石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2015/9

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(25)評価は難しい

投稿日時:2015/09/30(水) 21:23

 関西リーグ第3節、龍谷大との試合は、極めて評価が難しい。評価の基準をどこに置くかによって180度異なる結論が出る気がする。コップの水が半分になっているのを見て「まだ半分ある」と思う人なら満足できる結果だったかも知れないが、「もう半分しかない」と思う人にとっては、課題山積という結論が出てくるだろう。
 たいていの場合、僕は「まだ半分ある」と思う人間であり、このコラムでもよい方の側面に光を当てて書くことを心掛けている。人は褒められた方がモチベーションが上がると信じているからだ。僕自身、人からあれこれと言われると、それだけで「うるさい!ほっといてくれ」といいたくなるし、逆に、少しでも褒められると、それだけで有頂天になり「よっしゃ、今日も頑張っていこう!」と元気が出てくる。70の爺さんにしてこんな調子だから、20歳前後、成長途上の青年たちにとっては、外野からあれこれいわれても、うっとうしいだけだろう。
 それは承知の上で、今回は普段とは調子を変え、少々意地悪な目で試合を振り返ってみたい。
 まず最初に、最終スコアは49-0となったが、本当にそれだけの力量差はあったのか。
 僕はなかったと見る。それは、双方がベストのメンバーでスタートした最初の攻撃シリーズが証明している。
 先攻のファイターズは、相手キッカーが微妙な位置に蹴り込んだキックをWR木下が判断よく確保し、自陣36ヤードからの攻撃。しかし、第1ダウンはQB伊豆から木下へのパスがオーバースローとなって失敗。第2ダウンは野々垣のランで7ヤードを進めたが第3ダウンのパスが相手DBの攻守にはばまれてまた失敗。せっかくの好位置からの攻撃を簡単にパントに追い込まれた。
 これに対して、龍大の攻撃は自陣ゴール前14ヤードから。難しい位置からの攻撃だったが、相手はパスとラン、そしてQBのキープやドロープレーをキーに、テンポよく攻めてくる。あれよあれよという間に3度のダウンを更新し、わずか8プレーで関学ゴール前30ヤードまで攻め込んできた。
 ここでLB陣とDB陣が奮起し、何とかパントに追い込んだ。しかし、ここでスピードのある強力なRB2人を有する相手がランプレーに特化して攻め込んでいたらどうだったか。パスだけでなく走る能力も高いQBを加えた3人で右や左に揺さぶられたら危なかったのではないか。
 このピンチをしのいだファイターズの攻撃は自陣28ヤードから。ここは慎重にRB高松と野々垣のランを中心に陣地を稼ぎ、ようやく最初のダウンを更新。次の攻撃で伊豆からWR亀山へ34ヤードのパスが通って相手ゴール前28ヤード。さらにTE山本、WR水野への短いパスを通してゴール前12ヤード。そこから高松が2度のラッシュでようやくTD。西岡のキックも決まって7-0。
 主導権を握ると、いまのファイターズは地力がある。次の龍大の攻撃を守備陣ががっちり受け止め、簡単に攻守交代。相手パントが悪く、相手陣48ヤードからファイターズの攻撃が始まる。ここは確実に計算できる山口、野々垣のランでぐいぐいと陣地を進めてゴール前3ヤード。相手が中央のランプレーを警戒している逆をついて伊豆がWR前田泰一への3ヤードのパスを決めてTD。14-0となって、攻守ともに落ち着きを取り戻した。
