石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2019/4

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(4)新星登場

投稿日時:2019/04/29(月) 17:23

 意外に思われる方が多いかも知れないが、鳥内監督は「言葉の達人」である。
 試合中、グラウンドで仁王立ちになっている姿だけを見ている人には、なんだか近寄りがたい雰囲気があるかもしれないが、近くで接していると、短いけれどもずばりと核心を突いた言葉に出くわすことが少なくない。折々に部員に問い掛ける「どんな男になんねん」という言葉は、ファイターズに籍を置いた人間なら誰もが聞かされた言葉だろう。「君らが日本1になる言うから、僕らが手伝ってんねん。主役は君らや。勘違いしたらあかんで」という言葉も何度も聞いた。
 そんな語録のなかで、僕が一番好きなのは「君らは(下級生に)助けてもらう立場やで」。これは、経験値の高い上級生がミスをした下級生を怒鳴りつけたり、威張ったりするような場面を見たときに発せられる。チームの運営は、その年の4年生に任せ、その指導力、リーダーシップに期待する。しかし、上級生がその立場を背景に、下級生を頭ごなしに叱ったりすることは許さない。チームに属する全員が日本1という目標に向かって互いに高め合うこと、そういう部活動であってこそ下級生も成長する。下級生の成長があってこそ、上級生ももう一段上の段階を目指して精進し、全体のレベルが上がっていく。そういう活動こそがファイターズの目指す部活動であるという信念に基づいた言葉であろう。
 そうした視点でファイターズの試合を観戦すれば、楽しみは一段と深くなる。2019年春の初戦。法政大学との試合は、その意味では見所が満載だった。
 まず新しく2年生になったばかりの新星が次々に登場し、それぞれがきらりと光るところを見せてくれた。先発メンバーに名前を連ねた2年生は7人。OLの福田、牧野、WRの鏡味、DLの青木、DBの北川、和泉、竹原である。先発ではなかったが、LB赤倉、都賀、DB前田、DL小林、OL二木、田中、RB前田、齋藤、安西、WR遠藤らも交代メンバーとして活躍。経験豊富な3、4年生とも対抗出来るような動きみせてくれた。
 昨秋の試合にも出場した北川や青木、赤倉のことを知っているファンは多いだろうが、残る2年生にはほとんど公式戦の出場経験がない。高校時代は別のスポーツをやっていたメンバーさえいる。
 それが1年間の雌伏期間を経て、開幕戦でしっかり存在感を見せてくれた。RBの前田弟や齋藤は互いに何度もボールを託され、そのたびにパワフルな走りを見せた。上級生を押しのけて先発したOLの牧野と福田は、強烈なパワーで相手ラインを押し込み、ライン戦の主導権をもたらせた。同様、ディフェンスの青木や北川、竹原らも物怖じせずに動き回り、今季の期待値をふくらませてくれた。
 昨秋の厳しい試合で経験を積んだ3年生も昨季より一回り成長した姿を見せてくれた。投じられた9回のパスをすべてキャッチし、都合137ヤードを稼いだWR鈴木は、この試合のMVPといってもよいほどのできばえだったし、先発したQB奥野も前半だけの出場だったが、終始、沈着冷静なプレーを見せてくれた。初戦の緊張した雰囲気の中で、16回パスを投げて13回成功。パスだけで154ヤードを稼いでいるのだから文句の付けようがない。同じ3年生ではRB三宅がチームトップの69ヤードを走り、前半だけで2本のTDを挙げた。高校時代はバスケットボール選手だったTE亀井も、未経験者とは思えないほどの強い当たりとパスキャッチで、今季の期待値を大いに高めた。
 昨シーズンからチームを背負ってきた4年生に加えて、この日はこうした下級生が次々に登場し、存分に活躍してくれた。今季に期待される新星の見本市といってもいい。
 結果は42-0。相手側の攻撃がシンプルで、守りやすかったこと、前半にファイターズがペースをつかみ、終始、落ち着いてプレーできたことなどを割り引いても、今季の初戦としては上々の滑り出しである。
 冒頭の話に戻ると、期待の新星が力を発揮すれば、それに負けじと上級生が頑張る。頑張る上級生の活動を見て、下級生がさらに熱心に練習に取り組む。そういうサイクルを定着させていくために、今度は4年生が踏ん張る番だ。次戦、5月5日の慶応戦は、そういう視点で4年生の動きに注目したい。

