石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2010/10

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(24)スカウトチームと化学反応

投稿日時:2010/10/11(月) 20:46

 鈴木章・北海道大学名誉教授(80)と根岸栄一・パデュー大学特別教授(75)、それにリチャード・ヘック・デラウェア大学名誉教授(79)に今年のノーベル化学賞が贈られることになった。日本のノーベル賞受賞者はこれで17、18人目になるそうだ。その中に関西学院の先生方の名前のないのが悔しいが、それは今日のテーマとは関係ない。
 日本のお二人の人となりや研究の課程、業績や喜びの言葉は先週来、新聞やテレビで洪水のように報道されているから、新聞は読んでもテレビはろくに見ない僕より、このコラムをお読みになっている皆さんの方が、よほどお詳しいだろう。理系にはからっきし弱い(もちろん、文系も体育系も弱い。人より優れているところがあるとすれば、せいぜい野次馬系ぐらいだろう)僕はただ、お二人の業績として顕彰されている「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」という「言葉」に神経をくすぐられただけである。
 どういうことか。
 朝日新聞などによると、「炭素同士を効率よく繋ぐ」ことは、有機化学の大きなテーマだった。その方法の一つとして注目されていたのがクロスカップリング反応。この反応に繋ぎたい場所につける「目印」と、反応を仲介する「触媒」をうまく組み合わせて反応させると、本来は結合しにくい炭素同士が簡単に結合する。その触媒にパラジウムを使う方法をヘックさんが確立し、根岸さんがそれを応用してバリエーションを広げ、より使いやすい形に改良した。鈴木さんはそれを改良した「鈴木カップリング反応」を開発、実用化に結びつけた。それを応用した技術によって、医薬品や農薬が開発され、テレビやパソコンの画面に使われる液晶を有機化合物から製造する際の結合に利用されているという。
 前置きが長くなった。申し訳ない。今日のテーマは、この「触媒」と「化学反応」という言葉をファイターズに当てはめたらどうなるか、ということである。スカウトチームを例に、考えてみたい。
 ご承知の通り、アメフットでは大半のチームがオフェンスとディフェンスの分業体制を敷いている。日ごろの練習から攻守のパートに分かれ、それぞれの完成度を上げるべく努力しているのである。
 ファイターズも例外ではない。スペシャルチームも含めた攻守蹴のパートがそれぞれ、過去の蓄積を生かした練習法、新たに導入した練習法をミックスし、試行錯誤しながら日々鍛錬している。経験を積んだコーチが指導し、アナライジングスタッフが編集したビデオを参考にして戦術を考える。
 毎年、営々と繰り返されるそうした動きの中で、チームとしてある種の化学反応を起こさないと、飛躍はない。新しい技や戦術は生まれない。過去のチームが成功したからと言って、その成功体験に寄りかかり、反復練習をしているだけでは未来はない。日々創意をこらし、工夫し、進化し続けているチームには勝てないのである。
 誰もが想像したこともないような化学反応を引き起こすには、想像もつかないような触媒が必要になる。それを使い勝手のよいように効率化し、実用化していくためには、さらなるひらめき、工夫がいる。今回、ノーベル賞を受賞することになった研究者たちが実証したのと同じことだ。
 そこでスカウトチームである。対戦する相手に備え、オフェンスやディフェンスのメンバーに適切な動きを身に着けさせ、必要な戦術を発見させるためには、相手チームになりきらなければならない。相手がスピードランナーを使ってくるなら、それと同じスピードで走りきる選手が必要になる。相手のラインが強い当たりでまくり上げてくるなら、たとえ練習台とはいえ、その強さを備えたラインがほしい。パスを投じてくる相手に備えたディフェンスの練習を効果的に行うには、同じようなパスが投げられるQBとそのパスをキャッチして走れるレシーバーが不可欠だ。
 相手のプレーを具体的に再現できるスカウトチームであってこそ、練習台としての役割が果たせる。そういう練習台を相手に、工夫し、対策を練ってこそ、一段上のプレーが展開できる。技という名に値する動きが生まれる。戦術という名にふさわしい動きが共有できる。すなわち化学反応である。
 先輩から引き継いできた反復練習で体力を養い、対戦相手の特徴を完備したスカウトチームを相手に動きの質を高める。戦術を工夫する。それによって初めて勝利への道が開けるのである。
 スカウトチームの役割は、外部の人間が想像することも及ばないほど重要である。試合に出る選手たちに練習の機会を与え、その力を引き出し、適切な戦術を工夫する触媒になれるということは、具体的には当たる、投げる、走る、受ける、交わすといった、アメフットに必要なそれぞれの分野で、傑出した能力が必要ということ。たとえ先発メンバーとして試合に出ることはかなわなくても、それぞれの分野で相手チームのエース級と同等以上の力を持ち、その能力を発揮できるプレーヤーでなければならないということだ。
 求めて求められないような人材だが、そういう人材がいてこそ、チームは化学反応を起こすことができる。
 幸いなことに今年は、近年になくそういう夢のような人材に恵まれていると、僕は見ている。差し障りがあるので、あえて名前は挙げないが、走る方でも、受ける方でも、もちろん投げる方にも守る方にも、素晴らしい能力を持った選手たちが確実に存在する。ありがたい。あとは彼らの能力を仮想の敵と見た先発メンバーたちが、チームに化学反応を起こしてくれるのを待つだけだ。15日は京大戦。存分に戦ってほしい。

