石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(14)「どうした関学」といわれて
投稿日時:2009/07/13(月) 16:31
いま発売中のタッチダウン誌に「どうした関学」という小さな特集記事がある。お読みになっていない方のために、ポイントだけをお伝えしよう。
結論から言えば、その記事は春のシーズンのファイターズの戦いぶりを振り返り「どうした?関学」と問いかけているのである。
今季のファイターズは、初戦の日体大戦こそ大差で勝ったが、続く日大と京大の試合は、終盤にかろうじて逆転勝ち。内容的には、ともに押しまくられていた。唯一、社会人との戦いとなったアサヒ飲料戦は、なすすべなく大敗。東京に出掛けて戦った明治大戦も、相手に存分に走られて敗れ、最後の関大戦も終始リードを許し、最後の攻撃シリーズでなんとか逆転勝ち。
こういう戦いの足跡を振り返って「どうした?関学」と疑問を投げ掛け、本当の力はどの辺にあるのか、もたつきの原因はどこにあるのかと探っているのである。
たしかに今季の戦いぶりを見る限り、ファイターズのひ弱さは際立っている。その辺りのことは、このコラムの9回目や12回目にも書いてきた。僕自身が「どうした?ファイターズ」と聞きたいぐらいだ。
タッチダウン誌では、主将の新谷君や副将の亀井君へのインタビューを紹介したり、大村コーチの発言を補足したりしながら「どうした」の内容を突き止めようとしていた。しかし、当然のことながら、そう簡単に原因が突き止められるわけではない。その前に、本当に実力が落ちているのかどうかも検証できないだろう。
第一、監督をはじめコーチ陣があたふたしていない。僕のような素人がスタンドから見ていると、かなり今季は苦しそうだと見えるのだが、内部をよく知る監督やコーチから見れば、それほど心配することではないのかもしれない。例年になく2年生や1年生に成長を期待できるタレントがそろっていることで、チーム内の競争が激しくなり、夏から秋にかけてチーム力が飛躍的に上昇する手応えをつかんでいるのかもしれない。
あるいは、いまは昨年とは根本的に異なるチーム作りをしている途上であり、春の試合結果や内容は、そんなに気にしていないのかもしれない。「どうした関学」と問われても、本当のことは答えたくない、あるいは答えようがないのである。あえて答えを求めても「秋のシーズンを見てください」というのが正解かもしれない。
ならば、春のシーズンを振り返って、外野からとやかく言っても仕方がない。
それよりも、選手たちにとって、少しは実のあること、成長につながるかもしれないことを言っておく方がまだ生産的だろう。
こんな話がある。紹介したい。
先日、和歌山県田辺市で、関学の「教育フォーラム」が開かれ、関学の教授で精神科医の野田正彰さんが講演をされた。タイトルは「現代の子どもを考える」。題名の通り、現代という、子どもにとって生きにくい社会をどう生きるか、という内容の話だった。1時間半ほどの内容の濃い話だったが、その結論の部分で、野田先生は「私たちが生きていくために大切なこと」として次のようなことを話された。
一つは、情報化社会の中で、単なる知識は流れる情報と同じですぐに古くなってしまう。だからこそ知識に偏るのではなく、生きていくモチーフ、意欲が必要です。社会と接する中で、子どもは「あんな事がしたい」「こんな風になりたい」と思っています。その社会性を広げ、大人が一緒になって楽しむことが必要ではないでしょうか。だからモチベーションを持つことが最も大切なことです。自分の成長過程で得たそれぞれの物語から、自分の関心を高めていくという確かなモノを持つことが必要なのです。
もう一つある。人と人との信頼を形成する判断力を大切にすることです。「有名な会社に行っている」ということは、人を判断する材料にはなりません。自分なりの判断力を持つことが必要なのです。
そういう話だった。
これは「子どもが生きていくために必要なこと」として話をされたのだが、それを「ファイターズで成長するために必要なこと」と置き換えて考えれば、分かりやすい。
つまり、アメリカンフットボールに志したころはだれも「あんな選手になりたい」「あんなプレーがしてみたい」と思ったはずだ。自ら選んだ、その憧れというか目標に向かって意欲的に取り組むことが、自分を高めることにつながり、それが確固たる自信になって社会を生きていく力になるはずである。
