石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(19)「強さの源」

投稿日時:2023/12/22(金) 01:07

 関西学院大学ファイターズの強さの源はどこにあるか……。それを問い掛けた記事が甲子園ボウルの前日、朝日新聞阪神版に掲載された。日頃、私が考えていることと全く同じ考え方であり、それをフットボール専門記者が分かりやすく紹介されていることに、心から感動した。
 朝日新聞のネットでも配信されたので、読まれた方は少なくないだろう。けれども、阪神版という地域限定の記事であり、未読の方もおられると思うので、記事の大筋を補足の説明も加えて紹介しよう。
 アメフットは1プレーごとに次の作戦を決める。攻撃陣は練り上げたプレーを次々に繰り出し、守備陣はそれに対応し、時には仕掛けていく。選手は無制限に交代できるので、誰を起用して追う攻めるか(守るか)という戦略がカギを握る。
 当然、相手のデータを集めるスタッフ、戦略を組み立てるコーチ陣、選手の能力を伸ばす練習やトレーニング施設が必要であり、そのための資金も含めた総合力が問われる。そうした問題意識を持って(ファイターズは)「指導者体制の質量の拡大、リクルート網の強化、トレーニングセンターなど施設・財政面の拡充、OB会との連携協力体制の構築」などを挙げ、それを細部まで詰めて実行してきた。
 その姿を、指導者としてチームに戻った頃の大村監督の感想として「めちゃくちゃ細かい所まで突き詰めてやってて、これがほかのどのチームにもない関学の強みやなと実感した」と紹介。「めんどくさくても、それと向き合うことで身体能力で負けていてもチームとして勝負できる可能性が出てくる。突き詰めていく文化は非常に大事で、それは社会に出ても生きてくる」と続けている。
 続けて筆者は、東京から関学に進学した3年生OL、近藤剣之助選手の言葉を引いて、ファイターズの活動の一端を説明する。
 彼は「ボールを持った選手以外の10人の役割分担(アサイメント)が、一つのプレーに対して何通りもあることに驚かされた」「関学では、何でこうなっているか、を大事にする。すると、無限に考え方が膨らむ。強い理由を実感した」という。
 巧みな戦術であっても、選手が体現できなければ意味がない。だから関学では1年を通じて各ポジションで基本技術を徹底して積み上げ、戦うための土台を作る。
 毎年のように日本1を目指せる環境が整っているから高校の優秀な選手がやってくる。そしてまた、いいチームが出来るという好循環が生まれている、と結ぶ。
 筆者は朝日新聞の篠原大輔記者。全盛期の京大ギャングスターズでラインメンの一人として活躍。卒業後は朝日新聞に入社し、アメフットの専門記者として活躍。長くスポーツ部で務め、いまは別の部署に移っているが、土曜と日曜は全てアメフットの取材に捧げるというアメフット愛にあふれた記者である。朝日新聞の読者なら「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大見出しで9面に掲載された甲子園ボウルの記事と見開きになった関西学院大学の全ページカラー広告をご覧になったと思うが、そのコピーを書いた記者でもある、と紹介すれば、その見識の深さが想像できるはずだ。
 (この広告は関西学院広報室が大阪本社管内の近畿地区に限定して出稿・掲載したものだが、反響が非常に大きく、東京本社管内(関東地区)の24日付け朝刊に改めて掲載することが急きょ決まったという)
 実は、私もこのコラムでこうしたファイターズの魅力を存分に書きたかった。とりわけ長年のライバル校の不祥事が連日のように新聞紙上を賑わせ、大学の課外活動の在り方そのものに社会の関心が集まっているいま、「ちょっと待って。不祥事を起こした大学の例だけで、部活動全体を語らないでほしい。学生を主役にして毎年人材を育て、全国の頂点を極め続けてる部活動もありますよ」「その内容を詳しく紹介しましょうか。学生はもちろん、指導者にとっても目からうろこというような事例がいくらでもありますよ」とこのコラムで声を上げたかった。
 けれども、私がこの文章を書いているのはファイターズのホームページ。自画自賛と受け取られがちでもあり、あえて避けてきた。
 その隙間を埋めてくれたのが16日付朝日新聞の篠原記者の記事であり、18日付の関西学院大学の全面広告である。ライターの一人として心から感謝します。

(今回を持って今季のコラムは終了します)

