石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2018/11

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(28)檄文

投稿日時:2018/11/28(水) 01:06

 「2018FIGHTERSの挑戦に参戦お待ちしております」という檄文がファイターズのディレクター補佐、石割淳さんから届いた。
 12月2日に迎える立命館大学との今季最終決戦を目前に、ファイターズOB会のメンバーらに宛てた、いわば決起文である。
 この檄文を読む直前、僕もまた幕末に活躍した長州藩士であり、奇兵隊開闢(かいびゃく)総督でもある高杉晋作が元治元年(1864年)12月、拠点にしている長州・功山寺で開かれた奇兵隊幹部会議で長州藩の正規軍相手に決起を呼び掛けた時の言葉を思い浮かべていた。
 「1里行けば1里の忠、2里行けば2里の忠。たとえ反逆者と呼ばれようと、それが僕の忠節じゃ」。「真(まこと)があるなら今月今宵。明けて正月たれも来る」。
 先週の関西リーグ最終戦は、強敵・立命を相手に勝利を手にした。だからといって、その2週間後の戦いとなる西日本王座決定戦でも勝てるという保証はどこにもない。「絶対にやり返してやる」と牙をむき、全力で立ち向かってくる相手に一歩も引かず、持てる力を100%発揮して初めて、互角の戦いになると見るのが順当だろう。
 実際、リーグ戦の勝者と敗者が逆の立場になった昨年は、リーグ戦で敗れたファイターズが決死の覚悟で戦い、なんとか代表決定戦で勝利することができた。1昨年は、リーグ戦で勝利したファイターズが代表決定戦でも前半、大きくリードしたが、後半は一気に追い上げられ、最後まで勝敗の行方が分からない激戦となった。
 そういうライバルとの戦いである。チームが一丸となり、全員が気力、体力、技術のすべてを発揮して戦わなければ、展望は開けない。どんなに苦しい局面でも、全員が「1歩前に」という気持ちをぶつけなければ戦争にならないのだ。文字通り「1歩進めば1歩の忠、2歩進めば2歩の忠」である。
 とりわけ大事なことがある。攻撃、守備ともに、どんなに苦しい時でも耐え忍び、局面を打開する道を見つけることだ。「真があるなら今月今宵。明けて正月、誰も来る」という言葉がその機微を表現している。
 これを試合に置き換えて解釈すると「苦しい時に突破口を開いてこそ意味がある。点差が開き、試合の行方が見えてからなら、誰でも活躍できる」という意味であろう。
 つまり、先日の立命戦でいえば、先制の独走TDを決めたRB山口の動きであり、彼のために進路を開いたOLの諸君、ブロッカーの役割を果たしたレシーバー陣のプレーがそれに相当する。あるいは絶妙のタイミングで正確なパスをレシーバー陣に投じたQB奥野、そのパスを見事にキャッチし、そのままTDにつなげたWR阿部と小田。奥野に代わって随時出場し、相手守備陣を幻惑したQB西野と光藤。
 相手攻撃を素早い動きと激しいタックルで食い止め続けたディフェンス陣の動きもそれに該当するし、終始、的確なパントを蹴って陣地を回復し続けたキッキングチームの活躍も忘れてはならない。
 彼らはすべて「真があるなら今月今宵」と参集したメンバーである。
 その気持ちを12月2日に控えた決戦で、もう一段高められるかどうか。
 そこに勝敗の分岐点がある。
 先週末は、和歌山知事選などの関係で上ヶ原まで練習を見に行くことはできなかった。だからいま、チームがどんな状態にあるかは分からないし、報告もできない。けれども、遠く離れていても激励の言葉は送れる。
 そう思って僕が思いついたのが高杉晋作の「真があるなら今月今宵」であり「1里歩めば1里の忠、2里歩めば2里の忠」という言葉である。
 1歩でもいい、2歩でもよい。2018年度ファイターズのすべてをかけて進んでもらいたい。「真があるなら今月今宵」という覚悟で決戦に臨んでこそ、道は開ける。