もう一つの自分の判断力を磨く、自分なりの物差しを身につけることは、人と人との信頼を形成することから始まる。それもまたアメフットという競技の根底を成す事柄である。仲間への信頼、コーチと選手との信頼関係、自分自身への信頼。それを築き上げるためには、自らが立ち上がるしかない。自分自身に厳しい課題を課し、それを実現して見せなければ、周囲の信頼は得られない。口先だけでは通用しないのである。
アメフットには、まったく門外漢の先生の話だったが、こう考えると、ファイターズの諸君にとっても、示唆に富む内容が一杯含まれていた。あえて紹介させていただいた理由である。
結論から言えば、その記事は春のシーズンのファイターズの戦いぶりを振り返り「どうした?関学」と問いかけているのである。
今季のファイターズは、初戦の日体大戦こそ大差で勝ったが、続く日大と京大の試合は、終盤にかろうじて逆転勝ち。内容的には、ともに押しまくられていた。唯一、社会人との戦いとなったアサヒ飲料戦は、なすすべなく大敗。東京に出掛けて戦った明治大戦も、相手に存分に走られて敗れ、最後の関大戦も終始リードを許し、最後の攻撃シリーズでなんとか逆転勝ち。
こういう戦いの足跡を振り返って「どうした?関学」と疑問を投げ掛け、本当の力はどの辺にあるのか、もたつきの原因はどこにあるのかと探っているのである。
たしかに今季の戦いぶりを見る限り、ファイターズのひ弱さは際立っている。その辺りのことは、このコラムの9回目や12回目にも書いてきた。僕自身が「どうした?ファイターズ」と聞きたいぐらいだ。
タッチダウン誌では、主将の新谷君や副将の亀井君へのインタビューを紹介したり、大村コーチの発言を補足したりしながら「どうした」の内容を突き止めようとしていた。しかし、当然のことながら、そう簡単に原因が突き止められるわけではない。その前に、本当に実力が落ちているのかどうかも検証できないだろう。
第一、監督をはじめコーチ陣があたふたしていない。僕のような素人がスタンドから見ていると、かなり今季は苦しそうだと見えるのだが、内部をよく知る監督やコーチから見れば、それほど心配することではないのかもしれない。例年になく2年生や1年生に成長を期待できるタレントがそろっていることで、チーム内の競争が激しくなり、夏から秋にかけてチーム力が飛躍的に上昇する手応えをつかんでいるのかもしれない。
あるいは、いまは昨年とは根本的に異なるチーム作りをしている途上であり、春の試合結果や内容は、そんなに気にしていないのかもしれない。「どうした関学」と問われても、本当のことは答えたくない、あるいは答えようがないのである。あえて答えを求めても「秋のシーズンを見てください」というのが正解かもしれない。
ならば、春のシーズンを振り返って、外野からとやかく言っても仕方がない。
それよりも、選手たちにとって、少しは実のあること、成長につながるかもしれないことを言っておく方がまだ生産的だろう。
こんな話がある。紹介したい。
先日、和歌山県田辺市で、関学の「教育フォーラム」が開かれ、関学の教授で精神科医の野田正彰さんが講演をされた。タイトルは「現代の子どもを考える」。題名の通り、現代という、子どもにとって生きにくい社会をどう生きるか、という内容の話だった。1時間半ほどの内容の濃い話だったが、その結論の部分で、野田先生は「私たちが生きていくために大切なこと」として次のようなことを話された。
一つは、情報化社会の中で、単なる知識は流れる情報と同じですぐに古くなってしまう。だからこそ知識に偏るのではなく、生きていくモチーフ、意欲が必要です。社会と接する中で、子どもは「あんな事がしたい」「こんな風になりたい」と思っています。その社会性を広げ、大人が一緒になって楽しむことが必要ではないでしょうか。だからモチベーションを持つことが最も大切なことです。自分の成長過程で得たそれぞれの物語から、自分の関心を高めていくという確かなモノを持つことが必要なのです。
もう一つある。人と人との信頼を形成する判断力を大切にすることです。「有名な会社に行っている」ということは、人を判断する材料にはなりません。自分なりの判断力を持つことが必要なのです。
そういう話だった。
これは「子どもが生きていくために必要なこと」として話をされたのだが、それを「ファイターズで成長するために必要なこと」と置き換えて考えれば、分かりやすい。
つまり、アメリカンフットボールに志したころはだれも「あんな選手になりたい」「あんなプレーがしてみたい」と思ったはずだ。自ら選んだ、その憧れというか目標に向かって意欲的に取り組むことが、自分を高めることにつながり、それが確固たる自信になって社会を生きていく力になるはずである。
