石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(6)フットボールの魅力
4日の日大フェニックスとの試合は、小野ディレクターに解説してもらいながら観戦した。
彼はファイターズファンなら誰もが知っている「ファイターズの頭脳」であり、対戦相手からグラウンドで戦う選手以上に警戒されてきた人である。つい5カ月前までは、ファイターズのコーチとして、試合のたびにスポッター席でゲームの展開をチェックし、作戦を立て、チームを勝利に導いてきた人でもある。
本業の大学職員としての業務が年々多忙になり、ついに今季から現場を離れ、ディレクターというチームのマネジメントなど後方支援としての役割を担われている。それで、今季からは座りなれたスポッター席ではなく、一般観客席で観戦されている。それをめざとく見つけ、隣に座ってもらって「専属の解説者」を務めてもらった次第である。
その解説がとてつもなく面白かった。現場のコーチならではの、選手の頭の中まで見透かしたようなコメントが次々と飛び出すのである。余りに生々しい内容なので、ここでその詳細を紹介すると差し障りがあるかも知れない。ほんのさわりだけを書いてみよう。
例えば、立ち上がり、ファイターズの攻撃が思うように進まず、自陣35ヤード付近からK三輪君がパントを蹴ろうとした場面。
「三輪がちゃんと蹴れるかなあ」と小野さんがつぶやいた途端に、そのパントが日大守備陣にブロックされ、自陣8ヤードで相手に攻撃権を渡してしまった。部外者にはそのつぶやきが漏れた理由は理解不能だが、さすがは昨年までのキッキングコーチである。三輪君のちょっとした仕草に、不安要素を見つけ出し、それがつぶやきとなり、不幸にも的中してしまったということだろう。
同じ三輪君について、今度はよい方に予測が外れた場面がある。第2Qが始まって間もなく、RB鷺野君の52ヤード独走を足がかりに相手ゴール前に攻め込み、RB飯田君の中央突破で2本目のTDを獲得して13-3とファイターズがリードした直後のことだった。
三輪君のキックしたボールを確保した日大のリターナーが巧みなステップでファイターズのカバーを突破、残るのは三輪君一人という状況で、見事に彼がリターナーをタックルし、相手の独走を食い止めたのである。
「三輪がタックルした!」「去年の今ごろは、あんな場面でタッチしかできなかった三輪が、今年はなんと一発のタックルで相手を仕留めた!」。喜びを爆発させ、踊り上がって喜ぶ元キッキングコーチ。同じ場面を見ている僕は、隣で「キッカーが残ってくれていたので助かった」と胸をなで下ろしていただけだった。
同じ場面を見ても、喜びの質が違う、喜びの深さが違う。ここに現場を預かるコーチと、一所懸命、試合に没入しているように思っていても、所詮はスタンドの観客に過ぎない物書きとの決定的な違いがある。両者の間に横たわる深い谷間を知って、僕はフットボールの奥の深さをあらためて思い知ったのである。
フットボールの奥深さ、といえば、もう一つの場面での小野さんの解説も紹介しておきたい。それは第2Q後半、ファイターズが自陣深くからの攻撃でRB鷺野君が左オープンに出ようとフェイクした後、反転して内側に切れ込み、ダウンを更新した場面である。
鷺野君はその前に2度、左オープンをついてライン際を切れ上がり、最初は44ヤードのTD、2度目は52ヤード独走の離れ業を演じている。それを警戒した相手守備陣が必ず外側への動きに敏感に反応するはず、と見越してフェイクを入れ(あるいは本当に外に出ようと仕掛けて)、その逆をついて内側に切れ込んだ動きに、小野さんは思わず「うまい!鷺野だけにできる動きです。すごく成長していますね」と感心しきりだった。
僕は同じそのプレーを見ながら「鷺野君は敏捷に動ける。当たりも強くなった。少しぐらいのタックルははねのけて走れるようになった。すごい」という程度。その俊敏な動作が相手の動き、警戒網を逆手にとった頭脳的な動きであることがまったく見えていなかったのだ。いつも注目している鷺野君の動きでありながら、現場のコーチとスタンドの物書きとの間にはとうてい渡れないような深い谷間が横たわっていたのである。
こういうことを教えてもらいながら、フットボールを観戦すると、文字通り「目から鱗が落ちる」。その奥の深さを感じる。
そしていま、このコラムを書きながら、これからは見たことは書いてもよい、でも中途半端に知ったかぶりは書くまい、と決心しているのである。
鍛え抜かれた体力と技、練習に裏付けられた深い知恵と洞察、そして感情の爆発。フットボールは、本当に奥が深い。ますますのめり込みそうだ。
