石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(17)「戦うのは俺だ!」

投稿日時:2008/09/03(水) 07:32

 9月である。Septemberである。竹内まりやが明るく「そして9月はさよならの国」「めぐる季節の彩りの中で一番さみしい月」と歌うのである。
 といっても、大昔の歌。いまの選手諸君はよほどのファンでない限りご存じないだろう。多分、親ごさんの世代が若いころに歌っていた歌である。
 余談はさておき、9月といえば、シーズンの開幕である。タッチダウン誌特別号の発行を待ちかねて購入し、選手名鑑を眺めてワクワクされているファンの方もどっさりおられるだろう。「今年はこういうメンバーで戦うのか」「それにしても立命には、ヤバイ選手がそろっているよな」と、僕の頭の中でも次々と連想が広がる。
 開幕を待ちかねて、この前の日曜日、練習を見に上ケ原のグラウンドに出掛けたら、同じように激励に来られた何人ものOBの方と顔を合わせた。車椅子で駆けつけられた猿木唯資さん、その同期で小学生のタッチフットボールチーム「上ケ原ブルーナイツ」の指導をされている岡本浩治さん。試合前にいつも、選手たちを集めてお祈りをされる顧問の前島宗甫先生の姿も見える。
 久々の晴天で、人工芝のグラウンドはぎらぎらに光っている。真夏のような日差しに、立っているだけで汗が噴き出す。日陰を求めてうろうろしていると、グラウンドの片隅で武田建先生が1年生のレシーバーたちに懸命に声をかけておられる姿が見えた。僕より一回りも年上の先生が炎天下で走り回っておられるのに、と変な対抗心を燃やして炎天下に出たら、真っ黒に日焼けしてしまった。
 選手たちはみんな、本番間近という練習ぶりである。例えば「練習開始10分前」というマネジャーの指示が飛べば、5分前にはみんながハドルを組んでいる。ぎりぎりの時間にあたふたと走り込んでくるような選手は一人もいない。キビキビしたその集散ぶりを見ているだけで、いよいよ近づいてきた、と実感するのである。開幕戦では、この選手たちが存分に活躍してくれるはずだ、と期待が高まるのである。
 もちろん、シーズンは長い。開幕戦だけが試合ではない。一つひとつの試合に全力を尽くし、確実に勝ち星を挙げると同時に、リーグの最終戦で戦う立命に勝てるチームを作り上げていかなければならない。そこを突破して初めて関東の覇者と戦う道が開けるのだし、社会人の王者に挑戦する資格が手にできるのである。
 戦いながら仕上げていく、といっても、事は容易ではない。関西リーグに参加しているチームの力が上がっているのは、タッチダウンが奪えなかった春の関大戦やニューエラボウルにおける各チームの主力選手の活躍ぶりを見ただけでも明らかだ。小手先の作戦で勝てるようなチームは一つもない、と心してかからなければならないだろう。
 先日の朝日新聞のスポーツ面に、リーグ戦の開幕をアピールする記者会見で、鳥内監督と立命の古橋監督が「舌戦」を繰り広げた話が掲載されていた。その中で鳥内監督は「仕上がりはまだ3、4割ですよ」と話しておられたが、それは謙遜が半分、本音が半分の談話だと受け止めた。
 それぞれの部員が自分のリミットを超えて、新しい力を獲得できるかどうか。個々の選手がここが限界だと思っているレベルを超えて新たな境地に到達できるかどうか。すべては、早川主将のいう今年のスローガン「Over The Limit」をチームとして、個人として、どこまで実行できるかにかかっている。
 北京五輪の平泳ぎで2冠を達成した北島康介選手は「泳ぐのは僕だ!」というTシャツを着て、自分を鼓舞した。水着騒動をめぐる周囲の雑音に抗して、自ら退路を断ったこの言葉はしかし、ひとり北島選手だけのものではない。
 ファイターズの選手諸君にとっても「戦うのは僕だ」であり、「限界を超えるのは僕だ」である。
 目の前の一つひとつの試合を全力で戦うことで自らを鍛え、限界を超え、最後に笑えるシーズンにしてもらいたい。健闘を祈る。