もう一つの自分の判断力を磨く、自分なりの物差しを身につけることは、人と人との信頼を形成することから始まる。それもまたアメフットという競技の根底を成す事柄である。仲間への信頼、コーチと選手との信頼関係、自分自身への信頼。それを築き上げるためには、自らが立ち上がるしかない。自分自身に厳しい課題を課し、それを実現して見せなければ、周囲の信頼は得られない。口先だけでは通用しないのである。
アメフットには、まったく門外漢の先生の話だったが、こう考えると、ファイターズの諸君にとっても、示唆に富む内容が一杯含まれていた。あえて紹介させていただいた理由である。
(13)ヤマモモの木の下で
投稿日時:2009/07/01(水) 08:48
関西学院大学の第3フィールドを見渡す小高い場所に、ヤマモモの木がある。2003年8月16日、夏合宿の最終日に、不慮の事故で亡くなった平郡雷太君を偲んで植えられた記念樹である。
当初は上ケ原のグラウンドを見下ろす高台に植えられていたが、2006年春、第3フィールドの完成とともに、現在の場所に移された。初めは、きれいに樹形が整えられ、いかにも植木です、という風情だったが、年を重ねるに連れてぐんぐん成長し、ずいぶん大きくなった。これから、5年、10年と歳月を重ねると、グラウンドを睥睨(へいげい)する大木になりそうな予感さえする。
梅雨晴れのひととき、照りつける日差しをさえぎるその木の下で、ファイターズの練習を眺めていると、なぜか平郡君が隣にいるような気がしてくる。あのはにかんだような笑顔やサラサラの髪が目の前に浮かんでくる。
その木の下で、先週末は大阪学院大とのJV戦を観戦した。関大戦に続き、2週連続のホームグラウンドでの試合である。
面白かった。なんといっても、普段、試合に出ることの少ない下級生がどんどん登場してくれるのが楽しい。その下級生がまた、次々と素晴らしいプレーを見せてくれる。ファンには、こたえられないゲームである。
先発メンバーや得点経過は「試合結果」から確認していただくとして、まずは目に付いた選手の名前を並べていきたい。
オフェンスでは、RBの稲村(3年)。春の試合に何度も出場している選手だから、JV戦で活躍するのは当然かもしれないが、バランスのとれた走りっぷりが素晴らしかった。43ヤードの独走TDランをはじめ、5回で93ヤード、格の違いを見せつけた。
2番手のRB林(2年)も、7回ボールを持って45ヤード。RB陣は層が厚いから、1本目の選手を追い抜くのは大変だが、今後の成長に期待したい選手だった。
注目のQBは前半が2年生の糟谷、後半途中から1年生の遠藤(啓明)が出場した。どんぴしゃのタイミングで投げたパスが相手の反則(インターフェア)で通らなかったり、レシーバーがぽろりと落としたりして、記録上はそんなに目立たなかったが、ともにファイターズのQBとして必須の資質であるパスを投げる能力は十分だった。
レシーバー陣も先発した正林、渡辺(ともに3年)、赤松(2年)、それにタイトエンドで出場した1年生の榎(仁川学院)が潜在能力の高さを見せた。あとはしっかり練習を積んで、正確に捕球できるようにすることだ。このポジションも、1本目に高い能力を持った選手が多いから、そこに割り込むのは大変だろうが、これまた練習を重ねるしかない。
ラインも同様である。対戦相手との力関係で、よくも悪くも見えるポジションだから、この日の出来は割り引いて考えなければならないが、それでもDLから移ってきた4年生の藤本をはじめ、3年生の村田や1年生の徳植(武蔵工大付)などは、1本目に割り込んでいけそうな可能性を感じさせてくれた。これまた、これからの練習次第だろう。
ディフェンスは、目立った選手が目白押し。なかでも2年生のDB重田、1年生DLの梶原(箕面自由)、金本(滝川)の活躍が素晴らしかった。重田は強烈なタックルが魅力だし、なによりプレースタイルが熱い。試合を決定づけた2Q終盤のインターセプトTDは、いつも集中してプレーに取り組んでいる彼へのご褒美だったと思える。
ラインの外側を守った梶原と金本は、ともに186センチの長身。それでいて、動きが素早い。相手主将に、一度ははねとばされながら、その力を利用してQBサックを決めた梶原のプレーや、正確性には欠けるが、毎回のように相手のラインを割っていく金本の動きを見ていると、ともに秋は先発メンバーかという期待さえ抱かされた。
1年生では、ほかにもDLの早坂(法政二)やLB高吹(武蔵工大付)らが潜在的な能力の高さを見せてくれた。
これにいまU19の日本代表として、アメリカに遠征中の2年生3人、1年生3人が戻ってくる。
