石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(31)『どんな男になんねん』

投稿日時:2019/12/08(日) 11:10

 ファイターズに寄り添っていれば、たまに得をすることがある。例えば、ファンはもちろん、チームの関係者でもほとんどご存じない朗報を一足早く知ることができることがあるし、損か得かはわからないが、悪い情報もまた同様である。
 今回は、チーム関係者でもごく一部しか目にしていない鳥内監督の著書『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の校正用ゲラを見せていただく幸運に恵まれた。金曜日の夜に後書きや著者の紹介文までを含めた263ページ分のゲラを入手、一気に読み上げた。
 監督をひいきして言うわけではないが、めちゃくちゃ面白い。長い間、チームに関係していた僕も知らなかった話がいっぱいあるし、なによりも教科外教育としてのスポーツ活動、課外活動としてのアメリカンフットボールを考える上で大切なことがどっさり盛り込まれている。日本のアマチュアスポーツの現在地とその問題点を知り、それを突き破っていくための処方箋というかヒントも随所にちりばめられている。
 何よりも読みやすい。この本は鳥内さんとスポーツライター、生島淳さんの共著の体裁をとっているが、二人が分担して書いたのではなく、生島さんが鳥内さんに何回かに分けてインタビューした内容を整理し、それを一冊の本に仕上げている。そのため、監督の語り口調(つまり、いつもの大阪弁)が生き生きと再現されている。
 つまり、本を「読む」というよりも、いつもの鳥内節を「聞く」といってもよい仕掛けになっており、その分、内容が頭に入りやすい。もちろん、大学の研究者の論文にありがちな説教臭は全くないし、スポーツライターと称する方々のひねくり回した表現もない。
 素のまんまの鳥内さんがいつも通りにハドルの中でしゃべり、学生との個人面談でやりとりしている言葉を整理整頓しているだけ。そういえば言い過ぎかもしれないが、そういう仕立て方になっているから、とにかく理解しやすい。本を読むのは苦手という人でも、一気に読み終え、その主張が(100%共感するかどうかは人さまざまだろうが)100%理解できることだけは保証できる。
 能書きはこれくらいにして、内容にちょっと踏み込んでみたい。とは言いながら、あんまり書き込むと本を手に取って読む楽しみを奪うことになるから、書店でざっと立ち読みするくらいの感覚で。まずは、僕が気になった見出し、小見出しを並べてみよう。
「4年の時の京大戦、ファイトオンを歌っとったら、なんや知らん、涙が出てきたで」
「4年生になったら、失敗できないからね。そこに成長の鍵があるんです」
「コーチになったばかりのことを思い出すと反省ばかりやな」
「自分の弱さを認めることがかっこええで」
「けが人をいたわることもチームの強さになるよ」
「4年生にはみんなキャプテンと同じ気持ちでやってくれ、言うてます」
「学生が育つよう、できることはたくさんあるよ」
「観察や、観察。練習前の学生を見ているといろいろなことが分かるで」
「教育いうのは奥が深いで」
「指導の基本はやっぱり言葉やね」
「学校と教室と、フットボールのフィールドでは、決定的な違いがあると気づいたね」 「スポーツの楽しさって、どこにあると思う? 勝つために考えることやで」
「関西学院いうのは、負けないチームやと思う。関西学院のフットボールは、泥臭いよ」「いまも申し訳ない学年があんねん」
「自分の不安を受け入れる。それが大切」
「教え方がうまい4年生は慕われるものですよ」
「効率、合理性。これもフットボールやるうえでは大事なことです」
「スポーツは、損得でかなりなの部分説明できるで」
「効率化を考えたら、もっと日本のスポーツは良くなると思うねん」
「スーパーな相手を止めるのは、やっぱりせこいヤツやな」
……こうしたキーワードを使いながら、ファイターズのフットボールと自身の指導理念、方法を語り、結論の部分は「世界一安全なチームをつくる」。自身の学生時代は、根性練もあったと振り返りながら「意味なかったな。根性を鍛えたからいうて、勝たれへんからな。めちゃめちゃな追い込み方して練習したからって勝てるものでもない。けがをするリスクを増やしているだけです」と強調。
 最後に「2003年8月16日のことは忘れたことありません」と、その日、東鉢伏での夏合宿中に4年生の平郡雷太君を亡くしたことを取り上げながら、関西学院を世界一安全なチームにすると誓ったことを説明。そこから生まれた「ファイターズ コーチング基本方針」を紹介している。
 大阪人が普段の暮らしの中で使っている言葉で軽妙に展開される教育論はもちろん、その巻末に世界一安全なチームづくりの方針を公開しているところに、鳥内監督の真実があると僕は考えている。願わくは、この方針が日本のあらゆるスポーツ指導者に共有されること。それがファイターズに寄り添ってコラムを書き続けている僕の願いである。
 その期待に応えてくれるであろうこの終章が設けられたことだけでも「この本を手にする価値がある」と強くオススメしたい。もちろん「青い血の流れている」ファイターズファンにとっては必携の書である。
追伸
本は12月下旬の発売ですが、甲子園ボウルの会場でも部数限定で「先行販売」されるそうです。

