石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(4)朝鍛夕錬
4月20日、土曜日。2013年シーズンは、慶応大学との戦いから始まった。王子スタジアムは前日からの戻り寒波、おまけに試合途中から小雨の降るあいにくの天候だったが、開幕を待ちかねたファンで、ファイターズ応援席は満員。同じ王子スタジアムで行われる秋のリーグ戦よりも多くの観客が詰めかけた。
この試合が春恒例の新入生歓迎試合として、すべてをファイターズの仕切りで行われたこともあって、スタンドには大学の新入生はもちろん、中学部や啓明学院の新入生も大勢詰めかけている。この2年間、甲子園ボウルで勝ち、ライスボウルでも記憶に残る名勝負を演じたことが影響したのだろう。今年はとりわけ若い女性が多く、いつもの開幕戦とはひと味もふた味も異なって見えた。
これは、かねがね言っていることだが、新しいフットボールを開拓するためには、若い女性に来てもらうのが一番。流行に敏感な女性の人気に火がつけば、男性は勝手について来てくれる。そうなれば、一気に人気が盛り上がり、競技人口が増え、よりレベルの高い試合が展開される。それが評判を呼んで、日本でもフットボールがメジャーになる。この日がそういうストーリーの幕開けかもしれない……そう思うと、主催者でもいないのに、ワクワクしてきた。
ということで、試合の話である。
この評価が難しい。得点は45-9。数字だけを見れば、ファイターズの圧勝である。だが、双方の記録を見ると、様子は一変する。獲得ヤードは335ヤードと302ヤード、ファーストダウンの獲得回数は16回と14回。パス成功回数はともに24回投げて12回。全くの互角である。攻撃時間にいたっては、ファイターズが16分56秒しかないのに、慶応が31分4秒。まるでどちらが勝ったのか分からないような内容である。
原因ははっきりしている。ファイターズがRB鷺野とWR木戸が都合3度に渡って、独走タッチダウン(TD)を獲得主導権を握ってしまったからだ。最初は鷺野が64ヤードを独走。次は木戸が78ヤードのパントリターンTD、第3Qの開始直後に再び鷺野がキックオフリターンTD。こんなスポ根ドラマのような場面が連続したのだから、見ている方は満足、満足である。
だが、それ以外の攻撃が振るわない。単発では、パスもランもいいプレーが出るのだが、一つ一つのプレーに物語を盛り込んだような攻撃がシリーズとして展開出来ないのである。前半は斎藤、後半は前田という3年生QBが急所でパスを投じ、RB三好やRB飯田のランがあって、なんとか3本のTDを獲得したが、鷺野と木戸の個人技で挙げた3本のTDがなかったら、もっともっと競り合ったゲームになっていただろう。
守備も苦しかった。DL池永、LB小野、DB池田、鳥内というライスボウルで活躍した選手たちが出ているときは、相手を完封していたが、メンバーが交代すると、一気につけ込まれる。同じ第3ダウンロングという状況から、同じようなパスを同じレシーバーに何度も通されたし、中央の同じようなランプレーでも陣地を稼がれた。
とにかくランとパスで計300ヤード以上進まれたのだ。そんな試合は、昨シーズンほとんどなかった。それは、慶応のスキルポジションに、能力の高い選手が何人もいたことが一番の原因だろう。だが、試合経験のほとんどないメンバーがどう動けばいいか、迷いに迷った点にも一因はあった。
その意味では、試合経験の少ない下級生に彼我の力の差を体感させる、極めて収穫の多い試合だったともいえる。同時にそれは、まだまだ練習して身につけなければならないことがたくさんある、ということの裏返しでもある。
幸いDB陣を中心に、下級生にはポテンシャルの高い選手が何人もいる。2年生の田中はこの日の先発だったし、交代要員として登場した奥田や伊藤、梅本弟ら、フットボール未経験者の素早い動きも特筆される。同じ未経験者で3年生の森岡は、この日の試合には出なかったが、先日の紅白戦ではピカイチの活躍だった。
この日登場した3年生QB二人とともに、今後、しっかり練習を積めば、十分試合を担えるプレーヤになれるに違いない。
振り返れば、この日、立て続けにビッグプレーを披露した木戸も鷺野も、1年生の時から、同期の誰よりも熱心に練習に取り組んできた選手である。トレーニングセンターでの筋力トレーニング、グラウンドでの当たりモノ。それらを徹底することで、想像を絶する強靱(きょうじん)な体を作り上げてきた。少々、相手のタックルを受けても倒れない体をつくり、ふりほどける動きを身に付けてきたのである。
彼らの努力、精進がお手本になる。たとえいまは不本意でも、その失敗を糧にして練習に励めば道は開けるのだ。
