石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(14)新戦力の見本市
投稿日時:2010/07/06(火) 21:06
帯状疱疹、すなわちヘルペスにかかった。この1週間、胸部の内側で時折、針に刺されたような痛みが出る。かかりつけの医者の話では、もう相当快復しているそうだが、それでも痛み止めの薬は手放せない。年齢も省みず、睡眠不足と過労を積み重ねた罰が当たったのだろう。
体調が悪くても、大雨でも試合はある。先週末は僕が大好きなJV戦。「薬を飲んでゆっくり静養してくださいね」という医者の言葉に逆らって、雨の中をいそいそと上ケ原の第3フィールドに出掛けた。
試合の始まる前から強く降っていた雨は、試合開始と同時に土砂降り。人工芝のグラウンドには水がたまり、大げさにいえばプールの中で試合をしているような状態になった。選手が走るのも投げるのも、ボールを確保するのも困難な状況だったが、この試合を待ち望んでいたファイターズの新戦力にとってはまったく苦にならない様子。次々と登場する新顔たちが元気はつらつとしたプレーを見せてくれた。
相手は大阪学院大。2部のチームではあるが、高校時代の経験者もおり、例年のことながら、個々には目を引くプレーヤーも少なくなかった。けれども、部員の層の厚さが違う。ファイターズは新戦力が次から次へと選手の見本市のように登場し、チーム内の競争をそのままプレーに反映させていたが、相手は攻守両面でプレーする選手もおり、雨の中では消耗も激しい。結果は59-2。スコアだけなら、一方的な試合だったが、僕には見どころが満載だった。
とにかく1、2年の新しい戦力が次々と登場してくれた。オフェンスではラインの田淵(滝川)、長森(同志社国際)、石橋(足立学園)、TEの曽和(啓明学院)が先発メンバーに並び、ディフェンスでもラインの池永(仁川学院)、DBの大森(関西大倉)が先発した。いずれも、先日の桃山学院戦で活躍した1年生である。これまでの試合で少しずつ経験を積んでいるだけあって、全員この日も落ち着いてプレーし、着実に階段を上っていることが分かった。
加えて、この日は交代メンバーでも活躍する新顔が目立った。50ヤードのタッチダウンパスを確保したWR梅本(高等部)がその象徴。高校時代は野球部。昨年夏の甲子園に1番レフトで先発出場した選手だが、足が速くセンスがいい。QB畑が50ヤード付近から投じたパスを相手陣25ヤード付近でキャッチ、そのまま一気にゴールまで駆け抜けたスピードに目を見張らされた。4月に入部したばかりで、まだ基礎練習しかしていない状態なのに、もう試合で結果を出す。末頼もしい選手である。
同じく高等部で野球をしていたRB雑賀のスピードも素晴らしい。未経験者で、まだアメフット選手の動きにはなっていないが、RBとしては体も大きく今後の伸びが大いに期待できる。同じRBでは野々垣(関西大倉)の動きもよかった。4回のランで39ヤードを獲得、キックオフリターンでも素早い動きを見せていた。彼も今後、どんどん伸びる選手だろう。
ディフェンスの交代メンバーも多士済々。これまでの試合にも出て、強烈な当たりを見せつけているDLの中前(高等部)は先発した池永にひけをとらない動きを見せていたし、相手のファンブルボールを確保したDL吉田(関西大倉)の動きもよかった。目立った活躍はなかったが、DBの中では出場時間の長かった池田(高等部)も落ち着いたプレーぶりだった。
もちろん、この日の試合を率いたのは2年生。最初から最後まで出ずっぱりだったQB畑は、強い雨の中でも落ち着いてプレーし、4本のTDパスを決めた。1年生の時から期待されながら、けがなどで練習が不足し、試合に出る機会が少なかっただけに、JV戦とはいえフル出場し、結果を出したことで、今後一層自信を持ってプレーしてくれるだろう。
オフェンスでは、立ち上がりにいきなり59ヤードの独走TDを決めたRB尾嶋、同じく5回の攻撃で2本のTDランを含め48ヤードを稼いだRB大石、前半終了間際に30ヤードのTDパスをキャッチした押谷、同じくTDパスをキャッチしたWR岸本らの動きが目に付いた。
ディフェンスでは、前回のJV戦でも活躍したLBの3人組。すなわち背番号の若い順に高吹、前川、望月の動きが相手を圧倒していた。
キッカー2人の活躍についても触れなければならない。先発の山崎も、後半になって登場した堀本も、ともに雨の中、ゴムボールにもかかわらず、確実にキックを決め、フィールドゴールを含め、一度の失敗もなかった。集中力を維持し続けた結果だろう。ともすれば大味な試合になりがちな得点差の開いた試合を、キッカー2人が引き締めていたことを書き留めて置きたい。
