石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
<<前へ | 次へ>> |
(25)「去りゆく人」
投稿日時:2012/10/04(木) 13:35
こういうコラムを書いていると、機会があるたびに多くの方々の激励やアドバイスに支えられていることを実感する。毎回、この文章を最初に読んでチェックしてくれる小野コーチ、ホームページにアップする作業を担当し、折りに触れてアドバイスをくれるアシスタントディレクター石割氏、スタジアムで声を掛け、時には「いいね」のチェックを入れて下さる読者の方々、そしてファイターズの卒業生や現役の諸君。
とりわけ元監督の武田建先生から送られてくるメールが励みになる。指導者としての長年の経験、現役の心理学者、カウンセラーとしてのものの見方、考え方、それらに裏打ちされたご意見やご指摘は、いつも刺激たっぷりで、考えるヒントが一杯詰まっている。
先日、アップした「4年生の役割」に寄せていただいた感想がその典型。私信ではあるが、差し支えのない部分を紹介したい。こんな文面が含まれていた。
「記事を拝見していて、これからのシーズン、ああした試合の紹介やご意見という形で、4年生への送別というか、お別れの文章が載るのだな……と感じています。石井さんにとっては、入学前から文章の指導をなさり、ご自分の息子のようなお気持ちだと思います。そして彼らが最上級生になり、立派な活躍をしてくれてうれしいけれども、1試合、1試合、彼らの卒業が近くなるのです」
「私が大学や高等部の監督時代もそうでした。まだ、高等部の時代は大学でのプレーを見ることも出来ました。でも、大学時代にはこれで彼らは出て行ってしまうのだ!というさみしさと彼らなしで(来年は)試合をしなくてはならないという恐怖と戦っていました」
そういうことだ。秋の関西リーグが始まったばかりだというのに、僕はもう、あと残り4試合、それを勝ち抜いて甲子園ボウルやライスボウルに進出しても残り7試合、日数にすると、リーグ戦最終の立命戦まで残り50日ほどしかないという焦燥感と、その限られた日数が持つ意味の重大性、そしてある種の寂しさを感じている。
シーズンが始まってまだ1カ月。まだ3試合しか戦っていないのに、一体、何を寝ぼけたことを、と思われる人が多いかもしれない。けれども50日といえばあっという間だ。その前に、龍谷、京大、関大という、どれ一つ負けられない試合が連続していることを考えると、実際に練習に充てられる日数は限られる。休養もとらなければならないし、栄養も補給しなければならない。もちろん、授業もあるし、筋力トレーニングやミーティングに費やす時間も必要だ。練習に充てられる日数、時間は本当に短い。
その限られた時間をどう使うか。効果的な練習とは何か。それをチームの全員がわがこととして考えなければならない。考えたことを実行しなければならない。相手チームを圧倒するための戦術を練り、その戦術をチームとして完璧にこなせるように鍛錬しなければならない。
もちろん、ファイターズには長い歴史の中で積み重ねてきたノウハウがある。監督やコーチが培ってきた蓄積もある。それは、どんなチームと比べても、見劣りするものではない。けれども、それを実際の試合で完璧にこなし、チームに勝利をもたらせるためには、チーム全員の力と協力が欠かせない。
毎日、毎時間、毎分、毎秒の完全な取り組みがチーム全員に求められる由縁である。失敗をして落ち込んだり、成功して有頂天になったりしている時間は寸秒もない。
もっと大事なことがある。4年生にとっては、残された1試合、1試合がこのチームを去っていく日までの「1里塚」であるということだ。みんなと一緒に練習に取り組み、試合に臨めるのは残り50日。幸運に恵まれて関西リーグを制覇し、甲子園ボウルに勝ったとしても、1月3日まではもう3カ月を切っている。泣いても笑っても、もうそれだけの時間しか残されていないのである。
「去りゆく人」つまり、4年生にとっては、それこそ毎日が飛ぶように過ぎていく思いだろう。3年生、2年生、1年生にとっても、4年生と一緒にプレーできる時間は、もう10本の指で数えられるほどしかなくなっている。
その貴重な時間をどう過ごすか。生涯で最も充実した50日とするのか、それとも後悔だらけの期間にしてしまうのか。すべては選手、スタッフを含めたファイターズ全員の取り組みにかかっている。昨年度の主将、松岡君が口癖のように言っていた「甲子園ボウルの前の1日も、今日の1日も同じ1日だ。悔いのない練習をしよう」という言葉を、全員がかみしめてほしい。
