石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2022/9

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(9)イヤーブックの3人

投稿日時:2022/09/12(月) 07:54

 毎年のことながら、ファイターズのイヤーブックは読み応えがある。今年も占部雄軌主将の「勝つべくして勝つチームを体現する」という決意表明から始まり、ポジションごとにリーダーたちがそれぞれのポジションを代表して覚悟のほどを言葉にしている。
 読み応えのあるのがKG野球部OBで、オリックス・バファローズのコーチである田口壮氏とファイターズの大村和輝監督、そして占部主将によるオンライン対談である。「目指すべきリーダー像」をテーマに、4段組5ページに渡って語り合っている。それぞれが現場を預かる人たちであり「勝つべくして勝つ」チームをつくるために努力されているだけに、話が具体的で興味深い。試合会場でも販売しているので、興味のある方はどうぞ、ご購入を。
 そのイヤーブックで、僕が特に注目したのは「ファイターズをめざす君へ」というテーマで、いま注目される3人の選手が語っている内容である。登場するのは4年生WRの林篤志(阪南大学高校・高校時は野球部)、3年生DB高橋情(大阪仰星高校・同サッカー部)、同じくWR衣笠吉彦(関学高等部・同サッカー部)の3君である。
 それぞれ大学入学を機会に、それまで続けてきた競技を離れてアメフット部に入部。全くの初心者としてこの競技に取り組んでいる。「下級生時には、練習を終えて帰ってから毎日、戦術ノートを書き写し、復唱しながら覚えていました。現在も新しいプレーは必ずノートに繰り返し書いて覚えるようにしている」(林君)、「経験者よりもプラスで練習するなど、今、どの立場で、何をしなければならないのかを理解し、それを実行することで成長を肌で感じる」(高橋君)、「1日に5食食べることを意識している。後世に名を残す選手になることを目標にしている」(衣笠君)など、それぞれの目標を胸に刻み、練習に励んでいる。
 その努力が報われ、今ではそれぞれのポジションにとって欠かせぬ選手の地位を確保しつつある。高橋君は昨季から先発メンバーに名を連ね、衣笠君も50ヤード走4秒4というチーム1の俊足を生かして今季は初戦からスタメンで出場、1年生QBの投げるパスをしっかり確保していた。
 林君も多士済々のレシーバー陣の中で徐々に頭角を現し、今季はキッキングゲームでもリターナーを務めている。多分、公式戦での先発は初めてだったと思うが、初戦では安定したキャッチを見せていた。チームがスタンドで開設しているFMラジオで解説を担当されている小野宏デレクターが試合中、2度に渡って「今のはいいプレーです。安定していますね」と賛辞を贈られているのを隣で聞きながら「努力は報われる」と、わがことのようにうれしかった。
 この3人だけではない。ファイターズには、高校時代までは他の競技に熱中し、大学に入ってからアメフットの転じて活躍している選手が何人もいる。現役の部員だけをみても、主将の占部君は高等部時代はラグビー部の主将だったし、初戦に先発したDL亀井君も報徳学園のバスケットボール部出身だ。試合の後半、DEとして出場し、QBサックを決めた太田君も青森県の弘前学院聖愛高では野球をしていた選手である。
 今春、入学したばかりで、出場経験がないだけでなく、まだルールも覚えていないようなメンバーの中にも、コーチ陣から「あの子は将来、大いに期待できる」と名指しで保証されたメンバーもいる。
 そういうメンバーが高い目標を持って練習に励み、自ら鍛えてチームを背負っていく。その見本のような3人にスポットを当てたイヤーブックの「ファイターズをめざす君へ」。彼らだけではなく、後に続くメンバーが彼らを目標に練習に励み、自らを鍛えてチームをリードしていく。そういう循環が生まれるのも、ファイターズというチームの奥の深さであり、ファイターズという組織が目指している課外活動の魅力であろう。

