石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(8)試練の戦いは続く

投稿日時:2025/09/24(水) 13:45

 今季3戦目の相手は近畿大。厳しい暑さを避けるため、試合開始は午後6時。会場はナイター設備の完備した神戸ユニバー記念競技場である。
 ここは1984年秋に開設され、1985年に開催されたユニバーシアード世界大会のメーン会場となった。
 当時、朝日新聞の社会部記者だった僕は、社会部取材班のキャップとして、大会に関する「サイドストーリー」を書く役割を与えられ、この競技場に送り込まれた。
 どんな取材をし、どんな記事を送ったのか全く記憶にないが、とにかく担当の部長や神戸支局長から褒められ、社内の賞をもらった思い出のあるグラウンドである。
 「会場が遠いから、車で行きましょう」とチームの小野デイレクターから声をかけていただき、同乗させてもらう。
 会場に到着して間もなく試合開始。先攻は近大。QBが短いパスを通し、RBを走らせ、自身も走る。あれよ、あれよという間に2度もダウンを更新する。
 ファイターズの守備陣も負けてはいない。DLの新井イケンナや武野が踏ん張り、強い当たりで相手に圧力を掛けて陣地を進ませない。
 双方ともに一歩も引かぬ戦いが動いたのは2Qに入ってから。まずは近大が第2Q3分44秒に24ヤードのパスを成功させ、キックも決めて7―0。
 「これは厳しい戦いになるぞ」と気をもんだが、ファイターズはくじけない。次の相手が蹴ったボールをリターナーに入ったWR百田がキャッチ、一気に相手ゴールに迫る。仕上げはRB永井。残された1ヤードを突破してTD。大西のキックも決まって7―7。
 ようやく一息つける、と思った次の場面。近年見たこともない恐ろしい場面が飛び出す。
 ファイターズのキッカーが相手ゴール前まで蹴ったボールをキャッチしたリターナーが、一気にファイターズゴールまで駆け抜けてTDを奪ったのだ。ファイターズのメンバーは、そんな事態が想定できていなかったのか、それとも相手の動きが予測以上に素早かったのか。追いかけようとしたメンバーはいたが、だれも追いつけない。PATも決まって、あっという間に逆転だ。
 スタンドから応援している人たちもあ然として言葉もないような状態だったが、グラウンドで戦う選手たちはこれで発奮したのだろう。RB井上のラン、QB星野兄からWR百田やリンスコットへのパスなどで確実に陣地を稼いでいく。仕上げはRB井上がゴール前からのランでTDを挙げて、前半を同点で終える。
 後半は関学リターンで始まったが第1ダウンを更新できず、逆に近大はパスをランを織り交ぜ、ゴール前3ヤードで第1ダウンとなる。ここで守備が踏ん張りFGの3点に抑えたのが大きかった。
 再びリードされてもファイターズは動じなかった。次のシリーズの自陣23ヤードからの最初のプレー。マン・ツー・マンとなった守備を見切ってWR五十嵐に絶妙のパスが通り、そのまま77ヤードを独走してTD。キックは外れたが20-17。ようやくリードを奪う。
 リードを奪って攻守ともに落ち着いたのか、次の攻撃シリーズも星野兄からWRリンスコットへの25ヤードのパスでTD。27―17とリードを広げる。
 攻撃が勢いづくと、守備にも一段と勢いが出てくる。次の相手攻撃では1年生ながら守備の要となっているDL武野が相手QBの投じたスクリーンパスを奪い取り、そのままゴールまで18ヤードを走ってTD。キックも決まって34―17と、さらにリードを広げる。
 スコア的には「勝負あり」という状況になったが、そんなことを思っているようでは厳しいリーグ戦は戦えない。それを承知している選手たちは4Qに入っても手を緩めない。  
QBが星野兄から星野弟に交代し、それを象徴する場面が第4Qの初め、3分28秒に出現した。QB星野弟がWR小段へ36ヤードのパスを通してTD。PATも決めて7点を追加したのである。
 星野弟も小段も、この日前半はあまり出番がなかったが、ともにチームにとってはここからの後半戦に欠くことのできない主力メンバーであり、実戦で一層経験を積んでもらいたい選手である。その二人を終盤に起用したベンチと、その起用に応えて見事なTDで締めくくった二人の姿に、僕は深い感動をおぼえた。