下級生は「去りゆく人」を気持ちよく送り出すために、4年生は心豊かにチームを去っていくために、限りある時間、寸刻寸秒を慈しみ、大切にしたい。全身全霊を込めて、練習に取り組んでいただきたい。
とりわけ元監督の武田建先生から送られてくるメールが励みになる。指導者としての長年の経験、現役の心理学者、カウンセラーとしてのものの見方、考え方、それらに裏打ちされたご意見やご指摘は、いつも刺激たっぷりで、考えるヒントが一杯詰まっている。
先日、アップした「4年生の役割」に寄せていただいた感想がその典型。私信ではあるが、差し支えのない部分を紹介したい。こんな文面が含まれていた。
「記事を拝見していて、これからのシーズン、ああした試合の紹介やご意見という形で、4年生への送別というか、お別れの文章が載るのだな……と感じています。石井さんにとっては、入学前から文章の指導をなさり、ご自分の息子のようなお気持ちだと思います。そして彼らが最上級生になり、立派な活躍をしてくれてうれしいけれども、1試合、1試合、彼らの卒業が近くなるのです」
「私が大学や高等部の監督時代もそうでした。まだ、高等部の時代は大学でのプレーを見ることも出来ました。でも、大学時代にはこれで彼らは出て行ってしまうのだ!というさみしさと彼らなしで(来年は)試合をしなくてはならないという恐怖と戦っていました」
そういうことだ。秋の関西リーグが始まったばかりだというのに、僕はもう、あと残り4試合、それを勝ち抜いて甲子園ボウルやライスボウルに進出しても残り7試合、日数にすると、リーグ戦最終の立命戦まで残り50日ほどしかないという焦燥感と、その限られた日数が持つ意味の重大性、そしてある種の寂しさを感じている。
シーズンが始まってまだ1カ月。まだ3試合しか戦っていないのに、一体、何を寝ぼけたことを、と思われる人が多いかもしれない。けれども50日といえばあっという間だ。その前に、龍谷、京大、関大という、どれ一つ負けられない試合が連続していることを考えると、実際に練習に充てられる日数は限られる。休養もとらなければならないし、栄養も補給しなければならない。もちろん、授業もあるし、筋力トレーニングやミーティングに費やす時間も必要だ。練習に充てられる日数、時間は本当に短い。
その限られた時間をどう使うか。効果的な練習とは何か。それをチームの全員がわがこととして考えなければならない。考えたことを実行しなければならない。相手チームを圧倒するための戦術を練り、その戦術をチームとして完璧にこなせるように鍛錬しなければならない。
もちろん、ファイターズには長い歴史の中で積み重ねてきたノウハウがある。監督やコーチが培ってきた蓄積もある。それは、どんなチームと比べても、見劣りするものではない。けれども、それを実際の試合で完璧にこなし、チームに勝利をもたらせるためには、チーム全員の力と協力が欠かせない。
毎日、毎時間、毎分、毎秒の完全な取り組みがチーム全員に求められる由縁である。失敗をして落ち込んだり、成功して有頂天になったりしている時間は寸秒もない。
もっと大事なことがある。4年生にとっては、残された1試合、1試合がこのチームを去っていく日までの「1里塚」であるということだ。みんなと一緒に練習に取り組み、試合に臨めるのは残り50日。幸運に恵まれて関西リーグを制覇し、甲子園ボウルに勝ったとしても、1月3日まではもう3カ月を切っている。泣いても笑っても、もうそれだけの時間しか残されていないのである。
「去りゆく人」つまり、4年生にとっては、それこそ毎日が飛ぶように過ぎていく思いだろう。3年生、2年生、1年生にとっても、4年生と一緒にプレーできる時間は、もう10本の指で数えられるほどしかなくなっている。
その貴重な時間をどう過ごすか。生涯で最も充実した50日とするのか、それとも後悔だらけの期間にしてしまうのか。すべては選手、スタッフを含めたファイターズ全員の取り組みにかかっている。昨年度の主将、松岡君が口癖のように言っていた「甲子園ボウルの前の1日も、今日の1日も同じ1日だ。悔いのない練習をしよう」という言葉を、全員がかみしめてほしい。
下級生は「去りゆく人」を気持ちよく送り出すために、4年生は心豊かにチームを去っていくために、限りある時間、寸刻寸秒を慈しみ、大切にしたい。全身全霊を込めて、練習に取り組んでいただきたい。
