石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(11)山積する課題

投稿日時:2022/10/17(月) 19:48

 スタンドから観戦していても、まだまだ課題が多いことが見えた試合だった。
 15日、王子スタジアムで行われた今季第4戦、神戸大学との戦いは29-0。試合そのものは終始、ファイターズが先手を取り、優位に進めていた。試合後、公表されたスタッツを見ても、それは理解できる。総獲得ヤードは309ヤード(ラン121ヤード、パス188ヤード)、逆に相手に奪われた陣地は114ヤード(ラン10ヤード、パス124ヤード)。相手の攻撃権を奪うインターセプトの回数はファイターズが5回、相手が2回。この数字だけを見れば、ファイターズが優位に試合を進めていたと受け止める人も多いだろう。
 しかし、スタンドから見ている限り、そういう楽観的な気分とはほど遠かった。どうしてか。例えば、反則回数を見てみよう。相手は1回、マイナス10ヤードなのに、ファイターズは6回、マイナス60ヤード。それだけでも驚きだが、それらの反則がすべて攻撃時に出ていることに、もっと驚く。自分たちが必死になって攻め込んでいるのに、それを自分たちで帳消しにしてしまっているのだ。
 大村監督にとっても、これは想定外だったのだろう。試合後も記者団の取材を受けて「やることは山積み」「これ以上、オフェンスが足を引っ張るわけにはいかない」と厳しい言葉を連ねておられた。
 もちろん、試合には相手がある。神戸大が自分たちの戦術を練り、とにかく積極的に攻め、守り続けようと、終始、意表を突くプレーを出し続けたことも影響している。その守備の揺さぶりに対応しようとしたファイターズのOL陣が思わず反則をしてしまったように見える場面も少なくなかった。
 もちろん、この日は攻守とも積極的に下級生を起用していたせいもあるのだろう。それにしてもこの日の攻撃陣にはミスが多かった。これを克服しない限り、到底、関大や立命を相手に勝利はおぼつかない。
 そこをどう克服していくのか。この日起用された下級生たちはもちろん、試合経験豊富な上級生にも奮起を促したい。
 一方で、いくつかのうれしい場面にも出会えた。一つは、けがでずっと試合から遠ざかっていたレシーバーの4年生、河原林と梅津の2人がフィールドに戻ってきたこと。共に的確なブロックや鮮やかなパスキャッチを披露し、さすがは数々の修羅場をくぐってきた4年生というプレーを見せてくれた。同じ4年生の糸川や3年生の鈴木、衣笠らと共に、今季のKGパスオフェンスを一層の高みに導く活躍を期待したい。
 もう一つは、ディフェンスバックとして起用された下級生の活躍である。苦しい場面でインターセプトTDを決めたDB中野は2年生、同じDBの東田と磯田(ともに1年生)も、それぞれ巧みな位置取りとカバーで鮮やかなインターセプトを決めた。競り合いの中で2度のインターセプトを決めた松島も2年生である。
 場内のFM放送席で解説を務めておられたOBの片山さんが試合中、何度も1年生2人の動きを絶賛されていただけに、彼らがパスを奪い取ったときには思わず拍手をしてしまった。
 アメフットは「戦術のスポーツ」であり、「交代自由」な競技である。この特徴を最大限に生かすためには、選手層を厚くしなければならない。そのためには、日頃の練習だけではなく、試合から学ぶことも数多い。そういう意味では、いくつものミスがあり、苦しい展開を強いられたこの日の試合は、最高の教材になるはずだ。
 ファイターズのみなさん。監督のいわれる「山積みになっている課題」に、懸命に取り組み、自らを鍛え、仲間を高みに引き上げてもらいたい。栄光への道は、自分たちで切り開くしかない。

