石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(20)ファイターズの財産
投稿日時:2009/09/09(水) 21:50
この季節、ファイターズの練習は夕方から始まる。熱中症など炎天下の練習に伴うリスクを避けるためである。夕方からなら、大学の幹部職員として働いているコーチたちが練習に出やすくなるという利点もある。
しかし、残暑は厳しい。夕方の4時、5時といっても、まだまだ太陽が照りつけている。先週末に2日間、練習を見に上ケ原の第3フィールドに出掛けたが、日陰を探すのに大わらわ。結局は2日とも、例の「平郡君のヤマモモ」の下で、冷たいペットボトル片手の見学となった。
ところが、その炎天下に、平然とグラウンドに降りていく「ご老体」が二人もおられた。ご老体なんて呼べば、叱られるかもしれないが、ともに70歳を過ぎておられるから、まあよろしかろう。武田建先生と前島宗甫先生である。
少々、頭頂部は寂しくなられたが、心は万年ヘッドコーチの武田先生は、フレッシュマンのパス練習を見守り、もっぱら選手を褒めることに徹しておられる。選手が好プレーをするたびに、即座に「ナイスキャッチ」と声をかけ、手を叩く。
前島先生は故障から回復途上の選手たちをめざとく見つけて声をかけ、回復具合を聞いたり、「あせるなよ」と慰めたりされている。いまは引退されているが、元々は関西学院の宗教総主事。試合前には必ず選手たちを集めてお祈りをし、士気を鼓舞したり、平常心を保つようにし向けたりされている。そんな慈父のような先生から声をかけられると、苦しい練習をしている選手たちの表情が一瞬、ゆるんで見える。砂漠にオアシス、干天に慈雨。見ている方もホッとする光景である。
お二人が醸し出される、そういう光景を見るたびに、僕はファイターズの伝統を感じる。これがファイターズの財産だ、アドバンテージだと実感する。
ファイターズを支えている存在といえば、真っ先に思い浮かぶのは、マネジャーであり、トレーナーであり、アナライジングスタッフである。5年生コーチやサンデーコーチの役割も重要だし、裏方を裏から支えるディレクター補佐の存在も、他のチームに傑出して優れている。
けれどもそれは、チームを内部から支える人たちである。他のチームにも大なり小なりそういう役割を果たす人たちはいる。
しかし、武田先生や前島先生のような役割を果たしている人は、そうそうどのチームにも存在するものではない。
考えても見よう。しっかりしているように見えても、大学生はまだまだ発展途上。アメフットの技量に秀でているだけでは、よき社会人とはいえない。試合に出る体力を養い、相手を倒す技を身につけ、試合に勝ったとしても、それで人格が陶冶されたことにはなるまい。次々と明るみに出る大学体育会を舞台にした不祥事がそれを物語っている。
200人を超す所帯の中で多様な経験をし、困難を乗り越え、多方面から与えられた教育の機会を自分の血とし、肉として初めて人は成長する。鳥内監督のいわれる「一人前の男になる」とはそういうことである。
大学のスポーツに期待される役割、存在意義に思いを馳せたとき、武田先生や前島先生を有していることの素晴らしさが実感できる。これもまたファイターズをファイターズたらしめている伝統であり、財産であろう。
けれども、そういう恵まれた環境を生かすも殺すも、部員次第。まずは、自ら覚醒し、日々、支えてくださる方々の心情に思いを馳せて鍛錬することだ。何事にも向上心を持って取り組めば、必ず人は成長する。「一人前の男」「よき社会人」への道は、洋々と開けている。
しかし、残暑は厳しい。夕方の4時、5時といっても、まだまだ太陽が照りつけている。先週末に2日間、練習を見に上ケ原の第3フィールドに出掛けたが、日陰を探すのに大わらわ。結局は2日とも、例の「平郡君のヤマモモ」の下で、冷たいペットボトル片手の見学となった。
ところが、その炎天下に、平然とグラウンドに降りていく「ご老体」が二人もおられた。ご老体なんて呼べば、叱られるかもしれないが、ともに70歳を過ぎておられるから、まあよろしかろう。武田建先生と前島宗甫先生である。
少々、頭頂部は寂しくなられたが、心は万年ヘッドコーチの武田先生は、フレッシュマンのパス練習を見守り、もっぱら選手を褒めることに徹しておられる。選手が好プレーをするたびに、即座に「ナイスキャッチ」と声をかけ、手を叩く。
