石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/6

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(13)眺めのよい場所

投稿日時:2013/06/27(木) 09:17

 6月22日午後6時半。名古屋大学とのJV戦が終わったばかりの上ヶ原第3フィールドで、熱狂的なファイターズファンの早藤名誉教授とふたり、スタンドに座って話し込んだ。
 グラウンドでは、試合が終わったばかりだというのに、試合に出た選手や出場機会のなかった選手がアフター練習を続けている。それぞれこの日の試合で出た課題をチェックしているのだろう。左手の奥ではDB陣が何度も反復練習を続け、中央ではQBたちが小野ディレクターの指導でパスのフォームを確認している。その右手前では大寺コーチがWR陣を相手に足の運び方を細かく刻んで教えている。遠くてよく見えないが、屋根下の近くでは、ラインのグループが当たりの基本を確認している。
 「気持ちのいい眺めですね」と先生。
 「まだ暮れるに暮れず、それでも日が落ちて涼しい。一番いい時間ですね」と僕。
 「こうして、試合の後も自発的に練習に取り組んでいる姿がいいですね」
 「そうです。誰も大声を挙げたり怒鳴ったりしないけど、ぴーんと張り詰めた空気の中で、真剣に動いています。その日の宿題はその日のうちに仕上げてしまうという取り組みが何ともいえませんね」
 いつしか青空があかね色に変わり、甲山からの風は涼しい。試合が終わったばかりの余熱の中でファイターズ談義が弾む。気分が弾むのも「むべなるかな」である。
 先生は日ごろからファイターズのために分析ソフトの開発など、多大な貢献をされている。ゼミ生を引率して試合の観戦に見えることもある。関西学院の先生たちで組織されたアメフット探検会の熱心なメンバーでもあった。これまでも顔を合わせるたびに言葉はかわしていたが、じっくり話し込むのはこの日が初めてだった。
 落ち着いた会話が出来たのも、この日の試合内容に、二人とも大いに満足していたからである。
 この日は、新しいメンバーの力を見たい、という監督やコーチの意向で、1年生が大量に登場した。2年生で、まだまだ出場経験の少ないメンバーも次々に出場したし、けがの治療で1年間近く苦しんでいた選手もようやく顔を揃えた。そんなメンバーが全力でぶつかってくる名古屋大学の精鋭たちと真っ向から渡り合ってくれたのである。
 スタメンに顔を並べた1年生はオフェンスではOLの高橋(啓明学院)、RBの野々垣弟(高等部)、ディフェンスではDLの安田(高等部)、大野(関西大倉)、Pの伊豆(箕面)。ほかに交代メンバーとして、OLではDLから転向したばかりの巨漢、堀川(大阪学芸)のほか、松田(浪速)、TE安田(啓明学院)、蔵野(岸根)、RB松本(啓明学院)、橋本(清教学園)、幸田(箕面)、WRでは水野(池田)や西山(足立学園)らが出場した。
 中でも目立ったのは、第3Qの後半から登場したQB伊豆(箕面)。強肩と素早いプレー判断、そしてRBを思わせる俊敏な走りで相手守備陣と渡り合い、3つの攻撃シリーズのうち2回をTDに仕上げた。パンターでスタメン出場したことでも分かる通り、パントを蹴る能力も備えており、今後の成長が楽しみでならない。
 ディフェンスでは、ラインの安田と大野、LBの松尾、辰巳(ともに高等部)、元原(関西大倉)らの動きが目についた。これに、この日は「上でやれることは分かったから」という理由で出場機会を与えられなかったDL松本(高等部)、LB西田(啓明学院)、山岸(中央大付属)、DB小池(箕面自由)らを加えると、上級生もうかうかしておれないに違いない。
 加えて、この日は長い間けがで苦しんでいた期待の2年生、DL濱(箕面自由)や岡村(大阪学芸)が試合に出場。非凡な才能を見せてくれた。けがで落ちた筋力を取り戻し、夏合宿で存分に鍛えてくれたら、と胸が弾む。
 もちろん、未経験で入部し、今春から試合に出始めた2年生も、ようやく才能を見せ始めた。DBの奥田、伊藤、梅本弟、林本、LBの山崎、赤井らである。JV戦とはいえ、能力の高いQBを中心に、全力でぶつかってくれた名古屋大学との試合を体験して、得たものは少なくないはずである。その貴重な体験を生かし、次のステップに上がってくれれば、これほどうれしいことはない。
 そんなことを思いながら、眺めた試合後の練習である。その日の課題をその日のうちにおさらいしよう、できればもう一段上のレベルに手を届かせよう、そういう積極的な姿勢の選手とコーチを見て、先生と僕は思わず「いい眺めですね」「気持ちのいい時間ですね」と言葉を掛け合ったのである。文字通り至福の時間であった。