こうして名前を連ねていくと、つくづくファイターズの層の厚さが実感できる。彼らが今後、しっかり鍛錬を積み、一人でも二人でもこの日は登場しなかった先発メンバーを追い抜いていくことで、ようやく秋の陣を迎える準備が整うだろう。今後、彼らの練習ぶりを心して眺めていきたい。
体調が悪くても、大雨でも試合はある。先週末は僕が大好きなJV戦。「薬を飲んでゆっくり静養してくださいね」という医者の言葉に逆らって、雨の中をいそいそと上ケ原の第3フィールドに出掛けた。
試合の始まる前から強く降っていた雨は、試合開始と同時に土砂降り。人工芝のグラウンドには水がたまり、大げさにいえばプールの中で試合をしているような状態になった。選手が走るのも投げるのも、ボールを確保するのも困難な状況だったが、この試合を待ち望んでいたファイターズの新戦力にとってはまったく苦にならない様子。次々と登場する新顔たちが元気はつらつとしたプレーを見せてくれた。
相手は大阪学院大。2部のチームではあるが、高校時代の経験者もおり、例年のことながら、個々には目を引くプレーヤーも少なくなかった。けれども、部員の層の厚さが違う。ファイターズは新戦力が次から次へと選手の見本市のように登場し、チーム内の競争をそのままプレーに反映させていたが、相手は攻守両面でプレーする選手もおり、雨の中では消耗も激しい。結果は59-2。スコアだけなら、一方的な試合だったが、僕には見どころが満載だった。
とにかく1、2年の新しい戦力が次々と登場してくれた。オフェンスではラインの田淵(滝川)、長森(同志社国際)、石橋(足立学園)、TEの曽和(啓明学院)が先発メンバーに並び、ディフェンスでもラインの池永(仁川学院)、DBの大森(関西大倉)が先発した。いずれも、先日の桃山学院戦で活躍した1年生である。これまでの試合で少しずつ経験を積んでいるだけあって、全員この日も落ち着いてプレーし、着実に階段を上っていることが分かった。
加えて、この日は交代メンバーでも活躍する新顔が目立った。50ヤードのタッチダウンパスを確保したWR梅本(高等部)がその象徴。高校時代は野球部。昨年夏の甲子園に1番レフトで先発出場した選手だが、足が速くセンスがいい。QB畑が50ヤード付近から投じたパスを相手陣25ヤード付近でキャッチ、そのまま一気にゴールまで駆け抜けたスピードに目を見張らされた。4月に入部したばかりで、まだ基礎練習しかしていない状態なのに、もう試合で結果を出す。末頼もしい選手である。
同じく高等部で野球をしていたRB雑賀のスピードも素晴らしい。未経験者で、まだアメフット選手の動きにはなっていないが、RBとしては体も大きく今後の伸びが大いに期待できる。同じRBでは野々垣(関西大倉)の動きもよかった。4回のランで39ヤードを獲得、キックオフリターンでも素早い動きを見せていた。彼も今後、どんどん伸びる選手だろう。
ディフェンスの交代メンバーも多士済々。これまでの試合にも出て、強烈な当たりを見せつけているDLの中前(高等部)は先発した池永にひけをとらない動きを見せていたし、相手のファンブルボールを確保したDL吉田(関西大倉)の動きもよかった。目立った活躍はなかったが、DBの中では出場時間の長かった池田(高等部)も落ち着いたプレーぶりだった。
もちろん、この日の試合を率いたのは2年生。最初から最後まで出ずっぱりだったQB畑は、強い雨の中でも落ち着いてプレーし、4本のTDパスを決めた。1年生の時から期待されながら、けがなどで練習が不足し、試合に出る機会が少なかっただけに、JV戦とはいえフル出場し、結果を出したことで、今後一層自信を持ってプレーしてくれるだろう。
オフェンスでは、立ち上がりにいきなり59ヤードの独走TDを決めたRB尾嶋、同じく5回の攻撃で2本のTDランを含め48ヤードを稼いだRB大石、前半終了間際に30ヤードのTDパスをキャッチした押谷、同じくTDパスをキャッチしたWR岸本らの動きが目に付いた。
ディフェンスでは、前回のJV戦でも活躍したLBの3人組。すなわち背番号の若い順に高吹、前川、望月の動きが相手を圧倒していた。
キッカー2人の活躍についても触れなければならない。先発の山崎も、後半になって登場した堀本も、ともに雨の中、ゴムボールにもかかわらず、確実にキックを決め、フィールドゴールを含め、一度の失敗もなかった。集中力を維持し続けた結果だろう。ともすれば大味な試合になりがちな得点差の開いた試合を、キッカー2人が引き締めていたことを書き留めて置きたい。