前島先生は故障から回復途上の選手たちをめざとく見つけて声をかけ、回復具合を聞いたり、「あせるなよ」と慰めたりされている。いまは引退されているが、元々は関西学院の宗教総主事。試合前には必ず選手たちを集めてお祈りをし、士気を鼓舞したり、平常心を保つようにし向けたりされている。そんな慈父のような先生から声をかけられると、苦しい練習をしている選手たちの表情が一瞬、ゆるんで見える。砂漠にオアシス、干天に慈雨。見ている方もホッとする光景である。
お二人が醸し出される、そういう光景を見るたびに、僕はファイターズの伝統を感じる。これがファイターズの財産だ、アドバンテージだと実感する。
ファイターズを支えている存在といえば、真っ先に思い浮かぶのは、マネジャーであり、トレーナーであり、アナライジングスタッフである。5年生コーチやサンデーコーチの役割も重要だし、裏方を裏から支えるディレクター補佐の存在も、他のチームに傑出して優れている。
けれどもそれは、チームを内部から支える人たちである。他のチームにも大なり小なりそういう役割を果たす人たちはいる。
しかし、武田先生や前島先生のような役割を果たしている人は、そうそうどのチームにも存在するものではない。
考えても見よう。しっかりしているように見えても、大学生はまだまだ発展途上。アメフットの技量に秀でているだけでは、よき社会人とはいえない。試合に出る体力を養い、相手を倒す技を身につけ、試合に勝ったとしても、それで人格が陶冶されたことにはなるまい。次々と明るみに出る大学体育会を舞台にした不祥事がそれを物語っている。
200人を超す所帯の中で多様な経験をし、困難を乗り越え、多方面から与えられた教育の機会を自分の血とし、肉として初めて人は成長する。鳥内監督のいわれる「一人前の男になる」とはそういうことである。
大学のスポーツに期待される役割、存在意義に思いを馳せたとき、武田先生や前島先生を有していることの素晴らしさが実感できる。これもまたファイターズをファイターズたらしめている伝統であり、財産であろう。
けれども、そういう恵まれた環境を生かすも殺すも、部員次第。まずは、自ら覚醒し、日々、支えてくださる方々の心情に思いを馳せて鍛錬することだ。何事にも向上心を持って取り組めば、必ず人は成長する。「一人前の男」「よき社会人」への道は、洋々と開けている。
(19)ありがたい「試合速報」
投稿日時:2009/08/31(月) 16:25
総選挙で民主党が大勝、308議席を確保して、政権を奪取した。自民党は惨敗、119議席しかとれず、公明党も小選挙区で全敗した。前回の総選挙で圧勝し、この4年間、日本の政治をほしいままにしてきた自民、公明の与党体制の崩壊である。
朝日新聞政治エディター、根本精樹氏(というより政治部長の根本君といった方が僕にはなじみがある。彼は大阪社会部時代の後輩であり、論説委員時代の同僚である)の筆法を借りれば、それは1955年の結党以来続いてきた自民党の「第1党」体制の終焉であり、明治憲法が制定された1889年から数えて120年、この国の憲政史上で初めて「有権者の手で首相を交代させ、その後継を自分たちでやってのけた」経験である。
そんな歴史年表に残る一大事が、まさに進行している当日、ファイターズの今季第一戦が王子スタジアムで幕を開けた。
僕は残念ながら、その試合を現場で観戦できなかった。新聞社の編集責任者として、選挙報道を指揮しなければならなかったからである。日ごろは「ファイターズ命」の気ままな生活を送っていても、ときには「我に返って」仕事に励まなければならない。それが勤め人の現実である。
思えば、ファイターズの公式戦を丸ごと観戦できないなんて、この20年近くはなかったことだ。毎年、ファイターズの日程を最優先させて仕事のスケジュールを組み、プライベートの行事もそれに合わせてきた。実家の法事を早々に切り上げて西宮スタジアムに駆けつけたのは93年の京大戦、豪雨だった。結婚式用の黒服で観戦したこともあるし、大学の特別授業の開講時間を2時間ばかり繰り上げてもらって、ユニバースタジアムの京大戦に間に合わせたこともある。
それでも、総選挙には勝てなかった。「ファイターズの初戦に投票日をぶつけてくるなんて、麻生内閣も状況が読めない。きっと大敗するぞ」と毒づいてみたが、さすがにどうしようもない。
仕方なく職場に出掛け、代わりにインターネットで配信されるOB会の公式ホームページの試合速報にかじりついていた。
これがすごい。文字通りの速報である。試合が動くたびに、その状況がアップされる。現実の試合とのタイムラグは2分から5分。インターネットの画面を眺めているだけで、刻々と試合の状況が伝わってくる。競技場の歓声までが聞こえてくるような気もする。
