石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(6)「君の可能性」

投稿日時:2024/06/12(水) 14:23

 最近、ファイターズの試合や練習を見るたびに、懐かしい先生の顔と、その著書のタイトルとなっている詩が浮かんでくる。すでに何度か書いたことがあるが、日曜日の試合を見て改めて記したくなった。
 それは群馬県の小学校を舞台に、子どもを主役にした独自の教授法を展開し、教育界に大きな足跡を残された斎藤喜博先生(1911~1981)であり、その代表的な著書「君の可能性」(筑摩文庫)に収録されている「一つのこと」という次のような詩である。

 一つのこと

 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 響きわたる心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 この詩の後に、先生自身の説明がある。
 「この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それはちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょにのぼってきた人たちとしみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていまのぼって来た道を、人が続いて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えている。こんどはあの山を登るのだ、という意味である」
 「学校の学習は、こういうことを、みんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。(中略)そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力を合わせて学習をしていくのである。学校での学習、クラスでの学習とはこういうものである。ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである」
 先生は群馬県伊勢崎市近郊の小規模な小学校(島小学校、境小学校)で校長を務め、その教育実践で教育界に知られた教育者である。小学校長を定年で退職された後、宮城教育大学から招かれ、教育学の教授としても活躍された。その教育実践の成果を数多くの著作にまとめ、全集も出版されている。土屋文明に師事した歌人としても知られている。
 僕は1970年12月、信濃毎日新聞から朝日新聞に移って前橋支局に勤務。前橋市政と文化欄を担当した時に「上毛歌壇」の選者をされていた先生とのご縁が生まれた。ほんの半年ほどの間だったが、その間、10回近くご自宅を訪問し、先生が主宰される教授学の勉強会に参加したり、個人的に指導を受けたりしてきた。
 そうしたこともあって、この詩の意味することは十分に理解できたし、新聞記者としても、この詩にあるように、一つの山を登るごとに、新たな山にチャレンジしていこうと胸に刻んで生きてきた。
 長い前書きとなったが、いま、ファイターズの諸君が日々取り組んでいることも全く同様であろう。日々、自らに課題を与え、それを一つ一つクリアしていく。階段を一つ上がったら、また異なる景色が見え、そこから新たな目標が生まれる。それを一つ一つクリアしていくことで、気がつけば当初は想像も付かなかった景色が見えてくる。それを仲間と励まし合い、競いながら達成していく。
 その繰り返し。日々の練習ではその成果が見えなくても、いざ、ライバルと対峙したときに、その間の努力と頑張りが生きてくる。
 ファイターズでの活動とは、いわば、その景色を見るための活動と断定してもよいのではないか。両親から頂いた才能、身体能力だけではなく、自らが意図して成長し、仲間もまた成長させる。
 毎年、力のある4年生が卒業しても、新しい年には新たな戦士を育て、育って行く。常に新たな目標に向かって、全員が努力を重ねる。その積み重ねにこそファイターズの魅力がある。
 関西大、立命館大という力のあるチームを相手に、新鮮なメンバーで戦い抜いた今季のファイターズに接して、僕はそんな思いを深くしている。

(5)またも「がっぷり四つ」

投稿日時:2024/06/11(火) 08:21

 9日は、立命館大学びわこ・くさつキャンパスでパンサーズとの交流戦。びわこ・くさつキャンパス開学30周年記念試合と名付けられ、立命館の総長や地元市長が来賓席に並ぶ厳粛な雰囲気の中での戦いだった。けれども、いざ試合が始まると、記念試合というよりも、この戦いがそのまま関西の覇権に直結するような厳しい戦いとなった。
 先手を取ったのはファイターズ。コイントスでレシーブを選択。自陣25ヤード始まった第1プレーは、1年生QBの星野弟から同じく1年生WR片桐へのパス。8ヤードを進めて気持ちを落ち着ける。2つ目のプレーはQB星野のキープ。右のライン際を鋭く駆け上がる。3つめはRB伊丹へのサイドパス。伊丹ならではの華麗な身のこなしで縦に切れ上がり、相手陣26ヤード付近まで前進。そこからランプレーを続けて陣地を進め、仕上げはリンスコットへの短いパスでTD。K大西のキックも決まって7-0。
 このように書けば、何もかもが計算通りと思われるかもしれないが、その主役を担ったのが今春入学したばかりの1年生。1軍の練習に加わってから、まだ1カ月ほどというWRとQBのコンビだから恐れ入る。
 もちろん、彼らを支えるOLやRBの適切な動きがあってこその活躍だが、同じくこの日も守備の1年生として唯一、先発メンバーに名前を連ねたDL田中志門を合わせ、それぞれ全く物怖じしないプレーが頼もしい。
 新しい守備のメンバーと言えば、今春から試合に出るようになった2年生DBの伊東や永井、油谷といった面々の動きも素晴らしかった。身体能力の高い立命のQBをはじめ、RBやWR陣の素早い動きに懸命に食らいつき、簡単には陣地を進めさせない。この日は守備陣のエースともいえる東田が欠場したが、その穴を全く感じさせないような動きで、能力の高い相手RBやWRの動きをカバーし続けた。
 その結果としての24-24。両軍が互いのプライドを分け合ったような結果で試合が終了した。
 先日の関大、そしてこの日の立命。春のシーズンを全く五分の戦いで終えた相手の力量は素晴らしい。それだけに、従来は「春の試合はオープン戦」というような感覚で受け止めていた私にとっては、驚天動地という二つの試合だった。
 もちろん、選手にとっては「全ての試合が本番」である。ライバルが本気で向かってきてくれたからこそ、そこから得られるもは大きい。100日の練習より1日の実戦という言葉があるのも、その辺の呼吸を表現しているのだろう。
 その言葉通りの試合を2戦連続で戦ったのが、今春のファイターズである。幸い、そこにはチームの未来を担う2年生や1年生が数多く含まれている。「春はオープン戦、本番は秋」という従来のような感覚ではなく、「練習の全てが本番につながる」という覚悟で練習に励み、自分を高め、仲間と高めあってもらいたい。
 新しいメンバーが数多く出場し、それぞれがキラリと光ったこの日の立命戦。試合は引き分けに終わり、チームとしては満足出来ない試合だったかもしれない。けれども、この試合から学べることは数多くある。それを見つけ、学び、自分の糧として秋に備えてもらいたい。
 現場に学び、仲間と共に明日への糧としていけるのが、チームスポーツの素晴らしいところである。先日の関大戦後に抱いた感想と全く同じような結論になってしまったが、ライバルに学び、その存在を自分を高めるための力にすることが出来るのが、学生スポーツの魅力である。
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