石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(3)ファイターズ・デー

投稿日時:2012/04/18(水) 08:52

 春季シーズンの開幕を前に14日、上ヶ原の第3フィールドでファイターズ・デーが開かれた。午前はファイターズの紅白戦、午後はブルーナイツ、関西学院初等部ファイターズ、中学部ファイターズ、高等部ファイターズ、OBチーム、シニアファイターズ、それにファイターズに入ったばかりのフレッシュマンのチームが参加して、フラッグフットボールとタッチフットボールの試合があった。
 前夜からの雨もあがり、お目当ての紅白戦が始まるころには、初夏のような爽やかな日差し。紅白戦は2年生QB斎藤君が率いるブルーチームと、同じく2年生QB前田君がリードするホワイトチームの対戦。けがで調整中の部員や就職活動中の4年生は参加できなかったが、その分、普段の試合ではあまり見ることのできないメンバーが多数出場することができたので、観戦しているファンとしてはうれしい限りである。
 前後半、各20分の2クオーター制。互いに50ヤード地点から攻撃し、激しいタックルも禁止という「安全第一」のルールだったが、そこは格闘技。試合に熱が入るにつれて、プレーも激しさを増す。前半は、ブルーチームがゴール前9ヤードからQB斎藤君が左オープンに走って先制のTD。ホワイトチームの反撃をフィールドゴール1本に抑えて7-3でリード。
 後半に入るとホワイトチームも反撃。互いにTD1本を奪い合うシーソーゲームとなったが、最後はホワイトチームの前田君がWR南本君にTDパスを決め、17-14で逆転勝ち。紅白戦ならではの和やかな雰囲気の中で、新戦力の台頭と試合の楽しさを味うことができた。
 午後のタッチフットとフラッグフットの試合は、さらに和やかな雰囲気。シニアファイターズチームでは、小野コーチがQBとして出場、びしばしと正確なパスを決める場面があったし、フレッシュマンチームでは、期待の新人が次々に登場。日頃の練習とはひと味違う楽しげな表情で伸び伸びとプレーしていた。ともにKGファミリーが一堂に会し、フットボールを楽しむファイターズ・デーならではの場面。選手の素顔を見ようと駆けつけたファンクラブの人たちも満足げな様子だった。
 本当はその模様を、もっと詳しくお伝えしたいのだが、実は試合の様子をほとんど見ていない。スタンドのいすに腰掛け、主将の梶原君や副将の川端君らと、延々2時間近く話込んでいたからだ。普段、練習を見る機会は多いが、彼らは練習に身を入れている。当然、ゆっくり話す時間はない。けれども、この日は紅白戦の後は、選手たちも比較的手が空いている。そこで、タッチフットの試合を見ながら、今季のチームの運営やリーダーとしての心構えなどについて、彼らの話をじっくりと聞いていたのだ。
 彼らとの話の内容は、チーム内部のことなので、ここでは省略。
 代わりに夕方から、今春チームを巣立っていった前主将の松岡君とDBリーダーだった香山君と会食しながら話したことの一端をご紹介しよう。
 彼らとはこの1年、グラウンドとスタンドとの違いはあっても、互いに熱中してフットボールに打ち込んだ。昨年のチーム作りについての思い出話から、それぞれの成長のきっかけ、リーダーとして心に決めたことやプレーの回顧談。同じ場面を共有したものが同じ関心を持ってフットボールのことを話すだから、どんな前置きも説明も必要ない。いきなり本題に入れる。
 例えば、立命のエースQB谷口君とファイターズの突貫RB望月君の当たりの強さの違いを説明する香山君の話。彼は、二人に本気でぶつかった当事者のみが表現できる言葉で、その強さの違いを説明してくれた。そして、そんなに強い相手に真正面からぶつかって負けなかった自らの修練、そこに至る道筋を話してくれた。
 松岡君は、昨年の夏合宿で練習中に意識を失いかけた時の心境について、これまた当事者ならではの言葉で語ってくれた。
 具体的な言葉は、あえて省略させていただくが、ともに「俺がチームを引き受ける」という責任感があって初めて口にすることのできる表現だった。そういう表現が自然に口から出てくるところに、彼らのこの1年間の取り組みの真実が垣間見えた。その取り組みが二人を成長させたことが実感できた。
 ほんの数時間前、これからの1年、ファイターズをどのようにリードしていこうかと悩み、苦しんでいる新しい幹部たちと話したばかり。新幹部の意気込みとそれに付随する戸惑い、悩みを耳にしたばかりとあって、1年間の重責を果たし、その苦しさを糧に成長し、卒業していく二人の言葉がとりわけ胸にしみた。ファイターズの4年生の背負う荷物の重さを知り、またそれを背負いきったときの果実の大きさを知ることができた。
 新しい4年生もまた、この1年間の重い任務を果たし、来年のいまごろには、松岡君や香山君のような言葉を口にするようになっているに違いない。なぜなら、上ヶ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁場があるからだ。
 梶原君、川端君、そして金本君。リーダーの責任は重いけど、それぞれのやり方、手法で壁を突破し、目標を完遂してほしい。その責任を果たしてほしい。どんなに苦しくても、それを自分の力で突破したとき、諸君の前には新たな世界が広がるだろう。松岡、香山の両先輩がそれを証明している。