春はどの試合も、苦しい戦いを強いられたファイターズだが、こうして下級生までを視野に入れると、なかなか層が厚い。彼らが才能をどう伸ばすか。彼らの活躍に刺激を受けた1本目の選手たちが、どのように力を伸ばしていくか。それが秋のファイターズの成績に直結する。
夏の合宿でしっかり鍛錬し、力を蓄えた彼らが秋のシーズンに登場する姿を想像しただけでワクワクする。
当初は上ケ原のグラウンドを見下ろす高台に植えられていたが、2006年春、第3フィールドの完成とともに、現在の場所に移された。初めは、きれいに樹形が整えられ、いかにも植木です、という風情だったが、年を重ねるに連れてぐんぐん成長し、ずいぶん大きくなった。これから、5年、10年と歳月を重ねると、グラウンドを睥睨(へいげい)する大木になりそうな予感さえする。
梅雨晴れのひととき、照りつける日差しをさえぎるその木の下で、ファイターズの練習を眺めていると、なぜか平郡君が隣にいるような気がしてくる。あのはにかんだような笑顔やサラサラの髪が目の前に浮かんでくる。
その木の下で、先週末は大阪学院大とのJV戦を観戦した。関大戦に続き、2週連続のホームグラウンドでの試合である。
面白かった。なんといっても、普段、試合に出ることの少ない下級生がどんどん登場してくれるのが楽しい。その下級生がまた、次々と素晴らしいプレーを見せてくれる。ファンには、こたえられないゲームである。
先発メンバーや得点経過は「試合結果」から確認していただくとして、まずは目に付いた選手の名前を並べていきたい。
オフェンスでは、RBの稲村(3年)。春の試合に何度も出場している選手だから、JV戦で活躍するのは当然かもしれないが、バランスのとれた走りっぷりが素晴らしかった。43ヤードの独走TDランをはじめ、5回で93ヤード、格の違いを見せつけた。
2番手のRB林(2年)も、7回ボールを持って45ヤード。RB陣は層が厚いから、1本目の選手を追い抜くのは大変だが、今後の成長に期待したい選手だった。
注目のQBは前半が2年生の糟谷、後半途中から1年生の遠藤(啓明)が出場した。どんぴしゃのタイミングで投げたパスが相手の反則(インターフェア)で通らなかったり、レシーバーがぽろりと落としたりして、記録上はそんなに目立たなかったが、ともにファイターズのQBとして必須の資質であるパスを投げる能力は十分だった。
レシーバー陣も先発した正林、渡辺(ともに3年)、赤松(2年)、それにタイトエンドで出場した1年生の榎(仁川学院)が潜在能力の高さを見せた。あとはしっかり練習を積んで、正確に捕球できるようにすることだ。このポジションも、1本目に高い能力を持った選手が多いから、そこに割り込むのは大変だろうが、これまた練習を重ねるしかない。
ラインも同様である。対戦相手との力関係で、よくも悪くも見えるポジションだから、この日の出来は割り引いて考えなければならないが、それでもDLから移ってきた4年生の藤本をはじめ、3年生の村田や1年生の徳植(武蔵工大付)などは、1本目に割り込んでいけそうな可能性を感じさせてくれた。これまた、これからの練習次第だろう。
ディフェンスは、目立った選手が目白押し。なかでも2年生のDB重田、1年生DLの梶原(箕面自由)、金本(滝川)の活躍が素晴らしかった。重田は強烈なタックルが魅力だし、なによりプレースタイルが熱い。試合を決定づけた2Q終盤のインターセプトTDは、いつも集中してプレーに取り組んでいる彼へのご褒美だったと思える。
ラインの外側を守った梶原と金本は、ともに186センチの長身。それでいて、動きが素早い。相手主将に、一度ははねとばされながら、その力を利用してQBサックを決めた梶原のプレーや、正確性には欠けるが、毎回のように相手のラインを割っていく金本の動きを見ていると、ともに秋は先発メンバーかという期待さえ抱かされた。
1年生では、ほかにもDLの早坂(法政二)やLB高吹(武蔵工大付)らが潜在的な能力の高さを見せてくれた。
これにいまU19の日本代表として、アメリカに遠征中の2年生3人、1年生3人が戻ってくる。
春はどの試合も、苦しい戦いを強いられたファイターズだが、こうして下級生までを視野に入れると、なかなか層が厚い。彼らが才能をどう伸ばすか。彼らの活躍に刺激を受けた1本目の選手たちが、どのように力を伸ばしていくか。それが秋のファイターズの成績に直結する。
夏の合宿でしっかり鍛錬し、力を蓄えた彼らが秋のシーズンに登場する姿を想像しただけでワクワクする。
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