(24)4年生の役割
投稿日時:2012/09/30(日) 23:11
29日は王子スタジアムで、地元中の地元、神戸大学と対戦。台風17号の前触れか、試合が始まる頃から雨がシトシトと降るあいにくの空模様だったが、ファイターズは攻守蹴とも元気一杯。守備陣は前半、相手に1度もファーストダウンを与えずに完封。攻めてもQB畑からWR大園へのTDで先制。その後も畑からWR木戸への2本のTDパス、RB望月の中央ダイブなどで圧倒、31-0で前半を折り返した。
後半は、ファイターズのレシーブで試合再開。第1プレーは反則で自陣21ヤードからの攻撃となったが、ここでいきなりRB鷺野が左オープンを駆け上がり、79ヤードを走り切ってTD。俊足を利して鷺野の走路を確保した大園のブロックも効果的だった。守備陣の活躍で相手陣25ヤードからの攻撃となった次のシリーズもQB松岡のスクランブルで一気にゴール前に迫り、仕上げはQB斎藤から大園へのTDパス。点差は開くばかりだった。
試合を観戦しながら、僕はいつもノートに試合の経過や気になったことを簡略にメモしている。記録というよりも原稿を書くための手控えである。
これを手掛かりに試合を振り返っていると、観戦中には気付かなかったことが見えて来る。例えば、今回のタイトルに掲げた「4年生の役割」というようなことである。
どういうことか。この試合のTDシーンを中心に説明したい。
この試合ではパスで5本、ランで3本、そしてWR小山の38ヤードパントリターンTDの計9本のTDを記録した。そのうち小山のTDとゴール前1ヤードから飛び込んだ望月のTDを除く7本を2年生が記録している。先に挙げたように木戸と大園が各2本、鷺野が1本。そして試合の終盤にQB斎藤からTE松島への5ヤードTDパスと、残り37秒でQBドローを決め、21ヤードを走り切った斎藤のTDである。
この結果だけを知れば、2年生の活躍がすべてのようにみえるだろう。ところが、実際はそんなに単純なものではない。4年生、あるいは3年生の活躍があってこそ、2年生の力が発揮できたのである。説明しよう。
立ち上がり、ファイターズ守備陣は神戸大の攻撃を簡単に封じた。1本目はLB川端の素早いタックルでマイナス1ヤード、2本目は相手の短いパスが通ったがDB保宗が強烈なタックルでそれ以上は進ませない。3本目もDL朝倉の素早いタックルでダウン更新を許さない。
このように4年生3人が気合いのこもったタックルでリズムをつくって迎えたファイターズの攻撃。今度は4年生QB畑がWR梅本、小山への2本のパスでダウンを更新。さらには望月のランを挟みながら大園、金本、樋之本へのパスを続けて相手ゴールに迫り、最後を大園へのパスで締めくくっている。
2度目の神戸大の攻撃シリーズでもLB池田、DL前川が鋭いタックルで相手を釘付けにし、仕上げは主将DL梶原のQBサック。これでは相手のリズムは崩れ、逆に味方の士気は上がる。その勢いに乗って畑が小山へのパスを成功させた直後に、畑から木戸への35ヤードTDパスがヒットした。
つまり、守備であれ、攻撃であれ、4年生や3年生がしっかりその役割を果たしたことによって、その後の2年生の華やかなTDを呼び込んだのである。4年生守備陣の活躍によってつかんだ試合の流れを、畑や小山、望月らの4年生が堅実なプレーでつなぎ、彼らのお膳立てに乗って2年生が華々しい活躍をしたのである。
逆に言えば、畑や小山、南本らの堅実なプレーが続かなかったら、せっかくファイターズにもたらされた試合の流れを断ち切ってしまう危険性もあったということだ。実際、後半、次々と控えのメンバーが登場すると、一気に試合の流れは悪くなった。下級生の力不足という面が大きかったが、それをカバーする立場の上級生にも問題なしとは思えなかった。上級生が全員「下級生を育てる」という強い目的意識を持って行動しないと、いつまでたっても層は厚くならない。
試合後、梶原主将から「これからは本気でパスキャッチの練習に取り組みます」という言葉を聞いた。彼が後半、あわやインターセプトという場面でボールをキャッチ仕切れなかったことに対する反省だった。
彼は常々、試合ではどんなチャンスも逃がしてはならない、いつも今の自分を乗り越えるプレーをしよう、とチームの全員に呼び掛けている。その立場から考えると、せっかく巡ってきたインターセプトのチャンスを、自らの捕球ミスで逃がしたことが我慢ならなかったそうだ。