こうして名前を連ねていくと、つくづくファイターズの層の厚さが実感できる。彼らが今後、しっかり鍛錬を積み、一人でも二人でもこの日は登場しなかった先発メンバーを追い抜いていくことで、ようやく秋の陣を迎える準備が整うだろう。今後、彼らの練習ぶりを心して眺めていきたい。
(13)課題が見えた明大戦
投稿日時:2010/06/30(水) 01:27
長い間、新聞記者をしているせいか、物事を判断する場合、現場で見たこと、感じたことについつい重点を置きすぎてしまう傾向がある。人づてに聞いたことやテレビ画面を通して見たことは信用しないというか、どこか懐疑的になってしまうのである。
目の前のファイターズの試合なら、たいていのことは網膜に焼き付けており、結構細かいところまで覚えている。プレーに失敗して(あるいは成功して)ベンチに戻ってきたときの選手の顔つき、相手を思い通りに仕留めたときのしぐさ。日々の練習に向かうときの足取り、言葉を交わしたときの何げない表情。現場でそうした細部を見届けることで、大げさにいえば、このコラムは成り立っているのである。
逆に、テレビがどんなに白熱した試合の模様を伝えてくれても、どこか冷めている。先日も朝の3時半に起きて、サッカーのデンマーク戦をテレビ観戦したが、ゴールが決まったときのリプレーがさんざん繰り返され、中継するアナウンサーがどんなに絶叫しようとも、見ている当方には「しょせん試合の一部。細部まですべてを見たわけではない」という突き放した気持ちがどこかにある。サッカー観戦が嫌いなわけでもないのに、困ったことだ。これも職業病の一種だろうか。
こんなに「現場至上主義」の人間なのに、先日の明治大学との試合は、途中からしか観戦できなかった。知人の結婚式が岡山市であり、その披露宴に出席していたからである。式がお開きになると、即座に会場を出て、タクシー、新幹線、またタクシーと乗り継いで王子スタジアムに着いたが、もう第2クオーターも残り30秒。前半戦を見ることはかなわなかった。
得点の表示板を身ながら、いつもの観戦仲間の友人に前半の様子を聞くと「この雨の中やから、どうしても大味になるわな」といいながら、先発QBの糟谷が67ヤードを独走したタッチダウンと、糟谷からWR松原へのタッチダウンパスの様子を話してくれた。そして「明治のランは強い。後半、それにどう対応するかが見どころや」と話してくれた。
「なるほど、糟谷の潜在能力の高さを考えれば、独走したって不思議はない」「松原の実力からすれば、少々雨が降ってもパスキャッチに何の支障もないはず」と思いながら、あらためてそのプレーを見られなかった悔しさが募る。
この日も雨。しかし、関西学生アメリカンフットボール界の重鎮、古川明さんのご好意で記者室の一角に席を借りて観戦。持参した結婚式の引き出物や礼服が濡れないので大いに助かった。
後半は明治のレシーブから始まったが、守備陣が完璧に抑えてすぐにファイターズの攻撃。相手陣48ヤードという好位置からRB久司の22ヤード、RB松岡の12ヤード、再び久司の11ヤードと立て続けのラン攻撃で一気に相手ゴール前に迫った。残る3ヤードをRB稲村が走り抜き、あっという間にTD。3人の快足ランナーの持ち味を存分に発揮した鮮やかなシリーズだった。
次の明治の攻撃シリーズ。スペシャルプレーを成功させて一気に陣地を進めたが、結局は得点に結びつけられず、再びファイターズの攻撃。自陣32ヤードから始まったこのシリーズも糟谷から松原へのパス、松原のランなどが次々と決まり、あっという間に敵陣24ヤード。ここで再び糟谷が左オープンを独走してTD。K大西のキックも決まって28-0。たとえ後半戦だけでも見ることができれば、と思ってスタジアムに駆けつけてきた値打ちがあった、と思わせてくれる攻撃の連続だった。
ところが、ここからが凡戦。両軍ともしっかりボールを確保できず、ファンブルの応酬。とりわけファイターズはゴール前で3回もファンブルを重ね、自ら攻撃のリズムを崩してしまった。
雨の中とはいえ、この結果には納得がいかなかったのだろう。試合後、鳥内監督は「ボールのセキュリティーについては、普段から厳しくいうてんのに。結果オーライの練習ばかりしてるから、ああいうことになるんですわ」と厳しい口調だった。
ともあれ、この試合で春のシーズンは事実上終了。3日に上ケ原の第3フィールドで行われるJV戦を残すのみとなった。
