石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/7

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(17)「ファイターズの魅力」

投稿日時:2013/07/30(火) 17:51

 何を血迷ったか、先週の土曜日、関学会館で開かれたファイターズ後援会の総会で記念講演をしてしまった。副会長の井上さんから与えられたお題は「ファイターズの魅力」。新入会員の歓迎会を兼ねているので、日ごろこのコラムに書いているような話をしてもらえれば、という注文である。
 「僕は新聞記者。書く方にはそれなりの経験を積んでいますが、まとまった話なんて無理ですよ。第一、講師先生という柄でもないし」と、一度は辞退したのだが、かねてからスタンドで一緒にファイターズを応援している仲間であり、ご長男で2005年度の副将を務めた井上暁雄君とは、何かと縁があったので、むげには断れない。コラムに書いている内容の「おさらい」でよければとお断りしたうえで引き受けることにした。
 ところが、慣れないことはするもんじゃない。どういうわけか、先週は通院ウイーク。火曜日は田辺の病院で目の手術、木曜、金曜はかかりつけの内科医へ。金曜の午後と土曜の朝は西宮に戻って仁川の西村接骨院へ。週の半分以上も医療機関に通う羽目になってしまった。おまけに金曜日の夜は高校生の勉強会が入っている。これで、仕事に穴を開けず、後援会の準備も怠りなく、というのだから、僕の業務管理の技術もなかなかだ。とはいっても、さすがにこのコラムにまでは手が回らない。とうとう更新をサボってしまった。申し訳ない。
 で、講演会の話である。まずは1昨年の秋に発行されたアエラムックの「関西学院特集」に書いた「ファイト・オン」チームソングがつなぐ栄光と軌跡……の自慢話ではなく、「ファイト・オン」の歌詞に込められたチームのたたずまいについての紹介である。
 この歌がどのようにして生まれ、チームソングとして歌い継がれるようになったかという由来を簡単に紹介し、この歌に込められた「清く戦い、勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じない品性を持て」という意味の解説をしながら、日本のスポーツ界に根強く残る暴力的な支配、上級生と下級生の支配と従属の関係とは無縁なファイターズというチームについて、その生い立ちから説明させていただいた。
 続いて、戦後の草創期からこのチームに吹いていた「アメリカの風」について説明。卒業後10年間、チームの監督を務められた米田満さん、その2年後輩で関西アメリカンフットボール協会の組織作りと財政基盤の確立に尽力された古川明さん、3年後輩で後にヘッドコーチとして、テレビの解説者として、理論的な指導者として、日本に「アメリカの風」を持ち込んだ武田建さんらの功績を語りながら、そうした先輩たちの話が「昔話」ではなく、いまのファイターズにも脈々と受け継がれていることに話を展開した。
 それが「自発性と自主性」という言葉で表現されるチームのたたずまいである。そのことを端的に表しているのが、昨年11月28日付けのこのコラムに「透明な空気」という見出しで紹介した二つのエピソードである。詳しくはバックナンバーでお読みいただけばよいが、関西リーグの最終戦、立命との決戦を前に4年生が全員、下級生の前に整列し、主将と副将が「この1年、厳しいことも言ってきたけど、よく支えてくれた。本当にありがとう」と下級生に感謝の言葉を述べたこと、その後で4年生以下全員がグラウンドの隅々まで清掃したことを紹介した。
 そして、ファイターズというチームは、本当にしんどいことを4年生が引き受ける。それは、去年や今年に限ったことではない。長年、チームを支えてきた上級生が「当然のこととして」取り組んできたことであり、そういう上級生の姿を見て育った下級生が学年が進むにつれて「自ら引き受ける」人間に成長していくからこそ生まれるたたずまいであると説明した。
 それが鳥内監督がいつも口にされる「学生たちが日本1になるというてるから」という言葉につながり「日本1になるために、君はどんな男になんねん」「チームにどんな貢献ができんねん」という問い掛けになっていく。決して監督やコーチが「オレは日本1になりたい。だからああしろ、こうしろ」というのではない。学生の側が「日本1になる」という目標を立て、監督、コーチがそれを手助けするという順序である。
 本当に強いチーム、たくましいチームを作るには、グラウンドで戦う選手、それを支えるスタッフが自発的、主体的に取り組まなくては本物ではない。指導者が暴力で支配したり、怒鳴り付けて従わせたりしているようなチームとは180度違う。これがファイターズの伝統であり、魅力でありましょう、と話した。
 そして、そのことが実は、校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」を体現することにつながると話を続けた。つまり、ファイターズでの活動が、この校訓を作ったベーツ院長のいう「私たちは強くあること、さまざまなことを自由に支配できる人(マスター)になることを目指します。マスターとは知識を身につけ、チャンスを自らつかみ取り、自分自身を抑制できる、自分の欲や飲食や所有への思いを抑えることができる人です」「本校の理想は強くて役に立つ人になることであり、弱くて使いものにならない人になることではありません」「(マスターとは)成功する人、事業の基本原理を理解し、なすべきことを知っている人、他の人なら失敗しかねない場合でも、勤勉と正直により成功を収める能力のある人」につながるのである。
 これがファイターズの魅力である。僕はこういう「自分の足で立っている」チームのたたずまいに惹かれている……。
 講演会では、概要、こんな話をした。つたない語り口だったが、みなさん、熱心に聞いて下さったようだから、ほっとした。

