石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2012/7

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(15)期待の星

投稿日時:2012/07/24(火) 06:28

 関西学院大学はいま、前期試験のまっただ中。ファイターズの諸君はみな、ねじりはちまきで試験問題に取り組んでいる。
 当然ながら、僕が非常勤講師として教えている授業も終了。成績表もさっさと事務室に提出した(僕の授業では、毎週小論文を書かせ、それを採点し、それを元に成績を評価しているので、あらためて試験は実施しない。つまり授業終了=成績評価も完了となる)ので、いまは宿題を終えた生徒のように、ちょっとした開放感に浸っている。
 だが、大学の授業が終わるのを待ちかねたように、スポーツ推薦で関学を受験してくれる高校生を対象にした「小論文講座」を始めなければならない。今年も、大学の授業が終わった13日から週に一度、関西在住の高校生を対象にした勉強会がスタートした。
 今年、ファイターズからの推薦で受験してくれるのは、関西在住者だけで10人。ほかに関東地区から受験してくれる生徒もいるが、これはファクスをやりとりして指導することになる。
 振り返れば、こうした勉強会を始めたのは1999年。もう14年も前のことである。池田高校から受験する平郡雷太君と箕面高校から受験する池谷洋平君を相手に、小論文の書き方を手探りで教えたのが始まりだった。当時、僕は朝日新聞社で論説委員をしていたので、週に一度、仕事が終わった頃を見計らって大阪本社に来てもらい、社内の喫茶室や近所の喫茶店でマンツーマンの指導をした。
 だが、指導といえばかっこいいが、親子以上に年齢の離れた高校生にどのように教えたらいいのか、見当もつかない。どういう小論文を書けば大学の入試担当者に評価してもらえるのかも分からない。新聞記事を書くことには少しばかりの自負はあったが、大学受験の小論文なんて手がけたこともない。
 唯一の頼みは、朝日新聞で入社試験の小論文採点委員をした経験である。自分が採点したときに好感を持ったような小論文が書ければ、それでオーケーと決めて指導を始めた。
 指導というより「身近な人、おばあちゃんや妹に向かって話しかけるように書けば、読む人にもよく伝わる」「文章は短いほど分かりやすい。主語の次には述語、余計な形容詞や接続詞はない方がいい」「自分の体験を基に説明すれば、説得力のある主張ができる」などという、ごくごく大雑把な話をするだけ。それでも、平郡君も池谷君も頭脳明晰、感受性の豊かな高校生だったから、僕の話すことを即座に理解し、それを文章に反映させてくれた。彼らの進歩、上達に励まされて、高校生に対する指導法を勉強し、以来、毎年、この時期に高校生を相手に勉強会を続けている。
 もちろん、なぜ、関学の試験には小論文が課せられるか、小論文を書くことにどういう意味があるのか、ということについてもきちんと教える。大学は勉強する場所であり、スポーツは課外活動、しっかり授業に取り組み、成果を上げてこそアメフットも上達する。アメフットで成果を上げるためには、人の話を聞く能力を養わなければならないし、自分の主張を相手に伝える力も必要だ。そのためには、読み書きの能力が試される。具体的には小論文を書く能力が必要であり、それを身につけるために勉強会をしているのだよ、というようなことである。
 幸い、勉強会にきているメンバーは好感の持てる高校生ばかりである。大学生にも負けないくらいの大柄なメンバーがいるし、いかにもアスリートという生徒もいる。積極的に話しかけてくる生徒もいるし、小論文を一目見ただけで頭脳の明晰さを感じさせる生徒もいる。10人が10人とも期待の星、明日のファイターズを背負って立つ人材である。
 この顔ぶれを見ながら、リクルートを担当している宮本ディレクター補佐や3年生マネジャーの多田君らの努力に頭が下がる思いだった。足繁く試合会場に足を運び、関係者と接触を続けてきた鳥内監督や大村コーチの積極的なリクルート活動の成果といってもよいであろう。
 そしてもう一つ。忘れてならないのは、昨シーズンのファイターズの活躍である。プレーごとに火花が散るようだった立命との決戦、日大を翻弄した甲子園ボウルの頭脳的な試合運び、そして美しく戦い、堂々と散ったライスボウル。高校生のまぶたに焼き付けられたそれらの試合が「ぜひ、僕もファイターズでがんばりたい」と将来有望な選手たちの背中を押してくれたのである。
 ファイターズが美しく勝ち続けなければならない理由は、ここにもある。

