石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/9

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(25)最強のチームへ

投稿日時:2014/09/25(木) 08:52

 先週末は、今期の直木賞を受賞した友人、黒川博行さんの講演会とサイン会。僕も対談の相手役兼司会者の役割を振り当てられ、いそいそと大阪・中之島の朝日カルチャーセンターに出掛けた。
 日ごろは一緒に食事をしたり、マージャン卓を囲んだりして気楽につきあっているが、いざ講演会、それも有料の集まりとあれば、それにふさわしい話をしなければならない。当然、準備も必要だ。という次第で、この2週間ほどは、毎晩のように黒川さんの過去に出版された本を読み、薄れかけた記憶を引っ張り出すのに必死だった。
 でも、心配は無用。聞きに来て下さった方々はみな黒川さんのファン。顔を見るだけで満足、創作の舞台裏が聞けたら元が取れた、普段の生活ぶりやペットとのつきあい方なんぞが聞けたら、楽しくて仕方がない、という方が多かったから、司会者は適当でも、会は大いに盛り上がった。
 そんな次第で、週末の練習は見ることが出来なかった。その代わり、木曜と金曜の練習はしっかり見せてもらった。
 そのときのことである。あるコーチと立ち話をしている中で「この10年間では、松岡主将の代が一番強かったのではないか」という話になった。
 理由は、4年生に松岡君や長島君、谷山君や香山君がいてチームを引っ張り、大西君や和田君という職人肌の選手もいた。それに加えて、下級生に梶原君や池永君、池田君という全日本級の元気なメンバーがおり、好き放題、のびのびと暴れ回っていた。畑君や小山君、望月君や川端君といった伸び盛りの選手も多く、チーム内の競争が活発だった。そんな話だった。
 なるほど、そういう見方もあるか、と聞きながら、僕は「それをいうなら、今年も同様ではないか」と思った。
 4年生では、鷺野君や斎藤君、松島君や木戸君ががんばっている。デフェンスでも小野君や吉原君が活躍しているではないか。3年生にも橋本君や田中君、作道君や小川君がいる。2年生には松井君、橋本君、松本君や山岸君という化け物のような選手がいる。伊豆君や小池君もまだまだ伸びてくるだろう。彼らが存分に活躍してくれたら、松岡主将の代にも負けないチームが出来るのではないか。そう思ったのである。
 当のコーチは練習を見るのに忙しく、それ以上、込み入った評定をすることはできなかった。そこで、僕は一人「彼は一体、何を言おうとしたのだろうか」と考えた。すぐに答えが出た。推測するに、こういうことである。箇条書きにしてみよう。
 1、秋のシーズンが始まり、チームはこの2試合、順調に勝ち進んできた。でも、相手は昨年の下位チーム。甲子園ボウルで4連覇し、ライスボウルで社会人に勝つというのなら、下位チームに勝ったくらいで喜ぶな。
 2、なるほど、4年生も下級生もがんばっている。でも、見る者が見たら失敗も少なくない。見た目の得点差だけでいい気になっていたら、足下をすくわれるぞ。
 3、下級生には高い潜在能力を持った選手が何人もいることは間違いない。しかし、まだ、本当に強いチームと戦って、その力を発揮したわけではない。京大や関大、立命館と正面からぶつかり合い、そこで力を発揮してこそ、下級生のころの梶原君や池永君、池田君や川端君のパフォーマンスと比較が可能になる。評価はそれからでも遅くはない。
 そういう話だったのだろう。言い換えれば「昨年の下位チームに勝ったぐらいでいい気になってたらダメですよ」と言いたかったのだろう。それは、選手に向けての発言であり、このコラムで「爆走!28番星」と書いたり、ライバルチームのコーチに若手が評価されたことをうれしそうに披露している僕に対する「忠告」でもあったのだろう。
 確かにその通りである。昨年まで、甲子園ボウルで3連覇してきたけれども、それは別のチームが成し遂げたこと。今年は全く新しい気持ちでより強いチームを作り上げなければならない。リーグ戦で、負けてもよい試合は一つもない。勝って当たり前であり、勝ち続けることが最低限の仕事である。首尾よくそこを勝ち抜いても甲子園ボウルで勝たなければ、社会人への挑戦権は得られない。これからが本当の勝負であり、まだまだ長く苦しい戦いが続く。
 そこを突破するためにどうするか。日ごろの真摯(しんし)な取り組み以外にない。周囲に評価されたとか、大差で勝利したとかいって喜ぶのではなく、しっかり足下を見つめて練習に励むことだ。「社会人に勝つ」という目標に向かって、一日一日を有意義に過ごすことだ。
 それは、鷺野主将が毎日のハドルで言っていることでもある。ファイターズで活動する全員が、主将やコーチの意のあるところを理解し、自らを鍛え、高めたときに、初めて「松岡主将の代」よりも強いチームが完成するのである。がんばろう。

