石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2012/10

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(28)頂への挑戦

投稿日時:2012/10/30(火) 12:18

 先日読んだ、冲方丁の「光圀伝」(角川書店)にこんな言葉があった。
 「天下が、よもやこんなにも遠いものだとは……。ここまでできた、そう思ったときには、頂はさらに遠く離れたところにある。近づけば近づくほど、峠は高くなる」
 「峠を登るとき、遠目には低くとも、ふもとに来れば高さが分かる。実際に登り始めれば、頂は見えないほど高くなる」
 これは、後に水戸の黄門さまと呼ばれる徳川光圀が若い頃、詩業に志を立て、詩作で天下を獲る、と決意した頃の友人との会話の一節である。その道のはるかに遠いことを実感した若者が、それでもくじけず、その峠を登ろうと覚悟を決める場面でもある。
 京大との激しい戦いを観戦した後、帰り道で、なぜかこの言葉を思い浮かべていた。
 それほど、両軍ともに気合いの入った戦いだった。
 ファイターズのパントで始まった立ち上がり、京大はいきなり切れのいいランプレーで17ヤードを獲得。たたみかけるように5ヤードのラッシュを連発して2度目のダウン更新。あっという間に中央付近にまで迫ってくる。
 京大恐るべし、と浮き足立つ場面だったが、ここはDL前川の鋭いタックルと、主将梶原のQBサックでなんとか食い止め、相手にパントを蹴らせる。
 ところが、そのパントが高く遠く飛ぶ。相手キッキングチームの力量をたっぷりと見せつけられ、ファイターズはゴール前6ヤードからの攻撃。これは苦しい試合になるぞ、と見ている方も身が引き締まる。
 しかし、この苦しい局面で、QB畑はあくまで冷静だった。いきなりWR木戸にロングパスを投じる。これは惜しくも失敗したが、第2ダウン10ヤードでRB望月が中央を突破、13ヤードを獲得してダウンを更新。続いて畑からWR梅本へ息の合った23ヤードのパスがヒットした。パスはややオーバー気味だったが、梅本はこれを片手でキャッチ。このビッグプレーで、ようやくチームが落ち着く。
 勢いづいたファイターズはRB鷺野のラン、畑からWR小山へのパスと、リズムよく攻撃を展開。仕上げは畑からWR大園への20ヤードTDパス。K堀本のキックも決まって7-0と主導権を握った。
 次の京大の攻撃は、キッキングチームに入ったWR小山のナイスタックルで自陣13ヤードから。ここでも前川のタックルとDB大森のパスカットで相手に何もさせず、再びファイターズの攻撃。
 このシリーズは畑から小山へのパス、畑のキーププレー、望月の中央突破などで一
気にゴール前10ヤード。しかし、ここでランプレーが決まらず、結局は堀本のFGによる3点止まり。京大の守りが固いのか、それともわが方の攻撃が手詰まりになったのか。遠く離れたスタンドからではよく分からなかったが、これからの関大、立命との戦いを考えると、少々気になる詰めの甘さだった。
 ファイターズの次の攻撃シリーズは、木戸の好リターンで自陣45ヤードの好位置から。ここでも望月の中央突破、畑から木戸やWR南本へのパスが次々にヒット。最後はパワープレーでこじ開けたオフタックルを望月が走り抜けてTDに結び付けた。
 ファイターズは続く4度目の攻撃シリーズでも、畑から1年生WR木下への27ヤードのパスなどで敵陣9ヤードに迫り、最後は堀本が短いFGを決めた。結局、前半は一度もパントを蹴ることなく、4度の攻撃機会をすべて得点に結びつけ20-0で折り返した。
 このように試合経過を追っていくと、ファイターズの楽勝ペースに思える。だが、現場で見ていると、なかなかそんな気分にはなれなかった。ゴール前10ヤードほどの距離からの2度に渡るファイターズの攻撃を見事にしのいでTDを許さなかった京大守備陣の集まりの速さと強いタックルが余りに印象深かったせいだろう。
 それを見ながら、関大や立命はこれ以上の強力な守備陣を擁している。おまけに攻撃では、それぞれ一発の個人技でTDをとれるタレントが何人もいる。京大という「峠」を越えても、その先にもっと高い頂が次々とそびえている現実があるから、目の前の得点に一喜一憂している場合ではないぞ。そんな警告が、頭の片隅でずっと鳴り続けていた。
 試合後、記者団に囲まれた鳥内監督も同じような心境だったのだろう。いい試合でしたね、という記者の質問にこんな風に答えていた。
 「あきません。2度もタッチダウンをとれるチャンスを逃がしているようでは、関大や立命あいてではしんどいですよ」「1秒あったら、タッチダウンをとれる選手が何人もいる相手ですから。また、がんばりますわ」
 一つの頂を越えれば、また次の高い頂が立ちはだかる。しかし、それを極めない限り天下は取れない。だから、がんばるしかない。そこで弱音を吐かず、踏ん張ってきたのがファイターズの先輩たちである。
 現役の諸君も、さらに気合いを入れて高い頂に挑もうではないか。1に鍛錬、2に鍛錬である。

