石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(4)天気晴朗、視界よし
投稿日時:2010/04/19(月) 12:09
朝起きて、甲山の方向を見上げたら、雲一つない晴天。前夜の雨はすっかり上がり、視界は良好。空気までがキーンと引き締まっているように感じる。
2010年4月17日。神戸王子スタジアムで新しいシーズン最初の試合が始まる。スタジアムに着いたらまだ、開門前。ゲートの前に開幕を待ちかねたファンの長い列ができている。いつも試合会場で顔を合わせる旧知の人たちの顔がある。今春、卒業したばかりのマネジャーがこの日は家族と一緒に観戦にきている。昨年までは、紺のスーツ姿でチケットの受付などをしていた彼女が、私服で僕らと一緒に列に並んでいるのを見ると、季節が巡り、新しいシーズンが開幕したことを実感する。
入口では、今春、スポーツ推薦で入学したばかりの1年生がチケットを切っている。昨年夏、一緒に小論文の勉強をした彼らにスタジアムで再会すると、これまた新しいシーズンの到来を感じる。
スタジアムに入ると、また懐かしい顔に出会える。スタンド以外の場所ではお会いする機会のない方々と再会して立ち話をしたり、このコラムを期待していますなんていわれたりすると、それだけで気持ちが弾んでくる。
午後2時。定刻通りにキックオフ。キッカー大西の蹴ったボールが神戸の空に吸い込まれて、さあ試合開始。日体大最初の攻撃シリーズをパントブロックで止め、ファイターズの攻撃は相手陣28ヤードから。第1プレーでRB松岡が28ヤードを走り切ってTD。大西のキックも決まって7点を先制。QB加藤からハンドオフされた瞬間、トップスピードに乗って相手守備陣を置き去りにした松岡の快足が光る。
次の日体大の攻撃シリーズも守備陣が完封して、再びファイターズの攻撃。自陣45ヤードから始まったシリーズは、RB久司、稲村、松岡のランプレーにWR和田、寺元、松原、TE榎へのパスを組み合わせて陣地を進め、仕上げは今季、DLからTEに転向した金本への9ヤードTDパス。一つのミスもない堂々の攻撃である。
第2Qに入っても、ファイターズの攻守は快調。守備陣は相手を釘付けにし、攻撃陣はランプレーをベースに要所で加藤がパスを決め、確実に陣地を進める。3分56秒に加藤からWR渡辺へのパスで加点すると、次のシリーズは加藤から松原への一発TDパス。加藤が「投げ損じた」という左サイドのパスをキャッチした松原が相手守備陣二人のカバーを外し、一気に76ヤードを走りきる技ありのTDだった。
次の攻撃シリーズも、加藤からWR松田への50ヤードパス、残った7ヤードを松岡が切れ味の鋭いランで持ち込んだ。これまた2度の攻撃でTDに結びつけ、前半だけで35点という大量リードを奪った。
後半になってもファイターズの攻守は快調そのもの。自陣11ヤードからの攻撃シリーズはWR赤松、松田へのパスやRB林のランなどで簡単に陣地を進め、仕上げは久司の16ヤードランでTD。自陣1ヤードから始まった次のシリーズも、加藤のスクランブルや稲村の60ヤードランなどで簡単にTDに結び付けた。
とにかく、この日の加藤は完璧。15回パスを投げて15回成功、271ヤード獲得というのもすごいが、パスを投げるタイミングを逸した後のスクランブルの判断が素早やかった。走力も相当アップしており、3年前の三原君に並ぶか、場合によっては上回る「とてつもないQB」に成長する気配さえ漂っていた。
もちろん、これはオフェンスのラインが久方ぶりにそろったというのも大きい。鳥内監督いわく「けが人ばかりでメンバーが組めませんねん」ということだが、どうしてどうして。185センチ、120キロの巨漢C和田を中心にした陣容は迫力十分。まだまだ伸びそうな素材がそろっているだけに、今年は要注目である。
ディフェンス陣も安定している。主将平澤を中心に3年生の長島、2年生の梶原、朝倉が先発したラインはスピード十分。相手を完全にコントロールしていたし、この日はラインから回った4年生の村上と2年生の前川、川端で固めたLB陣も自在に動き回っていた。DB陣は4年生の善元、三木を中心に試合経験の豊富なメンバーがそろっているので、これまた安心。
というわけで、シーズン初戦の内容はスタンドから見ている限り「天気晴朗」だった。