◆どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」
鳥内秀晃・生島 淳 / 著
ベースボール・マガジン社
https://www.bbm-japan.com/_st/s16778973

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(30)会心の勝利

投稿日時:2019/12/03(火) 09:20

 会心の勝利、といえば言い過ぎかもしれない。けれども、強豪・立命館に立ち向かう直前に、ファイターズの練習を見せてもらう機会のあった僕にとっては、十分に予測できた勝利であり、会心の勝利であった。
 予測は当然、外れることもある。身内をひいきするあまり、眼鏡が曇ることもあるだろう。しかし、間近でファイターズの練習を見てきた目で見ると、そこには1ヵ月前の練習とは明らかに異なる空気が流れていた。
 例えば、選手一人一人の練習に取り組む姿勢が敗戦前と、敗戦後では明らかに変わった。仲間同士で知恵を出し合い、一つ一つのプレーに惜しみなくアドバイスを交わす場面も増えてきた。逆に、不用意な落球や不注意から起きたミスについては、選手の中から厳しい言葉が飛ぶようになった。ハドルの中心にいる寺岡主将の声の調子、勢いも変わった。
 リーグ戦で立命館に敗れるまでは、正直に言って、どこかに緩い空気が漂っていた。緩いというと語弊があるかもしれないが、練習でプレーが失敗しても、当該の選手が本気で悔しがっている姿はほとんど見られず、仲間の明らかな失敗を本気で叱っている場面も見たことがない。チームを率いる4年生の言葉も、ありきたりで上滑りしている。もちろん主将と副将が怒鳴りあい、殴り合いになる寸前、というような場面にも遭遇したことがない。
 そんな空気が前回の敗戦で一変したように僕には思えた。練習の時間は同じでも、テンポは早くなり、より正確性を追求する。立命館の強くて素早いプレーヤーの動きを想定し、それを逆手にとる仕組みを一つ一つ周到に準備する。勝負すべきところでは大胆な作戦を仕掛け、相手の意図を外す仕掛けにも工夫を凝らす。
 立ち上がりから矢継ぎ早に展開し、相手守備陣を混乱させたノーハドルオフェンスは、そうした工夫の総仕上げといってもよい。
 RB三宅の立て続けの独走タッチダウンも、QB奥野の持つ高いポテンシャルとチームで一番のスピードを持つ三宅の能力を生かすために練り上げてきた作戦の成果である。もっといえば、攻撃のキーとなるOLやTEのメンバーを個人指導で徹底的に鍛えてきたコーチの指導のたまものといってもよい。
 前半を14-3で折り返し、後半戦が始まると同時に仕掛けたオンサイドキックも、チームにとっては必然であり、キッキングチームのリーダー、安藤君を中心に周到に練り上げてきたプレーである。
 立命館の強さは、前回の試合で骨身に染みて知った。個々の選手の反応の速さもただごとではない。それを理解しているからこそ、相手の意表を突く場面で、意表を突くプレーが求められる。それを具体化し、勝負をかけたのが、立ち上がりからのテンポの速いノーハドルオフェンスであり、ワイルドキャット体型からの三宅のランである。そして、その仕上げが後半開始早々のオンサイドキックとその成功である。
 こうした仕掛けで、ファイターズが先手をとり、チームは終始、落ち着いてプレーを展開することができた。逆に先手をとられた相手には「こんなはずじゃない」という焦りが生まれる。その焦りがプレーのリズムを微妙に狂わせ、イージーなパスを落とすような場面が出てくる。それがまた焦りを増幅し、チームから余裕が失われる。
 そこにつけ込んだのがファイターズの守備陣である。DLは鋭い出足で相手のボールキャリアに襲いかかり、QBにパスを投げる余裕を与えない。あわやTDという場面ではファイターズのDBが懸命にパスに飛びつく。ここ一番の場面で必殺のパスをもぎ取ったDB宮城をはじめLB海崎、DB松本が各1本のインターセプトを記録。QBサックに至ってはDL板敷が4本、LB海崎、DB三村、DL寺岡がそれぞれ1本という「大豊作」だった。
 それもこれも、試合開始々、2本のTDを立て続けに奪ったノーハドルオフェンスの成果である。それを仕掛けたベンチの果敢な決断であり、その期待に応えた選手たちの勇気である。
 試合の2日前、大村コーチに話しかけると「結果は神のみぞ知るです」と、冗談めかしていいながら、「でも、プレーの準備では、どこにも負けていない自信があります」という返事があった。その言葉を鮮やかに証明したような試合内容と結果に、僕はまたフットボールという競技の持つ奥の深さと魅力を知ったのである。
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