石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(5)生涯の友

投稿日時:2012/05/03(木) 21:39

 先日のコラムで紹介した「2011年度卒業生文集」の後記に、小野宏コーチが次のような挿話を書いている。ファイターズの同期生で、現在は奈良県御所市の市長を務めている東川裕氏を巡るエピソードである。
 小野コーチはQB、東川氏はトレーナー。役割は違ったが、ともにファイターズで4年間を過ごし、5年生のときは二人とも初めての5年生コーチを務めた。
 東川氏は卒業後、家業の酒屋を継ぎ、そのかたわら街づくりやNPO活動に取り組んでいたが、4年前、周囲から市長に担ぎ出され、全国でも北海道・夕張市に次いで財政状況の悪かった市政の運営を託された。自分の給与を大幅に下げ、退職金も返納。職員の給与も下げ、各種補助金も大胆にカットした。市民から怒鳴りこまれ、議会ではつるし上げられ、大変な苦労をしながら、ようやく「財政健全化団体」から抜け出すところまでこぎ着けた。
 そんな東川氏が市長という孤独で重い職責を遂行するにあたり、いつも心掛けていたことがあるという。それは、小野コーチの後記から引用すれば「苦しい決断は自分一人でするしかない。あれもこれもと迷ってばかりです。そんなとき、いつも川原(同期の主将)やったらどう判断するやろか、小野やったらどう考えるやろか、と考えます」ということだった。
 このエピソードを読んだとき、思わず「生涯の友」という言葉が浮かんだ。自分がもっとも苦しい時に、友達の存在が確かな実感となって脳裏に浮かぶ。「川原ならどう判断するか」「小野ならどう考えるか」
 こうした問いを自らに投げかけた瞬間、迷いは消える。なぜなら、ファイターズで苦楽をともにしたとき、彼らはいつも、こうした問いに的確な回答を示してくれた「友達」であるからだ。「川原が判断するのなら間違いはない」「小野がこう答えるのなら、それに従えばいい」。そういう信頼があるからこそ「問いを投げかけ」ているからだ。
 同期といっても、ファイターズで活動するのは、基本的に4年間。実質的には3年半ぐらいのものだろう。もっと厳密にいえば、自らがチーム運営に責任を持つ4年生の1年間だけといってもよい。その短い期間を互いに支え、互いに励まし、互いに叱咤し、互いに目標達成を目指して精進する中で「生涯の友」と呼べる関係が生まれる。
 しかし、注意しなければならないことがある。たまたま、同じ学年だったとか、同じポジションだったとかいうだけでは、そうした密度の高い関係は生まれない。同好の士が集まり、愉快に楽しい時間が過ごせればそれで目標達成、というサークル活動と、常に日本1の座を目指し、どんなに苦しい状況にあっても、その目標を完遂することに学生生活をかけるファイターズの活動とは、自ずから違いがあるのだ。
 目標が高ければ、要求される内容も高度になる。体力の養成から技術の習得、戦術の理解から精神力の錬磨、チームの運営や下級生の指導、果たさなければならないことは、山ほどある。監督やコーチと信頼関係を築き、卒業生や家族の期待にも応えなければならない。もちろん学業もおろそかにできない。
 毎日毎日、汗にまみれ、体力の限界まで自分を痛めつけ、それでも思い通りにプレーできないことの方が多い。チームメートやライバルチームの選手らが簡単にこなしている技法をマスターできずに、悔しい思いをすることも多いだろう。仲間からののしられ、コーチから罵声を浴びて、うちひしがれることもあるだろう。
 そんな毎日に耐え、日付が変わればまたグラウンドに顔を出す。そしてまたもや苦しい練習に挑んでいく。
 そういう活動の中で、一番頼りになるのは何か。もっとも、心が解放されるのは、どういうときか。
 「生涯の友」はそういう場面で姿を現す。「こいつのためならトコトンやったる」「あいつ一人につらい目はさせない。俺がカバーしてやる」「俺があいつを日本1の主将にする」。置かれた立場で言葉は異なるだろうが、一人一人に「生涯の友」という存在がくっきりとした輪郭を持って立ち上がってくるはずだ。
 「雨の日の友」という言葉がある。晴れた日、つまり物事がうまくいっているときには、相手の方から寄ってくる。けれども、落ち目になったときには誰も見向きもしない。そんな雨天の日にも快く声をかけてくれるのが本当の友である、というような意味である。
 組織がスムーズに運営され、業績も右肩上がりで伸びているとき、個人的にいえば順調に出世の階段を上っているとき、そんなときには周囲のみんなが友人のように振る舞う。けれども、どこかでつまづき、具合が悪くなったときには、そういう友人はいつの間にか姿を消してしまう。世間にはよくあることである。
 そんな友人関係をいくら築き上げても意味はない。ファイターズで活動する以上、雨の日にも互いに傘を差し掛けることのできる友人、生涯の友を得るための努力を日々続けてほしい。それは、汗と涙にまみれ、身も心もさらけ出した戦いの果てに、手にすることができるものだと僕は信じている。