(12)学ぶは真似ぶ

投稿日時:2013/06/20(木) 09:37

 前回のコラムでは、今季のチームが直面している課題について、素人が勝手なことを書き散らしてしまった。まるで本職のフットボール解説者のような言い方であり、読み返して、少々恥ずかしくなった。王子のスタジアムで開局していた臨時のFM放送で、小野ディレクターが試合の解説をされているのに刺激されて、ついつい自分も解説者のような視点でゲームを見ていたのだろう。身のほど知らずとはこのことである。
 とはいいながら、今週もまたあの話の続きである。身のほど知らずの二乗といわれるかもしれないが、我慢しておつきあいを願いたい。
 というのはほかでもない。先週の文章は、一言で言えば「課題がいくつも見つかりました。これからしっかり練習して、その課題を解決してくださいね」といっているだけ。これでは、少々、無責任ではないかと思ったのである。
 解説者、評論家としてはそれでいいのかもしれないが、僕は解説者でも評論家でもない。ファイターズが強くて品位のあるチームになってくれることを勝手に願っている「一人サポーター」である。同時に、現役の新聞記者であり、関西学院でささやかな講座を受け持ち、学生を相手に文章の書き方を指導している教員でもある。サポーターであり、教員の立場からすれば、課題解決の助けになるヒントの一つも出してみるのが、その責任ではないかと考えたのである。
 ということで、本題に入る。「学ぶことは真似ぶこと」である。これは、人が知らない知識や技術を身に付けるには、真似することから始めるのが何より、ということを表した言葉である。
 例えば、幼い子どもの成長、発達の課程を考えてみよう。幼児には、周りの人の言葉や行動をひたすら真似する時期がある。2歳か3歳の頃だろう。まるでオウムのように、上の子と同じ言葉を発し、鏡のように相手の行動を真似する。上の子が食べ物の好き嫌いを言えば、下の子も同じように好きだ、嫌いだという。自分の知らないことを知っている人(例えば兄や姉)の言葉や行動をひたすら真似ることで言葉を覚え、なすべき行動を身に付けていくのである。
 これは幼児に限らない。小学校に上がっても、下級生は先生や上級生の真似をしながら、やらねばならないことと、してはいけないことを区別し、知識を身につけ、社会常識を体感していく。社会人になって、仕事を覚えるのも同様だ。「プロの仕事にマニュアルなんてない。先輩の後ろ姿を見て覚えろ」なんてことを言われながら、とにかく先輩に追いつけ追い越せと頑張る。中には頑張るのが嫌で、さっさと別の道に進む人もいるが、そんな人であっても、別の道でまた先人の真似をして技術や知識を身につけていかねばならないことに変わりはない。
 独創だ、個性だ、といっても、スタートはとりあえず真似することから始まるのが、猿から進化した人間の習性である。だから、学校であれ、企業であれ、生き生きした組織には必ず真似をするに値する指導者(それは時には先輩であり、コーチであり、教員でもあろう)が存在するのである。
 ファイターズにとっても、それは例外ではない。多様な専門知識や特別の技術を持ったコーチやトレーナーが複数存在し、いつもチームの全体に目を配っている。5年生コーチは、自らが4年間に身につけた技術と知識をプレーやミーティングで惜しみなく披露してくれる。4年生は、自分たちのチームを寄り強くしたい一心で、自らのライバルになる下級生にその技術と知識を惜しみなく与える。
 下級生から見れば、4年生はあこがれであり、同時に打ち倒してポジションを奪わなければならないライバルである。だから上級生の持っている技術を真似し、身につけようと、常に目を光らせている。部外者から見れば、矛盾だらけのこうした関係の中から、しかし、互いに惜しみなく与え、遠慮なく奪いあって、より強力なチームを作ってきたのがファイターズである。
 コーチや先輩たちのよいところを思いっきり真似し、その技を盗んで、自らを向上させてほしい。学ぶは真似ぶ。ファイターズには真似をするに値する技術や知識を持ったコーチや先輩が一杯いる。それは選手だけではない。チームに対する献身、貢献という視点で見れば、スタッフの面々もまた、後輩が目標にするに値する活動を日々続けている。
 身近なところに「先輩のようなプレーヤーになりたい」「先輩の行動を自分も心掛けたい」と思える人材が豊富に存在するのが、ファイターズならではの特別な資産である。その資産を生かそうではないか。「学ぶは真似ぶ」である。
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