石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2013/12

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(37)稽古に神変あり

投稿日時:2013/12/31(火) 23:45

 「稽古に神変あり」という言葉がある。
 倦まずたゆまず、営々と稽古を重ねているうちに、気がつけば「神変」としかいいようのないほどの劇的な変化を遂げ、高い境地に到達していることをいう。
 もちろん、営々と努力するといっても、ただの反復稽古ではない。上級生やコーチに言われたことを漫然と繰り返し、与えられた時間を過ごすだけの稽古ではない。
 毎回毎回、稽古の手法を工夫し、創意を盛り込み、得意なところを伸ばしていく。自分の創意工夫だけでなく、同じポジションの仲間から助言をもらい、相対するポジションのメンバーから欠けているところを指摘してもらって、自らの足りないところを補い、改善していく。
 そういう創意と工夫、改革に裏付けられた稽古を営々と続けることで、気がつけば当初は及びもつかなかったほどの高い境地に進んでいる。それを指して、昔の人は「神変」と呼んだのである。
 関西リーグで立命館と引き分けてから1カ月余り。途中、西日本代表決定戦、甲子園ボウルの2試合を挟んで、今も同じメンバーで、社会人代表との決戦に向けた練習を続けているファイターズ諸君の練習ぶりを見ていると、なぜかこの言葉が浮かんできた。
 僕のような素人が見ても、それほど攻守蹴すべてにおける選手の成長が感じられるのである。ディフェンスでは、巨漢揃いのラインがまるでダンスを踊るように素早くリズミカルな動きをしている。バックの面々も、最初の一歩が確実に早くなっている。いまは試合直前の練習とあって、火花の散るようなタックルは自制しているが、それでもボールキャリアに駆け寄るスピードは、この秋、関西リーグが開幕した当初より、数段速くなっている。1年生を含めた交代メンバーも試合経験を積んで驚くほど力をつけてきた。
 オフェンスも同様である。昨年からの不動のメンバーが並ぶラインの結束は固いし、一人一人の動きにもリズム感が出てきた。足の運びの一歩一歩にこだわるその稽古ぶりからは、強力な守備陣を揃える社会人に、一歩たりとも下がるな、という強い気持ちが現れている。
 QBはもちろん、RBやレシーバー陣の動きも軽快だ。斎藤君からのパスの精度も上がっている。たとえて言えば、立命戦の前の成功率が85%とすれば、甲子園ボウルの前は90%、いまは95%というところか。もちろん、スカウトチームを相手にした練習だから、実戦とはQBにかかる圧力が全く異なるが、それでも、ピンポイントのパスを気持ちよく決め続けているのを見ていると、神変と呼ぶにふさわしい成長ぶりを実感する。
 関西リーグの激闘を制して1カ月あまり。チーム全員がずっと大きな目標を持ち続けて練習に取り組んできた成果であろう。なんせ、いまこの時期に、日本中を探しても、これだけ高い目標を持ち、密度の濃い練習に日々取り組んでいるのは、ファイターズともう一つのチーム以外にないのである。その濃密な練習の中から周囲をあっと驚かせるプレーがいくつも生まれ、その精度が日増しに上がっていくのである。
 シーズンの始まる前、「社会人を倒して日本1」を目標に掲げ、手探りでチームを作ってきた2013年のファイターズがいま、決戦の時を迎える。12月30日、13年最後のチーム練習を終えるにあたって、主将の池永君がチーム全員の前に立って短い挨拶をした。「ライスボウルまでまだ日が残されている。その残された期間、詰めるべき点を詰め、やるべきことを絶対にやり遂げよう」。たったこれだけの言葉だったが、最後の最後までやるべきことをやろうという主将の強い意志が伝わってきた。
 最後の瞬間まで、どん欲に自らを鍛える。工夫すべきことを考える。勝つための手段、方法を磨く。そして、考えに考え抜いたプレーを成功させるために、グラウンドで稽古を重ねる。そのストイックな営みが年末年始、浮ついた世間と関係なく続くのである。
 練習が休みの12月31日午後。一人で第3フィールドに向かった。1年間、多くの学生たちを成長させてくれたグラウンドに感謝の気持ちをささげるために、毎年の歳末、自らに課した習慣である。
 大学は休み、学生会館も休館日。グラウンドの出入り口も閉じられている。それでも通用口から入って、グラウンドに向かう。まず平郡君の記念樹の前に立ち、頭を下げ、碑銘を読む。そしてグラウンドに向かって一礼する。周囲はファイターズの諸君が前日にきれいに掃き清めたのだろう。落ち葉一つ落ちていない。人に気配はまったくないが、それでも体育棟を見上げると、一つの部屋に明かりがともっている。分析スタッフかマネジャーの誰かが、数少ない「残された日」になすべきことをしているのだろう。
 池永君が言うとおり、チームの全員が「詰めるべき点を詰め、なすべきことをなした」時、チームは神変する。それを1月3日、東京ドームでしっかり見届けたい。

