石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

<<前へ 次へ>>
rss

(29)団結と連帯、奉仕のための練達

投稿日時:2013/11/05(火) 08:35

 前回のコラムでは「守備が試合を作る」と書いた。京大戦での守備陣の活躍ぶりを目の当たりにして、その素晴らしさに感銘を受けたからだ。しかし、当然のことながら、フットボールは守備だけではない。守備の活躍に呼応して攻撃陣、とくにラインの面々が踏ん張ったから28-0という勝利を収めることが出来たのである。そのことをしっかり書いておかなければ、不公平というものだろう。
 ということで、今回はオフェンス、とくにラインの活躍を中心に書いてみたい。
 注意深く観戦されていた方はお気づきになったと思うが、あの試合でQB斎藤君が相手守備陣にタックルされる場面は一度もなかった。パスターゲットを探しているうちに追いつかれそうになってパスを投げ出した場面はあったが、あの強力な守備陣を相手に、指1本触れられなかったのである。
 プレーによっては、自ら走るだけでなくQBを守る役割も与えられたTEやRBの諸君を含めて、ラインの面々が最初から最後まで素晴らしい動きをしたことの、これは証明である。
 友國、田渕、上沢、橋本、木村。春のシーズンでスタメンを張っていた5人全員が、秋のリーグ戦で初めてそろったことが一番の原因だろう。彼らは全員、昨年から大村コーチの指導で「朝練」と称する特別練習に励んできた選手である。毎日、授業の始まる前に、2班に分かれて互いに本気でぶつかり合い、体幹を鍛えてきた成果が、いまになって現れてきたといってもよい。
 彼らはまた、大なり小なり、けがに泣き、一度はリハビリの苦しさを経験した選手ばかりである。時には監督から「どんくさい」といわれてきた選手たちが互いに団結し、連帯して、あの強力な京大守備陣から終始、QB斎藤を守りきったのである。そこはしっかり記録しておかなければならない。
 タックルやインターセプトを決めれば、ただちに脚光を浴びる守備陣に比べて、攻撃のラインは地味である。失敗したときはすぐに目につくが、正常に機能しているときには、彼らの働きはよほど注意していなければ観戦者の目にとまらない。観客は、ついついボールの行方、ボールキャリアを追うことにかまけてしまうからだ。
 うまくやって当たり前。相手守備陣に割り込まれ、QBを守りきれなかったときには、すぐにもっとしっかり守れ、と罵声が飛んでくる。毎回毎回、体を張ってプレーしているのに、めちゃくちゃ損な役回りである。オフェンスラインになったその瞬間から、チームのために、どこまでも自分を犠牲にし続ける任務を与えられている、文字通りの「縁の下の力持ち」である。
 彼らの「自己犠牲」について、僕の授業に出席している2年生DLの濱拓麻君がこの前の授業で次のような小論文を書いてくれた。その日の課題は、関西学院の4代目院長、ベーツ先生が書かれた「マスタリー・フォオー・サービス」についての文章を読んで「あなたにとってマスタリー・フォー・サービスとは」と考えることだった。
