石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(21)多士済々

投稿日時:2013/09/04(水) 09:05

 待ちに待ったシーズンが始まった。
 初戦は王子スタジアム。昼間の雨こそ上がったが、人工芝の上には水が浮いている。足下は悪いし、相手は2部から昇格したばかりで手の内の知れない大阪教育大学。初戦は、どんなに試合経験のある選手でも緊張するから、ひとつ間違えば、ややこしい試合になる可能性がある。
 そんな心配はしかし、ファイターズのレシーブで始まった最初の攻撃で杞憂となった。相手のキックしたボールをキャッチしたRB鷺野がいきなり敵陣43ヤードまでリターン。そこからの第一プレーはRB飯田の40ヤードラッシュ。あわやTDかと思わせる快走でチームを勢いづける。残った3ヤードを鷺野と飯田のランでTDに結び付け、K三輪のキックも決まって、あっという間に7点を先制。チーム全体を落ち着かせた。
 次の大教大の攻撃はディフェンスが完封。ファイターズの2回目の攻撃シリーズは、パスインターセプトで不発に終わったが、守備陣が踏ん張って、相手に攻撃のきっかけをつかませない。すぐさま攻撃権を取り戻し、ファイターズ3度目の攻撃シリーズは自陣20ヤードから。ここでQB斎藤が鷺野、TE樋之本、松島に立て続けにパスを通し、仕上げも樋之本へ9ヤードのTDパス。相手守備の意表を突いた2点コンバージョンも決まって15-0。
 続く大教大の攻撃も、DB足立のインターセプトで断ち切り、迎えたファイターズの攻撃は相手陣43ヤードから。ここでは一転、鷺野と飯田の切れのよいランで立て続けにダウンを更新。仕上げは斎藤からWR梅本へ21ヤードのTDパス。三輪のキックも決まって22-0。
 第2Qに入っても勢いは止まらない。守備陣が相手にダウンの更新を許さず、完封してくれるから攻撃のリズムもよい。2Q早々には飯田のドロープレーで一気に相手ゴール前まで陣地を進め、仕上げは斎藤から樋之本へのTDパス。ここでも松島へのパスを決めて2点を獲得。相手が対応出来ないのを見澄ました積極的な攻撃だった。
 LB小野のインターセプトで得た相手陣25ヤードからの攻撃シリーズもRB野々垣のランで陣地を進め、残った14ヤードを1年生RB池永弟が走り切ってTD。相手陣37ヤードから始まった次の攻撃シリーズでは斎藤からWR木戸へのパスが決まり、一発でTD。その直後には1年生DB小池が相手のパスをインターセプト。そのまま約35ヤードを走り切ってTD。続くシリーズでは木戸の絶妙のパントリターンで残り4ヤードから攻め込み、鷺野が中央に走り込んでTD。前半だけで58-0という大差を付けた。
 数えて見れば、先発メンバー中心で戦ったファイターズの前半の攻撃シリーズは8回。そのうち1度はインターセプトで攻撃権を失っているが、残りの7回はすべてTDに仕上げた。おまけに小池のインターセプトTDが加わって都合8TD58点。インターセプトされた攻撃も含め、わずか24回のプレーでこれだけの得点を挙げている。パスにランに、すさまじい破壊力を持ったチームといってよいだろう。
 破壊力と言えば、攻撃陣だけではない。守備は前半、一度もダウン更新を許さず、3回もインターセプトを奪った。主将池永兄、1年生松本、4年生吉田で固めた1列目は破壊力抜群だし、LB陣には強力なタックルとスピードを持ち、プレーの読みも抜群の池田と小野、それに動きのよい森岡と作道がいる。副将鳥内が率いるDB陣には、安定した4年生足立に加え、進境著しい田中、小池というスピードスターがいる。これだけのメンバーがほとんど交代せず、チーム内で互いに競争しながら本気で戦ったのだから、相手は本当に苦しかったと思う。
 しかし、これだけが今年のファイターズではない。後半になるとQBが松岡に代わり、ほかのポジションにも交代メンバーが次々に登場した。全部を紹介することはできないので、1年生を順不同で挙げていく。
 攻撃では2本のTDを挙げたRB池永弟(同志社国際)、同じく41ヤードを巧妙なステップで走り切った小柄なRB松本(啓明学院)、OL期待の星、堀川(大阪学芸)。同じく松井、清村(ともに高等部)。最終盤に巧妙なスクリーンパスを池永弟に投じ、43ヤードのTDを挙げて試合を締めくくったQB伊豆(箕面)。突進力に魅力がある大型RBパング(横浜栄)、WRの藤原(高等部)と水野(池田)、そしてこの日はキッカーとして登場した西岡(足立学園)。
 守備では、期待の大型LB山岸(中大付)と西田(啓明学院)。先発した松本と肩を並べるほど当たりの強いDL安田(高等部)、DBでは、小柄だが切れのよい動きをする岡本(高等部)が登場した。初戦からスタメンに名前を連ねて活躍したDL松本(高等部)、DB小池(箕面自由)の名前も再掲しておこう。
 ほかにも出場した1年生がいると思うが、なんせ薄暗いナイターの試合。遠く離れたスタンドからでは、全員を確認するのは難しかった。名前の漏れた1年生はこれからの試合で頑張って存在感を見せて欲しい。
 ともあれ、多士済々。近年にない1年生の充実ぶりである。この日は書くゆとりはなかったが、もちろん2年生や3年生にも期待できる選手は一杯いる。こうしたタレントたちが今後、どのように成長し、どれくらい上級生を脅かしてそのポジションを奪取するか。
 面白いほどリズムよくゲームを進めた先発メンバーの活躍とともに、今年は下級生の「下克上」に注目したい。期待で胸がわくわくする初戦だった。

