石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(21)ジョブズ氏からの檄

投稿日時:2012/09/10(月) 23:43

 先日の休みに、たまたま自宅のテレビを見ていたら、アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏が学生たちに檄を飛ばしている場面を放映していた。ほんの一瞬、番組に挿入された場面だが、その言葉があの有名な「Stay Hungry, Stay Foolish」だった。
 彼がスタンフォード大学の卒業式にゲストとして呼ばれ、学生たちを前にスピーチしたときの締めくくりの言葉である。彼が若い頃に読んだ本の裏表紙に記されていた言葉であり、彼が「自分も常々そうありたいと思っている」言葉という。最近は英語の教材としても使用されるほど有名になっているそうだ。
 ファイターズの選手や卒業生、ファンや関係者にとっては、2009年度のチーム・スローガンとして、よく知られている。
 あの小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクト・マネジャーだった川口淳一郎氏は、その著「閃く脳の作り方」(飛鳥新社)で、この言葉について「自分の心の声に忠実に生きると、世間からは変人扱いされるかもしれない。それでも、それを貫いて生きていけということでしょう」と解釈。「ステイ・フーリッシュ」を「最初は異端であった、今後とも異端であれ」という意味に受け止めている。そして、それは「ナンバーワンを目指せ、ではなくオンリーワンを目指す道です」と書いている。
 ついでに言うと、彼が理解する「ナンバーワン」とは「同じことをしている人がたくさんいて、その競争に勝つこと。やっていることは同じで、その同じことに1番、2番という順位がつく」。それに対して「オンリーワン」とは「異端でもかまわないから自分の信じた道を行くこと。そこでは常にオリジナリティーが発揮でき、自動的に1番になれる」ことだ。
 話を分かりやすくしようとして、逆にがごちゃごちゃしてきた。結論をジョブズ氏の言葉でいうと「他人の雑音で心の声をかき消されないように。最も大切なのは自分の直感に従う勇気を持つこと」「世の中を変えるような生き方をしよう」ということである。
 前置きが長くなった。本題に入る。
 ジョブズ氏の言葉に僕が反応したのは、彼のいう「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」、つまり「異端でもかまわない。世の中を変えるような生き方をしよう」というところにある。
 ファイターズに即していえば「チームを変革する存在になろう」「多少の軋轢(あつれき)があってもかまわない。チームを一段上の次元に引き上げるためには、なれ合うのではなく、互いに求め合い、挑発しあおう。それをハングリー、どん欲に追求しよう」ということである。
 秋の関西リーグ、チームは鮮やかなスタートを切った。しかしライバルたちは、もっともっとすごい境地に到達している。それは先日、ライバルチームの開幕戦のビデオを見た鳥内監督から聞いた「やばいですわ。うちが30-0で負けてもおかしくないくらい相手はできあがっています。本気で取り組まないと、戦術や作戦では手に負えませんよ」という話からもうかがえる。
 そういう現実からのスタートである。初戦の快勝で浮かれている(僕のことです。選手はコーチはまったく浮かれていません。念のため)場合ではないのである。
 では、どうするか。そこでジョブズ氏の言葉である。練習のための練習、昨日と同じことの繰り返し、あるいはその延長上の練習では、術という名に値するほどの飛躍は生まれない。そうではなくて、それぞれの選手がオンリーワンのプレー、誰にも負けないプレーを極めることで新しい境地が開ける。
 走ること、当たること、ボールを投げること、キャッチすること、そしてボールを思った場所に思ったスピードと回転で蹴ること。走ること、当たることだけでも、100通りや200通りの状況があるだろう。それを選手全員が徹底的に極めるのである。ライバルの動きを想定し、それをさらに上回る動きを身につけ、当たり負けしないように、体を鍛え、体の使い方を工夫するのである。
 しんどい作業である。よほどの覚悟で臨まないと、間に合わないかもしれない。けれども、その厳しい練習に耐え、内容を工夫し、自分を飛躍的に向上させることでしか道は開けない。チームの力を1段階も2段階も飛躍させないと、勝ち目はないのである。「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」を実現するのは、いましかない。