 彼はその課題文にある「自己犠牲」という言葉に注目し、こんなことを書いてくれた。本人の了解を得たので、さわりの部分を紹介する。
 ……アメリカンフットボールほど「自己犠牲」という言葉が当てはまるスポーツはない。普通に試合を見ていれば、ボールにばかり目のいく人がほとんどであろう。しかし、詳しく細かく見ていけば「自己犠牲」のシーンが毎プレーあることが分かる。オフェンスラインは、すべてのプレーがその言葉通りである。プレーのたびに激しい当たりを繰り返し、花形ポジションであるクオーターバックやランニングバックを守り、時にはランニングバックと一緒に走り続ける。まさに縁の下の力持ちのようなポジションである。(中略)
 自己犠牲といえば、1軍の練習相手は務めるが試合には出ないメンバーにも、その言葉が当てはまる。それは1軍と2軍のようなものだが、2軍は1軍のために相手チームの動きをして、1軍メンバーに相手のプレーをイメージさせ、試合につなげるようにする。それはスカウトチームと呼ばれ、シーズンになると、2軍はこの練習の方が多い。
 しかし、すべてが自己犠牲ではない。(中略)1軍との練習で頑張れば1軍に上がる可能性もある。チームのために貢献していれば、コーチの方は見てくれているし、1軍で活躍する可能性もある……。
 フットボールにおける「縁の下の力持ち」の大切さを余すことなく書いている。そしてこの文章は、ベーツ院長の提唱された「マスタリー・フォー・サービス」の精神、つまり「自分の欲望を満足させるためではなく、社会に奉仕できる人間になりなさい」「そのために自らを強い人間に鍛えなさい」という主張のポイントをフットボールを例にして、しっかり書いているのである。
 とりわけ僕は「フットボールにおける自己犠牲」を強調しながら、同時に彼が「チームに貢献していれば、コーチの方は見てくれている」と書いた点に感銘を受けた。そこに、選手と指導者の深い信頼関係、強い絆が表現されているからである。ファイターズというチームの奥の深さが表現されていたからである。
 これは神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが『街場の憂国論』(晶文社)にも書かれているが、人間がぎりぎりまで努力するのは「自分のため」ではなく、「他の人のため」に働くときである。「俺がここで死んでも、困るのは俺だけだ」と思う人間と、「彼らのために、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎりの場面での踏ん張り方がまるで違うのである。
 そういう「仲間のため」「チームのため」にがんばれる人間が団結し、連帯すれば、怖いものは何もない。選手と指導者の強い絆、信頼関係があれば、無から有を生み出すことも可能になる。ベーツ院長の唱えた「奉仕のための練達」という言葉は、いまも私たちのチームの根っこを支えているのである。
 団結と連帯を力に、信頼と絆を武器にして、関大、立命と続く困難な試合を存分に戦ってもらいたい。