実は試合前、いつも一緒に観戦する友人に、節目ごとにメールで速報をよろしくと依頼していたのだが、それよりも早かった。短い文章で、状況報告も的確だ。
これまでは、当然のように競技場に行くことができたから、インターネットによる試合速報の値打ちも役割も実感することがなかったけれど、今度ばかりは驚いた。
考えてみれば、居住地や体調など、さまざまな事情で競技場で観戦したくてもできないファイターズファンやOBは少なくない。王子スタジアムに集まることができるというのは、それだけでも果報者である。
現場に行けなくても、なんとかファイターズの情報がほしい、と願う人たちにとって、このOB会のホームページほど頼りになるモノはないだろう。この速報を担当されている方々に、心からの敬意と謝意を表したい。
同時に、同じようにファイターズの公式ホームページを通じて、世界にファイターズを巡るコラムを配信している僕の役割の重さをあらためて思い知った。
これまで以上に、インターネットの向こうにおられる読者の方々を意識して、このコラムを書いていきたいと思ったことだった。
朝日新聞政治エディター、根本精樹氏(というより政治部長の根本君といった方が僕にはなじみがある。彼は大阪社会部時代の後輩であり、論説委員時代の同僚である)の筆法を借りれば、それは1955年の結党以来続いてきた自民党の「第1党」体制の終焉であり、明治憲法が制定された1889年から数えて120年、この国の憲政史上で初めて「有権者の手で首相を交代させ、その後継を自分たちでやってのけた」経験である。
そんな歴史年表に残る一大事が、まさに進行している当日、ファイターズの今季第一戦が王子スタジアムで幕を開けた。
僕は残念ながら、その試合を現場で観戦できなかった。新聞社の編集責任者として、選挙報道を指揮しなければならなかったからである。日ごろは「ファイターズ命」の気ままな生活を送っていても、ときには「我に返って」仕事に励まなければならない。それが勤め人の現実である。
思えば、ファイターズの公式戦を丸ごと観戦できないなんて、この20年近くはなかったことだ。毎年、ファイターズの日程を最優先させて仕事のスケジュールを組み、プライベートの行事もそれに合わせてきた。実家の法事を早々に切り上げて西宮スタジアムに駆けつけたのは93年の京大戦、豪雨だった。結婚式用の黒服で観戦したこともあるし、大学の特別授業の開講時間を2時間ばかり繰り上げてもらって、ユニバースタジアムの京大戦に間に合わせたこともある。
それでも、総選挙には勝てなかった。「ファイターズの初戦に投票日をぶつけてくるなんて、麻生内閣も状況が読めない。きっと大敗するぞ」と毒づいてみたが、さすがにどうしようもない。
仕方なく職場に出掛け、代わりにインターネットで配信されるOB会の公式ホームページの試合速報にかじりついていた。
これがすごい。文字通りの速報である。試合が動くたびに、その状況がアップされる。現実の試合とのタイムラグは2分から5分。インターネットの画面を眺めているだけで、刻々と試合の状況が伝わってくる。競技場の歓声までが聞こえてくるような気もする。
実は試合前、いつも一緒に観戦する友人に、節目ごとにメールで速報をよろしくと依頼していたのだが、それよりも早かった。短い文章で、状況報告も的確だ。
これまでは、当然のように競技場に行くことができたから、インターネットによる試合速報の値打ちも役割も実感することがなかったけれど、今度ばかりは驚いた。
考えてみれば、居住地や体調など、さまざまな事情で競技場で観戦したくてもできないファイターズファンやOBは少なくない。王子スタジアムに集まることができるというのは、それだけでも果報者である。
現場に行けなくても、なんとかファイターズの情報がほしい、と願う人たちにとって、このOB会のホームページほど頼りになるモノはないだろう。この速報を担当されている方々に、心からの敬意と謝意を表したい。
同時に、同じようにファイターズの公式ホームページを通じて、世界にファイターズを巡るコラムを配信している僕の役割の重さをあらためて思い知った。
これまで以上に、インターネットの向こうにおられる読者の方々を意識して、このコラムを書いていきたいと思ったことだった。
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