こういう気持ちを大事にしてほしい。4年生がいつも「今の自分を乗り越える」気持ちでプレーする。それぞれのプレーを通じて「下級生を育てる」役割を果たす。そういう姿勢を常時見せ続けてほしい。それをグラウンドで表現し続けていけば、道は開ける。
後半は、ファイターズのレシーブで試合再開。第1プレーは反則で自陣21ヤードからの攻撃となったが、ここでいきなりRB鷺野が左オープンを駆け上がり、79ヤードを走り切ってTD。俊足を利して鷺野の走路を確保した大園のブロックも効果的だった。守備陣の活躍で相手陣25ヤードからの攻撃となった次のシリーズもQB松岡のスクランブルで一気にゴール前に迫り、仕上げはQB斎藤から大園へのTDパス。点差は開くばかりだった。
試合を観戦しながら、僕はいつもノートに試合の経過や気になったことを簡略にメモしている。記録というよりも原稿を書くための手控えである。
これを手掛かりに試合を振り返っていると、観戦中には気付かなかったことが見えて来る。例えば、今回のタイトルに掲げた「4年生の役割」というようなことである。
どういうことか。この試合のTDシーンを中心に説明したい。
この試合ではパスで5本、ランで3本、そしてWR小山の38ヤードパントリターンTDの計9本のTDを記録した。そのうち小山のTDとゴール前1ヤードから飛び込んだ望月のTDを除く7本を2年生が記録している。先に挙げたように木戸と大園が各2本、鷺野が1本。そして試合の終盤にQB斎藤からTE松島への5ヤードTDパスと、残り37秒でQBドローを決め、21ヤードを走り切った斎藤のTDである。
この結果だけを知れば、2年生の活躍がすべてのようにみえるだろう。ところが、実際はそんなに単純なものではない。4年生、あるいは3年生の活躍があってこそ、2年生の力が発揮できたのである。説明しよう。
立ち上がり、ファイターズ守備陣は神戸大の攻撃を簡単に封じた。1本目はLB川端の素早いタックルでマイナス1ヤード、2本目は相手の短いパスが通ったがDB保宗が強烈なタックルでそれ以上は進ませない。3本目もDL朝倉の素早いタックルでダウン更新を許さない。
このように4年生3人が気合いのこもったタックルでリズムをつくって迎えたファイターズの攻撃。今度は4年生QB畑がWR梅本、小山への2本のパスでダウンを更新。さらには望月のランを挟みながら大園、金本、樋之本へのパスを続けて相手ゴールに迫り、最後を大園へのパスで締めくくっている。
2度目の神戸大の攻撃シリーズでもLB池田、DL前川が鋭いタックルで相手を釘付けにし、仕上げは主将DL梶原のQBサック。これでは相手のリズムは崩れ、逆に味方の士気は上がる。その勢いに乗って畑が小山へのパスを成功させた直後に、畑から木戸への35ヤードTDパスがヒットした。
つまり、守備であれ、攻撃であれ、4年生や3年生がしっかりその役割を果たしたことによって、その後の2年生の華やかなTDを呼び込んだのである。4年生守備陣の活躍によってつかんだ試合の流れを、畑や小山、望月らの4年生が堅実なプレーでつなぎ、彼らのお膳立てに乗って2年生が華々しい活躍をしたのである。
逆に言えば、畑や小山、南本らの堅実なプレーが続かなかったら、せっかくファイターズにもたらされた試合の流れを断ち切ってしまう危険性もあったということだ。実際、後半、次々と控えのメンバーが登場すると、一気に試合の流れは悪くなった。下級生の力不足という面が大きかったが、それをカバーする立場の上級生にも問題なしとは思えなかった。上級生が全員「下級生を育てる」という強い目的意識を持って行動しないと、いつまでたっても層は厚くならない。
試合後、梶原主将から「これからは本気でパスキャッチの練習に取り組みます」という言葉を聞いた。彼が後半、あわやインターセプトという場面でボールをキャッチ仕切れなかったことに対する反省だった。
彼は常々、試合ではどんなチャンスも逃がしてはならない、いつも今の自分を乗り越えるプレーをしよう、とチームの全員に呼び掛けている。その立場から考えると、せっかく巡ってきたインターセプトのチャンスを、自らの捕球ミスで逃がしたことが我慢ならなかったそうだ。
こういう気持ちを大事にしてほしい。4年生がいつも「今の自分を乗り越える」気持ちでプレーする。それぞれのプレーを通じて「下級生を育てる」役割を果たす。そういう姿勢を常時見せ続けてほしい。それをグラウンドで表現し続けていけば、道は開ける。
«前へ | 次へ» |