石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(2)ファイターズの「背骨」
投稿日時:2010/04/06(火) 08:46
「背骨」とは脊柱(せきちゅう)のことであり、岩波の国語辞典は「脊椎動物で、頭骨に続き、中軸となって体を支える仕組み」と説明している。これがしっかりしていることで、人間は立って歩けるようになり、他の動物とは比較にならないほど多くの知恵も獲得できたそうだ。
ファイターズにとっても事情は同じこと。「背骨」がしっかり通っていることで、チームのモラルは確立され、品格が生まれる。目指すべき目標は明確になり、その目標に向かう求心力も生まれてくる。
チームに寄り添って過ごしていると、そういう「背骨」の存在を実感する機会にちょくちょく遭遇する。
4月2日に行われた新チームの礼拝もそのひとつ。これはここ数年、新しい学年の最初の合同練習の日に行われるのが恒例。2003年の夏合宿で亡くなられた平郡雷太氏を偲ぶとともに、シーズンの始まりにあたって、部員全員が心を一つに祈る行事である。当初は、平郡君の記念樹と記念碑のある第3フィールドの高台で行っていたが、最近は部員の数が増えたため、グラウンドの中央で行われている。
チームの顧問であり、関西学院の宗教総主事でもあった前島宗甫先生がまず「あなた方の中で偉くなりたい者は、みなに仕える者になり、一番上になりたい者は、すべての人の僕(しもべ)になりなさい」という聖書の一節を読んで、次のような話をされた。
――平郡君は誰よりも熱心にアメフットを極めようとした求道者だった。諸君も求道者であってほしい。平郡君が体現したスピリットを継承し、それぞれの祈り、願い、志を持って、目標を成し遂げよう。
――新しいシーズンの開幕に当たって、もう一度「マスタリー・フォー・サービス」の意味を考えよう。この言葉は隣人・社会・世界に仕えるため、自らがマスターすなわち主人公になって自らを鍛えるという意味である。校歌にある「輝く自由」も、仕えることを選ぶ自由のことを意味しており、だからこそ輝くのである。練習、試合、すべての活動を通じて、自らが主人公となって「マスタリー・フォー・サービス」を習得できますように。
おおよそ、こういう話だった。ろくにメモもとらずに聞いていたので、細かい言い回しは違っているかもしれないが、先生の説かれる言葉は、しっかり胸にしみこんだ。聞いていた部員たちも「よーし、やったるぞ」と気合が入ったはずである。
前島先生を囲んでお祈りをする時間は、公式戦の試合前にも必ずある。試合前の練習終了後、キックオフまでのほんの短い時間だが、全員が急いで控室に戻り、そこで先生から心のこもった話を聞き、祈りを捧げる。全員の士気を鼓舞し、チームの結束を図り、戦いの準備を完了するのである。
儀式といえば儀式である。しかし、こういう極めてスピリチュアルな行為によってチームが一つになり、士気が高まるのも事実である。それは、チャペルの時間が生活にとけ込み、「マスタリー・フォー・サービス」というスクール・モットーがすべての構成員に共有されている関西学院だからこそ、の儀式である。そういう風土に根ざした儀式だからこそ、ファイターズの「背骨」として、チームの中軸を支えているのである。
こういう「背骨」を大切にしたい。
どのチームにとっても1日は24時間、1年は365日。練習に費やす時間は限られている。取り組みの内容も、ライバルと目されるチームは、それぞれが工夫を重ね、知恵を絞っている違いない。
同じように全力を尽くして取り組むのなら、優劣を分けるのは何か。そう考えてい
くと、チームの中軸を支える「背骨」の大切さが分かる。
お祈りの時間だけではない。品位を大切にする伝統、高いモラル、新しい戦術を導入する柔軟性、熱心なコーチ陣、スタッフを含めて全員が主人公になれるチーム運営……。数えてみると、ファイターズにはいくつもの丈夫な「背骨」がある。これらを大切にし、さらに鍛えていくことだ。そこから「日本1」への道は開ける。
ファイターズにとっても事情は同じこと。「背骨」がしっかり通っていることで、チームのモラルは確立され、品格が生まれる。目指すべき目標は明確になり、その目標に向かう求心力も生まれてくる。
チームに寄り添って過ごしていると、そういう「背骨」の存在を実感する機会にちょくちょく遭遇する。
4月2日に行われた新チームの礼拝もそのひとつ。これはここ数年、新しい学年の最初の合同練習の日に行われるのが恒例。2003年の夏合宿で亡くなられた平郡雷太氏を偲ぶとともに、シーズンの始まりにあたって、部員全員が心を一つに祈る行事である。当初は、平郡君の記念樹と記念碑のある第3フィールドの高台で行っていたが、最近は部員の数が増えたため、グラウンドの中央で行われている。
チームの顧問であり、関西学院の宗教総主事でもあった前島宗甫先生がまず「あなた方の中で偉くなりたい者は、みなに仕える者になり、一番上になりたい者は、すべての人の僕(しもべ)になりなさい」という聖書の一節を読んで、次のような話をされた。