もちろん、まだまだ発展途上だし、控えメンバーに試合経験を積まる必要もある。なにより、春からトップスピードでチームを作ってきたファイターズに対して、相手がこの試合に向けてどれだけの準備をしてきたのかという問題もある。表面上の記録だけ、見た目の華やかさだけで浮かれていると、手痛いしっぺ返しを食うことは間違いない。
けれども、この日の試合のように、全員がひたむきにプレーすれば、必ず結果はついてくる。勝っておごらず、日々、鍛錬して、目標に邁進してほしい。
2010年4月17日。神戸王子スタジアムで新しいシーズン最初の試合が始まる。スタジアムに着いたらまだ、開門前。ゲートの前に開幕を待ちかねたファンの長い列ができている。いつも試合会場で顔を合わせる旧知の人たちの顔がある。今春、卒業したばかりのマネジャーがこの日は家族と一緒に観戦にきている。昨年までは、紺のスーツ姿でチケットの受付などをしていた彼女が、私服で僕らと一緒に列に並んでいるのを見ると、季節が巡り、新しいシーズンが開幕したことを実感する。
入口では、今春、スポーツ推薦で入学したばかりの1年生がチケットを切っている。昨年夏、一緒に小論文の勉強をした彼らにスタジアムで再会すると、これまた新しいシーズンの到来を感じる。
スタジアムに入ると、また懐かしい顔に出会える。スタンド以外の場所ではお会いする機会のない方々と再会して立ち話をしたり、このコラムを期待していますなんていわれたりすると、それだけで気持ちが弾んでくる。
午後2時。定刻通りにキックオフ。キッカー大西の蹴ったボールが神戸の空に吸い込まれて、さあ試合開始。日体大最初の攻撃シリーズをパントブロックで止め、ファイターズの攻撃は相手陣28ヤードから。第1プレーでRB松岡が28ヤードを走り切ってTD。大西のキックも決まって7点を先制。QB加藤からハンドオフされた瞬間、トップスピードに乗って相手守備陣を置き去りにした松岡の快足が光る。
次の日体大の攻撃シリーズも守備陣が完封して、再びファイターズの攻撃。自陣45ヤードから始まったシリーズは、RB久司、稲村、松岡のランプレーにWR和田、寺元、松原、TE榎へのパスを組み合わせて陣地を進め、仕上げは今季、DLからTEに転向した金本への9ヤードTDパス。一つのミスもない堂々の攻撃である。
第2Qに入っても、ファイターズの攻守は快調。守備陣は相手を釘付けにし、攻撃陣はランプレーをベースに要所で加藤がパスを決め、確実に陣地を進める。3分56秒に加藤からWR渡辺へのパスで加点すると、次のシリーズは加藤から松原への一発TDパス。加藤が「投げ損じた」という左サイドのパスをキャッチした松原が相手守備陣二人のカバーを外し、一気に76ヤードを走りきる技ありのTDだった。
次の攻撃シリーズも、加藤からWR松田への50ヤードパス、残った7ヤードを松岡が切れ味の鋭いランで持ち込んだ。これまた2度の攻撃でTDに結びつけ、前半だけで35点という大量リードを奪った。
後半になってもファイターズの攻守は快調そのもの。自陣11ヤードからの攻撃シリーズはWR赤松、松田へのパスやRB林のランなどで簡単に陣地を進め、仕上げは久司の16ヤードランでTD。自陣1ヤードから始まった次のシリーズも、加藤のスクランブルや稲村の60ヤードランなどで簡単にTDに結び付けた。
とにかく、この日の加藤は完璧。15回パスを投げて15回成功、271ヤード獲得というのもすごいが、パスを投げるタイミングを逸した後のスクランブルの判断が素早やかった。走力も相当アップしており、3年前の三原君に並ぶか、場合によっては上回る「とてつもないQB」に成長する気配さえ漂っていた。
もちろん、これはオフェンスのラインが久方ぶりにそろったというのも大きい。鳥内監督いわく「けが人ばかりでメンバーが組めませんねん」ということだが、どうしてどうして。185センチ、120キロの巨漢C和田を中心にした陣容は迫力十分。まだまだ伸びそうな素材がそろっているだけに、今年は要注目である。
ディフェンス陣も安定している。主将平澤を中心に3年生の長島、2年生の梶原、朝倉が先発したラインはスピード十分。相手を完全にコントロールしていたし、この日はラインから回った4年生の村上と2年生の前川、川端で固めたLB陣も自在に動き回っていた。DB陣は4年生の善元、三木を中心に試合経験の豊富なメンバーがそろっているので、これまた安心。