(4)視点の違いが評価を変える

投稿日時:2012/04/26(木) 22:38

 21日の土曜日は、明治大学との今季開幕戦。「KG,BOWL」と名付け、新入生歓迎の意味を込めた試合だった。
 木曜日に理髪店に行き、髪を切って気分を一新し、金曜日は上ヶ原のグラウンドで試合前の練習を見学。ついでに上ヶ原の八幡神社にもお参りして、勝利と選手の無事を祈願。準備万端整えて土曜日は元気よく王子スタジアムへ。
 いよいよシーズンが始まる。天気は晴れ。スタジアムを取り囲む木々の若葉は一斉に芽吹き、六甲山と摩耶山から吹き下ろしてくる風は肌に心地よい。「薫風香る」という表現がぴったりの天候だ。
 いつもの席に着き、いつもの観戦仲間と試合前の練習を眺めていると、それだけで身も心も高ぶってくる。自分が試合をするわけではないけれども、グラウンドに降りた選手がみな親しい身内、かわいい子どもたちのように思えるからだろう。これから来年1月3日までの長い戦いの火ぶたが切られる、と考えるだけで、気分が高揚する。
 さて、試合である。先発メンバーを見て驚いた。昨年の甲子園ボウルとはがらりとメンバーが入れ替わっている。ディフェンスラインはLBから川端がディフェンスエンドに回り、残る3人は岡部、中前、国安という2、3年生のメンバー。LBの西山、DBの保宗、高も、昨年は交代メンバーだった。
 オフェンスはもっと新顔が多い。甲子園ボウルでスタメンだったのはOLの友國とWR梅本だけ。残りは全員が交代メンバーだった。OLの月山やQBの斎藤はこの春、2年生になったばかり。キッカー、パンターの堀本も、昨年までは大西君の陰に隠れて、ほとんど出番のなかった選手だ。
 4年生が卒業していったという事情を考慮しても、ここまで多くの新しいメンバーが先発するとは思っていなかった。意外でもあったが、同時にまた「冬場に努力したメンバーの力を試合で試してみたい」という監督やコーチの強い意志を感じた。
 とはいえ、これで関東の強豪、明治大学の強力なラインと対等に戦えるのだろうか、という不安がよぎる。というのはほかでもない。前日の練習では、試合に備えたチーム練習をほとんどせず、もっぱら基本的なスキルを身につける練習に力を入れているのを見てきたばかりだったからだ。
 ファイターズのキックで試合開始。立ち上がりはファイターズがDB高のファンブルリカバーやLB坂本のインターセプトなど守備陣の踏ん張りで押し気味に試合を進めた。だが、急所で反則が続出。QB斎藤からWR木戸へのTDパスをふいにしたりして、両軍とも無得点。
 ところが、第2Q開始早々、ファイターズのパントが相手守備陣にブロックされ、そのままTD。思わぬ形で相手に主導権を奪われた。その後も互いにターンオーバーを繰り返す雑な攻撃が続いたが、梶原弟のファンブルリカバーで得た好機にK堀本が40ヤードのフィールドゴールを決め、ようやく試合が落ち着いた。ファイターズは前半終了間際に斎藤からWR梅本、南本、大園へのパスが次々ヒット。相手ゴール前に陣地を進め、最後はRB榎本が2ヤードを走り切ってTD。10-7で前半を折り返した。
 ファイターズは後半、2度目の攻撃シリーズで、RB野々垣のランと斎藤から南本への長いパスで相手ゴール前に迫り、仕上げは斎藤からWR森本への15ヤードTDパス。その直後、明治の攻撃シリーズでTDを返されたが、ファイターズもすぐさまRB後藤が左オープンを走り切ってTD。相手の反撃をDB森岡のインターセプトで断ち切り、主導権を握ったままで試合終了。終わって見れば29-14でファイターズの勝利だった。
 さて、この結果をどう評価するか。
 「ライスボウルの雪辱を」「今年こそ社会人に勝って日本1に」という視点で見れば、攻守ともに物足りない点がいくつもあった。試合後のハドルでも副将の金本君が「こんな試合してて、日本1になれるんか」と大きな声で檄を飛ばしていた。梶原主将も「試合に出ているメンバーはともかく、ベンチの雰囲気が悪すぎる。チームが一丸になって戦っている姿が見えない」と厳しい表情だった。
 では、春の試合は新しい戦力を試す場という視点で見ればどうだろう。実のところ、鳥内監督や大村コーチは、試合の前日になっても「今季は試合前に特別な準備はしない。春は、普段やっていることがどこまで強い相手に通用するか、それが見たい」と話していた。
 その視点で見れば、攻守とも新しい戦力の芽生えがあった。2年生に限ってもOLの月山、RB吉澤は十分使えそうだ。LBの小野と西山も動きがよいし、DBには高校時代から実績のある国吉のほか、バスケットボール部から転じてきたアスリート森岡の動きが目についた。村岡も経験を積めば使えそうだ。DLの岡部と梶原弟の高等部コンビの動きもよい。これからもどんどん試合に出て、経験を積んでほしい。
 もちろん、斎藤と前田という2人のQBにも期待がかかる。昨シーズン、急速に成長した4年生の畑と比較すれば、すべてにおいて見劣りするが、経験を積み、試合の雰囲気に慣れてくれば、持っている才能をもっともっと発揮してくれるだろう。それはRB米田や松岡弟にもいえることだ。
 そう考えると、初戦の結果だけで、今季のファイターズのことを判断するのは早計だ。不満もあり、期待もあるという、ニュートラルな立場で今後を見守りたい。
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