(27)第一関門突破

投稿日時:2018/11/20(火) 09:07

 関西リーグ最終戦、立命館との試合は、何とも評価が難しかった。現場で応援している時も、試合が終わってからも、喜んでいいのか、喜んでいる場合ではないのか、僕には判断がつきかねた。
 最終スコアは31-7。得点と試合経過だけを見れば、前半で先行し、後半の勝負どころで攻守がかみ合って、余裕で逃げ切ったと言っても間違いはないだろう。
 でも、現場で一つ一つのプレーを見ている限り、とてもそんな余裕はなかった。
 前半、先攻のファイターズはRB山口が魂の走りで52ヤードの独走TD。さらに第2Q半ばにはQB奥野がWR阿部に19ヤードのTDパスを決めて14-0。
 互いにディフェンスが踏ん張り、攻撃陣が非凡なプレーを見せつける中で、ファイターズがなんとか先手を取ったが、攻守ともに傑出したプレーヤーがいる相手も強い。RBにもWRにも一発タッチダウンの危険性を漂わせた選手が何人もいる。一つ流れが変われば、2本や3本のTDは立て続けに奪われそうな予感さえする。
 悪い予感はよく当たる。第2Qの終了間際、相手ゴール前7ヤードに迫り、ようやくリードと呼べるほどの差がつくかと思ったが、案の定、そこを決めきれない。短いフィールドゴールがゴールポストに当たってしまい、決定的な3点を取り損ねてしまう。やばい。勝利の女神が逃げ去ってしまうのではないかという、嫌な予感さえ浮かんだ。
 案の定、後半は立命が盛り返す。立命陣13ヤードから始まった第3Q最初のシリーズ。相手はテンポのよいラン攻撃で立て続けに3度、ダウンを更新。存分にランに注意を引きつけた上で、関学陣35ヤード付近からゴールをめがけて長いパス。ファイターズDB陣と競り合った相手のエースがそれを横取りするような形でキャッチしてTD。たちまち14-7と追い上げられる。
 相手は勢いに乗っている。前半は得点差こそついたが、見た目には互角の攻防だった。それが後半、相手は最初のシリーズでTDをもぎ取り、攻撃のリズムをつかんだ。やっかいな相手が調子づくとヤバイ。ファイターズがどう立ち向かうか。何とか、この流れを断ち切ってくれ。祈るような気持ちで応援する。
 そんな状況を切り開いたのはファイターズの誇るQBとレシーバー陣。第3Q終了間際に奥野からのミドルパスがWR松井と阿部にヒット。一気に相手ゴール前に迫る。その好機に安藤がFGを決め17-7と差を開く。
 この3点が守備陣を落ち着かせ、勇気付ける。それまでは強力なランと短いパスをかみ合わせ、テンポ良く攻め込んでくる相手に、受けて立っていた面々が俄然、攻撃的になってくる。LBの2年生コンビ、海崎と繁治が競うように相手に襲いかかり、DBが低くて強烈なタックルを決める。三笠と藤本を中心にしたDL陣も素早い動きでQBサックを連発する。
 こうなると、攻撃陣にも余裕が出る。相手ゴール前45ヤードから始まった次の攻撃シリーズ。その第1プレーでQB奥野からWR小田へパスがヒット。それを確保した小田が一気に相手ゴールまで突っ走って45ヤードのTD。さすがは元高校球児。夏の甲子園で余裕の盗塁を決めた快足と、大学4年間で習得した捕球センスは、レベルが違う。
 得点は24-7。ここで立命サイドは緊張の糸が切れたのか、それともファイターズ守備陣が自信を持ったのか。相手が起死回生を狙って投じたパスをDB畑中と横澤が立て続けに奪い取って攻撃の芽を摘み取っていく。それまで試合に出ていなかった交代メンバーのDL斎藤、春口らも低い姿勢から突き刺さるようなタックルでQBに仕事をさせない。
 最後はRB渡邊が19ヤードを走り切ってTD。終わって見れば31-7と点差は開いた。
 試合中、1プレーごとにノートに記録したメモを手元に置き、このように試合の流れを再現してみたが、ここまでに名前を挙げたメンバーの大半が4年生。奥野と併用されて相手守備陣を混乱させたQB西野と光藤も4年生だ。試合を通じて安定したパントを蹴り続けた安藤に、正確なスナップを出し続けたスナッパーの鈴木も含めて4年生が腹をくくって戦ったことがよく分かる。試合後、報道陣に囲まれた鳥内監督も「4年生は今日ぐらい頑張らな意味がない」と独特の表現で称賛していた通りである。
 けれども監督は続けて「今度はもっと大変な試合になるんとちゃいますか」と釘を刺していた。立命は強い、この日の得点差を地力の違いと勘違いしていたら、大変な目に会う、という戒めだろう。
 実際、今回はファイターズがいち早く試合の流れをつかんだが、次も同じようになる保証はどこにもない。
 逆に相手は、昨年のファイターズと同じ立場であり、必死に立ち向かってくるはずだ。途中、名城大学との試合に勝ち抜いてこそ、という条件付きだが、2週間後には、昨年と全く立場を変えて双方が戦うことになる。
 その試合にどう臨むか。残された時間は2週間足らず。その短い時間に、どこまで集中して練習するのか。未解決な課題をどのように解消していくのか。今回の決戦で、個人としてもチームとしても、相手の力量にそれなりの手応えを得たはずである。それにどのように対応し、どう突破しようというのか。
 12月2日。決戦の日は目の前だ。だからこそ、向こう10日余り。集中して練習に取り組み、死にものぐるいで勝負しようではないか。
 この試合で覚醒した4年生、それに負けじと奮闘した下級生諸君。君たちは第一関門を突破した。関西リーグの優勝者である。その自信と誇りを胸に刻み、チームの総力を挙げて次なる戦いに挑んでもらいたい。これからが本番だ。
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