春の戦いで見えてきたいくつもの課題を今後どのように克服していくか。春に先発したメンバーを押しのける新戦力がどれくらい成長してくるのか。前期試験をはさんで、夏合宿が始まるまでの間の取り組みが、すべての鍵を握っているような気がする。本気で日本1を目指すのなら、普段から練習のための練習ではなく、常に試合を意識して、さらに高いレベルの鍛錬を続けてほしい。
目の前のファイターズの試合なら、たいていのことは網膜に焼き付けており、結構細かいところまで覚えている。プレーに失敗して(あるいは成功して)ベンチに戻ってきたときの選手の顔つき、相手を思い通りに仕留めたときのしぐさ。日々の練習に向かうときの足取り、言葉を交わしたときの何げない表情。現場でそうした細部を見届けることで、大げさにいえば、このコラムは成り立っているのである。
逆に、テレビがどんなに白熱した試合の模様を伝えてくれても、どこか冷めている。先日も朝の3時半に起きて、サッカーのデンマーク戦をテレビ観戦したが、ゴールが決まったときのリプレーがさんざん繰り返され、中継するアナウンサーがどんなに絶叫しようとも、見ている当方には「しょせん試合の一部。細部まですべてを見たわけではない」という突き放した気持ちがどこかにある。サッカー観戦が嫌いなわけでもないのに、困ったことだ。これも職業病の一種だろうか。
こんなに「現場至上主義」の人間なのに、先日の明治大学との試合は、途中からしか観戦できなかった。知人の結婚式が岡山市であり、その披露宴に出席していたからである。式がお開きになると、即座に会場を出て、タクシー、新幹線、またタクシーと乗り継いで王子スタジアムに着いたが、もう第2クオーターも残り30秒。前半戦を見ることはかなわなかった。
得点の表示板を身ながら、いつもの観戦仲間の友人に前半の様子を聞くと「この雨の中やから、どうしても大味になるわな」といいながら、先発QBの糟谷が67ヤードを独走したタッチダウンと、糟谷からWR松原へのタッチダウンパスの様子を話してくれた。そして「明治のランは強い。後半、それにどう対応するかが見どころや」と話してくれた。
「なるほど、糟谷の潜在能力の高さを考えれば、独走したって不思議はない」「松原の実力からすれば、少々雨が降ってもパスキャッチに何の支障もないはず」と思いながら、あらためてそのプレーを見られなかった悔しさが募る。
この日も雨。しかし、関西学生アメリカンフットボール界の重鎮、古川明さんのご好意で記者室の一角に席を借りて観戦。持参した結婚式の引き出物や礼服が濡れないので大いに助かった。
後半は明治のレシーブから始まったが、守備陣が完璧に抑えてすぐにファイターズの攻撃。相手陣48ヤードという好位置からRB久司の22ヤード、RB松岡の12ヤード、再び久司の11ヤードと立て続けのラン攻撃で一気に相手ゴール前に迫った。残る3ヤードをRB稲村が走り抜き、あっという間にTD。3人の快足ランナーの持ち味を存分に発揮した鮮やかなシリーズだった。
次の明治の攻撃シリーズ。スペシャルプレーを成功させて一気に陣地を進めたが、結局は得点に結びつけられず、再びファイターズの攻撃。自陣32ヤードから始まったこのシリーズも糟谷から松原へのパス、松原のランなどが次々と決まり、あっという間に敵陣24ヤード。ここで再び糟谷が左オープンを独走してTD。K大西のキックも決まって28-0。たとえ後半戦だけでも見ることができれば、と思ってスタジアムに駆けつけてきた値打ちがあった、と思わせてくれる攻撃の連続だった。
ところが、ここからが凡戦。両軍ともしっかりボールを確保できず、ファンブルの応酬。とりわけファイターズはゴール前で3回もファンブルを重ね、自ら攻撃のリズムを崩してしまった。
雨の中とはいえ、この結果には納得がいかなかったのだろう。試合後、鳥内監督は「ボールのセキュリティーについては、普段から厳しくいうてんのに。結果オーライの練習ばかりしてるから、ああいうことになるんですわ」と厳しい口調だった。
ともあれ、この試合で春のシーズンは事実上終了。3日に上ケ原の第3フィールドで行われるJV戦を残すのみとなった。
春の戦いで見えてきたいくつもの課題を今後どのように克服していくか。春に先発したメンバーを押しのける新戦力がどれくらい成長してくるのか。前期試験をはさんで、夏合宿が始まるまでの間の取り組みが、すべての鍵を握っているような気がする。本気で日本1を目指すのなら、普段から練習のための練習ではなく、常に試合を意識して、さらに高いレベルの鍛錬を続けてほしい。
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