(20)楽しみな「下克上」

投稿日時:2013/08/27(火) 07:15

 世間は夏休みだが、昭和の高度成長期を生きてきた僕たち「モーレツ世代」に、そんな言葉はない。年齢を忘れて東奔西走、ひたすら走り回っている。この2週間ほどで愛車の走行距離は確実に3千キロを超えた。
 その行程には、もちろん東鉢伏の合宿見学が含まれている。終了前日の17日。朝の5時起きで西宮を出発、深夜に帰宅という日程でファイターズの鍛錬ぶりを眺めてきた。
 朝と夕方、JVとVに分けられた練習が秒刻みで進行していく。監督やマネジャーの話では、今年は天候に恵まれ(選手たちには暑すぎたようだが)、予定していた練習にじっくり取り組めたそうだ。大きなけがや事故もなかったという。
 そんな練習を見ていて驚いたことがある。VとJVのメンバー分けである。春のシーズンを先発あるいは主要交代メンバーとして戦った上級生の何人もがJVに入り、代わってこれまでJV戦以外ではほとんど試合に出ていなかった1年生や2年生がVのメンバー入りしていたのである。
 ポジションによっては、4年生と3年生が各1人、2年生が2人、1年生が3人という具合。オフェンス、ディフェンスともに、すべてのパートに1年生が参加し、上級生と堂々と渡り合う。「お客様」ではなく、秋の熾烈な戦いを担う戦力として期待され、1年生もまたそれに応えようと全力で取り組む。そんな光景は、この10年ほど見たことがなかったから、本当に驚いた。チーム内の「下克上」が始まっているのかもしれない。
 もちろん、VとJVのメンバーを決めるに当たっては、監督やコーチのさまざまな思惑があったのだろう。
 秋の試合を戦い、社会人に勝って日本1、という目標を達成するのは、並大抵のことではない。新たな戦力の確保、育成は何よりの優先課題だし、それが達成出来ればチームの層は厚くなる。そのためには、才能に恵まれた多くの下級生に、甲子園ボウルやライスボウルを戦ってきた上級生と本気でぶつかる場を用意しなければならない。9日間、文字通りフットボール漬けの毎日を送り、練習もミーティングも共にする夏の合宿こそ、そういうチャンスを与える絶好の機会である。
 一方で、JVのメンバーも1年後、2年後を見据えてじっくり鍛えなければならない。彼らは「その他大勢」のメンバーではなく、近い将来、必ずファイターズを背負って立つ一員である。その選手たちに目標を持った練習をさせ、手本を見せるには、試合経験の豊富な上級生こそが適任である。
 たまたまVのメンバーからははみ出してしまったとしても、下級生を指導する能力に長け、お手本を見せるのが上手な上級生は少なくない。だからこそ、あえて経験豊富な上級生をVのメンバーから外してJVメンバーの指導に当たらせる。そういう監督やコーチの思惑もあって、今年は特別にVとJVの入れ替えを活発に行ったのかもしれない。
 たった1日だったが、練習を眺めていてそんなことを感じ取った。そして、その思惑は功を奏し、下級生の底上げ、層の厚さの確保につながっていると、勝手に結論を出した。
 なんせ、半年前までは高校生だった1年生の面々が、練習とはいえ、ライスボウルを戦った上級生とまともに渡り合い、時には凌駕(りょうが)しているのである。そういう選手が特定のポジションではなく、どのパートにも1人や2人はいるのである。すごいことではないか。
 チーム内部の戦力、戦略にも関係することだから、そうした選手たちの名前はあえて挙げない。でも、春の試合からは想像もつかないメンバーが秋の試合に先発し、活躍してくれる場面を想像するだけで、わくわくする。
 今季、ファイターズの初戦は9月1日。相手は1部に昇格したばかりの大阪教育大である。対戦相手の情報は、僕にはまったくないが、夏に鍛えた選手たちが必ず活躍してくれると確信している。
      ◇   ◇
 このコラムを読んでくださっているみなさん。当日は、友人と誘い合って、いそいそと王子スタジアムに出掛けようではありませんか。そして、ファイターズの諸君に心からの声援を送りましょう。
 その前に、伝言が一つ。関西リーグ初戦の前夜、8月31日の夕方に、大阪・中之島の朝日カルチャーセンターで、小野ディレクターの講演会があります。聞くところでは、事前の申し込みはほぼ満席ですが、10人程度なら、まだ受け入れ可能とのこと。聴講をご希望の方は、朝日カルチャーセンターにお問い合わせ下さい。

◆朝日カルチャーセンター中之島教室
アメリカンフットボールの本当の魅力 - 学生日本一:関西学院大学のディレクターが語る、体験的コーチング論とともに
日時:8月31日(土)18:30-20:30
講師:小野 宏 ディレクター
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
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