石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(3)70人のニューカマー
投稿日時:2013/04/17(水) 19:16
アメフットは攻守それぞれ11人。分業が進んだ最近では、それにキッカーやホールダー、スナッパーが専門職のようになっているから、とりあえず25人のメンバーを揃えれば、試合は可能である。
でも、出来ればそれぞれのポジションに1人ずつは交代メンバーがほしい。それらのメンバーがけがや体調不良で出場できない時に備えて、もう1組(合計3組75人)のメンバーが集まれば、日本の大学では上々の部類だろう。これにマネジャーやトレーナー、分析スタッフがそれぞれ何人か集まれば、計算上は立派なチームが出来る。
ところが、ファイターズには、今春入学した1年生が4月半ばの時点で、なんと70人近くも入部している。平均的な大学なら、4年生まですべてを足した人数である。えらいこっちゃ。
先週の土曜日、チーム練習の後で、彼、彼女らが全員集合し、上級生に向かって自己紹介をしている現場に居合わせたが、ほんの一言ずつの紹介なのに、30分以上はかかった。その内容を紹介すれば、それはそれで楽しいけど、今回はカット。代わりにこの70人の内訳をざっと紹介してみる。
一番多いのは高等部と啓明学院でフットボールをしていたメンバー。両校は昨年の兵庫大会決勝で、追いつ追われつの熱戦を展開した実力校。高等部はその余勢をかって関西大会で勝ち、クリスマスボウルに進出した。そのメンバーの多くが入部しているのだから頼もしい。
さらに高等部からは、野球部で活躍していた5人も団体で入部している。4年生のDB鳥内君やWR梅本君ら野球部出身者がチームの中心選手に育っている現状を見ると、彼らの中から第2、第3の鳥内君や梅本君が出てくれることが期待できる。
もう一つの固まりはスポーツ選抜入試で合格したメンバー。総勢10人あまりだが、こちらにはタッチダウン誌のトップボーイズに選ばれた選手が何人もいる。体がでかくて動ける選手、俊敏な選手、そして見るからにクレバーな選手。まだまだ体はできあがっていないが、身長だけなら巨漢揃いのOLにひけをとらないメンバーも少なくない。加えてAO入試でもトップボーイズや実績のある選手が何人も入部している。
いまはまだ、大半が上級生とは別メニューで、練習に参加できる体を作り、基本的な動きを反復している段階だが、鳥内監督が優先的にその練習を見て、指導者役のトレーナーや上級生に細かい点を注意しているのを見ても、期待の高さが分かる。
もちろん、入学前からしっかり体作りをしてきた数人の選手(ほとんどがトップボーイズに選出されたメンバーである)は、先週末から上級生の練習に参加し(当たりモノなどハードな内容は別にして)、その実力の片鱗を披露している。試合に出るまでには時間がかかるだろうが、それでも春の後半には複数の選手に出場機会がありそうだ。
つい先日、親しくつきあってきた多くの4年生を送り出したばかりのグラウンドだが、こうした状況で、あっという間ににぎやかになった。
さて、こうした原石をどのように宝石に磨き上げるか。ここからがファイターズの勝負である。真価が問われるところである。
スポーツ選抜や高等部の経験者を鍛えるだけで、勝てるチームが出来るのなら苦労はない。本当に強いチームは、この世界では無名の高校からの出身者や他のスポーツ経験者、それに全くの未経験者を育てて初めてできあがる。近年、甲子園ボウルで優勝したときのメンバーには、そういう選手が必ずいた。例えば、2007年度にはWR秋山君、11年度にはOLのスーパーサブ小林君、12年度は野球部出身のDB保宗君。3年生だった梅本君や鳥内君の活躍も特筆される。
つまり、ファイターズは高校時代にフットボールをしていなかったメンバーを大学進学後に部内で鍛え、重要な戦力に育て上げるノウハウと環境を持っているということだ。