――平郡君は誰よりも熱心にアメフットを極めようとした求道者だった。諸君も求道者であってほしい。平郡君が体現したスピリットを継承し、それぞれの祈り、願い、志を持って、目標を成し遂げよう。
――新しいシーズンの開幕に当たって、もう一度「マスタリー・フォー・サービス」の意味を考えよう。この言葉は隣人・社会・世界に仕えるため、自らがマスターすなわち主人公になって自らを鍛えるという意味である。校歌にある「輝く自由」も、仕えることを選ぶ自由のことを意味しており、だからこそ輝くのである。練習、試合、すべての活動を通じて、自らが主人公となって「マスタリー・フォー・サービス」を習得できますように。
おおよそ、こういう話だった。ろくにメモもとらずに聞いていたので、細かい言い回しは違っているかもしれないが、先生の説かれる言葉は、しっかり胸にしみこんだ。聞いていた部員たちも「よーし、やったるぞ」と気合が入ったはずである。
前島先生を囲んでお祈りをする時間は、公式戦の試合前にも必ずある。試合前の練習終了後、キックオフまでのほんの短い時間だが、全員が急いで控室に戻り、そこで先生から心のこもった話を聞き、祈りを捧げる。全員の士気を鼓舞し、チームの結束を図り、戦いの準備を完了するのである。
儀式といえば儀式である。しかし、こういう極めてスピリチュアルな行為によってチームが一つになり、士気が高まるのも事実である。それは、チャペルの時間が生活にとけ込み、「マスタリー・フォー・サービス」というスクール・モットーがすべての構成員に共有されている関西学院だからこそ、の儀式である。そういう風土に根ざした儀式だからこそ、ファイターズの「背骨」として、チームの中軸を支えているのである。
こういう「背骨」を大切にしたい。
どのチームにとっても1日は24時間、1年は365日。練習に費やす時間は限られている。取り組みの内容も、ライバルと目されるチームは、それぞれが工夫を重ね、知恵を絞っている違いない。
同じように全力を尽くして取り組むのなら、優劣を分けるのは何か。そう考えてい
くと、チームの中軸を支える「背骨」の大切さが分かる。
お祈りの時間だけではない。品位を大切にする伝統、高いモラル、新しい戦術を導入する柔軟性、熱心なコーチ陣、スタッフを含めて全員が主人公になれるチーム運営……。数えてみると、ファイターズにはいくつもの丈夫な「背骨」がある。これらを大切にし、さらに鍛えていくことだ。そこから「日本1」への道は開ける。
(1)さあ、シーズンイン
投稿日時:2010/03/31(水) 08:30
4月。新しい学年が始まる。1日と2日は関西学院大学の入学式。同時にファイターズも待ちに待ったシーズンの開幕である。昨年の立命戦の報告を最後に長い眠りについていたこのコラムも、今日から再開である。
2日には例年通り、第3フィールドを見下ろす平郡君のヤマモモの木の前に選手、スタッフ全員が集まって礼拝をし、前島先生の司式でシーズンの安全を祈り、日本1に向かって本気で戦うことを誓うはずだ。
もちろん、チームはそんなスケジュールとは関係なく、昨年のシーズンが終わった直後から新しい体制を整え、新4年生以下全員で練習に取り組んできた。「主務のブログ」で柚木君が書いている通り、2月から3月にかけては2度の学内合宿を行い、体力づくりやミーティングに励んできた。甲山を走る「走りモノ」も存分に取り入れ、くたくたになるまで走り込んだ。
僕も週末を中心に、何度も冬場の練習を見学させてもらったが、今年の練習は密度が濃い。1昨年より昨年、昨年より今年と、年々密度が濃くなっているように見える。それも試合を意識するというより、体力づくりに主眼を置いた練習。新しいプレーに取り組むというより、基礎的な動作にじっくり取り組んでいるのが印象的だった。
もちろん、この時期には秋学期の試験もあるし、4年生にとってはいまが就職活動まっただ中。フットボール漬けの生活なんて、望むべくもない。練習の日程をやりくりして会社説明会に走り、エントリーシートを書かなければならない。練習が休みの日にはOB訪問もしなければならないし、時には会社から個人面談の呼び出しがかかる。
多くの企業が採用枠をしぼり、就職氷河期を超える厳しい就職戦線とあって、ファイターズの面々にとっても戦いは厳しい。一般学生に比較すると、ファイターズの諸君はその活動が高く評価されているとはいうものの、それでも内定にまでたどり着くのは容易ではない。
先日の合宿でも、夜間、新4年生を対象に、就職活動に詳しいOBやコーチが手分けして個人面談とアドバイスの時間を持った。僕も、朝日新聞社で小論文の採点委員や面接を担当した経験を買われて参加し、3日間、計10人ほどの学生に参考になりそうな話をさせてもらった。
