石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2010/10/19

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(25)準備のスポーツ

投稿日時:2010/10/19(火) 06:35

 アメフットは準備のスポーツであるといわれる。日曜日の京大戦では、そのことを思い知らされる場面に何度も遭遇した。
 例えば立ち上がり、ファイターズの先制点につながったLB辻本のパントブロック。ボールが蹴られる瞬間に相手パンターの足元に飛び込むには、事前の綿密な準備と分析が必須条件。データをもとに、何度も何度もタイミングを計り、それを練習で身につけてきたからこそ、相手の防御網を突破することができたのだろう。彼がブロックしたボールを確保したLB村上をはじめ、キッキングチームの周到な準備が呼び込んだファインプレーである。
 こうして手に入れた相手ゴール前1ヤードからの攻撃。加藤からRB兵田へのタッチダウン(TD)パスも、周到な準備から生まれた。一般的にいって、ゴール前に詰め寄っても、それをTDに結びつけるのは意外に難しい。チームの力量に圧倒的な差がある場合は別にして、通常は事前の準備がなければ攻撃側が苦労する。守備側にとっては、守るスペースが限定されるため、あれもこれもと考えず、思い切ったディフェンスができるからである。順調に進んできた攻撃がFGで終わる例は、それを裏付けている。
 攻撃側がこの困難な条件を突破するには、単純なランプレーや見え透いたパスプレーでは限界がある。相手の考えの裏の裏をかくプレーを日ごろから準備し、その完成度を高めておかなければならない所以(ゆえん)である。加藤と兵田のコンビがこともなげに決めたパスは、そういう準備から生まれたプレーであり、それが守備陣の意表を突いたからこそ、簡単に決まったのである。
 第3Q4分46秒。第4ダウン、相手ゴールまで1ヤードという状況で、LB望月が中央を突破して決めたTDもそういうプレーだった。その時点でファイターズは10点リード。この場面では、キッカー大西を信頼し、FGで点差を広げるという選択もあったが、ベンチはTDを狙いに行った。後半の立ち上がりとあって、どうしてもプレーを成功させ、勢いに乗りたかったのだろう。
 そういう条件を前提に、相手守備側から見れば、考えられるプレーは、テールバックの中央ダイブ、QBスニーク、そしてエースレシーバー、松原へのパスといったところだったろう。ブロック力のあるLB望月をフルバックの位置に起用したファイターズの隊形も、それらのプレーを想定しているように見えた。
 ところが、ベンチが選択したのは、ボールを望月に直接ボールを渡し、そのままゴールになだれ込むプレー。これが相手の意表を突いてTD。大西のキックも決まって17-0、ファイターズが完全に主導権を握った。
 さかのぼれば、このチャンスもファイターズが周到に準備したオンサイドキックから生まれた。第3Qは、ファイターズのキックで開始したが、この場面で大西がフィールド中央、自陣45ヤード付近にゆるいゴロを蹴り、それを自ら走りこんで確保した。まるでサッカーのドリブルのようなプレーだったが、これが大西のキック力を警戒して後方に注意を払っていた京大の守備陣の意表を突き、守備から始まるはずだった後半を、攻撃からスタートさせることに成功した。
 これもまた、局面を打開するために周到に準備されていたプレーである。鳥内監督は試合後、記者団の質問に「やりたい、いうからやらせた」「守備陣が止めていたから(たとえ失敗して相手に好位置を与えても)なんとかするやろと思ってました」と、独特の言い回しで答えていた。でも、その表情を見ていると、初めから成功することを確信していた様子がありあり。キッキングチームの日ごろの練習、準備に注目している監督ならではの発言だった。
 もちろん、監督の言葉のように前半、守備陣がしっかり京大の攻撃を食い止めていたからこそ、あのような思い切ったプレーが選択できたのだろう。それが成功したことにより、攻撃にリズムが生まれ、追加点につながったことは間違いない。
 それほど守備陣は安定していた。平澤主将を中心としたスピードがあって力強いDL陣、速くて当たれる善元と成長著しい望月、そこへ村上が復帰してきたLB陣、この日もインターセプトを決めたアスリート、吉井駿哉を中心にしたDB陣。彼らは強力なランとパスを持つ京大の攻撃陣を相手に、得点を与えなかった。今季4試合を終え、ディフェンスとしてはいまだに失点ゼロである。
 安定した守備陣が控えているからこそ、攻撃陣も落ち着いて攻撃できる。事前に準備した思い切ったプレーも選択できる。攻守とも強力な京大を相手に戦って、ようやくチームの歯車がかみ合ってきたようだ。
 負傷者が多いのは気がかりだが、次週はいよいよ立命戦。選手だけでなくコーチ、アナライジングスタッフ、スカウトチーム、スペシャルチームを挙げて、準備に準備を重ねてきたことの成果を示すときである。

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