石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(1)光が見えた

投稿日時:2024/04/21(日) 22:53

 20日は、2024年度関西学院大学ファイターズの初戦。場所は神戸市の王子スタジアム。迎える相手は東の伝統校、慶応。戦後間もなくから、ファイターズとは縁の深かったチームである。
 この日は、大学の新入生歓迎行事の一つとして、この春、関西学院大学に入学したばかりの1年生を無料で招待する仕組みが作られたため、ファイターズの応援席は満員。かつて見たことのないほど数のそろったチアリーダーが繰り広げる華やかな応援もあって、試合前からスタンドは盛り上がった。
 慶応のキックで試合開始。自陣24ヤードから始まったファイターズの攻撃は、QB芝原が率い、WR辻や五十嵐へのパスとRB伊丹、澤井のランを組み合わせて確実に陣地を進める。あれよあれよという間に相手ゴール前に迫り、仕上げは伊丹が中央を走り抜けてTD。キックも決まって7-0と先行する。
 攻撃のリズムがいいと、守備も呼応する。相手がパス攻撃でダウンを更新し、さあ、これから反撃と勢い込んで投じたパスをDB松島が鮮やかにインターセプト。そのまま25ヤードほどを走って相手陣41ヤード付近から再びファイターズの攻撃。思い切りのよいランプレーで攻め、FGで3点を追加して10-0。
 得点の上ではファイターズが主導権を握ったように見えるが、相手の士気は全く衰えない。逆に、選手層の厚いファイターズの2度目の攻撃シリーズをFGによる3点に抑えたことで、オレたちも戦いようによっては対等に戦えるぞ、と自信を付けたようにも見える。
 案の定、相手QBは、立て続けに長いパスを投げ込んでくる。たとえ通らなくても、3本に1本が通れば陣地は進む、と覚悟を決めたような思い切りのよいパスを連発。一気にTDにまで持ち込み、10-7と追い上げる。
 この局面で、チームを落ち着かせたのが昨シーズンから実績のあるRB陣。まずは伊丹が相手の蹴ったボールをセンターライン付近までリターン。続けて澤井が立て続けに中央を突いて陣地を進め、伊丹のラン、棚田へのパスなどで相手ゴールに迫る。第4ダウン残りインチという場面で澤井がTD。16-7とリードを広げる。
 後半に入っても、ファイターズ守備陣の防御は堅い。相手QBの思い切りのよいパス攻撃に悩まされながら、素早い動きでそれを防ぎ、陣地は進めさせない。
 局面が動いたのは、ファイターズベンチが次々とフレッシュなメンバーを登用してから。その代表が2年生QBリンスコット・トバヤスと1年生WR片桐太陽。リンスコットは昨年、DBとして起用されたが、高校(箕面自由)時代はQBとして活躍した選手。今春、入学したばかりの片桐は大産大附属高校時代、QBやWRとして知られた選手である。昨年、1年生でありながらWR・リターナーとして大活躍した小段選手とコンビを組んでいた選手と言えば、分かりやすいだろう。
 僕は今季、上ヶ原のグラウンドで彼の動きを見る機会が何度かあったが、そのたびに上級生が彼の「スーパーキャッチ」を目にして、思わず拍手している場面に遭遇した。この日、彼がグラウンドに姿を見せた瞬間、その時の情景がよみがえり、今日もあのプレーを見せてくれ、と思わず願った。
 期待はかなえられた。リンスコットからの長いパスを2本、立て続けにキャッチし、一気に陣地を進めたのである。上ヶ原のグラウンドでの動きを、そのまま初戦で披露出来る度胸のよさにも感動した。
 初めての試合で、堂々と振る舞い、自分の持ち味を存分に発揮する。それは、今春入部した同級生はもちろん、上級生にとっても大いに刺激になることだろう。
 互いに刺激し、競争することでチームの力が上がっていく。
 彼だけではない。今春、ファイターズの門を叩いた新入生には、フットボール未経験者を含め、将来が期待できるメンバーが何人もいる。彼らが片桐の活躍に刺激され、練習に励んで、生き生きと活動してくれる日が楽しみでならない。