(2)卒業生文集

投稿日時:2012/04/12(木) 20:17

 今春もまた、卒業してゆくファイターズの諸君が書いた「卒業生文集」を頂戴した。B5判、48ページ。松岡主将をはじめ、選手、スタッフの皆さんの「4年間の取り組み」「ファイターズへの思い」が、心の底から絞り出した言葉で綴られている。
 最初は一気に読み終え、次はじっくりと読み返し、折に触れてまた読み返している。それぞれが素晴らしい文章である。新聞記者として45年、同時並行で大学生に文章表現を指導するようになって10年。文章を書くこと、鑑賞することについては、それなりの自負を持っている小生が読んでも、全員に「優」を進呈したい気分である。
 例えば、副将の谷山君はがこんなことを書いている。「ファイターズが好きではなかった」「ファイターズの一員として勝つことに取り組んでいたことはなく、個人的に勝つこと、いいプレーをすることしかなかった」「こんなクソみたいな考えしかなく、腐っていた時期も多くあった」と下級生のころを振り返り、「しかし、最後の1年間。4年として過ごした日々の中で私は変化した」「気がつけば抱いていた不満の元凶が見えてきた。それは、何もしないのに、変わらないのに、自ら行動しないのに、不満だけは吐き、不都合だけは大声で訴える。そのうえ、チームからおいしいところだけをとろうとしていた、クズの極みである自分自身である」と自分に刃を向ける。そして最後は「自ら行動し、自ら考え、自らが変え、自らの意思でやることこそが一番重要であるということを学んだ」とまとめる。
 領家杯を受賞したDBの香山君は「私は3回の終わりまでファイターズに必要ない人間だった。すべての物事をチーム単位で考えられる人間ではなかったからだ。何をするにも自分主体で考え、何かマイナスなことが起きたら、先輩や周りのせいにしようとする自分がいた。自分自身そのことに気付いていながらも、変わることにびびってしまうチキン野郎」と自らを省みる。
 しかし、あるコーチとの厳しいやりとりなどから「4回になるにあたって、チキン野郎の汚名を返上しようという闘争心に火が付いた」「サッカーの本田圭介選手の『成功すれば挫折は過程に変わる。だからあきらめない』という言葉にも励まされ、どんな逆境にあってもやり続けようと思えた」。
 その結果「最後の立命戦は、人生であれ以上はないというくらい楽しかった。試合前からの1分1秒が最高の瞬間だった。1年間ともに戦ってきたDEFを誇りに感じた。このままこのチームでずっとアメフトを続けたいと思った」と心情を吐露する。
 ともに挫折、自己否定から始まり、自問自答、自己との格闘を通じて、最後は自分自身の成長を実感して4年間を総括する。その過程を具体的に「自らの言葉」で綴っている。それが素晴らしい。
 二人だけではない。選手もトレーナーも、マネジャーも分析スタッフも、そして高等部や啓明学院のコーチ、5回生コーチも、それぞれがファイターズで学んだことや心残りだったこと、後輩に言い残したいことなどを赤裸々に綴っている。飾りもなければ、嘘もない。その文章が読む者の胸に迫る。名文というしかない。
 「進化し続けるからNO1」と言い切るWR和田君。「1年間の努力を持ってすれば、社会人にも決して負けない試合ができる」「私たちのしてきた努力は正しかった。ただ、ただ勝つためにはこの努力でも足りないということも分かった」と書いた濱本君。
 年間最優秀選手に選ばれ、大月杯も受賞したキッカー、パンターの大西志宜君は、3700字を超える長文の最後を「自分自身、良いキッカーパンターだったと思っているが、凄い4回生ではなかったと思う。後輩たちには、自分の信念を曲げずに、その問題から逃げずに勝負していってほしい。凄い4回生になってくれることを期待している」という言葉で締めくくる。
 それぞれが凄い言葉である。これだけの自信を持って4年間の活動を振り替えることができるというのは、ただごとではない。こういうサムライたちが日本1という目標に向かって努力を重ねてきたからこそ、昨年度のファイターズは「日本1」の座にたどり着くことができた。松岡主将のいう「生きてきて初めて真の仲間ができた」「かけがえのないものを手にすることができた」のである。
 文集を読みながら、卒業していく諸君がこれを座右に置き、人生の節目に読み返して、生きる糧にしてもらいたいと思った。そして後輩たちにも、来春の同じ時期に、こういう文章が書けるまでに自らを鍛え、高め続けてほしいと願っている。
«前へ 次へ»

<< 2025年8月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ブログテーマ