石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(1)隠されたヒーロー
桜が咲いて春。先週末、大学とその周辺を歩いたが、どこもかしこも桜が満開。学園花通りと名付けられて正門前の桜並木も、日本庭園の桜の園も、見事に咲きそろっていた。
この花が咲く前に4年生は卒業し、散っていくころには新しい仲間を迎える。そして、フットボールの新しいシーズンがスタートする。それに伴って、しばらく休眠していたこのコラムも再開という段取りである。
例年なら、さて何から書こうか、と思案するところだが、今季はこの話から書きたいと決めていた。いささか旧聞に属することではあるが、昨シーズンのアンサンヒーローのことである。
ファイターズは毎年、シーズンが終わると中学部から高校、大学までが一堂に会して、壮行会を開いている。それぞれの組織を巣立っていく生徒や学生を送る合同送別会といえば分かりやすい。
その席上、部員を対象にした各種の表彰がある。大学では、文武両道で活躍した部員に贈られる大月杯(今年はDB保宗君が受賞)、逆境を跳ね返す、豪傑と呼ぶに値する部員に贈られる領家杯(同じくLB川端君)、スペシャルチームに貢献したスペシャルチーム賞(アナライジングスタッフ、藤原君)、特別賞(アナライジングスタッフ多田君とマネジャーの木戸さん)、そして余り目立たないかも知れないが、身を挺してチームに貢献したヒーローに贈られるアンサンヒーロー賞(WR南本君が受賞)である。それぞれ、担当コーチが選出し、表彰する。
この受賞者のそれぞれに、このコラムで紹介するにふさわしい物語がある。しかし今回は、あえてアンサンヒーローのことを紹介したい。
白状すると、毎年、壮行会の当日、末席を汚しながら、今年はどんな選手、部員が表彰されるのだろうか、と考えるのが僕の密かな楽しみである。式の進行は聞き流し、ひたすらあの選手、この部員と思いをめぐらせているだけで、時間がどんどん過ぎていく。
驚いたことに、今年は僕が予想した人たちが次々に名前を呼ばれた。気がつけば、僕がその活動ぶりを目にする機会のなかった一人を除いて、受賞者はすべて、僕が予想した通りの名前だった。
中でも、絶対に間違いないと思っていたのがアンサンヒーローの南本君。競馬でいえばガチガチの本命、鉄板レースと確信していた。なぜか。それは、このコラムでも折りにふれて取り上げてきたが、練習でも試合でも、日ごろの取り組みでも、彼の行動が他の誰にも増して印象深かったからである。
もちろん、梶原主将を先頭に、ほかの部員の言動にも、それぞれに印象深い場面があった。彼らと言葉を交わすたびに「この子は成長したな」と思わせられることが何度もあった。それでも、その中から一人を選べ、といわれると南本君以外は考えられなかった。
思い起こせば、彼は春のシーズンからずっと、チームの練習をリードしてきた。WRのパートリーダーとしての役割を果たすのはもちろん、多くの4年生がけがなどで戦列を離れ、試合はもちろん練習にも加われない状態にあるときに、率先して下級生を引っ張り、先頭に立って練習を仕切ってきた。
試合では、甲子園ボウルの最後のシリーズが象徴するように「ここ一番」という場面では必ずボールを確保。QBの畑君を助け、チームのピンチを救ってきた。トータルの数字では計りようのない活躍を続けてきたのである。
隠れた場面でも手を抜かないというのは、昨年の33回目のコラム「透明な空気」で取り上げた試合前日のグラウンド掃除の場面でも見ることができた。みんなが避けたがる側溝のゴミを拾い、掃除するのはいつも、彼と畑君のコンビだったのだ。
4年生のリーダーが率先して練習に取り組むのは当たり前のこと。試合で活躍するのも当然と言えば当然である。だが、人の目に触れないところ、隠れたところで手抜きをしない、というのは誰にも出来ることではない。それを何気ない態度で、当然のようにやり続け、チームのモラルを支えてきたのが南本君である。彼のような選手がいたから、昨年のチームは成長できた、どんな強敵にも勝つことができたと僕は確信している。
そして、今年のチームにも、必ずそういう隠されたヒーローが出現してくれるはず、と期待している。それが一人ではなく、複数になって、「アンサンヒーローを選考するのが難しい」という日が来ることを、密かに願っている。
◇ ◇
お知らせが一つ。
昨シーズンのコラムをまとめた冊子「2012年ファイターズ 栄光への軌跡」を発行しました。ファイターズの諸君には贈呈しましたが、一般の方々には試合会場でお披露目します。1冊500円。ファイターズへのカンパとして、すべてチームに寄付します。ご協力をいただければ幸いです。