(36)続・強さの秘密

投稿日時:2013/12/25(水) 11:11

 ファイターズはなぜ勝てたのか。甲子園ボウルが終わって10日。暇さえあれば、そのことを考えている。
 関西リーグには、立命をはじめ関大、京大と、それぞれ特色を持った強力なチームがひしめいている。そこを何とか突破し、西日本代表決定戦にも勝って甲子園ボウルに進んでも、これまた強力なメンバーを擁する関東のチームが手ぐすねを引いて待ち構えている。
 1昨年は日大、昨年は法政、そして今年は再び日大。それぞれ運動能力の高い選手を揃えたチームが「打倒!関学」を目標に、万全の態勢で向かってくる。
 なんせ、タッチダウン誌が選考した「学生プレオールジャパン」をみれば、ファイターズからはDLの池永主将、LBの池田副将の名前が挙がっているだけ。立命は6人、関大は3人、京大からはチームの司令塔が選ばれている。ちなみに関東からは日大から4人、法政からは3人が選出されている。
 優勝争いに加わるチームはみな傑出した能力を持つ選手をそろえ、攻守ともに決め手となる仕組みを作っているのだ。一瞬の判断ミス、展開のあやで、ファイターズが敗れることがあっても不思議ではない。実際、昨年の甲子園ボウルでは、法政にあわや、というところまで追いつめられた。今年の関西リーグでも、立命とは両者譲らぬ0-0の引き分けになった。
 勝敗は時の運。どこでどんなことが起きるかは誰にも予測できない。昨年で言えばエースQB畑君のけが、今年でいえばディフェンスとキッキングチームの要であるLB池田君の負傷。甲子園球場のダイアモンドに張り付けられた芝生が何かの拍子にはがれるアクシデントも想定しておかなければならない。
 そういう中、ファイターズは涼しい顔で今年も勝った。甲子園ボウル3連覇である。そんなに強いチームだったのか。
 このことについて、一つの答えらしきものは「強さの秘密」と題して、前回のコラムに書いた。でも、もっともっと深い理由があるはずだ。今回はそのことについて想像をめぐらせたい。
 手元に「経営情報12月号」という冊子がある。星和ビジネスリンクという会社の発行で、僕はマネジャーの野瀬君から「何かの参考に」ともらった。そこに鳥内監督の「スペシャル・インタビュー」が掲載されている。
 その中に、監督のこんな発言が収録されている。
 「試合は予測できない展開の連続。それにいかに対応するかの危機管理能力が何よりも求められます。日頃からそれぞれのポジションの選手がさまざまなシミュレーションをして予定外のことが起きた時、どう対応するか、あるいは逆にどう相手の裏をかいて混乱させるか。それができるようになるには、結局練習を積み重ねるしかありません」
 「受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しません。今の自分に何が必要か、どうすればチームに貢献できるかを考えられる選手を育成したいと考えています」
 「上から押し付けられたことをこなすだけでは、試合でもそれ以上の力を発揮できないし、社会に出てからも主体的な生き方はできない」「アメリカンフットボールというツールを通じた人間教育、社会にでる土台作りこそが究極の目標です」
 さらには「下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくり」の大切さを説き、「4年生には、プレーヤーとしての役割に加え、下級生に対するコーチや兄貴としての役割を求める。いま何が大切なのかを説明し、説得できる技術も必要」という言葉もある。
 ふだんはここまで丁寧に説明されることは少ないが、取材した人の聞き出し方がうまかったのだろう。監督のチーム作りの哲学が過不足なく表現されている。「強さの秘密」を考えるにあたって、こうした発言は何かと参考になった。
 とりわけ注目したいのは?試合では危機管理能力が何よりも求められる?受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しない。考えられる選手を育成したい?4年生には、下級生に対するコーチや兄貴分としての役割を求め、下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくりに気を配る、という点である。
 チームの練習を見ていると、この三つのことがいろんな場面で顔をのぞかせている。4年生が練習の準備をすべて引き受けるのは毎年のことだし、下級生が思ったことをいろんな形で提案している場面もしばしば見かける。それぞれのポジションで、少人数に分かれてさまざまな工夫をしながら自発的に練習しているのもいつもの光景だ。
 こういうことの積み重ねと、それを促す監督やコーチ陣の存在。そして、日夜繰り広げられている戦術の工夫と検討。その場面を部外者が目にする機会はないが、それでも検討に当たっては、監督やコーチの長年の経験、知的蓄積が活用され、分析スタッフからの提言が遠慮なく披露されていることは想像に難くない。
 そういう風通しの良いチームのたたずまいと、グラウンド外で繰り広げられている知的な戦いに集中できるところが、実はファイターズの本当の強さの秘密ではないか。僕はそのように見当をつけている。
 僕がこんなコラムを書いているいま、このときにも監督やコーチ、選手やスタッフは対戦相手のビデオを徹底的にチェックし、弱点があれば見つけ出し、相手の強さを逆手に取る工夫を重ねているに違いない。今はその成果を見ることはできないが、1月3日になれば、それは惜しみなく披露されるはずだ。楽しみでならない。
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