(27)兄貴たちの献身

投稿日時:2012/10/23(火) 22:49

 京大という名前を聞くと、その昔、取材記者として武田建先生を訪ね、アメフットの初歩的なことをいろいろ教えてもらった頃のことを思い出す。昭和でいえば49年から50年、ファイターズという愛称で呼ばれ始めた頃である。QBは玉野、ラインには小寺、神木、松田、前川、RBには柴田、谷口、レシーバーには小川というスター選手がそろっていた時代といえば、懐かしく思い出されるファンも多いだろう。
 当時、僕は朝日新聞阪神支局の遊軍担当記者。関学も持ち場の一つということで、しょっちゅう取材に立ち寄っていた。取材だけではなく、昼飯を食べに学生会館に寄ったり、ゼミの先生の研究室に遊びに行ったりもしていた。
 そんなある日、グラウンドでロングスナップを出す練習に励んでいた吉川宏選手を取材したことが縁で、先生とも話をするようになったのである。
 当時、関西のアメフット界は、関学の一人舞台という状況だったが、年を追うごとに京大が力を付けていた。そこである日、先生にこんな質問をした。
 「京大は国立でも1、2を争う名門大学。選手の獲得もままならないのに、どうしてあんなに強くなるのでしょうね」
 先生は、いくつかの理由を挙げて下さったが、一番印象に残っているのがこんな言葉だった。
 「頭がよくて運動能力に優れた高校生が大学に入って、アメフットの魅力にを知ったら夢中になる。4年間はアメフット漬けで過ごし、5年目でしっかり勉強しようと覚悟を決めているから、練習に対する取り組み、集中力が違う」
 「1年留年して5年生になった選手たちが学生コーチとなって、自分の身につけたことを懸命に現役選手に教え込む。頭のいい学生が頭のいい学生に指導するのだから、上達も早い。未経験者というハンディキャップは簡単になくなります。うちのチームも5年生になって指導してくれる学生がいてくれるといいのですが、留年するとなると、国立と違って私学は授業料の負担が大きいから、留年してくれと頼むわけにもいけませんしね」
 そういう話だった。5年生コーチの役割と重要性を初めて知った時でもあった。
 時は移り、いまはファイターズでも5年生コーチがチームの運営に大きな役割を果たしている。今年は昨年の主将、松岡君をはじめ関西のベスト11に選ばれた香山、重田の両君、そして坪谷君と石川君がアシスタントコーチに名を連ねている。毎日のようにグラウンドに顔を出し、後輩を指導し、時には防具を着けて練習相手を務めている。
 それぞれが今年1月3日まで、チームの主柱として活躍していた選手だから、そのプレーぶりには目を見張らされる。1枚目のメンバーを相手に、仮想京大、仮想立命の選手として練習台を務めていても、相手を圧倒するようなパフォーマンスを見せている。
 それだけではない。監督やコーチと連絡を密にし、そのアドバイスを選手に伝え、実行させることも大きな役割だ。現役の選手は、監督やコーチと年齢が離れているが、5年生コーチは昨年までのチームメート。選手が頼れる兄貴分としての役割も重要だ。個々の選手の悩みを聞いたり、個人的な練習の相手を務めたりもしている。
 大学で幹部職員として働いているコーチよりグラウンドにいる時間は長いし、動き回る量も半端ではない。いくら頂点を極めた選手だとはいえ、常時、選手と同じように体を鍛え、情熱を持って取り組まないと続けられることではない。
 加えて、この時期になるとコーチとしては登録されていない5年生たちも顔を出し、練習台を務めたり、審判を務めたりしている。その昔、武田先生が「京大には5年生コーチがいるからうらやましい」といわれていた状況が、ファイターズでも生まれているのだ。
 さて、今週末はあの西京極競技場で、京大との全勝対決である。選手たちには、その能力を全開にしたパフォーマンスを期待し、兄貴分たちには、選手たちの精神的な支柱としての役割を果たしてくれるように期待しよう。負けられない一戦が、目の前にある。
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