石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2010/6

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(13)課題が見えた明大戦

投稿日時:2010/06/30(水) 01:27

 長い間、新聞記者をしているせいか、物事を判断する場合、現場で見たこと、感じたことについつい重点を置きすぎてしまう傾向がある。人づてに聞いたことやテレビ画面を通して見たことは信用しないというか、どこか懐疑的になってしまうのである。
 目の前のファイターズの試合なら、たいていのことは網膜に焼き付けており、結構細かいところまで覚えている。プレーに失敗して(あるいは成功して)ベンチに戻ってきたときの選手の顔つき、相手を思い通りに仕留めたときのしぐさ。日々の練習に向かうときの足取り、言葉を交わしたときの何げない表情。現場でそうした細部を見届けることで、大げさにいえば、このコラムは成り立っているのである。
 逆に、テレビがどんなに白熱した試合の模様を伝えてくれても、どこか冷めている。先日も朝の3時半に起きて、サッカーのデンマーク戦をテレビ観戦したが、ゴールが決まったときのリプレーがさんざん繰り返され、中継するアナウンサーがどんなに絶叫しようとも、見ている当方には「しょせん試合の一部。細部まですべてを見たわけではない」という突き放した気持ちがどこかにある。サッカー観戦が嫌いなわけでもないのに、困ったことだ。これも職業病の一種だろうか。
 こんなに「現場至上主義」の人間なのに、先日の明治大学との試合は、途中からしか観戦できなかった。知人の結婚式が岡山市であり、その披露宴に出席していたからである。式がお開きになると、即座に会場を出て、タクシー、新幹線、またタクシーと乗り継いで王子スタジアムに着いたが、もう第2クオーターも残り30秒。前半戦を見ることはかなわなかった。
 得点の表示板を身ながら、いつもの観戦仲間の友人に前半の様子を聞くと「この雨の中やから、どうしても大味になるわな」といいながら、先発QBの糟谷が67ヤードを独走したタッチダウンと、糟谷からWR松原へのタッチダウンパスの様子を話してくれた。そして「明治のランは強い。後半、それにどう対応するかが見どころや」と話してくれた。
 「なるほど、糟谷の潜在能力の高さを考えれば、独走したって不思議はない」「松原の実力からすれば、少々雨が降ってもパスキャッチに何の支障もないはず」と思いながら、あらためてそのプレーを見られなかった悔しさが募る。
 この日も雨。しかし、関西学生アメリカンフットボール界の重鎮、古川明さんのご好意で記者室の一角に席を借りて観戦。持参した結婚式の引き出物や礼服が濡れないので大いに助かった。
 後半は明治のレシーブから始まったが、守備陣が完璧に抑えてすぐにファイターズの攻撃。相手陣48ヤードという好位置からRB久司の22ヤード、RB松岡の12ヤード、再び久司の11ヤードと立て続けのラン攻撃で一気に相手ゴール前に迫った。残る3ヤードをRB稲村が走り抜き、あっという間にTD。3人の快足ランナーの持ち味を存分に発揮した鮮やかなシリーズだった。
 次の明治の攻撃シリーズ。スペシャルプレーを成功させて一気に陣地を進めたが、結局は得点に結びつけられず、再びファイターズの攻撃。自陣32ヤードから始まったこのシリーズも糟谷から松原へのパス、松原のランなどが次々と決まり、あっという間に敵陣24ヤード。ここで再び糟谷が左オープンを独走してTD。K大西のキックも決まって28-0。たとえ後半戦だけでも見ることができれば、と思ってスタジアムに駆けつけてきた値打ちがあった、と思わせてくれる攻撃の連続だった。
 ところが、ここからが凡戦。両軍ともしっかりボールを確保できず、ファンブルの応酬。とりわけファイターズはゴール前で3回もファンブルを重ね、自ら攻撃のリズムを崩してしまった。
 雨の中とはいえ、この結果には納得がいかなかったのだろう。試合後、鳥内監督は「ボールのセキュリティーについては、普段から厳しくいうてんのに。結果オーライの練習ばかりしてるから、ああいうことになるんですわ」と厳しい口調だった。
 ともあれ、この試合で春のシーズンは事実上終了。3日に上ケ原の第3フィールドで行われるJV戦を残すのみとなった。
 春の戦いで見えてきたいくつもの課題を今後どのように克服していくか。春に先発したメンバーを押しのける新戦力がどれくらい成長してくるのか。前期試験をはさんで、夏合宿が始まるまでの間の取り組みが、すべての鍵を握っているような気がする。本気で日本1を目指すのなら、普段から練習のための練習ではなく、常に試合を意識して、さらに高いレベルの鍛錬を続けてほしい。