(20)鮮やかなスタート

投稿日時:2012/09/04(火) 09:02

 待ちに待った秋のシーズンが開幕した。
 今年は9月になっても暑い日が続き、雷が鳴ったり、狂ったような夕立がきたりの天候が続いているから、開幕戦もどうなることかと心配したが、試合開始前に少しばかりのお湿りがあっただけで、逆に涼しくなって助かった。心配していた雷も鳴らず、午後5時、ファイターズK三輪のキックで気持ちよく試合が始まった。
 開幕戦と言えば、選手はもちろんファンも緊張する。故障上がりの選手がどこまで回復しているだろうか、春に活躍した期待の下級生が、秋の本番になっても、のびのびとプレーできるかどうか、相手チームは初戦にどんな秘策を用意しているのか、それにファイターズは対応できるのか。考え出せばきりがない。
 試合の前々日、ともかくチームの様子を見よう、雰囲気を味わって見ようと上ヶ原のグラウンドに出掛けた。その日は、スポーツ推薦の高校生たちに受験に当たってのいくつかの注意事項を説明する日だったが、それはリクルート担当の宮本氏に任せ、僕は試合に出場が予定されている選手たちの様子や振る舞いに注目した。
 長年、チームにつきあっていると、練習時のちょっとした仕草や言動からでも、何かが伝わってくる。自信満々に振る舞う選手もいるし、何かが吹っ切れたような選手もいる。逆に、自分のプレーに確信が持てないような仕草をする選手もいるし、忘れてきた何かを取り戻そうと懸命に練習に取り組む選手もいる。その成果が試合でどのように表現されるか。どのようなプレーとなって表れるか。想像するだけでもワクワクしてくる。
 試合が始まる。最初の近大の攻撃は、梶原、岸、前川、朝倉という4年生で固めたラインが素早い動きで相手ラインに圧力を掛け、2列目の池田や小野がそのスピードでボールキャリアを仕留める。簡単に相手をパントに追いやり、自陣48ヤードという好位置からの攻撃につなげる。
 注目の第一シリーズ。ファイターズはいきなりRB望月が26ヤードを独走。しがみつく相手をふりほどき、はね飛ばしての突進だ。続いてQB畑からWR木戸への9ヤードのパスがヒット、残り17ヤードをRB鷺野がスピードで抜き去ってTD。わずか3プレー、あれよあれよという間の出来事だった。堀本もキックを決めて7点を先制。
 次の近大の攻撃では、相手がフェイクプレーを連発、一度ダウンを更新されたが、ディフェンス陣が踏ん張って次の更新は許さない。近大はパント隊形からェイクパスを放ってきたが、これもファイターズ守備陣が冷静に仕留め、逆に自陣37ヤードからの攻撃。
 このシリーズも鷺野、望月、米田のRB陣がぐんぐんと陣地を進めたが、相手守備陣の反応もよく、TDには結びつかない。それでも堀本がきっちり27ヤードのフィールドゴールを決めて10点目。
 第2Qに入ると、畑からWR小山へ22ヤードのパスがヒットしてゴール前14ヤード。ここで畑が身をねじるようにして逆サイドの木戸にパス。3人のブロックに守られた木戸が余裕でゴールに走り込んでTD。前々日の練習で何度もタイミングを合わせていたプレーが、本番で見事に炸裂した。
 ここまでは攻守とも100点満点。決めるべき選手が決めるべきプレーを確実に決めて、何の問題もなし。春のシーズンは治療に専念したライスボウルのレギュラー陣も、生き生きと水を得たような活躍で、見ている方もひと安心だ。
 次の攻撃シリーズは自陣31ヤードからの攻撃だったが、鷺野の切れのよい走りに望月の40ヤード独走などがあって、あっという間にゴール前に。だが、ここでTDを狙って走り込んだ望月がTD寸前でファンブル。ボールはそのままゴールラインを割って痛恨のタッチバック。好事魔多し、という言葉を地で行くようなプレーとなった。
 それでもファイターズの勢いは止まらない。次の攻撃シリーズでは、畑からWR大園への長いパスを通して、一気にゴール前7ヤード。ここで先ほどの汚名返上とばかり、望月が中央を突破してTD。続くファイターズの攻撃シリーズも、畑からWR横山や小山へのパスが立て続けにヒットし、仕上げはWR梅本への浮かせたパスでTD。前半を31-0で折り返した。
 後半になってもファイターズの勢いは止まらない。望月の24ヤード独走TDに続いて堀本が37ヤードFGを決める。さらには畑の控えとして2番手に登場したQB松岡がいきなり67ヤードの独走TD。中央をスピードで抜き去った見事なプレーだった。
 松岡はその後も、ランニングバックと遜色のない走りでプレーをリード。相手が彼のランを警戒していると見れば、横山への長いパスを通してTDも奪う。今季は思いの外、活躍してくれそうと予感させる見事なデビューだった。
 こうして試合を振り返れば、初戦としては上々のでき。とりわけ、これまでならFGで終わっていたような場面でも、確実にTDをもぎ取れたことは、攻撃陣にとって自信になったに違いない。
 守備陣も、故障上がりの選手が全員活躍。春の試合で自信を付けた下級生もそれに負けないほどのパフォーマンスを見せた。次々と交代選手が出て、最後は少々、ゆるんだようになったが、これも選手に経験を積ませるためには仕方のないこと。トータルで見れば「最初は緊張しましたが、1本タッチダウンをとってからは落ち着きました」という、試合後の畑選手の言葉通りの試合となった。
 次回からの試合がさらに楽しみになる。
«前へ 次へ»

<< 2025年8月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ブログテーマ