(14)アメフト探検会

投稿日時:2012/07/15(日) 20:11

 先日のことである。「アメフト探検会」という「秘密クラブ」の集まりに招待された。ずっと以前、このコラムに書いた記憶もあるが、ファイターズを熱狂的に支援して下さっている関西学院の先生方の集まりである。
 甲東園の居酒屋を借り切って開かれた今年度の集まりには、残念ながら会長が欠席(世話役をされている学会と重なったため)となったが、それでも前会長や前学長ら「とびきりのファイターズファン」が出席され、チームから参加した鳥内監督、大村コーチ、野原コーチらと杯を重ねた。
 「秘密結社」ゆえ、あえて名前は挙げないが、先生方はみな「ファイターズ命」の方々ばかり。甲子園ボウル勝利のビデオを自身で「50回は見た」と豪語し、ゼミの授業で観戦させている人がいるし、毎年のようにファイターズのメンバーをゼミ生として引き受けていただいている人もいる。遠く三田キャンパスから参加して下さった総合政策学部の先生もいる。
 「高等部時代の大村コーチの後輩」という国際学部の先生が「大村さんははあこがれであり、また怖かった」と打ち明けたり、ゼミで野原コーチを指導した商学部の先生が「彼はゼミでも特別にできがよかった」と紹介したり、KGファミリーならではの和気あいあいという雰囲気。アルコールのピッチが上がるにつれて、ファイターズへの注文も熱を帯び、コーチ陣もたじたじの様子だった。
 そんな賑やかな席で、僕は「ファイターズはなんと幸せなチームだろう」と、あれこれ考えていた。先生方がその職務を離れ、職場の壁を越えててわざわざ応援の会を設けてくれる。ゼミの学生にファイターズの魅力を伝え「応援に行くように」と薦めてくれる。文化系、体育会系、課外活動はいくつもあるが、その中で先生方にこのように支援してもらえるクラブはどれほどあるだろうか、と思いを巡らせていた。
 先生方だけではない。ファンの数が圧倒的に多いのもファイターズだ。ホーム、ビジター関係なく、どんな試合でもいち早く関西学院サイドから観客席が埋まっていく。収容人数の多い関西リーグ終盤の試合や甲子園ボウルになると、応援に来る人の数は相手チームの2倍にも5倍にもふくれあがる。それだけ熱心に応援してくださる方々がいるということだ。
 この凄さは、いつも数少ない応援の元で戦わなければならない相手チームと立場を変えて考えると、よくよく理解されるはずだ。ファイターズの好機には怒濤のような歓声が上がるのに、自らのチームの好プレーには反応がない。そんな進行では、士気を高めるのも容易ではない。
 このコラムへの読者の反応を見ても、ファイターズは幅広い方々に支援されていることが実感できる。先日、JV戦で活躍した下級生のことを取り上げたコラムに感想を寄せて下さった「高濱先生」もその一人である。その感想には「選手を遠方に送り出し、元気にやっているか? チームになじんでいるか? などといつも気にかけています」という言葉があったが、これもまた、形を変えた支援だろう。つまり、東京から遠く離れたファイターズに「手塩にかけた選手たちを送り出す」という形の支援である。チームに対する信頼がなければできないことである。
 しかし、ファンの方々からの応援も、高校指導者からの信頼も、それは一朝一夕に獲得したものではない。戦後、一貫して大学トップの座を争い、チームのモラルを高めてきた歴代の指導者と選手が築き上げてきた財産である。どんなに苦しい時でも弱音を吐かず、努力を怠らず、ファイターズ・スピリッツを体現してきた部員全員が分かち合うべき果実である。
 伝統という言葉で呼ぶしかない。
 最近は、どこのチームも試合が終わった後ライン沿いに整列し、観客席に向かって深々とお辞儀をする。そして「応援ありがとうございました」とキャプテンがお礼の言葉を述べる。それを指して、形式的だという人もいるが、僕はそうは思わない。これは支援する者と支援される者をつなぐ欠かせない儀式であり、この儀式を通して選手たちの感謝の気持ちと、支援する側の思いやりの気持ちが結び付けられるのだと思っている。
 ファイターズの諸君。より多くの人々に「支援したい」「応援してよかった」と思われるチームを目指してほしい。そのために、この夏、存分に鍛えてもらいたい。
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