(28)「守備が作る試合」

投稿日時:2013/10/30(水) 09:26

 野球は、守りから、といわれる。華々しい打ち合いを制して勝つというのは、見ている者には楽しいが、長いシーズンを乗り切った結果、リーグのてっぺんに君臨するのは、結局は投手力、守備力がしっかりしているチームである。いま、日本シリーズを戦っている楽天にしても、巨人にしても、互いに絶対的に信頼できる先発投手が複数おり、試合を締めくくる投手も充実している。
 僕の記憶では、ひたすら打ちまくって勝ったのは、1985年のタイガースくらいである。先頭が長打力があって堅実な打撃も出来る真弓、クリーンアップがバース、掛布、岡田。甲子園球場のバックスクリーンに3人が連続して本塁打を放った年のことである。
 フットボールも同様である。守備陣のしっかりしているチームは、少々のことでは崩れない。何かの事情で攻撃が振るわなくても、守りさえ安定しておれば、やがて攻撃陣も突破口を見つけてくれる。守備陣のビッグプレーで試合を動かすことも出来る。安定した守備力に攻撃力がかみ合えば、これはもう万全の戦い、王者の試合ができる。
 この前の日曜日、長居のキンチョウスタジアムで行われた京大との戦いがその典型だった。
 試合は、コイントスに勝ったファイターズが珍しくレシーブを選択。自陣12ヤードの位置から攻撃が始まった。第1プレーはQB斎藤からWR横山へのパスでいきなりダウンを更新。RB鷺野の4ヤードランを挟んでWR木下、TE松島へのパスを立て続けにヒットさせ、今度は野々垣の14ヤードラン。さらにWR大園へのパス、鷺野の13ヤードランで、一気にゴール前9ヤードに迫る。そこからRB飯田、FB梶原が相手の壁を破壊するようなランでTD。この間のプレー数はちょうど10回。自陣ゴール前からの88ヤードをひとつの無駄もなく前進させ、試合の主導権を握った。
 続く京大の攻撃は京大陣25ヤードから。これを守備陣が完璧に抑え、第4ダウン22ヤード。ここで京大がパント隊形からまさかのフェイクパス。一瞬、ひやりとしたが、DB大森が冷静にレシーバーにタックルして、ダウンの更新を防ぐ。観客はもちろん、ベンチも選手も当然のようにパントを警戒している局面で、意表を突いたフェイクパスであり、それが見事に決まったが、それでもダウンの更新を許さなかった大森の冷静さが光る。
 この好守備で、続くファイターズの攻撃は相手陣32ヤードから。ここでも斎藤から木下、鷺野への短いパスが連続して決まってゴール前19ヤード。ランプレーを一つ挟んで、今度は野々垣がゴール寸前まで走ったが、そこで痛恨のファンブル。そのボールをゴール内で相手に抑えられ、14-0と引き離すチャンスを逃がしてしまった。
 これで流れは一気に京大に傾く。ゴール前25ヤードから始まった攻撃でパスとランを織り交ぜてダウンを更新。さらに自陣40ヤード、第4ダウン7ヤードという状況から仕掛けてきたギャンブルプレーが成功して50ヤード付近から新たな攻撃が始まる。
 フットボールの常識にないギャンブルプレーを2回連続で成功させ、勢いに乗る京大の攻撃を止めたのがまたも大森。第1プレーでセンターライン付近からQBが投げたロングパスを見事なジャンプでインターセプトしてしまった。スタジアム内のFM放送を担当していた小野ディレクターが「相手QBの動きを冷静に見ていた大森君のファインプレーです。レシーバーの動きだけをマークしていたら、絶対に捕れないボールでした」と解説されていたが、まさに「守備が試合を動かす」という言葉通りのビッグプレーだった。
 ところが、攻撃陣がいま一つ波に乗りきれない。自陣28ヤードから斎藤がいきなりWR梅本に36ヤードのパスをヒットさせ、一気に相手陣深くまで攻め込んだが、そこでまたRB飯田が痛恨のファンブル。相手にカバーされて、またも攻撃権は京大に。
 それでも守備陣が踏ん張って簡単に第4ダウンロングの状況に追いやったが、ここでも京大はわざと反則を犯して5ヤード下がった上で、ギャンブルプレーを仕掛けてくる。リバースプレーを3回重ねたような複雑な動きで守備陣を幻惑したが、ここもLB池田雄が相手の動きを冷静に見極めてタックル。再び攻撃権を奪い取り、相手ゴール前31ヤードからファイターズの攻撃。
 ここは鷺野、飯田ががっちりボールを確保して確実に18ヤードを前進。残る13ヤードを斎藤からショベルパスを受けた鷺野が走り込んでTD。三輪のキックも決まって14-0。ようやく試合が落ち着く。後半に入ると、ファイターズの攻撃陣が安定感を取り戻し、斎藤のキープ、斎藤から梅本へのパスで立て続けに2本のTDを決め、結局は28-0。ファイターズの完封だった。
 それにしても、京大は思い切ったプレーコールでたたみかけてきた。第1Qに3度あった自陣内での第4ダウンのプレーで1度もパントを蹴らず、練りに練ったフェイクプレーを仕掛け、それをすべて成功させた。それでもダウンを更新できたのは1度きり。後は大森と池田が相手の動きに幻惑されず、しっかり止めきった。守りのよいチームが勝つ、という場面をこれほど如実に示した試合は、そうそうあることではない。
 後半に登場したDB小池、LB西田の1年生が連続して見せた鮮やかなインターセプトを含め、守備陣がことごとく攻撃の芽を摘んでくれたから、いつもの年なら必ず冷や汗を握る京大との試合が、やっと安心して観戦できた。ありがとう。
«前へ 次へ»

<< 2025年8月 >>

MONTUEWEDTHUFRISATSUN
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

ブログテーマ