打ち明けると、僕はこの10年近く「マスコミ志望者の小論文講座」というのを大学で開講。就職活動を控えた学生に小論文の書き方やエントリーシートの書き方を指導し、面接でいかに自分をアピールするかということを助言している。朝日、毎日、読売、中日、中国新聞など大手の新聞社や日刊スポーツ、NHK、関西テレビなどに送り込んだ教え子は都合30余人。「就職指導のカリスマ」と自称している(だれもそんな風に呼んでくれないのがさびしい)のです。
余談はさておき、4年生にとっては、いまが学生として一番忙しい時期、勝負の時でもある。少なくとも向こう1カ月は、全力で就職活動に取り組む時間であり、アメフット三昧とはいかないのである。
けれども、新しいチームにとっては、4年生のリーダーシップが問われる。主将、副将も、パートリーダーもすべてが4年生。昨年、1昨年と優勝できなかった悔しさを一番知っているのも4年生。シーズンにかける気持ちが一番強いのも4年生である。
その気持ちを練習でどのように具体化していくか。シーズンが始まれば秋のリーグ戦まではあっという間である。就職活動と両立させるのは苦しいだろうが、これも学生として必要な苦労であり、これからの人生にとって極めて大切な時間である。日々密度の濃い生活を送り、練習内容を工夫して、秋に備えてほしい。
◇ ◇
4カ月間休載していた「スタンドから」を再開します。今年は、大学生の課外活動としてのアメリカンフットボールに焦点を当てながら、書きすすめたいと考えています。ご愛読下さい。
2日には例年通り、第3フィールドを見下ろす平郡君のヤマモモの木の前に選手、スタッフ全員が集まって礼拝をし、前島先生の司式でシーズンの安全を祈り、日本1に向かって本気で戦うことを誓うはずだ。
もちろん、チームはそんなスケジュールとは関係なく、昨年のシーズンが終わった直後から新しい体制を整え、新4年生以下全員で練習に取り組んできた。「主務のブログ」で柚木君が書いている通り、2月から3月にかけては2度の学内合宿を行い、体力づくりやミーティングに励んできた。甲山を走る「走りモノ」も存分に取り入れ、くたくたになるまで走り込んだ。
僕も週末を中心に、何度も冬場の練習を見学させてもらったが、今年の練習は密度が濃い。1昨年より昨年、昨年より今年と、年々密度が濃くなっているように見える。それも試合を意識するというより、体力づくりに主眼を置いた練習。新しいプレーに取り組むというより、基礎的な動作にじっくり取り組んでいるのが印象的だった。
もちろん、この時期には秋学期の試験もあるし、4年生にとってはいまが就職活動まっただ中。フットボール漬けの生活なんて、望むべくもない。練習の日程をやりくりして会社説明会に走り、エントリーシートを書かなければならない。練習が休みの日にはOB訪問もしなければならないし、時には会社から個人面談の呼び出しがかかる。
多くの企業が採用枠をしぼり、就職氷河期を超える厳しい就職戦線とあって、ファイターズの面々にとっても戦いは厳しい。一般学生に比較すると、ファイターズの諸君はその活動が高く評価されているとはいうものの、それでも内定にまでたどり着くのは容易ではない。
先日の合宿でも、夜間、新4年生を対象に、就職活動に詳しいOBやコーチが手分けして個人面談とアドバイスの時間を持った。僕も、朝日新聞社で小論文の採点委員や面接を担当した経験を買われて参加し、3日間、計10人ほどの学生に参考になりそうな話をさせてもらった。
打ち明けると、僕はこの10年近く「マスコミ志望者の小論文講座」というのを大学で開講。就職活動を控えた学生に小論文の書き方やエントリーシートの書き方を指導し、面接でいかに自分をアピールするかということを助言している。朝日、毎日、読売、中日、中国新聞など大手の新聞社や日刊スポーツ、NHK、関西テレビなどに送り込んだ教え子は都合30余人。「就職指導のカリスマ」と自称している(だれもそんな風に呼んでくれないのがさびしい)のです。
余談はさておき、4年生にとっては、いまが学生として一番忙しい時期、勝負の時でもある。少なくとも向こう1カ月は、全力で就職活動に取り組む時間であり、アメフット三昧とはいかないのである。
けれども、新しいチームにとっては、4年生のリーダーシップが問われる。主将、副将も、パートリーダーもすべてが4年生。昨年、1昨年と優勝できなかった悔しさを一番知っているのも4年生。シーズンにかける気持ちが一番強いのも4年生である。
その気持ちを練習でどのように具体化していくか。シーズンが始まれば秋のリーグ戦まではあっという間である。就職活動と両立させるのは苦しいだろうが、これも学生として必要な苦労であり、これからの人生にとって極めて大切な時間である。日々密度の濃い生活を送り、練習内容を工夫して、秋に備えてほしい。
◇ ◇
4カ月間休載していた「スタンドから」を再開します。今年は、大学生の課外活動としてのアメリカンフットボールに焦点を当てながら、書きすすめたいと考えています。ご愛読下さい。
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