(16)暑さに負けず勉強会

投稿日時:2013/07/17(水) 06:32

 春のシーズンが終わり、関西学院大学は今日から前期試験。文武両道を目指すファイターズの諸君はいま、暑さに立ち向かって学業にいそしんでいる。
 僕も非常勤講師として授業を担当しているが、評価は普段の授業で毎回のように書かせる小論文の点数が中心だから、あらためて試験はしない。つまり最終の授業日限りで、採点の仕事も終了。翌日には成績表をさっさと事務室に提出したから、本来、今頃は楽しい夏休みに突入、というところだが、そうは世間は甘くない。最終の授業が終了したその日の夜から、今度はスポーツ推薦でファイターズを目指す高校生を対象に「課外授業」が始まった。
 この勉強会は、このコラムにも何度か書いたことだが、1999年の夏、当時、リクルートを担当されていた小野コーチの要請で、池田高校の平郡雷太君と箕面高校の池谷陽平君を相手に初めて実施して以降、毎年、この季節になると、僕が「先生役」を務めて続けている。
 当時、僕は朝日新聞の論説委員をしていたので、大阪・中之島の本社に2人を呼んで、勤務時間の合間に近くの喫茶店で小論文の指導をした。2人とも頭脳明晰、打てば響くような高校生だったから、僕が少々説明不足でも、ポイントをすぐに理解し、毎回、1時間で800字という小論文を見事に仕上げてくれた。
 これに味を占め、翌年からはそれなりのペーパーを準備。会場も確保して「困った時はおばあちゃんにお小遣いをねだるつもりで書けばいい」「とにかく800字を書ききろう」と教えてきた。小論文を書きなさいというだけではなく、書き終わった後のご褒美に、ケーキセットや簡単な食事があれば、勉強もはかどることを発見。勉強会の後には「お食事タイム」を設け、しばらく歓談するようにもした。距離が遠くて参加できない場合は、ファクスで小論文を送信してもらい、それを添削し、講評を添えて送りかえす仕組みも作った。
 数えてみれば、今年でなんと15年。最初の年は2人だった生徒もやがて5人、10人と増えていき、今年は14人が参加している。合計の参加者は数えたことはないが、もう100人近くになっているのではないか。
 うれしいのは、この勉強会に参加し、無事推薦入試に合格してくれた諸君が入学後、必ず僕を「先生」と呼んで慕ってくれること。そして大半のメンバーがファイターズの主力選手として活躍してくれることである。
 今年の4年生で言えば、主将の池永君、副将の友國君、オフェンスの田渕君、上沢君、油谷君、石橋君、野々垣君、ディフェンスの吉田君、植屋君、片桐君、大森君はみな、この勉強会のメンバーである。これは彼らに限らず、ファイターズのメンバー全員に対して僕が心掛けていることだが、練習や試合でいいプレーを見せたときには、いち早く声を掛けるし、けがをしてリタイアしたときには、必ず激励の言葉を掛ける。
 そんな中でも、勉強会に参加したメンバーについては、とりわけ親しみを感じる。時間が合えば、大学の食堂で昼飯を一緒にすることもある。
 彼らとの勉強会は、夏休み中のごくごく限られた時間のつきあいだが、勉強会に参加したメンバーにとっては、高校時代を思い出す懐かしいシーンを共有した印象が残っているのだろう。僕にとっても、懐かしい記憶がいっぱいある。顔を見ただけで、当時、彼らが書いた小論文の出来、不出来、その字の上手、下手までが思い起こされる。
 こうした関係は卒業してからも続き、顔を合わせるたびにみんなが親しく挨拶してくれる。最近出会ったり、電話で話したりしたOBに限っても池谷君(2003年度卒)、佐岡君、石田貴祐君(04年卒)、井上君(05年卒)、生田君(06年卒)、坂戸君、藤本君(08年卒)、亀井君(09年卒)、松原君(10年卒)、糟谷君、香山君、重田君、谷山君、佐藤君、東元君、長島君(11年卒)、押谷君、梶原君、小山君、望月君らはみな、この勉強会に参加したメンバーである。
 勉強会を通じて、来年からのファイターズを担ってくれる有望なメンバーとの関係がチーム関係者の誰よりも早く始まる。暑いの、疲れたのなんて言ってはおれない。夏休みをゆっくりなんて、考えたこともない。
 もちろん、高校生にとっても合宿だ、日米交流戦だと、なにかと日程の立て込んだ毎日である。その貴重な時間を有意義なものにするために、しっかりと文章の書き方を教えたい。大学に入ってからも戸惑うことのないように、少しばかりの手助けをしたい。
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