石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(16)スポーツの発展と暴力行為

投稿日時:2010/08/01(日) 12:49

 プロ野球の西武球団は29日、2軍の打撃コーチを務めていた大久保博元氏(43)を解雇した。選手に対する暴力行為があったからという。暴行を受けた選手名について、球団は公表していないが、30日付の朝日新聞は今春、ドラフト1位で入団した菊池雄星投手(19)だと報じている。
 その記事を受ける形で、同じ日のスポーツ面には
 ――(大久保氏は)今季も、早朝から夜間練習まで若手に付き添うなど精力的に活動し、渡辺監督の信頼も厚かった。一方、意見の食い違う選手を冷遇する一面もあったといわれる。そりが合わず、しばらく練習に出てこられなくな選手もいた。球団側は「チームの統制を乱す言動があった」とも説明している。――
という記事を載せている。熱血指導という言葉で暴力を振るい、勝手気ままに行動していたコーチの姿が浮かび上がってくる。
 シーズンたけなわのこんな時期に、現場を預かるコーチが「暴力行為」を理由に解雇されるのは極めて珍しい。僕も長い間、プロ野球のファンをやっているが、こんな話を聞くのは初めてである。
 ところが、野球界では指導者が暴力を振るうのは決して珍しいことではない。これは例えば、巨人のエースだった桑田真澄氏の著書『野球を学問する』を読んでいただければ、たちどころに分かる。彼は現役引退後、早稲田大学大学院で学び「これからの時代にふさわしい野球道」について研究。現役のプロ野球選手270人にアンケートをしてデータを収集し、それを基にまとめた論文で、社会人1年コースの最優秀論文賞を受賞している。
 その論文と、それを作成する過程を中心にまとめたのが『野球を学問する』だが、彼はその中で、現役のプロ野球選手で「指導者から体罰を受けた経験がある」人は、中学時代で46%、高校時代で47%。「先輩からの体罰」は、中学時代が36%、高校では51%もいたことを紹介している。
 さらに彼自身の体験として、小学校3年生のころから、指導者に「顔がぱんぱんに腫れ上がるまで殴られ、尻をバットで殴られた」ことを綴っている。PL学園で同級生だった清原選手が1年生の時(彼らは1年生の時からエースと4番打者のコンビで、夏の甲子園大会で優勝している)、本塁打を打つたびに先輩に殴られた話も打ち明けている。
 小学生から高校生まで、野球界が暴力に汚染されていることを裏付ける、これはデータであり、証言である。そういう土壌で育っている以上、プロ野球界に暴力行為や陰湿ないじめが横行していることを想像することは、難しいことではない。
 その昔、縁あって、僕がかわいがっていた高校野球のヒーローも、高校卒業後、ドラフト1位で人気球団に入ったが、彼も入団早々、「ドラ1」と先輩たちに揶揄され、いろんな嫌がらせを受けたそうだ。彼が不遇の時、食事をしながら直接、本人から聞いた話だから、間違いないだろう。今回の大久保コーチと菊池投手の話を聞いた時、思わず彼の話を思い出した。
 大久保元コーチだけではない。「指導に名を借りた」暴力行為はスポーツの現場に蔓延している。それが、子どもたちのスポーツに取り組む楽しさをどれほどスポイルしてきたことか。
 幸いファイターズには、このような陰湿な土壌はない。部の創立以来、チームにかかわった多くの指導者がアメフットに取り組む明確な哲学を持ち、歴代の部員もまた、それをよく理解してきたからだろう。草創期からの指導者だった米田満先生や武田建先生、長く学生アメフット界の世話をしてこられた古川明氏らの話を聞くたびに、ファイターズがストイックな伝統を守り続けていることに、意を強くする。
 そして、そういうチームだからこそ、常勝軍団であってほしい、あらねばならない、という気持ちが強くなる。暴力が横行するチームではなく、暴力が支配しないチームが勝ち続けるという事実を天下に示すことが、日本のアメフット界、スポーツ界の発展に寄与するはずだと信じているからである。
   ◇   ◇
 前回のコラムで「ヘルペスにかかってへこんでいる」と書いたことで、読者のみなさまにご心配をかけました。遠くニュージーランドから便りをくださった谷口義弘さん(ファイターズが甲子園ボウル5連覇を果たした当時のエースRBです。僕は当時、朝日新聞の阪神支局員。仕事をサボって試合を見に行っていましたが、ハーフライン付近から何度も独走し、タッチダウンを重ねた彼の雄姿がいまも目に浮かびます)をはじめ、この欄にコメントを寄せていただいたみなさまに心から感謝します。
 もうすっかり回復しました。7日からの全国高校野球選手権大会にも、ファイターズの鉢伏合宿にも、心おきなく顔を出せそうです。