(7)秋の初戦は見どころ満載

投稿日時:2025/09/02(火) 08:03

 8月31日午後5時半、神戸市の王子競技場で今季関西リーグの初戦、ファイターズと甲南大学の試合が始まった。
 8月も終りというのに、この時間になってもまだまだ暑い。防具をつけ、ヘルメットをかぶってグラウンドで戦う選手にとっては、相手と同時に暑さとの戦いも引き受けなければならない。
 そんな厳しい条件だったが、両チームとも知恵を絞り、体力の限りを尽くして戦い、見ごたえのある試合となった。
 先攻は甲南。昨年の覇者、ファイターズを相手に真っ向から立ち向かい、まずはラン攻撃でダウンを更新。この試合に向けてしっかり準備してきたことうかがえる立ち上がりとなった。
 しかし、ファイターズ守備陣は慌てない。相手の工夫してきた次の攻撃にしっかり対応し、パントに追いやる。
 守備が踏ん張れば、攻撃も力を発揮する。先発したQBの星野弟がWR小段にドンピシャのパスを通して一気に相手ゴール前に迫る。この好機をけがから復帰したRB永井がTDに仕上げ、K大西のキックも決まって7ー0と先手を取る。
 けれども、甲南の士気は高い。工夫を凝らしたラン攻撃で即座にダウンを更新。速いテンポで攻撃を続ける。それをファイターズ守備陣が懸命に食い止め、相手の攻撃を断ち切る。
 守備陣がリズムをつかむと、オフェンスのリズムもよくなる。WR五十嵐へのパス、星野のキープで陣地を進め、仕上げはRB平野への短いパス。それが決まってTD。14ー0とリードを広げる。
 しかし、この日の甲南は粘り強い。能力の高いQBが自ら走り、パスを投げて陣地を進め、仕上は40ヤード近いTDパス。それが決まって14-7。ファイターズファンに向けた実況放送を担当されているメンバーからも、「やりますねえ」の声が漏れる。
 けれども、やられたらやり返せ、と闘志をかき立てたのがリターナーの位置に入ったWR小段。相手のキックをゴール前でキャッチすると、即座に走り、相手守備陣をかわしながら自陣40ヤード付近まで陣地を進める。そこからQBのスクランブル、小段への短いパス、RB永井のランなどでFG圏内まで陣地を進め、仕上げはK大西のFG。ゴールまでは結構、距離があったが、さすがは場数を踏んでいる4年生。見事にそれを決めて17ー7。
 後半、3Qに入ってもゲームを支配しているのはファイターズ。メンバーが限られている相手に疲労の影が差すのと反比例するように、多彩なメンバーをつぎ込んでいく。昨シーズンのけがから復帰し、WRとリターナーとの任務を完全に果たしている小段、昨季、衝撃のデビューをしながら、春の初戦であっという間に故障者入りしてしまったRB永井--。極めつけは4年生WR川崎とQB星野兄。
 二人はこの日、試合終了まで残り1分半で登場。それを見た僕は一瞬、これもファンサービスのひとつか、ベンチも粋なことをやるな、と思ったが、どっこい、そんな甘ったるい話ではなかった。
 相手ゴール前6ヤード。第3ダウン2ヤード。関学オフェンスとしてはおそらくこの日最後のプレー。さてどうするか。僕は即座に星野から川崎へのパスを投じ、キャッチしてくれ!と思わず拳を振り上げた。
 目の前で願った通りにパスが投じられ、川崎がエンドゾーン左隅でそれを確保した。タッチダウン。まるで子供向けのおとぎ話にあるような幕切れとなった。
 その場面を見て、これは二人に話を聞きたい。一緒に喜びたい。そう思ってグラウンドに駆け下り、二人の話を聞いた。
 想像した通りだった。二人は足立学園(東京)、鎌倉学園(神奈川)からスポーツ選抜入試で関西学院大学に入学。同じ関東育ちということで、1年時から親しく付き合ってきた。大阪弁が標準語のようなチームに入り、みそ汁の味から道路の歩き方まで異なるような土地で互いに助け合い励ましあってチームに貢献してきた。けれども、ともに選手生命が危ぶまれるけがをして戦線から離脱。大学生の収穫期といわれる4年生になっても、試合で思い通りの活躍ができるまで我慢に我慢を重ねてきた。
 そんな状況にありながら、上ケ原のグラウンドではチームのリーダーとしての役割を担い、下級生の指導にも力を尽くしてきた。
 そういう姿を見てきただけに、二人のこの日の活躍はうれしかった。そんなことを告げると「今日はまだまだ回復途上。これからもしっかり鍛えて、チームのために貢献します。勝負はこれから。頑張ります!」。ともに、そう言ってニコニコとした表情を見せてくれた。
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