(8)ベンチの意図が貫かれた試合

投稿日時:2022/09/06(火) 12:44

 2022年度ファイターズの初戦、甲南大学との戦いは、ベンチの意図が最初から最後まで貫かれた試合だった。
 どういうことか。具体的に見ていこう。
 一つは新しく戦力になる可能性のある選手を大胆に起用し、存分に活躍できる場面を与え続けたこと。ゲームを指揮するQBに、大学生としては一度も試合経験のない1年生の星野(足立学園)を初めて起用し、最後までゲームの指揮を執らせ続けたことがそれを象徴している。
 もう一つはDBの先発メンバーに1年生の東田隆太郎と磯田啓太郎(ともに高等部)を起用したほか、交代メンバーとして1年生のWR五十嵐太郎(高等部)、川崎燿太?(鎌倉学園)、Kの大西悠太(高等部)らを次々に起用し、それぞれに活躍の場を与えたこと。もちろん、2年生でこれまで実戦で活躍した経験がほとんどないメンバーも数多く起用し、活躍する場を与えた。先発メンバーとして起用されただけでもOLの近藤剣之介(佼成学園)、金川理人、巽章太郎、森永大為(いずれも高等部)、DLでは川村匠史(清風)などの名前が挙がる。昨年から活躍しているDBの永井(関西大倉)は、守備の最後列から何度も相手QBに襲いかかっていた。
 驚いたのは、そうしたメンバーが全員、それぞれの持ち味を発揮し、スタンドから応援している私たちに将来の可能性を見せつけてくれたことである。
 とりわけすごかったのが冒頭に紹介したQBの星野。173cm、75kgと小柄だが、その分、動きは素早い。パスもしっかり投げられるし、コントロールも上々だ。何よりも状況判断が素晴らしい。試合開始の第1プレーで、いきなりゴールライン間際まで40ヤードのパスをWR鈴木にヒットさせる度胸と技術。これが大学生としての第一プレ一だというのだから、スポーツ漫画の書き手も真っ青だろう。そのプレーを当然のように決める技術と勝負度胸。
 この日のスタッツを見ると、星野はパスで260ヤードを獲得。自身のランプレーでも8回63ヤードを稼いでいる。もちろんチームでトップの記録である。
 試合終了後、大村監督に「今日は、最初から最後まで星野君で行くつもりだったんですか。その意図は」と聞くと、「昨年は2番手のQBを育てていなかったから、鎌田がけがをしたときに苦労した。今年はそんなことがないように、最初から星野に経験を積ませるつもりで試合を任せた。よくやってくれた」との答えが返ってきた。
 なるほど、そういうことかと納得した。他のポジションでも、成長途上にある下級生やけがから復帰した上級生を次々と起用した意図もまた同様だろう。万一のけがに備えて選手の層を厚くする。それがチーム内での競争を激化させ、結果として層の厚いチームが出来上がる。
 そのような意図を持って、シーズンの初戦から大学生として一度も戦いの場に立ったことのない選手を起用し、その選手にゲームを委ねる。その意図をくみ取った試合経験豊富な上級生らが下級生をフォローし、伸び伸びとした環境で試合経験を積ませる。
 その好循環。そう思って試合中に取ったメモを読み返すと、試合開始直後の第一プレーで40ヤードのパスを当然のように確保したWR鈴木君も、第2Qの終盤、ライン際へのミドルパスを確保すると、そのまま相手守備陣を振り切ってゴールラインまで駆け込み、ダメ押しともいえるTDを挙げたWR糸川君も、それぞれのプレーで新人QBをもり立てていたことがよく分かる。
 とりわけ鈴木君は、普段の練習時、星野君がウオーミングアップをする際には、必ずと言ってよいほど相手役を務め、双方の呼吸を会わせるように務めている。
 そういう練習時からの積み重ねが、シーズンの初戦、大学生として初めての試合に先発した1年生QBを落ち着かせ、その力を存分に発揮する場を与えたのだろう。「練習は嘘をつかない」と言う言葉をそれぞれのプレーで実証した試合に、たった4年間しかない学生スポーツの神髄を見たような気分になって帰途についた。

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