のブリッツのサインと当たってしまい、いわば「はずれ」でロス。第3ダウン5ヤードは、萬代弟がスラントに見せかけてアウトに出るKGオリジナルのルートでフリーになってキャッチし、12ヤードゲインで第1ダウン更新。電工はオープンサイドから4人を入れるオーバーロードの勝負サインでブリッツをかけてきた。これはOLたちが準備していたので、なんとか取れたが、上村と平田の連携が崩れてLBがQBに届きかけている。
 DLの出足は変わっていないが、早いタイミングならなんとかプロテクションがもっている。次のプレー、DLが1人完全にフリーになって漏れてきた。三原がスローバックでフリーになった榊原のスラントに一瞬早く投げて34ヤードゲインになった。岡田が倒れた。プレーできるような状態ではなかった。「もうアカン」と怒鳴るが、ノーハドルなので本人が自分で出てこない限り交代ができない。
 再び、ショベル。再び、岡田が倒れた。岡田を代えなければ――しかし、代えられない。5プレー続けてドロップのパッケージからコールしていた。レッドゾーン(ゴール前20ヤードから10ヤードまでの得点ゾーン)に入った。カップめがけてのブリッツを想定してオプションをコール。おあつらえ向きのインサイドブリッツがかかってピッチを受けた稲毛が15ヤードを走りきった。岡田はほとんど片足しか動かない状態で、流れるノーズガードに身を投げ出してブロックしていた。寥と榊原が完璧なブロックをした。待望の初タッチダウンの喜びを体いっぱいに表して、稲毛がベンチにそのままダッシュで帰ってきた。

パーフェクト・シリーズ

 オフェンスの胸のつかえがようやくとれた。再びTDを取られて10-38と28点差になったが、やることに変わりはなかった。続くシリーズ。岡田には神田コーディネーターが直接話して出場をあきらめさせた。代わりは2年生の新谷。1プレー目はロールアウト。レシーバーは空いていたが三原が投げ損なった。ILBがブリッツしたが、QBが流れて無駄に終わった。
 早いタイミングのショベルで平田が14ヤードゲイン。DLはラッシュすればショベルが通り、注意してラッシュを抑えるとプロテクションがもってパスが通る、という悪循環に迷い始めていた。上村、中山がナイスブロックでLBを抑えた。
 フックが空かずにスクランブルでゲイン。DLの要、脇坂と三輪を休ませて第2ユニットを入れているので幾分、プロテクションがもちやすくなっている。
 
膝の負傷のため前半途中退場していた主将・岡田(#55,右から2人目)。反撃の口火を切る後半ファーストシリーズは全プレー出場。文字通り背中でFIGHTERS魂を見せた。
第3クォーターの最初のシリーズ。RB#21稲毛がオプションピッチから左オープンを駆け抜けタッチダウン。反撃の狼煙をあげる。
RB#38平田へのショベルパスは要所で好ゲインを生み出し、松下電工DL陣の圧力を抑えた。
 6人ラッシュ。意表をつくシチュエーションでブリッツ&マン・カバーである。願ってもないチャンスに萬代のフェイドを狙った。萬代はきれいに抜けていたが、ボールが少し短く、DB山田の巧みなカットで成功ならず。プロテクションは完全にラッシュを止めていた。これも電工は嫌だっただろう。ボールがもう少し奥であればそのままタッチダウンになりかねなかった。
 第3ダウン2ヤード。再び5人ブリッツのマン。電工は点数が離れているからリスクをあまり恐がらずにブリッツをかけられる。攻撃にとっては苦しい状況だったが、秋山がリトルアウトを捕球して第1ダウンを獲得できた。その直後、山田のタックルを逆サイドへのターンではずし、そのままサイドラインをタテに上がると後ろから榊原がリードブロッカーに飛び込んできた。それをうまく利用して上がるとチーム一の俊足でそのままエンドゾーンに駆け込んだ。OLは完全にピックアップしていた。代役の新谷も落ち着いている。5ヤードのパスが63ヤードの独走TDに変わった。

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