(15)僕の「本業」

投稿日時:2010/07/22(木) 22:24

 ヘルペスって、油断がならない。初めは胸のあたりに時々、変な痛みが走る程度だったんだけど、お医者さんに診断してもらって、薬を飲み始めたころから、キツイ痛みに変わり、痛み止めを飲まないと仕事も手に着かなくなってしまった。1週間ほど前から、ようやく痛みはなくなったけど、不摂生をすると再発することが多いそうだ。
 かかりつけの医者は「これも老化現象の一つですよ」と簡単にのたまう。けれども、老化を認めたくない僕としては、見栄を張って「もう痛みは消えました。大丈夫です」というしかない。そんなこんなで、このコラムもしばらく間があいてしまった。
 そうこうするうちに、昨日(21日)は朝日新聞の夕刊(統合版地域では22日朝刊)に連載されている「メディア激変」に僕の名前が載り、古い知り合いから電話やメールが相次いでいる(ほんの2本だけですけど)。
 どういうことで取り上げられたのかは、その新聞を読んでいただくとして、これは報酬をもらっている「本業」に関することだから、その仕事ぶりをまっとうに取り上げられることは、それなりにうれしい。先日来、朝日新聞社発行の「ジャーナリズム」という専門誌や日本新聞協会発行の「新聞研究」に、相次いで長文のレポートを掲載。「本業」の方でも、少しばかりは存在感をアピールしてきたから、それに注目してくれる人もいるということだろう。
 けれども、世間からはまったく注目されていないところに、僕の本当の「本業」がある。ファイターズで活躍することを夢見て、スポーツ推薦で関西学院の試験を受けようとする高校生に対する小論文の指導である。毎年、この時期になると、毎週のように該当する高校生に集合してもらい、夜間、2~3時間の勉強会を開いて、文章の書き方を教えているのである。あの平郡君や池谷君の代からスタートした集まりだから、今年でもう12年目になる。
 今年も、高校の1学期の試験が終わった直後から勉強会を始めた。関西勢は西宮市内の某所に集まってみっちりと個別指導。東京組は、ファクスで送ってもらった小論文を添削し、個別に講評を書いて送り返す。それをこの夏休み期間中、毎週のように続け、9月の試験に備えるのである。
 スポーツ推薦制度について、ファイターズの受け止め方は、かなりストイックである。いま高校野球で問題になっている「特待生」制度とは、考え方が根本から違っている。監督にもコーチにも、アメフットの選手として優れていればそれでいい、という考え方はまったくない。アメフットを通じて、いかに立派な社会人を育成するか、人間としてどのように成長していくのか、という点に力点を置き、ファイターズという組織がその成長をどう担保していくか、というところに心を砕いている。
 推薦入試を受ける高校生に対しても、この考え方は貫かれている。だからこそ、試験に備えて、少しでも勉強しよう、力を付けようということで、この勉強会も開催しているのである。及ばずながら、僕もお手伝いをさせていただいているのである。
 毎年のことだが、この勉強会に集まってくる高校生は、好感の持てる子ばかりである。リクルートを担当しているディレクター補佐の宮本敬士氏やマネジャーの森田義樹君が高校生の試合を丁寧に見て回り、試合中のパフォーマンスはもちろん、それ以外の行動や学業に対する取り組みなどをチェックしたうえで、推薦するメンバーを厳選しているからだろう。
 もともとが同じアメフットの選手。学校は違っても、関西の大会で対戦している選手同士だから、顔を会わせれば打ち解けるのも早い。勉強会のたびに、簡単な食事をともにして、あれやこれやと話し合うのだが、全員がもう同じチームのメンバーのように、親しく口をきいている。
 その姿を見ていると、絶対にこの子たち全員を合格させたい、一人も落としたくないという気持ちになる。小論文指導者としての闘志がわいてくる。これが小論文指導を、僕の「本業」と思い定めている由縁である。
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