石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2025/9

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(9)激化する覇権争い

投稿日時:2025/09/30(火) 19:45

 今季4試合目の相手は京都大学。ひと昔前は、学生フットボール界の頂点を目指して互いにしのぎを削ったライバルである。
 古い話になるが、彼らがとてつもなく強かった時代(1990年代半ば)にチームを率いておられた水野監督に、当時、朝日新聞の社会部記者だった僕は、単独インタビューを申し込み、心よく引き受けていただいたことがある。その時に伺った選手を強化するための心得というか、秘訣ということに関する言葉が今も記憶に残っている。
 京都大学といえば、勉強に集中して入学した学生が大半と思えるのに、なぜ、学生アメフット界の頂点に立つチームが作れるのですか、という質問に対して、監督は次のような話をしてくださった。
 「1升瓶に1升の水を入れるのはだれでもできる。しかし、1升2合の水を入れるにはどうすればよいか」と僕は部員たちに問いかけるのです。無茶な質問ですが、学生たちは真剣に考え、それぞれの考えを話してくれましたという話だった。
 僕が「1升を超える2合は汗になって流れる。だから100%で満足せず、限界を超える120%の努力を」という意味に受け取ればいいのですか、と答えると、まあ、そんなことでしょう、と笑顔で答えられた。
 そういうチームの遺伝子を引き継いでいるのか、この日の京大は強かった。
 しかし、主導権を握ったのはファイターズ。第1Q早々にQB星野弟からWR百田へのミドルパスで先制。10分過ぎには自らキープして2本目、さらに平野の27ヤードランで3本目と畳みかけ、21ー0。2Qに入って京大が反撃し、FGを決めて食い下がったが、ファイターズは攻撃の手を緩めず、星野からWR棚田弟へのパス、TE川口へのパスで得点を重ね、前半終了時で35ー3。
 後半に入っても、その流れは変わらず、平野のラン、途中で交代したQB星野兄からWR棚田弟へのTDパスを決めて49ー3。
 メンバーの少ない京大は、終始劣勢だったが、それでも最後にTDを決め、伝統チームの意地を見せた。
 プロ野球が幅を利かし、高校野球やサッカー、テニス、バレーボールやラグビーなどがそれぞれのファンをもって、盛んに活動している日本のスポーツ界でにおいて、アメフットのファンは肩身が狭い。けれども、伝統のあるチームに加えて新しい力を結集したチーが台頭してくれば、必ずファンは増える。近年、関大や立命館を加えた関西学生リーグの覇権争いが激化しているのも、新しいファンを開拓するエンジンになるはずだ。
 その意味でも、次なる関大、立命との戦いを注目したい。

(8)試練の戦いは続く

投稿日時:2025/09/24(水) 13:45

 今季3戦目の相手は近畿大。厳しい暑さを避けるため、試合開始は午後6時。会場はナイター設備の完備した神戸ユニバー記念競技場である。
 ここは1984年秋に開設され、1985年に開催されたユニバーシアード世界大会のメーン会場となった。
 当時、朝日新聞の社会部記者だった僕は、社会部取材班のキャップとして、大会に関する「サイドストーリー」を書く役割を与えられ、この競技場に送り込まれた。
 どんな取材をし、どんな記事を送ったのか全く記憶にないが、とにかく担当の部長や神戸支局長から褒められ、社内の賞をもらった思い出のあるグラウンドである。
 「会場が遠いから、車で行きましょう」とチームの小野デイレクターから声をかけていただき、同乗させてもらう。
 会場に到着して間もなく試合開始。先攻は近大。QBが短いパスを通し、RBを走らせ、自身も走る。あれよ、あれよという間に2度もダウンを更新する。
 ファイターズの守備陣も負けてはいない。DLの新井イケンナや武野が踏ん張り、強い当たりで相手に圧力を掛けて陣地を進ませない。
 双方ともに一歩も引かぬ戦いが動いたのは2Qに入ってから。まずは近大が第2Q3分44秒に24ヤードのパスを成功させ、キックも決めて7―0。
 「これは厳しい戦いになるぞ」と気をもんだが、ファイターズはくじけない。次の相手が蹴ったボールをリターナーに入ったWR百田がキャッチ、一気に相手ゴールに迫る。仕上げはRB永井。残された1ヤードを突破してTD。大西のキックも決まって7―7。
 ようやく一息つける、と思った次の場面。近年見たこともない恐ろしい場面が飛び出す。
 ファイターズのキッカーが相手ゴール前まで蹴ったボールをキャッチしたリターナーが、一気にファイターズゴールまで駆け抜けてTDを奪ったのだ。ファイターズのメンバーは、そんな事態が想定できていなかったのか、それとも相手の動きが予測以上に素早かったのか。追いかけようとしたメンバーはいたが、だれも追いつけない。PATも決まって、あっという間に逆転だ。
 スタンドから応援している人たちもあ然として言葉もないような状態だったが、グラウンドで戦う選手たちはこれで発奮したのだろう。RB井上のラン、QB星野兄からWR百田やリンスコットへのパスなどで確実に陣地を稼いでいく。仕上げはRB井上がゴール前からのランでTDを挙げて、前半を同点で終える。
 後半は関学リターンで始まったが第1ダウンを更新できず、逆に近大はパスをランを織り交ぜ、ゴール前3ヤードで第1ダウンとなる。ここで守備が踏ん張りFGの3点に抑えたのが大きかった。
 再びリードされてもファイターズは動じなかった。次のシリーズの自陣23ヤードからの最初のプレー。マン・ツー・マンとなった守備を見切ってWR五十嵐に絶妙のパスが通り、そのまま77ヤードを独走してTD。キックは外れたが20-17。ようやくリードを奪う。
 リードを奪って攻守ともに落ち着いたのか、次の攻撃シリーズも星野兄からWRリンスコットへの25ヤードのパスでTD。27―17とリードを広げる。
 攻撃が勢いづくと、守備にも一段と勢いが出てくる。次の相手攻撃では1年生ながら守備の要となっているDL武野が相手QBの投じたスクリーンパスを奪い取り、そのままゴールまで18ヤードを走ってTD。キックも決まって34―17と、さらにリードを広げる。
 スコア的には「勝負あり」という状況になったが、そんなことを思っているようでは厳しいリーグ戦は戦えない。それを承知している選手たちは4Qに入っても手を緩めない。  
QBが星野兄から星野弟に交代し、それを象徴する場面が第4Qの初め、3分28秒に出現した。QB星野弟がWR小段へ36ヤードのパスを通してTD。PATも決めて7点を追加したのである。
 星野弟も小段も、この日前半はあまり出番がなかったが、ともにチームにとってはここからの後半戦に欠くことのできない主力メンバーであり、実戦で一層経験を積んでもらいたい選手である。その二人を終盤に起用したベンチと、その起用に応えて見事なTDで締めくくった二人の姿に、僕は深い感動をおぼえた。
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