石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(26)みんなの笑顔が見たい
先週末、上ヶ原の第3フィールドに顔を出したら、冷たい「甲山おろし」が吹き付けていた。涼しいを通り越して、寒い寒い。一緒に練習を見学していた顧問の前島先生と二人で、かわるがわるに「寒いですね」「たまりませんね」とボヤキ続けていた。
前例のないほどの酷暑も終わり、キャンパスには秋が訪れている。校内のカエデやイチョウは色づき始め、池のほとりのツツジも赤くなってきた。野球場の壁を覆っている蔦も日に日に紅葉している。
シーズンも折り返しを過ぎ、今週末はいよいよ立命館との決戦。毎年のことだが、この季節になると、練習はがぜん活気づく。選手やスタッフの集散は速くなるし、だれかがいつもグラウンド全体に響くような声を出している。プレーのリズムは格段によくなってくるし、精度も上がっている。
グラウンドの入口に「試合練習のため、関係者以外立ち入りお断り」の張り紙が出され、けがでリハビリ中の選手が外来者をチェックするようになるのもこの時季だ。グラウンドに緊張感がみなぎり、不用意な反則をしたレギュラー選手を下級生が本気で怒鳴りつけるのも、この時季ならではの光景である。
「こういう雰囲気の練習をせめて2か月前から続けていたら、恐ろしいチームが出来上がるでしょうね」と前島先生。「分かっていても、それができなんですよね、試験勉強と一緒で。尻に火がつかないと、本気になれないのが人間という動物でしょう」と僕。お里が知れるというのか、こんな場面でも、昔、試験という試験で苦しみ続けた人間ならではの反応をしてしまう。なんせ、語学は「オール可」、フランス語は4年生まで履修という情けない経歴の持ち主なんです、僕は。
余談はともかく、先週の京大戦以降、チームの雰囲気は確実に変わっている。京大という厄介な相手に、終始先手を取り、手応えのある試合をしたことで、自信をつけた選手が多いからだろう。
例えば、京大戦後半の立ち上がり、見事なオンサイドキックを決め、相手の度肝を抜いたキッカーの大西君。今季は、彼の力をもってすれば簡単に決められそうなフィールドゴールを立て続けに失敗するなど、もう一つ結果が出ていなかったが、京大戦で変身。本来の冷静さを取り戻して、パントもフィールドゴールも自在に決めた。
その象徴が、あのオンサイドキック。キックしたボールを自ら抑えた瞬間のはじけるような笑顔がすべてを物語っていた。テレビ放送の録画を何度も見直したが、何かが吹っ切れたような彼の表情はもう、完全に戦いのモードに入っていた。
京大戦終了後の西京極競技場のグラウンドで言葉を交わした選手たちも同様だ。急所で2度のラッシュを成功させたLBの望月君は「2回走って3ヤード。でも、決めましたよね」とにっこり。最初は第3ダウン2ヤードから、2度目は第4ダウン、ゴール前1ヤードからという状況で、QB加藤君からハンドオフされたボールを抱えて、ともにダウン更新、タッチダウンという成果につなげた。「大村コーチからいわれて練習していたプレーですが、初めは完全にテンパっていました。でも、ともに成功したので、思い切り自信がつきました」と笑顔が弾む。
後半から登場し、第4Qにダメ押しとなる29ヤード独走TDを決めた1年生RB野々垣君も、ニコニコしながら「京大相手のタッチダウンですから自信になりました。これからも思い切り走ります」。拭いても拭いても汗が吹き出す笑顔が印象的だった。
ここで名前を挙げて紹介するのは3人だけだが、試合終了後、多くの選手たちが笑顔で引き揚げてきた。勝利したことの喜びというよりも、それぞれ持てる力を発揮できたことがうれしかったのだろう。スコアだけでみると、開幕後3試合の方が開いているのに、それらの試合でははじけるような笑顔で引き揚げてくる選手が少なかったのが、その間の消息を物語っている。
今週末は立命戦。京大よりもはるかに厄介な相手である。その強敵を相手に、ファイターズは毎年、アメフットの歴史に語り継がれるような試合を続けてきた。その時代、その時代の選手たちがなんとか倒したい、どうしても勝ちたいと、心血を注ぎ、脳髄を絞るように戦術を練り上げてきたからこその結果である。
もちろん、敗れることもあった。でも、いつの時代でもファイターズの諸君は、全力でこの強敵に立ち向かってきた。立命の選手もまた、目の色を変えて戦った。だからこそ、伝説となる試合が次々と展開されてきたのである。
今年もタフな試合になるだろう。チームとして個人として、それぞれが持てる力のすべてを発揮しても、なお勝利に結びつかない可能性もある。けれどもファイターズにつながるすべての人間は、この試合にプライドをかけている。勝敗はどうあれ、自分に負けるわけにはいかないのである。