というわけで、シーズン初戦の内容はスタンドから見ている限り「天気晴朗」だった。
もちろん、まだまだ発展途上だし、控えメンバーに試合経験を積まる必要もある。なにより、春からトップスピードでチームを作ってきたファイターズに対して、相手がこの試合に向けてどれだけの準備をしてきたのかという問題もある。表面上の記録だけ、見た目の華やかさだけで浮かれていると、手痛いしっぺ返しを食うことは間違いない。
けれども、この日の試合のように、全員がひたむきにプレーすれば、必ず結果はついてくる。勝っておごらず、日々、鍛錬して、目標に邁進してほしい。
(3)学生のスポーツ活動
投稿日時:2010/04/13(火) 09:44
学生のスポーツ活動について考えるとき、いつも思い浮かぶ言葉がある。1946年に制定された日本学生野球憲章の前文である。
前文では、
「学生たることの自覚を基礎とし、学生たることを忘れてはわれらの学生野球は成り立ち得ない。勤勉と規律とはつねにわれらと共にあり、怠惰と放縦とに対しては不断に警戒されなければならない。元来野球はスポーツとしてそれ自身、意味と価値とを持つであろう。しかし学生野球としてはそれに止まらず、試合を通じてフェアの精神を体得すること、幸運にも驕らず、悲運にも屈せぬ明朗強靭な情意を涵養すること、いかなる艱難をも凌ぎうる強靭な身体を鍛錬すること、これこそ実にわれらの野球を導く理念でなければならない」と高らかに宣言している。
野球をアメリカンフットボールという言葉に置き換えてみれば、ファイターズが目指す理念もまったくこの通りであると思う。
ここはファイターズのホームページではあるが、ことは学生スポーツに共通する問題なので、いましばらく、学生野球憲章の話におつきあい願いたい。
今年4月に改正、施行された新しい日本学生野球憲章は、1946年の憲章に盛り込まれたこの理念を引き継ぎつつ、冒頭に「国民が等しく教育を受ける権利を持つことは憲法が保障するところであり、学生野球は、この権利を実現すべき学校教育の一環として位置づけられる。この意味で、学生野球は経済的な対価を求めず、心と身体を鍛える場である」と説く。そして、この「教育を受ける権利」を前提とした「教育の一環としての学生野球」という基本的理念に即して、具体的な憲章の条文を構成しているのである。
憲章がここまで「教育を受ける権利」を強調し、「教育の一環としての学生野球」にこだわるのは、学生野球を取り巻く現実が、この理念からかけ離れて見えるからである。
例えば東京六大学の構成員であるある名門チームにこんなエピソードがある。その大学の野球部OB会名簿は数年前まで、入学年次で表記されていたそうだ。ライバルチームの名簿は卒業年次でまとめてあるのにどうしたことかといぶかしく思ったその大学の当時の総長は、その理由に思い当たった瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたという。
つまり、その大学では、入学はしたけれども、まともに授業も受けず、単位をとれないまま卒業できない部員が多いから、卒業生名簿にすると、部員の全体像が把握できない。従って全員の名前が把握できる「入学年次」で名簿を作っていたというのだ。
そのことに思い至った総長は「総長として、こんなに恥ずかしいことはない。これは自分の責任として、学生に教育を受ける機会を保障し、きちんと卒業させなければならないと思いました」と話された。
このエピソードに、伝聞や推測は何一つまじっていない。直接、ご本人の口から伺った話である。
ことは、この名門大学野球部に限らない。似たような例は他の大学、他の競技にもあるのではないか。
幸いファイターズは、練習時間を工夫し、少なくとも4時限までは授業に出席できるように配慮している。週に1度は練習のない日を設けて、学生生活を豊かにする工夫もしている。
もちろん厳しい練習やトレーニング、ミーティングなどが日々組まれているから勉学とクラブ活動の両立は簡単ではない。留年する者もいる。しかし、単位が十分に取れていない部員には、特別の対策もとられている。