 その後、ファイターズは第2Q9分に野々垣のラン、第3Qに入っても高松、山口が確実なランプレーでTDを重ね、第4Qの半ばからは控えのQB百田を投入する。攻守のメンバーも次々に2枚目、3枚目の顔ぶれに交代している。その中には、DB横沢、LB稲付など期待の1年生の顔も見える。
 期待の百田は、自陣ゴール前から3年生WR芝山に95ヤードのTDパスを通すなど、8回の試投で7回のパスを成功させた。長いパスを受けた芝山や前田耕作、渡辺らとともに、大いに自信をつけたに違いない。
 しかし、これはあくまでファイターズが主導権を握ってからの得点経過であり、論評である。この試合全体についての評価を、その裏側の事情(試合後、龍大のヘッドコーチ村田さんから聞いた話なども参考になる。村田さんはその昔、ファイニーズのヘッドコーチをしておられた頃から、親しくしている友人である)まで含めて、辛口の量りにかけたら、どんな答えが出るか。
 答えは平均点以下である。理由を箇条書きにしてみよう。
 1、相手には、QBをはじめRBやWRなどスキルポジションに強力な選手がいたが、ラインはそれほど強くはなかった。
 2、相手は元々、選手層が薄いのにけが人が続出し、途中からはファイターズに対抗出来るメンバーが組めなくなっていた。特にラインには1、2年生が多く、ファイターズの2枚目とは明らかに力量差があった。そこで挙げた得点を、自分たちの能力で勝ち取ったと思うと大きな勘違いになるのではないか。
 3、相手QBの能力は高かったが、点差が開いてからは淡泊なプレーになっていた。
 4、一方、ファイターズはパスが思うように通らなかった。QBのコントロールが悪かったのか、レシーバーのボールへの執着心が薄かったのか。僕には判断する材料はないが、少なくとも昨年の木戸君や横山君、樋之本君なら確実にキャッチしていたようなボールを捕球できなかったのは事実である。
 5、なるほど、この日の百田君のパス成功率は高かった。それは称賛に値する。しかし、久方ぶりに試合に復帰した彼にいうのは酷かもしれないが、最初の短いパスを失敗したことが気になる。よーし、百田君頑張れ、という仲間の信頼を、この一投でくじいたからだ。
 これは先発した伊豆君にも、あるいはどのチームQBにも言えることだが、チームの信頼があってこそ、QBはそのミッションが果たせる。例え勝負の行方が見えていたとしても、短い1本のパスさえおろそかにしてはならないのである。
 勝負がかかる緊張した場面で、決めるべきパスが決まらないとどうなるか。昨年のライスボウルで、ここぞというパスが1本通らなかったばかりに逆転に追い込まれた例を挙げるまでもないだろう。
 社会人に勝って日本1になるというのなら、最も厳しい状況を想定して試合に臨まなければならない。相手はオールジャパン級のメンバーであり、フットボールの本場から来た強力な選手たちである。ランも通らなければパスもはじかれるという場面が連続するということは、容易に想像出来る。逆に、どんなに気合いを入れても相手のランが止まらないという苦い経験もしている。それはこの4年間、先輩たちが身にしみて味わったことである。
 龍大との試合、そして先日の京都大との試合。双方がベストメンバーを組んできたときの苦しい立ち上がりを見ただけでも、まだまだ「社会人に勝って日本1」というようなことを口にするのはおこがましいのではないか。攻守のラインも、レシーバーも、デフェンスバックも、まだまだ体を鍛え、技術を習得していく必要がある。1本目のメンバーが次々にけがをし、控えのメンバーで戦ったチームに勝ったからといって、それを喜んでいるようでは、話にならない。

