石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(5)「些細な変化」を見る

投稿日時:2011/05/06(金) 23:47

 この数年、四季を問わず、機会があるごとに上ヶ原の第3フィールドに顔を出している。平郡雷太君の記念樹の下のベンチに腰かけて、ぼんやりと選手やスタッフの動きを眺めているだけだが、それでも気が付くことがいくつかある。新聞記者になって44年。その間、ずっと記事を書く現場で働いてきたせいか、人が気にも留めない些細な事柄にも、ついつい反応してしまうのである。
 例えば、選手たちのグラウンドに集まる足取り、ハドルへの集散のスピード、4年生の練習への取り組みと下級生への目配り、それに対する部員の反応。あるいは、それは直接選手たちには関係ないけれども、グラウンドに見えるOBの人数と回数。そんな事柄の一つ一つが主人公となって、僕の頭の中では「2011年のファイターズ」が物語として紡がれていくのである。
 もちろん、それは僕が勝手に描く物語であり、ここでことさらに披露するようなことではない。第一、そんな些細な場面をいくら積み重ねても、選手たちが試合会場で披露するビッグプレーの一つにも及ばない。けれども「神は細部に宿る」。人の目には些細なことと映るような事柄の中にこそ、成長、飛躍への扉を開くカギが隠されているということもまた、真実である。少なくとも僕はそう信じている。
 例えば、メジャーリーグで大活躍しているマリナーズのイチロー選手に、こんなエピソードがある。ファイターズOBで元共同通信記者、小西慶三氏の書かれた「イチローの流儀」(新潮社)からその要旨を引用させていただく。
 イチロー選手は1998年3月、熊本であったオープン戦の前夜、わざと一睡もせずに、当日の試合に臨んだ。普段から意識していないことは、突然、やれといわれてもできない。だから、いつか来るかもしれない苦しい状況をわざと設定して、それでもプレーできるか試してみたという。彼がまだオリックスで活躍していたころの話である。
 それから6年後、ボルチモアでオリオールズとのダブルヘッダーがあった。彼はその前夜、長時間の移動で体調を崩し、一睡もできなかったという。しかし試合には出場、第1試合では5打数5安打、2試合目も代打で出てヒット、都合6打数6安打とした。6年前の準備が生きたのである。これだけではない。彼は、マリナーズに移ってからも、自分に不利な状況に置かれたときの対応策を探るため、オープン戦でわざ2ストライクまで追い込まれた状況を設定し、残りのわずか1球で投手と勝負したこともあったという。
 だれに明かすわけもなく、一人隠れてこういう求道者のような努力を積み重ねた結果として、彼はメジャーリーグでも1流の選手となり、毎年200本安打を打ち続けているのである。
 こういう彼の努力を、オリックスでもマリナーズでも同僚だった長谷川滋利投手は「誰よりも早く球場に入り、絶対に遅刻しない男」と表しているそうだ。
 イチロー選手の振る舞いや長谷川投手の言葉を伝え聞くことによって、彼の練習の内容やその目的を見ることのできない僕でも、彼の野球にかける「周到な準備」に思いをはせることはできるのである。
 ゴルフの石川遼選手にも似たような話がある。彼が使用しているサングラスのことを知る立場にある方から聞いた話である。
 彼は普段、メガネを掛けないので、サングラスをかけてプレーすると違和感があったそうだ。しかし、世界の舞台で活躍するためには、例えば日差しの強いアメリカ西海岸でも、世界の強豪と対等に戦わなければならない。そのためには、日差しを緩和するサングラスが不可欠。ならば、違和感なんていっておれない。少しでもフィットするサングラスを作り、いまから慣れておくしかない。そういって、父親を始め周囲の反対を押し切ってサングラスをかけてプレーするようになったという。その決断をした時、彼は18歳。
 石川選手をインタビューする機会はなくても、彼がどうしてサングラスをかけるようになったのか、という疑問を持ち、その答えを推し量ることから、これまた現状に満足せず、より高い目標を立て、そのために日ごろから「周到な準備」を重ねている彼の素顔が見えてくる。
 たかがサングラスかもしれない。でも、それは「世界の舞台で活躍する」という彼の強い意志の象徴であり、目標に向かってひたすら努力していることの証明なのである。
 高い目標を持ち、それを達成するために、日々「周到な準備」を重ねるトップアスリートたち。その内容は、わざわざ大きな声で語られることはない。いわば片言隻句というようなものである。けれども、そこから学ぶべきことはいくつもある。そのままの形では応用できないかもしれないが、その「周到な準備」に至る考え方は、そのままファイターズの諸君にも応用できる話であろう。
 そこに思いが至れば、練習に対する意識も当然、変わってくる。その変化は、ハドルの集散にも、練習の取り組みにも、形となって現れてくるはずだ。当然、試合にも反映される。その些細な変化を確かめたくて、今日もせっせとグラウンドに足を運んでいるのである。