(12)豪雨の試合に意地を見た

投稿日時:2010/06/23(水) 08:54

 関関戦は、梅雨のまっただ中に行われるせいか、雨になることが多い。18日夕、関西大学のグラウンドで行われた試合も雨。時には激しく降る中での試合となった。
 昨年秋のリーグ戦では、ファイターズが13-17で、思いもよらない敗戦。甲子園ボウルへの道を絶たれた因縁の相手である。昨年6月の関関戦でも、終始苦戦を強いられ、かろうじて終了間際に逆転勝ちしている。
 そんな相手に、お互いメンバーは更新されたとはいえ、どんな戦いぶりを見せるか、興味津々で観戦した。
 立ち上がりから雨は土砂降り。レシーブを選択したファイターズは自陣27ヤードからの攻撃。QB加藤からWR春日へのパス、RB稲村のランで第1ダウンを更新。続いてRB松岡、RB久司の中央突破、さらに久司への18ヤードのパス、稲村の8ヤードランが決まって、相手陣20ヤード付近まで攻撃を進める。
 けれどもここからの攻撃が続かず、K大西が36ヤードのフィールドゴール(FG)で3点を挙げただけにとどまった。
 続く関大の攻撃を守備陣が食い止め、再び自陣47ヤード付近からファイターズが攻撃。このシリーズも久司のランや加藤のスクランブル、WR松田へ24ヤードパスなどで、簡単に20ヤード付近まで迫る。だが、ここから前に進めない。FGを狙った大西のキックも外れ、再び関大の攻撃。
 このシリーズは、守備陣の奮起で簡単に抑えたが、ファイターズの攻撃も進まない。反則やインターセプトもあって、めまぐるしく攻撃権が移り、互いに得点に繋ぐことができない。結局、前半は3-0。
 後半に入っても、ファイターズの攻撃は不思議なほど敵陣20ヤード付近で止まってしまう。ランはそこそこ進むのだが、パスが通らない。意表をついたRBへのショベルパスも相手に見切られ、陣地を進めることができない。結局、第3Qは6分3秒に大西が38ヤード、10分49秒に同じく38ヤードのフィールドゴールを決めて6点を挙げたにとどまった。
 第4Qになると、関大の追い上げはますます急になる。3人のRBを使い分けてゴール前17ヤードに迫ったが、そこで投じたパスを関学のDB重田がインターセプト。流れを変える。
 だが、ファイターズの攻撃もフィニッシュにつながらない。加藤が自陣47ヤード付近からゴールライン近くのWR松原に必殺のロングパスを投じたが、これまたインターセプト。激しく降る雨に手元が狂ったのか、それとも相手の松原へのカバー体制が手厚かったからなのか。ファイターズには嫌な気分がつきまとう展開である。
 ところが、ここで主将平澤が値千金のインターセプト。自陣42ヤード付近から相手QBが投じたパスを瞬間的にキャッチし、そのまま58ヤードを独走してタッチダウン。待望の追加点を奪った。
 かさにかかったファイターズは、自陣30ヤード付近から始まった最後の攻撃シリーズも、ニーダウンで時間を流すことなく、松岡と久司の独走で陣地を進めた。最後は大西が45ヤードのFGを決めてゲームオーバー。18-0で試合を終えた。
 以上、だらだらと試合経過を報告してきたが、そんな中、どうしても伝えておきたい場面が三つあった。
 一つはハーフタイム。強い雨に中で、キッカー大西が何度も何度もフィールドゴールの練習をしていた場面である。前半、最初のFGは決めたが、同じような距離の2度目を失敗。40ヤードぐらいなら、確実に決める力を持っている彼にとっては、たとえ雨の中、ゴムボールという制約があっても、37ヤード付近からのFGを外したことが我慢ならなかったのだろう。スナッパー、ホールダーとともに、時間を惜しんで練習に励んでいた。それが、後半、3度のFGトライをことごとく成功に導いたのだろう。たったひと蹴りで勝敗を決する立場に置かれた選手の意地とプライドを見せつけたような場面だった。
 二つ目は、後半立ち上がりのシリーズで勢いに乗って攻め込む関大の攻撃をインターセプトで断ち切ったLB村上のプレー。彼はその直前、相手のボールキャリアとすれ違って、ダウン更新を許したばかり。そのスピードと当たりを買われてDLからコンバートされてきた彼にとって、相手のランナーにタックルできなかったは屈辱的。その汚名を返上するため、直後に苦手なはずのパスカバーで殊勲を上げた。これまた意地と名誉をかけたプレーだった。
 三つ目は、さきに書いた試合終了直前のファイターズ攻撃。ボールは自陣30ヤード、残り時間は1分を切った状態だったが、ファイターズはニーダウンで時間を流さず、あえて攻撃を選択。松岡と久司がロングドライブを立て続けに決め、加藤が久司へのパスも決めて、あっという間に敵陣27ヤード。ここで大西が落ち着いて45ヤードのFGを決め、試合終了。昨秋、急所でのランプレーをことごとく止められ、結果、思わぬ苦杯をなめた相手に、意地とプライドをかけて挑んだような攻撃シリーズだった。
 降りしきる雨の中、三者がそれぞれの持ち場で見せた意地とプライド。これこそ、この日一番の収穫だったと僕は見た。この意地とプライドが彼らだけでなく、ファイターズのすべての選手、スタッフに共有されたとき、チームは一段高いところに登るに違いない。
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