キーワードは鍛錬である。宮本武蔵の言う「朝鍛夕錬」。その大切さに気付き、トレーニングに取り組むことが出来たなら、この日の苦しみもやがては思い出話になるに違いない。頑張ろう。
この試合が春恒例の新入生歓迎試合として、すべてをファイターズの仕切りで行われたこともあって、スタンドには大学の新入生はもちろん、中学部や啓明学院の新入生も大勢詰めかけている。この2年間、甲子園ボウルで勝ち、ライスボウルでも記憶に残る名勝負を演じたことが影響したのだろう。今年はとりわけ若い女性が多く、いつもの開幕戦とはひと味もふた味も異なって見えた。
これは、かねがね言っていることだが、新しいフットボールを開拓するためには、若い女性に来てもらうのが一番。流行に敏感な女性の人気に火がつけば、男性は勝手について来てくれる。そうなれば、一気に人気が盛り上がり、競技人口が増え、よりレベルの高い試合が展開される。それが評判を呼んで、日本でもフットボールがメジャーになる。この日がそういうストーリーの幕開けかもしれない……そう思うと、主催者でもいないのに、ワクワクしてきた。
ということで、試合の話である。
この評価が難しい。得点は45-9。数字だけを見れば、ファイターズの圧勝である。だが、双方の記録を見ると、様子は一変する。獲得ヤードは335ヤードと302ヤード、ファーストダウンの獲得回数は16回と14回。パス成功回数はともに24回投げて12回。全くの互角である。攻撃時間にいたっては、ファイターズが16分56秒しかないのに、慶応が31分4秒。まるでどちらが勝ったのか分からないような内容である。
原因ははっきりしている。ファイターズがRB鷺野とWR木戸が都合3度に渡って、独走タッチダウン(TD)を獲得主導権を握ってしまったからだ。最初は鷺野が64ヤードを独走。次は木戸が78ヤードのパントリターンTD、第3Qの開始直後に再び鷺野がキックオフリターンTD。こんなスポ根ドラマのような場面が連続したのだから、見ている方は満足、満足である。
だが、それ以外の攻撃が振るわない。単発では、パスもランもいいプレーが出るのだが、一つ一つのプレーに物語を盛り込んだような攻撃がシリーズとして展開出来ないのである。前半は斎藤、後半は前田という3年生QBが急所でパスを投じ、RB三好やRB飯田のランがあって、なんとか3本のTDを獲得したが、鷺野と木戸の個人技で挙げた3本のTDがなかったら、もっともっと競り合ったゲームになっていただろう。
守備も苦しかった。DL池永、LB小野、DB池田、鳥内というライスボウルで活躍した選手たちが出ているときは、相手を完封していたが、メンバーが交代すると、一気につけ込まれる。同じ第3ダウンロングという状況から、同じようなパスを同じレシーバーに何度も通されたし、中央の同じようなランプレーでも陣地を稼がれた。
とにかくランとパスで計300ヤード以上進まれたのだ。そんな試合は、昨シーズンほとんどなかった。それは、慶応のスキルポジションに、能力の高い選手が何人もいたことが一番の原因だろう。だが、試合経験のほとんどないメンバーがどう動けばいいか、迷いに迷った点にも一因はあった。
その意味では、試合経験の少ない下級生に彼我の力の差を体感させる、極めて収穫の多い試合だったともいえる。同時にそれは、まだまだ練習して身につけなければならないことがたくさんある、ということの裏返しでもある。
幸いDB陣を中心に、下級生にはポテンシャルの高い選手が何人もいる。2年生の田中はこの日の先発だったし、交代要員として登場した奥田や伊藤、梅本弟ら、フットボール未経験者の素早い動きも特筆される。同じ未経験者で3年生の森岡は、この日の試合には出なかったが、先日の紅白戦ではピカイチの活躍だった。
この日登場した3年生QB二人とともに、今後、しっかり練習を積めば、十分試合を担えるプレーヤになれるに違いない。
振り返れば、この日、立て続けにビッグプレーを披露した木戸も鷺野も、1年生の時から、同期の誰よりも熱心に練習に取り組んできた選手である。トレーニングセンターでの筋力トレーニング、グラウンドでの当たりモノ。それらを徹底することで、想像を絶する強靱(きょうじん)な体を作り上げてきた。少々、相手のタックルを受けても倒れない体をつくり、ふりほどける動きを身に付けてきたのである。
彼らの努力、精進がお手本になる。たとえいまは不本意でも、その失敗を糧にして練習に励めば道は開けるのだ。
キーワードは鍛錬である。宮本武蔵の言う「朝鍛夕錬」。その大切さに気付き、トレーニングに取り組むことが出来たなら、この日の苦しみもやがては思い出話になるに違いない。頑張ろう。
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