未経験者でも甲子園ボウルの舞台に立てる、ライスボウルでも活躍できる選手に育てる、というファイターズのシステムは、もっと評価されていい。その意味でも、70人を数えるニューカマーのこれからが期待される。この中から2年後、3年後にどんな選手が活躍してくれるか、大いに注目している。
でも、出来ればそれぞれのポジションに1人ずつは交代メンバーがほしい。それらのメンバーがけがや体調不良で出場できない時に備えて、もう1組(合計3組75人)のメンバーが集まれば、日本の大学では上々の部類だろう。これにマネジャーやトレーナー、分析スタッフがそれぞれ何人か集まれば、計算上は立派なチームが出来る。
ところが、ファイターズには、今春入学した1年生が4月半ばの時点で、なんと70人近くも入部している。平均的な大学なら、4年生まですべてを足した人数である。えらいこっちゃ。
先週の土曜日、チーム練習の後で、彼、彼女らが全員集合し、上級生に向かって自己紹介をしている現場に居合わせたが、ほんの一言ずつの紹介なのに、30分以上はかかった。その内容を紹介すれば、それはそれで楽しいけど、今回はカット。代わりにこの70人の内訳をざっと紹介してみる。
一番多いのは高等部と啓明学院でフットボールをしていたメンバー。両校は昨年の兵庫大会決勝で、追いつ追われつの熱戦を展開した実力校。高等部はその余勢をかって関西大会で勝ち、クリスマスボウルに進出した。そのメンバーの多くが入部しているのだから頼もしい。
さらに高等部からは、野球部で活躍していた5人も団体で入部している。4年生のDB鳥内君やWR梅本君ら野球部出身者がチームの中心選手に育っている現状を見ると、彼らの中から第2、第3の鳥内君や梅本君が出てくれることが期待できる。
もう一つの固まりはスポーツ選抜入試で合格したメンバー。総勢10人あまりだが、こちらにはタッチダウン誌のトップボーイズに選ばれた選手が何人もいる。体がでかくて動ける選手、俊敏な選手、そして見るからにクレバーな選手。まだまだ体はできあがっていないが、身長だけなら巨漢揃いのOLにひけをとらないメンバーも少なくない。加えてAO入試でもトップボーイズや実績のある選手が何人も入部している。
いまはまだ、大半が上級生とは別メニューで、練習に参加できる体を作り、基本的な動きを反復している段階だが、鳥内監督が優先的にその練習を見て、指導者役のトレーナーや上級生に細かい点を注意しているのを見ても、期待の高さが分かる。
もちろん、入学前からしっかり体作りをしてきた数人の選手(ほとんどがトップボーイズに選出されたメンバーである)は、先週末から上級生の練習に参加し(当たりモノなどハードな内容は別にして)、その実力の片鱗を披露している。試合に出るまでには時間がかかるだろうが、それでも春の後半には複数の選手に出場機会がありそうだ。
つい先日、親しくつきあってきた多くの4年生を送り出したばかりのグラウンドだが、こうした状況で、あっという間ににぎやかになった。
さて、こうした原石をどのように宝石に磨き上げるか。ここからがファイターズの勝負である。真価が問われるところである。
スポーツ選抜や高等部の経験者を鍛えるだけで、勝てるチームが出来るのなら苦労はない。本当に強いチームは、この世界では無名の高校からの出身者や他のスポーツ経験者、それに全くの未経験者を育てて初めてできあがる。近年、甲子園ボウルで優勝したときのメンバーには、そういう選手が必ずいた。例えば、2007年度にはWR秋山君、11年度にはOLのスーパーサブ小林君、12年度は野球部出身のDB保宗君。3年生だった梅本君や鳥内君の活躍も特筆される。
つまり、ファイターズは高校時代にフットボールをしていなかったメンバーを大学進学後に部内で鍛え、重要な戦力に育て上げるノウハウと環境を持っているということだ。
未経験者でも甲子園ボウルの舞台に立てる、ライスボウルでも活躍できる選手に育てる、というファイターズのシステムは、もっと評価されていい。その意味でも、70人を数えるニューカマーのこれからが期待される。この中から2年後、3年後にどんな選手が活躍してくれるか、大いに注目している。