鳥内監督をはじめ、コーチやスタッフも全員、部員をフットボール選手として鍛えると同時に、よき社会人として卒業させなければならないという信念に基いて部を運営されている。
これは、学生スポーツとして当然のことである。
だからこそ、ファイターズの諸君には、しっかり勉学に励み、その上で日本1になってほしいのである。学生スポーツのあるべき姿を諸君の行動で表現してほしいのである。
僕がファイターズを懸命に応援する、これが最大の理由である。
前文では、
「学生たることの自覚を基礎とし、学生たることを忘れてはわれらの学生野球は成り立ち得ない。勤勉と規律とはつねにわれらと共にあり、怠惰と放縦とに対しては不断に警戒されなければならない。元来野球はスポーツとしてそれ自身、意味と価値とを持つであろう。しかし学生野球としてはそれに止まらず、試合を通じてフェアの精神を体得すること、幸運にも驕らず、悲運にも屈せぬ明朗強靭な情意を涵養すること、いかなる艱難をも凌ぎうる強靭な身体を鍛錬すること、これこそ実にわれらの野球を導く理念でなければならない」と高らかに宣言している。
野球をアメリカンフットボールという言葉に置き換えてみれば、ファイターズが目指す理念もまったくこの通りであると思う。
ここはファイターズのホームページではあるが、ことは学生スポーツに共通する問題なので、いましばらく、学生野球憲章の話におつきあい願いたい。
今年4月に改正、施行された新しい日本学生野球憲章は、1946年の憲章に盛り込まれたこの理念を引き継ぎつつ、冒頭に「国民が等しく教育を受ける権利を持つことは憲法が保障するところであり、学生野球は、この権利を実現すべき学校教育の一環として位置づけられる。この意味で、学生野球は経済的な対価を求めず、心と身体を鍛える場である」と説く。そして、この「教育を受ける権利」を前提とした「教育の一環としての学生野球」という基本的理念に即して、具体的な憲章の条文を構成しているのである。
憲章がここまで「教育を受ける権利」を強調し、「教育の一環としての学生野球」にこだわるのは、学生野球を取り巻く現実が、この理念からかけ離れて見えるからである。
例えば東京六大学の構成員であるある名門チームにこんなエピソードがある。その大学の野球部OB会名簿は数年前まで、入学年次で表記されていたそうだ。ライバルチームの名簿は卒業年次でまとめてあるのにどうしたことかといぶかしく思ったその大学の当時の総長は、その理由に思い当たった瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたという。
つまり、その大学では、入学はしたけれども、まともに授業も受けず、単位をとれないまま卒業できない部員が多いから、卒業生名簿にすると、部員の全体像が把握できない。従って全員の名前が把握できる「入学年次」で名簿を作っていたというのだ。
そのことに思い至った総長は「総長として、こんなに恥ずかしいことはない。これは自分の責任として、学生に教育を受ける機会を保障し、きちんと卒業させなければならないと思いました」と話された。
このエピソードに、伝聞や推測は何一つまじっていない。直接、ご本人の口から伺った話である。
ことは、この名門大学野球部に限らない。似たような例は他の大学、他の競技にもあるのではないか。
幸いファイターズは、練習時間を工夫し、少なくとも4時限までは授業に出席できるように配慮している。週に1度は練習のない日を設けて、学生生活を豊かにする工夫もしている。
もちろん厳しい練習やトレーニング、ミーティングなどが日々組まれているから勉学とクラブ活動の両立は簡単ではない。留年する者もいる。しかし、単位が十分に取れていない部員には、特別の対策もとられている。
鳥内監督をはじめ、コーチやスタッフも全員、部員をフットボール選手として鍛えると同時に、よき社会人として卒業させなければならないという信念に基いて部を運営されている。
これは、学生スポーツとして当然のことである。
だからこそ、ファイターズの諸君には、しっかり勉学に励み、その上で日本1になってほしいのである。学生スポーツのあるべき姿を諸君の行動で表現してほしいのである。
僕がファイターズを懸命に応援する、これが最大の理由である。
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