(23)心配の種は尽きず

投稿日時:2010/10/05(火) 14:43

 10月2日は、リーグ戦3試合目。甲南大学との戦いである。同時にこの日は、近所に住む孫ふたりが通う小学校の運動会の日であり、3男坊にとっては幼稚園の面接試験日でもある。
 スポーツ推薦で関西学院大学を受験する高校生のお手伝いはできても、幼稚園の面接試験では、じいちゃんは無力である。何の助けもできない。ならば、運動会に出掛けて上の二人の応援でもしてやろうか、というところだが、試合と重なれば、当然のことながらファイターズが優先。
 「運動会は午前中だけ見て、昼からは帰るよ」と今春、1年生になったばかりの次男坊にいうと、口の達者な孫は「そんなん、行かなくてもいいやん。孫の運動会があるから、試合は行けませんと断ればええねん」と知恵を付けてくれる。
 「ありがたい助言」を振り切って、早々に運動会の観戦を切り上げ、一路王子スタジアムへ。僕の気持ちの中では、この日の試合は「リーグ前半戦の締めくくりであり、2週間後に控えた京大戦、その次の立命戦に向けてチームを整える」大切な一戦。ディフェンスはともかく、これまでもう一つピリッとしなかったオフェンスを仕上げるための大事な試合。孫の相手をしている場合ではなかった。
 結果はどうだったか。まずはファイターズの得点経過を見ていこう。

1Q5分10秒 RB稲村1ヤードラン、K大西キック成功
  10分43秒 RB尾嶋78ヤードラン、大西キック成功
2Q0分11秒 RB尾嶋2ヤードラン、大西キック成功
  11分14秒 QB畑13ヤードラン、大西キック成功
3Q7分39秒 畑からRB久司へ31ヤードパス、大西キック成功
4Q1分53秒 WR松原からWR小山へ23ヤードパス、大西キック成功
  10分37秒 RB野々垣25ヤードラン、大西キック成功
  11分57秒 大西39ヤードフィールドゴール成功

 この経過だけを見れば、ファイターズの圧勝である。クオーターごとに満遍なく得点を重ね、パスとランのバランスもとれている。今季から試合に出始めたばかりの2年生、尾嶋が78ヤードを独走したし、1年生RB野々垣の25ヤード独走TDもあった。QBからピッチを受けた松原が思い切った縦パスを小山に投げ、TDを奪うという意表をついたプレーもあったし、ブロック力と走力に秀でたRB久司をレシーバーの外に置き、そこにミドルパスを投げ込んで一気にゴールラインまで走らせるというスペシャルプレーも成功した。その結果が52-7である。
 けれども、スタンドで見ている限り、その得点差ほどの力の差は感じられなかった。とくに前半は、オフェンスが力でもぎ取った得点という印象が薄かった。
 なるほど、稲村の中央ダイブ、尾嶋の独走、尾嶋の中央ダイブ、畑のQBドローと、前半の得点経過を見ると、ことごとくランプレーで仕上げている。しかし、この内の2本は、LB善元とLB望月がそれぞれ相手パスをインターセプトし、相手ゴール前の好位置で攻撃権を奪ったことが伏線にあり、もう一本は尾嶋の独走である。残りの1本も、攻撃が手詰まりになった場面でQB糟谷が3度、自ら走って獲得した52ヤードがベースになっている。
 つまり前半は、ファイターズが得意とする多彩なパスとランによるバランスのとれた攻撃で獲得した得点シーンは一度もなかったのである。
 後半もしかり。都合3本のTDを奪っているが、その内の2本はさきにいった通りRB久司へのパスと、WR松原からWR小山へのパスという「相手の目をくらます」プレーで挙げた得点。パスとランを組み合わせて陣地を進める「いかにもファイターズ」という攻撃は、最後まで目にすることができなかった。
 それが不安である。攻撃のベーシックな姿が仕上がらないままで京大、立命という強敵を相手にどう戦うのか、心配でならない。初戦から守備陣が活躍し、ゆっくりとファイターズペースで試合が進められるはずなのに、なぜか攻撃が手詰まりになってしまう。パスがオーバースローになる場面は再三だし、きれいなパスが投じられても、レシーバーがしっかり走り込んでいない場面がある。見事なパスが通ったのに、関係のない場所での反則でそれが取り消されるということも続いている。
 これで、京大や立命、そして関大という強力なオフェンス陣を持つチームに守備陣の動きが封じられたらどうなるのか。それだけでも心配なのに、今季はやたらとけが人が出ている。それもチームの主力を構成する選手やスーパーサブたちだ。これもまた心配の種である。
 おまけに今週末は、運動会の観戦を途中ですっぽかしたことで、孫からの苦情(?)も覚悟しなければならない。かくしてまた、僕の髪は白くなるのである。
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