石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(9)「雲外蒼天」
いま働く若い女性から熱狂的な支持を受けている小説に「みをつくし料理帖」シリーズ(角川春樹事務所)がある。第一作の「八朔の雪」から始まり、7作目の「夏天の虹」まで、文庫の書き下ろしで7作が刊行され、それぞれがベストセラーになっている。もちろん、男が読んでも面白い。作者は阪急今津線沿線にお住まいの高田郁さんである。
主人公は澪(みお)。8歳の時、大阪の洪水で肉親を失い、いまは江戸で小さな店を持ち、数々の試練を克服しながら、一途に料理人の修行を続けている。
そんな彼女を、子どもの頃に占った易者の見立てが「雲外蒼天」。そう、澪はいま、どんよりとした雲の中で、自身の運命を切り開くため、悪戦苦闘しているが、そこを突き抜ければ「蒼天」すなわち突き抜けるような青い空が広がっている。そういう話である。
長々と余計なことを書いてきた。でも、ファイターズのQB斎藤がいま、まさにそのような状況、つまり「雲外蒼天」の場面を迎えようとしていると思えてならないので、あえて本筋と関係のない話を持ち出した次第であえる。忙しい人は、ここから読んでいただきたい。
26日、晴天の王子スタジアムで行われた関大との戦いは、秋本番のような緊迫したゲームになった。
第1Qこそ、互いに攻撃が続かず0-0だったが、第2Qに入ると、斎藤からのパスが立て続けに通り始める。自陣7ヤードから始まった攻撃だったが、WR林、梅本、樋之本、さらにはRB飯田へと4本連続してパスを成功させ、あっという間にゴール前8ヤード。ここで斎藤がパスのフェイクからそのまま右オープンを切れ上がってTD。K三輪のキックも決まって7-0とリードする。
すぐさま関大が反撃。松田、地村というスピード豊かなRB陣が立て続けにラッシュを決め、ランプレーだけでTDに持ち込み、あっという間に同点。
しかし、ファイターズも負けてはいない。自陣36ヤードからの攻撃では、またまた斎藤のパスが炸裂。WR木戸、横山、梅本に長短織り交ぜたパスを3本続けてヒットさせ、わずか5回の攻撃でゴール前1ヤード。ここからRB三好が走り込んで、再び14-7とリードして前半は終了。
しかし、本当の勝負は後半に入ってから。第3Qファイターズの最初の攻撃シリーズでは斎藤のスクランブル、斎藤から木戸への46ヤードパスであっという間に敵陣に入り、仕上げは斎藤から梅本への38ヤードTDパス。21-7とリードしたが、それもつかの間。相手のエース高崎に約95ヤードのキックオフリターンTDを決められ、再び勝負の行方へは分からなくなる。
なんせディフェンスが、相手の切れのよいランに対応出来ない。要所要所で1年生のLB西田、山岸、松尾が競うようにロスタックルやQBサックを決め、しのいできたが、ついに終了直前にゴール前15ヤードからTDパスを決められて21-20。勢いに乗る関大はここでキックではなく逆転を狙ってプレーを選択。このパスが失敗して、何とかファイターズが勝利を収めた。
このように得点経過をたどっていけば、ファイターズは斎藤のパスが攻撃のキーになっていたことがよく分かる。この日は能力の高いレシーバー陣がそろっていたこともあり、糸を引くような美しいパスが何度も成功した。パスが通るから、時折見せるQBドローやパスフェイクのランも余裕で決まる。シーズン当初の日大や神戸大との試合、さらには昨年の甲子園ボウルでパスが通らず、もがき苦しんでいた姿はすっか
り消えていた。
まさに「雲外蒼天」を絵に描いたような変身ぶりである。前回のコラム「晴れたらいいね」で書いたように、この前の日体大戦から変身の兆候は見えていたが、正直言って、ここまで素晴らしいプレーを見せてくれるとは想像外だった。
でも、変身は偶然のたまものではない。試合ごとにインターセプトを喫し、先発メンバーからも外れるなど苦しい状況が続く中でも腐らず、誰よりも早くグラウンドに出て黙々とパスの練習に励んできたからこそ、重苦しい雲、分厚い雲を突破できたのである。
その相手を必ずといっていいほど務めてきたのが梅本や木戸、そして横山。この日のパスゲームの一方の主役を務めた面々である。