(2)練習2時間前
投稿日時:2013/04/10(水) 07:28
この前の日曜日。前夜からの強風は衰えを見せず、天気予報は「爆弾低気圧」の襲来を警告していた。
しかし、朝、目を覚ますと、暴風雨の気配はない。これなら予定通りに練習が始まるぞ、と勝手に決めて、さっさと会社の原稿を仕上げ、昼前には上ヶ原の第3フィールドに向かった。
グラウンドに到着したのは正午前。チーム練習が始まるまでには、まだ2時間以上ある。けれども、もう4年生を中心に2,30人の部員が集まって防具を着け、簡単な準備運動を始めている。ファイアターズの諸君が「屋根下」と呼んでいる物置兼治療スペース兼準備室兼マッサージ室兼着替え室という便利なスペースでテーピングをしたり、練習前の用具を点検したりしている。その中心になっているのがトレーナーやマネジャーで、みんな忙しく立ち働いている。いつもと変わらぬ光景である。
ふと見ると、その片隅で副将のDB鳥内君がせっせと練習に使うボールに空気を入れている。同じく4年生のRB野々垣君は大きなダミーを担いで何度もグラウンドを往復している。ともに練習のための準備である。主将の池永君や副将の友國君、池田君は、テーピングを巻き終わると同時にグラウンドに飛び出し、それぞれパートのメンバーと体をほぐしている。
早くからグラウンドに出ていたキッカーたちは、強風に立ち向かうようにパントの練習を始め、中央ではQBの斎藤君が肩慣らしのキャッチボールをしている。これもまた、いつも通りの光景である。
練習2時間前といえば、コーチや監督はまだグラウンドに顔を見せていない。大声を上げて命令する部員もいないし、何をしてよいのか分からずにうろうろする部員もいない。けれども部員たちは、誰に指示されるわけでもなく、自らのやるべきことに黙々と取り組んでいる。
その先頭に立っているのが4年生である。練習の準備から進行、安全対策まで、すべてに責任を持ち、パートの先頭に立って練習を引っ張っている。3年生や2年生もそれに同調し、黙々とメニューをこなしていく。学年が変わり、新しいシーズンが始まっても、この流れは変わらない。
その昔、まだ人工芝のグラウンドがなく、土のグラウンドで練習していたころの光景を思い出す。僕が熱心に練習を見学するようになったのは2001年、石田力哉君が主将の時代だったが、その頃も練習が始まる何時間も前から石田君がトンボでグラウンドをならし、副将の榊原君がホースで水をまいていた。それを横目に1年生の佐岡君や石田貴祐君がデカイ態度で談笑していた。
そのときに石田主将から聞いた言葉が忘れられない。「体力のある4年生が(練習の下準備など)しんどいことをするのは当たり前。僕らは下級生に助けてもらうんですから」。いかつい体格に似合わない笑顔で、彼はそんなことを話してくれた。
ファイターズは、常々、「4年生のチーム」と言われる。4年生がすべてを仕切り、すべてに責任を持つチームということだろう。しかし、それは4年生が威張ることではない。その権力を背景に、下級生を怒鳴ったり、いじめたりすることでもない。そうではなくて、4年生がしんどいこと、苦しいことに率先して取り組み、その振る舞いでチームを引っ張っていくことである。
重いダミーを運ぶのも、ボールに空気を入れるのも、練習をスムーズに運ぶためには欠かせない行動である。それを4年生の幹部が自発的に、自然な形で行うところに「4年生のチーム」の本質がある。そして「しんどいことを4年生がするのは当たり前」という伝統が、誰かに命令されたり強制されたりすることなく受け継がれてきたところに、このチームの奥の深さがある。
それはいま、世間で話題になっている体罰やいじめとは無縁の世界である。怒鳴り声とも暴力とも、遠く離れた世界である。
チーム練習の始まる2時間も前から、そういう光景が見られるのだから「爆弾低気圧」の予報ごときにはひるんでおれない。かくして、僕はまた、せっせと仁川からの坂道を上っていくのである。