プライドという一言にすべてをかけ、存分に戦ってくれ。そして、試合が終ったら、みんなが笑顔を見せてくれ。それは持てる力のすべてを出し切った証拠である。僕は君たちみんなの笑顔が見たい。
前例のないほどの酷暑も終わり、キャンパスには秋が訪れている。校内のカエデやイチョウは色づき始め、池のほとりのツツジも赤くなってきた。野球場の壁を覆っている蔦も日に日に紅葉している。
シーズンも折り返しを過ぎ、今週末はいよいよ立命館との決戦。毎年のことだが、この季節になると、練習はがぜん活気づく。選手やスタッフの集散は速くなるし、だれかがいつもグラウンド全体に響くような声を出している。プレーのリズムは格段によくなってくるし、精度も上がっている。
グラウンドの入口に「試合練習のため、関係者以外立ち入りお断り」の張り紙が出され、けがでリハビリ中の選手が外来者をチェックするようになるのもこの時季だ。グラウンドに緊張感がみなぎり、不用意な反則をしたレギュラー選手を下級生が本気で怒鳴りつけるのも、この時季ならではの光景である。
「こういう雰囲気の練習をせめて2か月前から続けていたら、恐ろしいチームが出来上がるでしょうね」と前島先生。「分かっていても、それができなんですよね、試験勉強と一緒で。尻に火がつかないと、本気になれないのが人間という動物でしょう」と僕。お里が知れるというのか、こんな場面でも、昔、試験という試験で苦しみ続けた人間ならではの反応をしてしまう。なんせ、語学は「オール可」、フランス語は4年生まで履修という情けない経歴の持ち主なんです、僕は。
余談はともかく、先週の京大戦以降、チームの雰囲気は確実に変わっている。京大という厄介な相手に、終始先手を取り、手応えのある試合をしたことで、自信をつけた選手が多いからだろう。
例えば、京大戦後半の立ち上がり、見事なオンサイドキックを決め、相手の度肝を抜いたキッカーの大西君。今季は、彼の力をもってすれば簡単に決められそうなフィールドゴールを立て続けに失敗するなど、もう一つ結果が出ていなかったが、京大戦で変身。本来の冷静さを取り戻して、パントもフィールドゴールも自在に決めた。
その象徴が、あのオンサイドキック。キックしたボールを自ら抑えた瞬間のはじけるような笑顔がすべてを物語っていた。テレビ放送の録画を何度も見直したが、何かが吹っ切れたような彼の表情はもう、完全に戦いのモードに入っていた。
京大戦終了後の西京極競技場のグラウンドで言葉を交わした選手たちも同様だ。急所で2度のラッシュを成功させたLBの望月君は「2回走って3ヤード。でも、決めましたよね」とにっこり。最初は第3ダウン2ヤードから、2度目は第4ダウン、ゴール前1ヤードからという状況で、QB加藤君からハンドオフされたボールを抱えて、ともにダウン更新、タッチダウンという成果につなげた。「大村コーチからいわれて練習していたプレーですが、初めは完全にテンパっていました。でも、ともに成功したので、思い切り自信がつきました」と笑顔が弾む。
後半から登場し、第4Qにダメ押しとなる29ヤード独走TDを決めた1年生RB野々垣君も、ニコニコしながら「京大相手のタッチダウンですから自信になりました。これからも思い切り走ります」。拭いても拭いても汗が吹き出す笑顔が印象的だった。
ここで名前を挙げて紹介するのは3人だけだが、試合終了後、多くの選手たちが笑顔で引き揚げてきた。勝利したことの喜びというよりも、それぞれ持てる力を発揮できたことがうれしかったのだろう。スコアだけでみると、開幕後3試合の方が開いているのに、それらの試合でははじけるような笑顔で引き揚げてくる選手が少なかったのが、その間の消息を物語っている。
今週末は立命戦。京大よりもはるかに厄介な相手である。その強敵を相手に、ファイターズは毎年、アメフットの歴史に語り継がれるような試合を続けてきた。その時代、その時代の選手たちがなんとか倒したい、どうしても勝ちたいと、心血を注ぎ、脳髄を絞るように戦術を練り上げてきたからこその結果である。
もちろん、敗れることもあった。でも、いつの時代でもファイターズの諸君は、全力でこの強敵に立ち向かってきた。立命の選手もまた、目の色を変えて戦った。だからこそ、伝説となる試合が次々と展開されてきたのである。
今年もタフな試合になるだろう。チームとして個人として、それぞれが持てる力のすべてを発揮しても、なお勝利に結びつかない可能性もある。けれどもファイターズにつながるすべての人間は、この試合にプライドをかけている。勝敗はどうあれ、自分に負けるわけにはいかないのである。
プライドという一言にすべてをかけ、存分に戦ってくれ。そして、試合が終ったら、みんなが笑顔を見せてくれ。それは持てる力のすべてを出し切った証拠である。僕は君たちみんなの笑顔が見たい。
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