(10)胸に響く記事が満載「ファイターズ80周年記念誌」

投稿日時:2022/10/11(火) 14:50

 出来上がったばかりのファイターズの80周年記念誌が届いた。近々、発行されるとは聞いていたが、読んで驚いた。恐ろしいほど内容が充実しているのである。
 これは機能する組織を作るための実践例であり、大学の正課外教育の活動を進めるための教科書でもある。組織の危機管理のあり方を考えるための手引きにもなるし、もちろんチームを強化するための教科書にもなる。
 余計なことながら、これがライバルチームの手に渡ったら、ファイターズに勝つチームをつくるための格好の手引きになるのでは、と心配になるほどの内容がびっしりと詰め込まれている。
 驚いたのが、この企画を立て、出版にまでこぎ着けた人たちも、原稿の筆者も、インタビューする人も、そのすべてがファイターズで卒業生であること。つまり、編集者から筆者まで、さらにいえば出版を企画し、費用も受け持った一般社団法人「KG FIGHTERS CLUB」(旧OB会)を含めた関係者全員が同じ釜の飯を食い、同じ上ヶ原の空気を吸った仲間であるということである。
 僕も仕事柄、会社の社史や地域の案内誌、観光ガイドブックなどの企画や出版の相談に乗ったり、その宣伝を手伝ったりしたことは何度もあるが、こんな風にすべてを自分たちで企画し、原稿を書き、出版の費用までをまかなうなんて話は、自費出版以外、聞いたことがない。それだけではなく、出来上がった本の内容が正課外教育の教科書にそのまま使えるほど充実しているなんて例には出会ったこともない。
 と、驚いてばかりではなく、具体的に記念誌の内容を順を追って紹介してみよう。
 まず、プロローグで「勝利への執念」「自主の尊重」「自由な風土」「チームワーク精神」、その中で培われてきたファイターズスピリット……とうたい、幾多の苦難と真摯に対峙し、挑戦を重ねて来た足跡を回顧し、新たなる飛躍への糧にしたい、と出版の目的を宣言。第1部には「変革の30年」と見出しを付けて、この30年間の軌跡を追い、第2部には「時に刻まれた、栄光の軌跡」として1941年の創部から1990年まで50年の歴史を振り返っている。その50年間については、フィターズ草創期のことを熟知されていた元監督の米田満先生や関西アメリカンフットボール界の生き字引と呼ばれる古川明さんたちを中心に刊行されたファイターズの「50年史」に克明に記されていることもあり、今回はその後の30年を中心に記録している。
 「変革の30年」の冒頭は、鳥内前監督へのインタビュー。朝日新聞社でスポーツ担当記者をしていた大西史恭氏(2008年卒)の質問に、鳥内さんがいつもの口調でズバリズバリと答えている。例えば、「監督のやりがいは」との質問には「社会に出て役に立つ人間を送り出すだけやん」「学生があんな人になりたいな、って思ってくれる、憧れの先輩になって欲しいねん」と答える。
 「勝ったら4年生のおかげ、負けたら監督の責任でええねん」という言葉もある。なんせ6ページに渡るインタビューである。読み応えはたっぷりだ。
 読み応えといえば、有馬隼人氏(2000年卒)による大村監督へのインタビューも中身が濃い。これまた8ページにわたるロングインタビューで、現場の雰囲気が手に取るように伝わってくる。僕がもし、ライバル校の監督やコーチだったら、この8ページ分のコピーをとってメモ帳に挟み、毎日、練習の始まる前に読み上げて「ようし、負けるもんか」と自分を叱咤するに違いない。
 そうした記事だけではない。現場のコーチやトレーナーがこの30年間に取り組んで来られた取り組みを克明に紹介。ファイターズというチームのよって立つところ、現在地を具体例を上げて説明している。詳細は現物を読んでいただくとして、筆者(敬称略)とタイトルだけを紹介しておく。
 1「Reborn-KG」(宮本敬士)、2「ディレクター部門(マネジメント体制)の確立」(石割淳)、3「ファイターズ阪神淡路大震災ドキュメント」(小野宏)、4「ファイターズと国際交流」(野原亮一)、5「平郡雷太君の事故について」(小野宏)、6「安全を追求した30年の取り組み」(西岡宗徳)、7「普及活動・地域貢献活動の展開」(石割淳)、8「OB・OG会の歩みと、これから」(徳永真介)、9「コーチングスタッフの変遷」(宮本敬士)、10「女子スタッフと分析スタッフの誕生」(小野宏・宮本敬士)、11「30年間の戦術の変遷・オフェンス1991~2001」(小野宏)、12「同・デイフェンス1991~1999」(堀口直親)、13「同オフェンス2002~2010」(小野宏)、14「同ディフェンス2000~2010」(堀口直親)、15「同オフェンス2011~2021」(大村和輝)、16「同デイフェンス2011~2021」(大寺将史)、17「キッキング」(小野宏)、18「ショートヤードの魂」(神田有基)、19「トレーニング革命の時代の先に」(油谷浩之)
 それぞれが指導者として苦しみ、努力を重ね、発想を飛躍させて取り組んできた軌跡を具体例を上げて紹介しており、現役の部員はもちろん、今後入部してくるメンバーにも「ファイターズの真実」を知り、ここで学ぶことの励みになるに違いない。
 毎年、僕が続けているファイターズ志望の高校生を対象にした文章表現の勉強会でも教材にしたいような記念誌である。
 一般の方も神戸大戦から試合会場のグッズ販売テントで3000円で購入することができる。
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