付記
 お知らせが一つあります。30日発売の「タッチダウン11月号」に僕が書いた原稿が掲載されます。見出しでいうと「KGリベラルと大阪商人の知恵」。堂々4ページです。興味のある方は本屋さんに走って下さい。多分、アメフットの専門記者なら誰も書かないし、思いもつかない話だと自負しています。

(24)メンタルコーチ

投稿日時:2015/09/24(木) 22:48

 ラグビーのワールドカップイングランド大会で、日本代表が南アフリカに勝ち、日本中が盛り上がっている。僕の働いている和歌山県田辺市の新聞社でも、これまで高校ラグビーの県予選ぐらいしか見たことのない記者がにわかに専門家のような口ぶりで、あれこれと解説してくれるくらいだから、東京や大阪など大都市圏では、大変な騒動になっているのは想像に難くない。
 そんな中で一つ、興味深い記事を見つけた。共同通信が配信した「南ア戦勝利、陰の立て役者」という記事である。スポーツ心理学者であり、代表のメンタルコーチを務めている兵庫県立大学准教授、荒木香織さん(42)を取り上げ、彼女が日本代表のメンタル面をどのようにサポートしたかを報じている。
 例えば、正確なキックで勝利に貢献したFB五郎丸選手がプレースキックを蹴る前の動作である。拝むように両手を合わせ、前屈みになってからキックを蹴る「ルーティン(決めごと)を一から一緒に作り上げた」と書き、それは「どんな状況でも蹴ることに集中できる」ようにするための決めごとだったと表現している。
 五郎丸選手だけでなく、重圧でナーバスになっていく選手に「W杯や五輪のような非日常では、緊張して当たり前」と説き、ニュージーランド代表などの研究事例を挙げて意識的な呼吸法など具体的な対処法を授けたそうだ。同じ話は、毎日新聞も社会面で扱っていたから、目にされたファンも多いだろう。大きな大会になればなるほど、目の前のプレーに集中することが難しいことを考えると、選手を精神的に支えるコーチの存在が脚光を浴びるのはよく理解出来る。
 しかし、読後、一呼吸置いてみると、実はこうしたルーティンやメンタル面のサポートは、ファイターズではとっくに標準になっているのではないか、という気がしてきた。
 例えば、TDの後のキックやフィールドゴールを狙うとき、ファイターズのキッカーはみな、独特のルーティンを持っている。ボールがスナップされる位置からホールダーの位置までを自分の歩幅で正確に計り、蹴る場所が決まったらゴールポストに向けてまっすぐ片腕を伸ばし、ボールの軌道を頭に描く。大西志宣君、堀本大輔君、三輪隼也君、そして千葉海人君、西岡慎太朗君と続くファイターズのキッカーは、すべて一連のその動作を判で押したように繰り返す。まるで神様、仏様に祈るような動作だが、そうした約束事を何一つ違えずに繰り返すことで、目の前のキックに集中する環境をつくっているのである。
 ことはキッカーに限らない。チーム全体でいえば、前島先生による試合前のお祈りは、選手の精神性を高めるための重要な儀式だし、大きな試合の前に、必ず全員で「Fight on, KWANSEI」を歌うのも、チームをひとつにし、士気を高めるためのルーティンである。
 もとをたどれば、理由やきっかけが明確な決めごともあるし、個人が自分で決めた約束事もある。メンタルサポートというよりは「験担ぎ」に類することも少なくない。それでも、そうした決めごとを墨守することによって、それぞれの部員、指導者がそれぞれ目の前の試合に全力を投入できる精神状態を作り上げてきたのである。
 ファイターズはそれを一歩進めて、学問的な裏付けのあるメンタル面のサポートに、他のチームに先駆けて取り組んできた。10年以上も前から、臨床心理を専門とする池埜聡人間福祉学部教授をメンタルサポートのスタッフ(現在は副部長)として迎え、選手や部員の不安を取り除くための助言をもらっている。その助言は、ときには選手のプレーをサポートする場合もあるし、部活動そのものに対する不安を取り除く場合もある。
 例えば、三輪君が3年生のとき、秋のシーズンで一度もフィールドゴールを決められなかったのに、4年生では100%成功させたことの背景を考えれば、メンタルコーチの役割の一端を理解してもらえるのではないか。
 小野ディレクターからの伝聞だが、池埜先生は2013年度にアメリカのUCLAへ1年間留学した際に学んできた「マインドフルネス」という新しい領域の研究成果を応用し、昨年度三輪君に集中力を高めるトレーニングを行った。三輪君も「とても大きな効果があった」とシーズン終了後、その成果を小野さんに打ち明けたという。
 こういう専門家やトレーナーに支えられて、選手たちは日ごろ鍛えた力をグラウンドで発揮しているのである。
 ラグビー日本代表の大活躍で、一躍脚光を浴びたメンタルコーチとルーティンワーク。しかしファイターズは、10年以上も前からその役割の重要性に目を向け、専任のコーチを雇ったのと同様の活動を専門家に担ってもらっている。毎試合、お祈りの時間を持って下さる前島先生も含め、そういう役割を快く引き受けて下さる先生方の存在がファイターズという「人が育つ」組織を支えているのである。
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