(24)爆走!28番星

投稿日時:2014/09/18(木) 12:13

 「爆走!一番星」といえば、1975年に公開された「トラック野郎」シリーズの第2弾。菅原文太と愛川欣也のコンビが満艦飾のトラックを爆走させ、熱い熱気を爆発させた映画である。このシリーズはみな、少々下品な登場人物と、マドンナを想う主人公の純情のミスマッチが面白く、僕は結構好みだった。
 いま「爆走!28番星」といえば、ファイターズの主将、鷺野君。ボールを持つたびにグラウンドを爆走する姿は、トラック野郎も顔負けである。
 15日の近大戦では、8回のボールキャリーで208ヤードを獲得。82ヤードの独走を含めタッチダウンが3本。パントリターンでも一気に49ヤードを走るなど、その実力のほどを見せつけた。第3Qの初めに54ヤードを独走し、自身3本目のTDを決めた後は、下級生に出場機会を譲ってしまったが、最後まで走り続けていたら、RB史上でも類のない大記録を達成していたのではないかと、少々残念に思うほどだ。
 ファイターズには過去、何人もの記憶に残るRBがいた。この10年ほどをさかのぼっても、12年度卒の望月君や11年度卒の松岡君は傑出したランナーだった。09年度卒の川原君や08年度卒の稲毛君のカットバックも懐かしい。07年度卒では、4年間、けがでほとんど試合に出られなかったのに、最後の甲子園ボウルで決勝TDを挙げ、男を上げた横山君が記憶に残っている。
 そうした面々でも、1試合、たった8回のボールキャリーで208ヤードを獲得し、おまけにパントリターンでも49ヤードを稼ぐなんて離れ業は記憶にない。率先垂範。主将の面目躍如である。
 試合会場で、FM放送の解説をされていたディレクターの小野さんが「今のは鷺野君だから、相手ディフェンスを振り切れましたね」とか「さすがですね」とか、感嘆しきりだったということ一つとっても、その走りの凄さが分かってもらえるだろう。
 けれどもこれは、偶然の産物ではない。ファイターズの若いOLたちが懸命に走路を開いたことはもちろんだが、それ以上に鷺野君の相手守備陣を突破する技術とスピード、そして「俺がやる」という強い意志が上回っていたということだろう。
 振り返れば、今年のチームがスタートして以来、鷺野君は常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた。高い目標を口にし、それを完遂するために、いま何をなすべきか、何が必要か、と常に仲間に問い掛けてきた。結果だけでなく練習の内容にもこだわり、チームメイトに「もう1段階も2段階も上のレベルに上げること」を求め、全員の士気を鼓舞し続けてきた。
 そうした言動には責任が伴う。口先だけ、言うだけではだれも付いてこない。常に先頭に立って行動し、激しい言葉で仲間を鼓舞し、時には後ろ姿でチームを引っ張る。
 そういう主将が試合で「俺がやる」という姿を見せつけた。それは鬼気迫る独走であり、渾身のセカンドエフォートだった。彼の日ごろの取り組みの一端を知っているだけに、見ていた僕は主将の活躍がうれしくてうれしくて、涙が出そうだった。
 うれしいことといえば、近大との試合ではもう一つ特筆しておきたいことがある。
 それはWRの木下君が9カ月ぶりにグラウンドに戻り、たちまちTDパスをキャッチしてくれたことである。
 彼は、昨年の関西リーグで大活躍した選手だが、ライスボウルの激戦の中でけがをし、長いリハビリ生活を続けてきた。しかし、まだ松葉杖をついているような状況からグラウンドに顔を出し、チームの練習を見守ってくれた。懸命のリハビリで少し状態が回復すると、レシーバー陣の練習を手伝い、パスを投げたり下級生にアドバイスしたりしてチームに貢献し続けた。けがをして試合に出ることは不可能でも「いま自分に出来る貢献」を自ら探し、その役割を果たし続けたのである。
 口で言うのは簡単だが、それはなかなか出来ることではない。自分のポジションに入った選手が活躍するのを見るのは複雑な気持ちだろうし、ほかの選手の活躍をベンチで見ているだけというのものもストレスが貯まる。しかし、そういうマイナス思考とは無縁のところで、彼はひたすら「自分に出来る貢献」を探し、それを見つけて実行してきた。
 そういう苦しい戦いを知っているだけに、この日、9カ月ぶりにグラウンドに登場し、たった1回、QB斎藤君から投じられたゴールポスト直下のパスをいとも簡単にキャッチしてTDを獲得したことに、僕は感動した。審判の両手が上がった瞬間「よくぞ戻ってきてくれた」という感謝の気持ちと、これからの活躍を期待して、心からの拍手を送ったことである。
 主将の活躍と木下君の復活。そして斎藤君の精密機械のようなパス・コントロール。こうしたうれしい場面を目に焼き付けて、その夜、僕は勤務地の和歌山県田辺市まで、満足感を道連れに車を走らせた。
 念のために付け加えておけば、当方は「爆走!一番星」ではなく、交通ルールを守った安全運転だった。
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