(4)新戦力の楽しみ

投稿日時:2011/04/26(火) 22:17

 学生スポーツ界で君臨するためには、当然のことながら、毎年、新しいメンバーを発掘し、育成していかなければならない。どんなに有能な選手でも、選手として活動できるのは、4年が限りである。
 だから、どのチームもリクルート活動に全力を注ぎ、新しい人材を育てようと躍起になる。そのシステムを整備、工夫し、コーチングスタッフが存分に力を発揮できる環境を整えたチームが台頭してくる。過去の名声に寄りかかっているだけでは、チーム力は上がってこないのである。
 例えば、24日に行われた今季ファイターズの初戦、日大戦の先発メンバーを、昨年最終の関大戦のそれと比べてみれば、この間の事情がよく理解できる。日大戦のスタメンのうち、関大戦の先発に名前を連ねていたのはオフェンスではOL谷山とWR小山の2人だけ。ディフェンスではDL長島、梶原、池永、池田、重田の6人。それにキッカー、パンターの大西を合わせた計9人である。実に半数以上が新しい顔ぶれになっている。
 もちろん、新しい顔といっても、その多くは昨年から交代メンバーとして試合に出ていた。けれども、2年生OL友国、DB大森(ともに関西大倉)、3年生DB保宗(高等部)のように、昨年の公式戦にはほとんど出ていなかった選手もいる。この日、攻撃の主力として大活躍したRB望月だって、昨年はLBで出ていた選手である。
 そういう選手たちの躍動ぶりを見るのが、春のシーズンの楽しみの一つである。
 その視点からいうと、日大戦は本当に収穫の多い試合だった。スタジアムに足を運べなかったファンのためにも、思いつくままに活躍した選手たちの名前を挙げていこう。まずはオフェンスから。
 最初に目に付いたのはQB畑。昨年は、不動のエース加藤の影に隠れていたが、この日は違った。投げては9回のパスを通して102ヤードを獲得。走っては、思い切りのよいスクランブルなど6回のランで62ヤードを獲得した。その数字だけを見れば、ファイターズのエースとしては物足りないという方もおられるかもしれないが、内容が充実していた。とにかく思い切りがいい。1週間前のJV戦では、レシーバーとの呼吸が合わず、何度も簡単なパスをミスしていたが、この日はパスもランも、別人のように充実していた。「試合に責任を持つのは俺だ」という意気込みがプレーに表現されていた。試合後、「なんだかムキになって走っていたね」と声をかけると、「いやー、夢中でした」と答えていたが、スタンドから見ていても、昨年より確実に階段を上っているという言葉がぴったりだった。
 もう一人はLBからコンバートされたRB望月。昨年も短いヤードを確実に進めなければならない場面で何度か起用されていたが、この日はRBの柱。16回のラッシュで102ヤード獲得という数字も素晴らしいが、すごかったのが突破力。相手守備陣が彼のランを警戒し、決め打ちで守っている場面でさえ、確実に5ヤード前後を稼ぐ迫力に圧倒された。ファイターズでは近年ほとんど見かけなかった突破型のランナーである。
 彼と交代で出場した2年生RB野々垣のスピードにも目を見張らされた。ファイターズの伝統を繋ぐカットバック走者で、その素早い身のこなしが魅力的。とりわけ密集を抜けてからのスピードがピカ1である。第3Q6分33秒に見せた33ヤードの独走TDは、今季の活躍を期待させてくれた。これに、極めつけのスピードを持つ主将の松岡君が復帰してくれば、多彩で強力なラン攻撃が期待できそうだ。
 守備では、フロントラインが健在。長島、梶原、岸、池永と並んだ陣容は、昨年の主将平澤君の抜けた穴を感じさせない。控えの朝倉も、先日のJV戦に続く活躍。鋭い出足でQBサックを決め、層の厚さを見せつけた。LB陣も昨年から試合に出ている川端、前川の3年生が健在。これに昨年はDBだった2年生池田が加わり、スピードのあるメンツがそろった。善元、吉井、三木という能力の高い選手が卒業したDB陣も、先に挙げた大森や保宗の成長で、大きくは見劣りがしない。二人とも、初めてのスタメンだったが、切れのよい動きでそれぞれ相手パスをインターセプト。非凡なところを見せつけた。今後の成長が楽しみである。
 このように、この日活躍した選手の名前を並べていくだけでもワクワクしてくる。5月8日の関大、22日の京大と続くこれからの戦いが大いに楽しみである。彼らがさらなる成長を見せてくれるかどうか。それとも、調整不足で、この日は出場しなかった面々が新しく登場してくるのか。けがで休んでいた4年生のQB糟谷やOL濱本はいつ戻ってくるのだろう。
 春の試合は、選手の能力を引き出し、その成長の度合いを測る段階。試合経験を積ませる場でもある。ベンチもメンバーを固定せず、どんどん新しい戦力を投入してくる。そこで選手の長所や欠点、可能性を確かめながら、秋に向けて備えてくるはずだ。そういったことまで考えながら、私たちは試合を楽しめばよい。スタジアムに向かう足取りもはずんでくるというものだ。
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