(3)今季初の紅白戦

投稿日時:2019/04/22(月) 08:31

 27日は春恒例の「FIGHTERS DAY」。シーズン開幕を前にファイターズファミリーとファン、支援者が集い、フットボールを共通のテーマにして親交を深める1日である。
 午前中は大学生の練習と紅白戦。午後は小学生やOBらが参加してフラッグフットボールなどを楽しめるようにプログラムがセットされている。天気は晴れ。風もなく穏やかな一日となり、応援のお父さんやお母さんも含めて多くの人たちで賑わった。
 しかし、午前のチーム練習と紅白戦を見せてもらっただけで、早々に引き上げた。時間にして2時間弱。紅白戦だけでは1時間ほど。今季の予告編というのもおこがましいほどの時間だったが、いい意味でも悪い意味でも、見るべき点は少なくなかった。
 まずはいい方から。一言でいえば、昨年秋のシーズン、特に関西リーグの後半戦以降の試合に出場し、苦しい試合を勝ち抜いてきたメンバーはみな、その修羅場を踏んだ経験を糧にして、終始、堅実なプレーを見せてくれた。勝手知ったチームメートとの戦いという点を割り引いても、それぞれに一段と成長していた。攻撃ではラインの村田、藤田統、森、松永、WRの阿部、鈴木、大村、RBでは三宅、前田公。そしてQBは、昨年度甲子園ボウルMVPの奥野。これに昨年はほとんど出場チャンスがなかったTE亀井やRB斎藤、WR鏡味、OL牧野らも元気なところを見せてくれた。
 守備で先発したのはDLが今井、板敷、藤本、青木。LBは実績のある大竹と海崎。DBは逆に北川、和泉、竹原、平尾、中村という新鮮な顔ぶれ。これに加えてDLの春口、LB松永らがスピードに乗った動きで攻撃陣を押し込み、再三、インターセプトやロスタックルを奪った。
 攻撃側で活躍したメンバーを含めて、昨秋の終盤、苦しい試合を経験したことが糧となり、自分の足らざるところを補い、長所を伸ばすべく、春先からの練習に取り組んできた成果だろう。
 問題は2枚目、3枚目として出場したメンバーである。攻撃側でいえば、捕れそうなパスを簡単に落とす。ブロックを振り切られる。スナップを取り損なう。ラインも簡単に割られるといった点だ。昨秋の修羅場をくぐってきたメンバーがそれなりに成長したプレーをしているのを見るに付けても、昨秋の経験値の違いがそのまま成長度の違いに結びついているように思えた。
 もちろん、新2年生は昨年、一度も試合に出してもらえなかったメンバーが大半である。3、4年生でも、昨季の後半、山場の試合にはほとんど出ていないメンバーが何人もいる。4年生が卒業し、学年が一つ上がったからといって、全員が急激にプレー理解が進み、動きにキレが出てくる訳ではない。
 しかしながら、そうしたメンバーが一人でも二人でも、昨季活躍したメンバーに追いつき追い越していかなければ、卒業したメンバーの後は埋められない。当然、勝利への道も遠ざかる。
 それでなくても、ライスボウルに出場した翌年はチーム作りのスタートが遅れる。昨年の関西リーグで敗れたチームはすでの昨年の12月、場合によっては11月末から新チームをスタートさせている。対するファイターズは1月3日にライスボウルを戦った後は、すぐに後期試験。実質的には新しいチームは2月からのスタートである。
 加えて今季は、グラウンドの改修工事が入って3月末まで本拠での練習ができなかった。チームの仕上がりが例年にも増して遅いのは、仕方のないことかも知れない。
 しかし、対戦相手にとっては、そんなことは知ったことではない。春に対戦を予定している関東勢も、社会人チームも相手がファイターズとなれば、全力で立ち向かってくる。それは例年、春先に戦うチームには、決まって苦しい戦いを余儀なくされている前例を見れば明らかだ。
 この日の試合後、鳥内監督とすれ違ったとき、開口一番「今度の試合、負けますよ」と言われたのも理由のあることである。
 グラウンドの端で少し話を聞いた寺岡主将も似たような言葉を口にしていた。「試合形式で行うのは今季初めて。そこで、プレーのレベルの低さがいくつも見られた。きちんと(選手に)言わなければならないことがある」といった話である。
 春先、じっくり筋力トレーニングに取り組めば、その分、試合形式の練習に割ける時間は少なくなる。だからといって、試合形式の取り組みに重点を置くと、肝心の体幹を鍛え、相手を圧倒するパワーを身に付ける時間がなくなる。そのジレンマを解消するためには、選手一人一人が自ら工夫して練習に取り組み、同時に遅れている仲間を引っ張っていくしかない。
 もちろん、たとえ紅白戦であっても、勝手知った身内にさえボコボコにやられた選手は、その屈辱を成長へのエネルギーに換え、これまで以上に真剣に練習に取り組まなければならない。
 今日の紅白戦で、一つだけはっきりしたことがある。それは、学年が一つ上がったからといって、自動的に実力が1ランク上がるとわけではないこと。このことを肝に銘じて練習に励んでもらいたい。
 男子3日会わざれば刮目(かつもく=目を見開いて)して見よ、という。今週後半の練習、あるいは土曜日の試合で、この日、不本意な動きしかできなかったメンバーがどんな動きを見せてくれるのか。刮目して見たい。
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