(16)日本1のイヤーブック

投稿日時:2008/08/21(木) 15:19

 自分が関係しているのに言うのも何だけど、ファイターズのホームページは読み応えがある。情報が早くて充実しているうえに、マネジャーの「リレーコラム」や畏友・川口仁さんの連載「日本アメリカンフットボール史」がある。前者は部員の「素顔」を伝えて秀逸だし、後者は無料で読ませてもらうのが申し訳ないほどの労作だ。そのうえ、友人(だけ)がこぞって褒めてくれる(単にお愛想をいわれているだけなんだけど)僕のコラムがある(自分で言ってどうするよ)。写真も素晴らしいし、デザインもしゃれている。更新の頻度も他大学に比べて圧倒的に多い。
 というわけで、勝手に「日本1のホームページ」と自賛しているのだが、ファイターズには、もう一つ「日本1」がある、と僕は思っている。毎年、秋のシーズンが始まると同時に発行されるイヤーブックである。
 毎年読んでいる分には、そんなに驚かないけれども、他の大学のイヤーブックと比較してみれば、その内容が充実していることに驚かされる。なにより特集記事が素晴らしい。編集にはまったく経験のない学生が作っているとは、とても思えない。
 聞けば、イヤーブックは毎年、3年生のマネジャーが中心になって編集しているそうだ。今年も3年生マネジャーの豊田早穂さんを中心に、7月から本格的に作業を始め、前期試験と並行して企画・取材・執筆・編集・校正作業を進めている。秋のシーズンに間に合わせるためには、本当はもう少し早い時期から作業をスタートさせた方が、工程にゆとりが持てるのだが、春のシーズンの戦績を入れたり、対戦相手の分析をしたり、新入生メンバーがそろうのを待っていたりすると、どうしても本格的に作業できるのは7月からになるそうだ。
 その作業が大変だ。まず200人もの部員の集合写真と個人写真を撮影しなければならない。幸い、カメラマンが手慣れた人なので、作業は流れるように進んでいくそうだが、今度はそれぞれにコメントをつけなければならない。パートごとの写真を撮り、その紹介も選手自身が書くのである。
 呼び物の特集記事は、特別に力が入る。相手に依頼するだけで集まる原稿ならともかく、自分で取材し、執筆するのは大変だ。僕のようにそれを職業としている者にとっても気の重い作業なのに、編集も取材もほとんど経験のない学生にとっては、気の遠くなるような重圧がかかるだろう。
 しかし、さすがはファイターズのメンバーである。そんな重圧をまったく感じさせないような物語を綴っている。
 先日、編集作業中の記事を2本、校正段階で読ませていただいたが、それぞれに素晴らしい出来栄えだった。一つは昨年のチームの一員が書いた「挑戦への軌跡~2007年のシーズンを振り返って~」。筆者名は、イヤーブックを購入されてからのお楽しみとして伏せておくが、このホームページに連載され、衝撃を与えた小野宏コーチの「爆発(explosion)~史上最高のパスゲーム~」の向こうを張ったような中身の濃い力作である。
 もう1本が「QBファクトリー」の物語。ファイターズがこの10年ほどの間に送り出し、いまも社会人の第一線でプレーしている名QB6人(名前は、読んでからのお楽しみ)に、豊田さんが直接インタビューしてまとめた読み物である。これまたファイターズのファンには、よだれの出るような企画であり、彼らが活躍した当時を思い出しながら読むと、なおさら興趣がつのるはずだ。
 これらの記事を読ませてもらいながら、こういう特集をまとめ、質の高いイヤーブックが発行できる理由はなぜか、と考えた。答えはファイターズというチームに求められる。どういうことか。説明したい。
 さきほど、イヤーブックは3年生マネジャーが中心になって作成していると書いた。しかし、それはあくまで「中心になっている」のであって、それをフォローする人たちが何人もいる。ディレクター補佐の宮本敬士氏や石割淳氏は、かつてマネジャー時代に編集に携わった経験があり、その経験を生かして現役のメンバーに適切な指導をしている。朝日新聞でスポーツ記者をしていた小野コーチも、特集記事については目を通し、専門家の目で助言をしている。写真スタッフである清水茂さんらの協力も大きい。
 そういう、経験の蓄積と指導が惜しみなく注がれ、現役部員もそれに応えていくから、自ずと鍛えられる。「へなちょこ部員」が「ファイターズ」に成長していくのである。ホームページがリニューアルされて以来、営々と「マネジャーの日記」を綴ってくれた1昨年の神林琢己君、昨年の大石雅彦君の文章を読み直せば、それは納得していただけるだろう。そういう「成長する部員」がいるから、世間に「日本1」と自慢できる本もホームページも作れるのである。それがファイターズというチームである。
 グラウンドで戦うのは選手である。けれども、彼らが存分に戦えるように育成するコーチやスタッフが充実していて、初めてチームは機能する。そのためには、兵站(へいたん)部門を充実させなければならないし、リクルート活動もがんばらなければならない。OBにも協力を仰がなければならないだろうし、大学当局の理解も不可欠だ。
 そういうもろもろがどれ一つ欠けることなく機能して、初めてファイターズはファイターズになれるのである。ホームページを作る作業も、イヤーブックを編集する作業も同様である。というより、チームとして「日本1」を目指すのなら、ホームページもイヤーブックも「日本1」でなければならない、と僕は思うのである。
 思わず力が入って、話が長くなったが、結論はこういうことである。
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