(19)「強さの源」

投稿日時:2023/12/22(金) 01:07

 関西学院大学ファイターズの強さの源はどこにあるか……。それを問い掛けた記事が甲子園ボウルの前日、朝日新聞阪神版に掲載された。日頃、私が考えていることと全く同じ考え方であり、それをフットボール専門記者が分かりやすく紹介されていることに、心から感動した。
 朝日新聞のネットでも配信されたので、読まれた方は少なくないだろう。けれども、阪神版という地域限定の記事であり、未読の方もおられると思うので、記事の大筋を補足の説明も加えて紹介しよう。
 アメフットは1プレーごとに次の作戦を決める。攻撃陣は練り上げたプレーを次々に繰り出し、守備陣はそれに対応し、時には仕掛けていく。選手は無制限に交代できるので、誰を起用して追う攻めるか(守るか)という戦略がカギを握る。
 当然、相手のデータを集めるスタッフ、戦略を組み立てるコーチ陣、選手の能力を伸ばす練習やトレーニング施設が必要であり、そのための資金も含めた総合力が問われる。そうした問題意識を持って(ファイターズは)「指導者体制の質量の拡大、リクルート網の強化、トレーニングセンターなど施設・財政面の拡充、OB会との連携協力体制の構築」などを挙げ、それを細部まで詰めて実行してきた。
 その姿を、指導者としてチームに戻った頃の大村監督の感想として「めちゃくちゃ細かい所まで突き詰めてやってて、これがほかのどのチームにもない関学の強みやなと実感した」と紹介。「めんどくさくても、それと向き合うことで身体能力で負けていてもチームとして勝負できる可能性が出てくる。突き詰めていく文化は非常に大事で、それは社会に出ても生きてくる」と続けている。
 続けて筆者は、東京から関学に進学した3年生OL、近藤剣之助選手の言葉を引いて、ファイターズの活動の一端を説明する。
 彼は「ボールを持った選手以外の10人の役割分担(アサイメント)が、一つのプレーに対して何通りもあることに驚かされた」「関学では、何でこうなっているか、を大事にする。すると、無限に考え方が膨らむ。強い理由を実感した」という。
 巧みな戦術であっても、選手が体現できなければ意味がない。だから関学では1年を通じて各ポジションで基本技術を徹底して積み上げ、戦うための土台を作る。
 毎年のように日本1を目指せる環境が整っているから高校の優秀な選手がやってくる。そしてまた、いいチームが出来るという好循環が生まれている、と結ぶ。
 筆者は朝日新聞の篠原大輔記者。全盛期の京大ギャングスターズでラインメンの一人として活躍。卒業後は朝日新聞に入社し、アメフットの専門記者として活躍。長くスポーツ部で務め、いまは別の部署に移っているが、土曜と日曜は全てアメフットの取材に捧げるというアメフット愛にあふれた記者である。朝日新聞の読者なら「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大見出しで9面に掲載された甲子園ボウルの記事と見開きになった関西学院大学の全ページカラー広告をご覧になったと思うが、そのコピーを書いた記者でもある、と紹介すれば、その見識の深さが想像できるはずだ。
 (この広告は関西学院広報室が大阪本社管内の近畿地区に限定して出稿・掲載したものだが、反響が非常に大きく、東京本社管内(関東地区)の24日付け朝刊に改めて掲載することが急きょ決まったという)
 実は、私もこのコラムでこうしたファイターズの魅力を存分に書きたかった。とりわけ長年のライバル校の不祥事が連日のように新聞紙上を賑わせ、大学の課外活動の在り方そのものに社会の関心が集まっているいま、「ちょっと待って。不祥事を起こした大学の例だけで、部活動全体を語らないでほしい。学生を主役にして毎年人材を育て、全国の頂点を極め続けてる部活動もありますよ」「その内容を詳しく紹介しましょうか。学生はもちろん、指導者にとっても目からうろこというような事例がいくらでもありますよ」とこのコラムで声を上げたかった。
 けれども、私がこの文章を書いているのはファイターズのホームページ。自画自賛と受け取られがちでもあり、あえて避けてきた。
 その隙間を埋めてくれたのが16日付朝日新聞の篠原記者の記事であり、18日付の関西学院大学の全面広告である。ライターの一人として心から感謝します。

(今回を持って今季のコラムは終了します)
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