練習は裏切らないという言葉は、生きている。この日、主力選手の何人かを欠いて、いまひとつ関大のラン攻撃に対応仕切れなかった守備陣もまた、この言葉を胸に刻んで頑張ってくれることを期待する。
主人公は澪(みお)。8歳の時、大阪の洪水で肉親を失い、いまは江戸で小さな店を持ち、数々の試練を克服しながら、一途に料理人の修行を続けている。
そんな彼女を、子どもの頃に占った易者の見立てが「雲外蒼天」。そう、澪はいま、どんよりとした雲の中で、自身の運命を切り開くため、悪戦苦闘しているが、そこを突き抜ければ「蒼天」すなわち突き抜けるような青い空が広がっている。そういう話である。
長々と余計なことを書いてきた。でも、ファイターズのQB斎藤がいま、まさにそのような状況、つまり「雲外蒼天」の場面を迎えようとしていると思えてならないので、あえて本筋と関係のない話を持ち出した次第であえる。忙しい人は、ここから読んでいただきたい。
26日、晴天の王子スタジアムで行われた関大との戦いは、秋本番のような緊迫したゲームになった。
第1Qこそ、互いに攻撃が続かず0-0だったが、第2Qに入ると、斎藤からのパスが立て続けに通り始める。自陣7ヤードから始まった攻撃だったが、WR林、梅本、樋之本、さらにはRB飯田へと4本連続してパスを成功させ、あっという間にゴール前8ヤード。ここで斎藤がパスのフェイクからそのまま右オープンを切れ上がってTD。K三輪のキックも決まって7-0とリードする。
すぐさま関大が反撃。松田、地村というスピード豊かなRB陣が立て続けにラッシュを決め、ランプレーだけでTDに持ち込み、あっという間に同点。
しかし、ファイターズも負けてはいない。自陣36ヤードからの攻撃では、またまた斎藤のパスが炸裂。WR木戸、横山、梅本に長短織り交ぜたパスを3本続けてヒットさせ、わずか5回の攻撃でゴール前1ヤード。ここからRB三好が走り込んで、再び14-7とリードして前半は終了。
しかし、本当の勝負は後半に入ってから。第3Qファイターズの最初の攻撃シリーズでは斎藤のスクランブル、斎藤から木戸への46ヤードパスであっという間に敵陣に入り、仕上げは斎藤から梅本への38ヤードTDパス。21-7とリードしたが、それもつかの間。相手のエース高崎に約95ヤードのキックオフリターンTDを決められ、再び勝負の行方へは分からなくなる。
なんせディフェンスが、相手の切れのよいランに対応出来ない。要所要所で1年生のLB西田、山岸、松尾が競うようにロスタックルやQBサックを決め、しのいできたが、ついに終了直前にゴール前15ヤードからTDパスを決められて21-20。勢いに乗る関大はここでキックではなく逆転を狙ってプレーを選択。このパスが失敗して、何とかファイターズが勝利を収めた。
このように得点経過をたどっていけば、ファイターズは斎藤のパスが攻撃のキーになっていたことがよく分かる。この日は能力の高いレシーバー陣がそろっていたこともあり、糸を引くような美しいパスが何度も成功した。パスが通るから、時折見せるQBドローやパスフェイクのランも余裕で決まる。シーズン当初の日大や神戸大との試合、さらには昨年の甲子園ボウルでパスが通らず、もがき苦しんでいた姿はすっか
り消えていた。
まさに「雲外蒼天」を絵に描いたような変身ぶりである。前回のコラム「晴れたらいいね」で書いたように、この前の日体大戦から変身の兆候は見えていたが、正直言って、ここまで素晴らしいプレーを見せてくれるとは想像外だった。
でも、変身は偶然のたまものではない。試合ごとにインターセプトを喫し、先発メンバーからも外れるなど苦しい状況が続く中でも腐らず、誰よりも早くグラウンドに出て黙々とパスの練習に励んできたからこそ、重苦しい雲、分厚い雲を突破できたのである。
その相手を必ずといっていいほど務めてきたのが梅本や木戸、そして横山。この日のパスゲームの一方の主役を務めた面々である。
練習は裏切らないという言葉は、生きている。この日、主力選手の何人かを欠いて、いまひとつ関大のラン攻撃に対応仕切れなかった守備陣もまた、この言葉を胸に刻んで頑張ってくれることを期待する。
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