この花が咲く前に4年生は卒業し、散っていくころには新しい仲間を迎える。そして、フットボールの新しいシーズンがスタートする。それに伴って、しばらく休眠していたこのコラムも再開という段取りである。
例年なら、さて何から書こうか、と思案するところだが、今季はこの話から書きたいと決めていた。いささか旧聞に属することではあるが、昨シーズンのアンサンヒーローのことである。
ファイターズは毎年、シーズンが終わると中学部から高校、大学までが一堂に会して、壮行会を開いている。それぞれの組織を巣立っていく生徒や学生を送る合同送別会といえば分かりやすい。
その席上、部員を対象にした各種の表彰がある。大学では、文武両道で活躍した部員に贈られる大月杯(今年はDB保宗君が受賞)、逆境を跳ね返す、豪傑と呼ぶに値する部員に贈られる領家杯(同じくLB川端君)、スペシャルチームに貢献したスペシャルチーム賞(アナライジングスタッフ、藤原君)、特別賞(アナライジングスタッフ多田君とマネジャーの木戸さん)、そして余り目立たないかも知れないが、身を挺してチームに貢献したヒーローに贈られるアンサンヒーロー賞(WR南本君が受賞)である。それぞれ、担当コーチが選出し、表彰する。
この受賞者のそれぞれに、このコラムで紹介するにふさわしい物語がある。しかし今回は、あえてアンサンヒーローのことを紹介したい。
白状すると、毎年、壮行会の当日、末席を汚しながら、今年はどんな選手、部員が表彰されるのだろうか、と考えるのが僕の密かな楽しみである。式の進行は聞き流し、ひたすらあの選手、この部員と思いをめぐらせているだけで、時間がどんどん過ぎていく。
驚いたことに、今年は僕が予想した人たちが次々に名前を呼ばれた。気がつけば、僕がその活動ぶりを目にする機会のなかった一人を除いて、受賞者はすべて、僕が予想した通りの名前だった。
中でも、絶対に間違いないと思っていたのがアンサンヒーローの南本君。競馬でいえばガチガチの本命、鉄板レースと確信していた。なぜか。それは、このコラムでも折りにふれて取り上げてきたが、練習でも試合でも、日ごろの取り組みでも、彼の行動が他の誰にも増して印象深かったからである。
もちろん、梶原主将を先頭に、ほかの部員の言動にも、それぞれに印象深い場面があった。彼らと言葉を交わすたびに「この子は成長したな」と思わせられることが何度もあった。それでも、その中から一人を選べ、といわれると南本君以外は考えられなかった。
思い起こせば、彼は春のシーズンからずっと、チームの練習をリードしてきた。WRのパートリーダーとしての役割を果たすのはもちろん、多くの4年生がけがなどで戦列を離れ、試合はもちろん練習にも加われない状態にあるときに、率先して下級生を引っ張り、先頭に立って練習を仕切ってきた。
試合では、甲子園ボウルの最後のシリーズが象徴するように「ここ一番」という場面では必ずボールを確保。QBの畑君を助け、チームのピンチを救ってきた。トータルの数字では計りようのない活躍を続けてきたのである。
隠れた場面でも手を抜かないというのは、昨年の33回目のコラム「透明な空気」で取り上げた試合前日のグラウンド掃除の場面でも見ることができた。みんなが避けたがる側溝のゴミを拾い、掃除するのはいつも、彼と畑君のコンビだったのだ。
4年生のリーダーが率先して練習に取り組むのは当たり前のこと。試合で活躍するのも当然と言えば当然である。だが、人の目に触れないところ、隠れたところで手抜きをしない、というのは誰にも出来ることではない。それを何気ない態度で、当然のようにやり続け、チームのモラルを支えてきたのが南本君である。彼のような選手がいたから、昨年のチームは成長できた、どんな強敵にも勝つことができたと僕は確信している。
そして、今年のチームにも、必ずそういう隠されたヒーローが出現してくれるはず、と期待している。それが一人ではなく、複数になって、「アンサンヒーローを選考するのが難しい」という日が来ることを、密かに願っている。
◇ ◇
お知らせが一つ。
昨シーズンのコラムをまとめた冊子「2012年ファイターズ 栄光への軌跡」を発行しました。ファイターズの諸君には贈呈しましたが、一般の方々には試合会場でお披露目します。1冊500円。ファイターズへのカンパとして、すべてチームに寄付します。ご協力をいただければ幸いです。
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記事タイトル:(1)隠されたヒーロー
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