しかし、朝、目を覚ますと、暴風雨の気配はない。これなら予定通りに練習が始まるぞ、と勝手に決めて、さっさと会社の原稿を仕上げ、昼前には上ヶ原の第3フィールドに向かった。
グラウンドに到着したのは正午前。チーム練習が始まるまでには、まだ2時間以上ある。けれども、もう4年生を中心に2,30人の部員が集まって防具を着け、簡単な準備運動を始めている。ファイアターズの諸君が「屋根下」と呼んでいる物置兼治療スペース兼準備室兼マッサージ室兼着替え室という便利なスペースでテーピングをしたり、練習前の用具を点検したりしている。その中心になっているのがトレーナーやマネジャーで、みんな忙しく立ち働いている。いつもと変わらぬ光景である。
ふと見ると、その片隅で副将のDB鳥内君がせっせと練習に使うボールに空気を入れている。同じく4年生のRB野々垣君は大きなダミーを担いで何度もグラウンドを往復している。ともに練習のための準備である。主将の池永君や副将の友國君、池田君は、テーピングを巻き終わると同時にグラウンドに飛び出し、それぞれパートのメンバーと体をほぐしている。
早くからグラウンドに出ていたキッカーたちは、強風に立ち向かうようにパントの練習を始め、中央ではQBの斎藤君が肩慣らしのキャッチボールをしている。これもまた、いつも通りの光景である。
練習2時間前といえば、コーチや監督はまだグラウンドに顔を見せていない。大声を上げて命令する部員もいないし、何をしてよいのか分からずにうろうろする部員もいない。けれども部員たちは、誰に指示されるわけでもなく、自らのやるべきことに黙々と取り組んでいる。
その先頭に立っているのが4年生である。練習の準備から進行、安全対策まで、すべてに責任を持ち、パートの先頭に立って練習を引っ張っている。3年生や2年生もそれに同調し、黙々とメニューをこなしていく。学年が変わり、新しいシーズンが始まっても、この流れは変わらない。
その昔、まだ人工芝のグラウンドがなく、土のグラウンドで練習していたころの光景を思い出す。僕が熱心に練習を見学するようになったのは2001年、石田力哉君が主将の時代だったが、その頃も練習が始まる何時間も前から石田君がトンボでグラウンドをならし、副将の榊原君がホースで水をまいていた。それを横目に1年生の佐岡君や石田貴祐君がデカイ態度で談笑していた。
そのときに石田主将から聞いた言葉が忘れられない。「体力のある4年生が(練習の下準備など)しんどいことをするのは当たり前。僕らは下級生に助けてもらうんですから」。いかつい体格に似合わない笑顔で、彼はそんなことを話してくれた。
ファイターズは、常々、「4年生のチーム」と言われる。4年生がすべてを仕切り、すべてに責任を持つチームということだろう。しかし、それは4年生が威張ることではない。その権力を背景に、下級生を怒鳴ったり、いじめたりすることでもない。そうではなくて、4年生がしんどいこと、苦しいことに率先して取り組み、その振る舞いでチームを引っ張っていくことである。
重いダミーを運ぶのも、ボールに空気を入れるのも、練習をスムーズに運ぶためには欠かせない行動である。それを4年生の幹部が自発的に、自然な形で行うところに「4年生のチーム」の本質がある。そして「しんどいことを4年生がするのは当たり前」という伝統が、誰かに命令されたり強制されたりすることなく受け継がれてきたところに、このチームの奥の深さがある。
それはいま、世間で話題になっている体罰やいじめとは無縁の世界である。怒鳴り声とも暴力とも、遠く離れた世界である。
チーム練習の始まる2時間も前から、そういう光景が見られるのだから「爆弾低気圧」の予報ごときにはひるんでおれない。かくして、僕はまた、せっせと仁川からの坂道を上っていくのである。
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