(18)うれし涙の甲子園

投稿日時:2023/12/19(火) 08:55

 関西学院大学ファイターズが17日、甲子園球場で開かれた第78回甲子園ボウルで、関東代表の法政大学を相手に61ー21で圧勝。過去にどのチームも成し遂げたことのない6年連続の優勝を果たした。
 18日付け朝日新聞9面には「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大きな見出しが踊り、その詳細を伝えている。これだけでもすごいことなのに、その隣の8面には「史上初の甲子園ボウル6連覇達成」「背負っていたモノを下ろしました」という見出しを付けた関西学院大学の全ページカラー広告が掲載された。グラウンドの真ん中で互いに肩を組み、気合いを入れている選手の姿が映し出されたその紙面を眺めながら、特別な感慨を抱かされた。
 スコア以上の圧勝だった。三塁側アルプススタンドの中央で、ファイターズが開設している場内限定の「放送席」近くから応援していても、試合の開始から終了まで、攻守の選手が躍動している姿が大きく見える。自軍の得点シーンだけでなく、得点につながるプレーの一つ一つが夢を運んでくれる。
 立ち上がりこそ、相手の思い切ったパスプレーに戸惑ったが、DB東田君の好プレーでそれを防ぎ、攻撃権をつかんでからはファイターズのショータイム。
 まずは自陣26ヤードから始まった初の攻撃シリーズ。第1プレーはQB星野君からWR鈴木君へのミドルパス。それがドンピシャで通ってダウン更新。次はRB前島君のランと星野君のキープ。途中、鈴木君への2度目のパスを挟んで再び星野君のラン。相手陣32ヤードに迫ったところで前島君が短いパスを受けて走り、ゴール前18ヤード。そこから今度は星野君が走ってTD。
 相手守備陣がランを警戒している場面ではパス。パスを警戒すればラン。双方に目配りしているときには、自身のキーププレー。まさに変幻自在の攻撃であり、日頃の練習で繰り返してきたプレーが面白いように決まる。当然のように、攻守共に盛り上がる。
 オフェンスの盛り上がりに呼応して、ディフェンスが発憤する。相手陣24ヤード付近から始まった法政の第1プレーはラン。それをLB海崎君が見事な出足で仕留め、7ヤードのロス。7ヤードのランプレーを挟んだ第3ダウンでは、相手QBの投じたパスにDB高橋君が思い切りよく飛び込んでカット。ここしかないというタイミングで見せたビッグプレーだ。
 ディフェンスに好プレーが続けば、攻める方も気合いが乗る。
 自陣47ヤード付近から始まったファターズ2度目の攻撃シリーズ。まずはRB伊丹君が5ヤードのラン。守備陣にランアタックを警戒させたところで、星野君がWR五十嵐君へ長いパス。それが見事に決まってTD。わずか2プレー(PATを含めて3プレー)で14-0とリードを広げる。
 攻守がかみ合えば、全体の意気が上がる。次の攻撃シリーズこそ陣地を進められなかったが、今度はキッキングチームが役割を果たす。自分たちの蹴ったボールを相手ゴール前1ヤードで押さえ、相手の攻め手を制約したのだ。次のプレー。動きのよいDB東田君がエンドゾーン内でボールキャリアを仕留めてセーフティ。2点を追加して16-0。
 第2Qに入ってもファイターズペースで試合が進む。まずはK大西君が32ヤードのフィールドゴールを決めて19-0。次のシリーズでは相手のリターナーがファンブル。それをキッキングチームが押さえて相手ゴール前25ヤード付近からファイターズの攻撃。RB澤井君と伊丹君のランでゴール前13ヤードと進んだところで、今度はQB星野君が走ってTD。26ー0とリードを広げる。
 こうなると、守備陣も余裕をもってプレーできる。DB波田君がナイスタックルを見せれば、DLショーン君が長身を利して相手のパスをインターセプト。そのままゴールまで50ヤード近くを走り切ってTD。
 今季は足のけがで苦しみ、ほとんど出場機会がなかった選手とは思えないような動きで「ショーンタイム」を演じてくれた。
 攻守それぞれが持ち味を発揮して前半だけで33点。後半にも、さらに28点を追加し、終わってみれば61-21。控えのメンバーも下級生たちも次々に出場し、応援席の期待に応えてくれた。ほんの3週間前、関大に悔しい敗戦を喫し、絶望の淵に落とされたチームが、甲子園の晴れ舞台でその悔しさを糧に、見事な試合を見せてくれた。
 その象徴が、甲子園ボウルの最優秀選手に選ばれた星野君である。彼が試合後、報道陣のインタビューを終えた後に涙を拭っている姿を見て、これがこの日グラウンドで戦ったチーム全員の涙、うれし涙だと思った。
 それは仲間を支え、仲間に支えられて今季を戦ってきたファイターズの全員が共有できる涙でもあろう。関西リーグ最終戦では同点、逆転のチャンスを逃がして関大に敗れ、一瞬、甲子園が見えなくなった。ある時期はコロナ禍に苦しみ、インフルエンザの集団感染にも見舞われた。けがで長期間、試合から離脱せざるを得ない選手も少なくなかった。この日、活躍したメンバーの中にもそういう選手は少なくない。先に挙げたショーン君もこの試合でほぼ完全に復帰。同じく、今季は戦列を離れることが多かった前島君も、この試合では完全復帰。素晴らしい活躍をしてくれた。
 星野君もまた、今季はけがに見舞われ、つい先日まではチーム練習にも加われなかった一人である。
 そうしたメンバーが今季最後の晴れ舞台で復活し、活躍してくれた。6連覇も嬉しいが、けがで苦しんだ面々が復帰し、甲子園で輝いてくれたことが本当に嬉しかった。
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