彼はファイターズファンなら誰もが知っている「ファイターズの頭脳」であり、対戦相手からグラウンドで戦う選手以上に警戒されてきた人である。つい5カ月前までは、ファイターズのコーチとして、試合のたびにスポッター席でゲームの展開をチェックし、作戦を立て、チームを勝利に導いてきた人でもある。
本業の大学職員としての業務が年々多忙になり、ついに今季から現場を離れ、ディレクターというチームのマネジメントなど後方支援としての役割を担われている。それで、今季からは座りなれたスポッター席ではなく、一般観客席で観戦されている。それをめざとく見つけ、隣に座ってもらって「専属の解説者」を務めてもらった次第である。
その解説がとてつもなく面白かった。現場のコーチならではの、選手の頭の中まで見透かしたようなコメントが次々と飛び出すのである。余りに生々しい内容なので、ここでその詳細を紹介すると差し障りがあるかも知れない。ほんのさわりだけを書いてみよう。
例えば、立ち上がり、ファイターズの攻撃が思うように進まず、自陣35ヤード付近からK三輪君がパントを蹴ろうとした場面。
「三輪がちゃんと蹴れるかなあ」と小野さんがつぶやいた途端に、そのパントが日大守備陣にブロックされ、自陣8ヤードで相手に攻撃権を渡してしまった。部外者にはそのつぶやきが漏れた理由は理解不能だが、さすがは昨年までのキッキングコーチである。三輪君のちょっとした仕草に、不安要素を見つけ出し、それがつぶやきとなり、不幸にも的中してしまったということだろう。
同じ三輪君について、今度はよい方に予測が外れた場面がある。第2Qが始まって間もなく、RB鷺野君の52ヤード独走を足がかりに相手ゴール前に攻め込み、RB飯田君の中央突破で2本目のTDを獲得して13-3とファイターズがリードした直後のことだった。
三輪君のキックしたボールを確保した日大のリターナーが巧みなステップでファイターズのカバーを突破、残るのは三輪君一人という状況で、見事に彼がリターナーをタックルし、相手の独走を食い止めたのである。
「三輪がタックルした!」「去年の今ごろは、あんな場面でタッチしかできなかった三輪が、今年はなんと一発のタックルで相手を仕留めた!」。喜びを爆発させ、踊り上がって喜ぶ元キッキングコーチ。同じ場面を見ている僕は、隣で「キッカーが残ってくれていたので助かった」と胸をなで下ろしていただけだった。
同じ場面を見ても、喜びの質が違う、喜びの深さが違う。ここに現場を預かるコーチと、一所懸命、試合に没入しているように思っていても、所詮はスタンドの観客に過ぎない物書きとの決定的な違いがある。両者の間に横たわる深い谷間を知って、僕はフットボールの奥の深さをあらためて思い知ったのである。
フットボールの奥深さ、といえば、もう一つの場面での小野さんの解説も紹介しておきたい。それは第2Q後半、ファイターズが自陣深くからの攻撃でRB鷺野君が左オープンに出ようとフェイクした後、反転して内側に切れ込み、ダウンを更新した場面である。
鷺野君はその前に2度、左オープンをついてライン際を切れ上がり、最初は44ヤードのTD、2度目は52ヤード独走の離れ業を演じている。それを警戒した相手守備陣が必ず外側への動きに敏感に反応するはず、と見越してフェイクを入れ(あるいは本当に外に出ようと仕掛けて)、その逆をついて内側に切れ込んだ動きに、小野さんは思わず「うまい!鷺野だけにできる動きです。すごく成長していますね」と感心しきりだった。
僕は同じそのプレーを見ながら「鷺野君は敏捷に動ける。当たりも強くなった。少しぐらいのタックルははねのけて走れるようになった。すごい」という程度。その俊敏な動作が相手の動き、警戒網を逆手にとった頭脳的な動きであることがまったく見えていなかったのだ。いつも注目している鷺野君の動きでありながら、現場のコーチとスタンドの物書きとの間にはとうてい渡れないような深い谷間が横たわっていたのである。
こういうことを教えてもらいながら、フットボールを観戦すると、文字通り「目から鱗が落ちる」。その奥の深さを感じる。
そしていま、このコラムを書きながら、これからは見たことは書いてもよい、でも中途半端に知ったかぶりは書くまい、と決心しているのである。
鍛え抜かれた体力と技、練習に裏付けられた深い知恵と洞察、そして感情の爆発。フットボールは、本当に奥が深い。ますますのめり込みそうだ。
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