石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2020/12

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(13)人が育ち、人を育てる

投稿日時:2020/12/19(土) 21:27

 ファイターズのホームページに、甲子園ボウル表彰式の後、多彩なトロフィーを手に、壇上に表彰台に勢揃いした選手たちの写真がアップされている。主将の鶴留君を真ん中にして、向かって左から最優秀選手賞を授与されたRB三宅君、副将の海崎、繁治君、主将の右手には副将高木君、LBの川崎君、そして年間最優秀賞チャック・ミルズ杯を受賞した奥野君が並んでいる。
 これが2020年、コロナ禍の中で苦しみながら、学生界の頂点にチームを率いてきた主要な面々だと思って眺めれば、特別の感慨がある。試合で華々しい活躍をしたメンバーもいれば、普段からチーム運営に気を配り、それぞれの役割を果たしてきたメンバーもいる。けがなどで練習に加われない悩みを抱えつつ、それでもチームに貢献したいと僕に相談してきた選手もいる。
 その中で、今回注目したいのは背番号57、LBの川崎君である。昨年までは、2年生の頃から華々しい活躍をしてきた同じパートの繁治君や海崎君の陰に隠れたような存在だったが、今季は違う。彼ら2人がけがなどで練習が十分にできないときに、率先してパートを支え、自らを鍛え、後輩たちを鼓舞してきた。その努力が秋のシーズンに開花し、今季はすべて先発で出場。甲子園ボウルでも守備の要として、日大の強力なオフェンス陣に対抗してきた。
 甲子園のアルプス席でチームのFM放送を担当されていた小野ディレクターが放送の中で思わず「今のは川崎君ですか。成長しましたね。こういう風に4年生になってからでも急激に成長していく選手がいるというのが、ファイターズというチームですね」と、思わず名前を挙げて感嘆される場面があった。僕も全く同感だった。
 振り返れば、ファイターズには毎年、4年生になってから急激に成長した姿を見せてくれる選手がいる。昨年のチームでいえばDLの板敷君。シーズン後半からQBサックを連発。天下分け目の立命戦や甲子園ボウルの早大戦でも華々しい活躍をしてくれた。下級生の頃はけがに悩まされ、練習もおぼつかなかったWR阿部君も、3年生になって力を発揮し、4年生になってからは華々しい活躍を見せてくれると同時に、抜群の指導力を発揮した。今季大活躍した鈴木君や糸川君らもその薫陶を受けて成長したメンバーである。
 その前のシーズンではDBの荒川君やリターナーの尾崎君。それぞれの闘志を前面に出してプレー姿が、今も目に浮かんでくる。
 こうして、選手の名前を思い出し、振り返っていけば、ファイターズにはそれぞれの学年ごとに、最後のシーズンに思いっきり大きな花を咲かせたメンバーが必ず存在していることが分かる。チームに人を育て、人が育つ土壌があるからだろう。
 もちろん、下級生の頃から頭角を現し、卒業するまでチームを支え続けてくれる選手は多い。彼らは卓越したプレーでチームに貢献するだけでなく、自ら獲得した「技術」や「体験」を同期や下級生に惜しみなく伝授してくれる。仲間に教えることで、チーム内に競争相手が生まれては困る、というようなケチな考えを持った選手はいない。
 卒業後も、グラウンドに足を運び、アシスタントコーチとして後輩を見守ってくれる選手も少なくない。今季も、会社からの帰途、スーツに革靴という姿で上ヶ原のグラウンドを訪れ、運動靴に履き替えて後輩たちを指導している卒業生の姿を何回も見た。
 一方、コーチの多くは、大学の幹部職員。コロナ禍の中で、大学を運営するのに心血を注ぎながら、チームの指導にも一切手抜きはない。「コロナの流行以来、一切アルコールは口にしていない。もし、何かあれば対応しなければならないから、気持ちは24時間体制で働いている」というコーチもいるし、就業時間が終わった後、いったん、業務の手を止めてグラウンドに足を運び、チームの練習が終わった後、再び職場に戻って深夜まで仕事の続きに取り組む幹部職員もいる。
 先日、野暮用があって学院の財務課を訪れた時、親しくしている課長から「部長の熱心さには頭が下がります。僕らには、とてもできません」と聞いた。彼は水泳部のコーチをしているが、とても上司の真似はできないと言うのである。そういうコーチたちがプロのコーチである大村監督や香山コーチを助け、部員たちを公私にわたって指導されているのである。
 さらに小野ディレクターをはじめディレクター補佐の役割も大きい。ファイターズにはいま、宮本、石割、野原という3人のディレクター補佐がいて、選手たちの活動を支えている。それぞれが現役部員への指導や対外的な折衝、新たな人材のリクルートなどの「兵站部分」を担い、チームの根底を支えている。
 加えて、ファイターズOB会の支援も大きい。OB会費の納入率はなんと9割近い。「金は出すけど、口は出さない」という信念でチームを全面的に支援して下さる。今季、世間でマスク不足が騒動になっているときに、つてをたどって「ファイターズマスク」を特注し、それをまとめてチームに寄贈されたことがあった。その場面に居合わせた僕は「ここまで細やかな気配りができる組織は聞いたことも、見たこともない」と驚いたことを思い出す(その時、OB会長からいただいたブルーのマスクは僕の宝物である)。
 こうしたチームのたたずまいが、実は人を育て、人が育つ組織を形成しているのではないか。だから毎年、シーズンが終盤になってからも新たなチームの担い手が輩出する。その実績が後輩たちの励みとなり、それが新たな活力の源になっていく。関西大会を制し、甲子園ボウルで栄冠を勝ち得たのも、そういう裏付けがあってのことである。勝つべくして勝つチームといってもいい。

(12)勝敗を分けた総合力

投稿日時:2020/12/15(火) 21:01

 コロナ禍で、開催さえ懸念された甲子園ボウル。日本大学と関西学院大学の決戦は、両者が存分に持ち味を発揮し、期待に違わぬ激戦になった。
 第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7-0。
 観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
 ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14-7と逆転された。
 やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
 前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21-14とリードして折り返す。
 後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28-14。
 ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
 やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
 迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
 終わってみれば、42-24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
 そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
 そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
 関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
 試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
 試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。
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