石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(33)覚悟が問われる

投稿日時:2013/12/03(火) 08:28

 日曜日に王子スタジアムであった西日本地区代表決定戦の結果を伝えるデイリースポーツの記事がツイッタ-で紹介されていた。
 「鳥内監督 思わぬ苦戦に怒り」という見出しのついたこんな記事である。
 ……主力を温存したとはいえ、ふがいない戦いぶりに鳥内監督は「真剣にやれよ」と怒り心頭だった……。
 僕もスタンドから応援していて、全く同じ心境だった。ほんの1週間前、鬼気迫るプレーを連発する立命を相手に一歩も譲らず、骨をきしませ、気力と知恵の限りを尽くして戦った、これが同じチームの戦いぶりとは、全く思えなかった。
 それを象徴する場面が、ファイターズの最初の攻撃シリーズから現れた。自陣37ヤードからの攻撃。QB前田が木戸への短いパスを通し、RB鷺野が12ヤードまずはダウンを更新。相手陣45ヤードからの攻撃もRB西山と野々垣が走って3ダウン2ヤード。次もランプレーだったが、この2ヤードが進めない。相手陣37ヤードから伊豆が相手ゴール前に転がる絶妙のパントを蹴ったが、それをカバーチームの3人がお見合いする形で譲り合い、結局はタッチバック。
 相手にとっては、ゴール前1ヤード付近からの攻撃を労せずして25ヤードからの攻撃としてもらったのだから、こんなおいしい話はない。もっといえば、いきなりパスとランでダウンを更新され、関西代表の力を見せ付けられて浮き足立った相手に、力比べのランを1ヤードで止められ、あげくにこんな失敗をして、相手に「関学は油断している。やれるぞ」と思わせてしまったのだ。
 鳥内監督だけでなく、スタンドから応援している身としても「もっと真剣にやれよ」といいいたくなる。
 結局、第1Qは0-0。第2QになってようやくK三輪のFGで3点を先行したが、ひたすらランプレーを続ける名城の攻撃を食い止めることが出来ず、逆に相手にTDを奪われ、2点コンバージョンも決められて8-3。今季初めて相手にリードを許す展開となる。
 次のファイターズの攻撃は、1年生RB池永弟のナイスリターンで自陣45ヤードから。ここで前田がWR木戸、梅本、松下に立て続けにパスを通して相手ゴール前に迫ったが、ここも肝心なところでパスが通らず、三輪のFGで3点を挙げただけ。依然相手にリードを許したままの苦しい試合である。
 ようやく次の攻撃シリーズ。自陣21ヤードから連続して短いパスを決めて陣地を進め、残り時間が40秒を切ったところで前田から木戸へのTDパスが決まって逆転。14-8で前半を折り返す。
 後半は、一度はグラウンドから離れていた主力選手を次々と投入。まず守備を固めてから主導権の確保に努める。ようやく第3Q6分30秒、三輪がこの試合3本目のFGを決めて17-8。TD1本では追いつかれないところまで引き離すことが出来た。
 この辺りから、攻守の歯車がかみ合う。第4Qに入ると、最初のシリーズは三輪が4本目のFGを決めて20-8。相手は自陣30ヤード付近から強引に第4ダウンのプレーを仕掛けてきたが、これを冷静に止めて攻守交代。相手陣21ヤード付近からの攻撃をRB三好の18ヤードTDランに結び付けて27-8。その後は互いに1本ずつTDを挙げて結局は34-14で試合は終了した。
 試合から一晩がたち、少し冷静になったから、こうして試合を振り返ることが出来るが、スタンドで応援しているときは、それどころではない。「今日は交代メンバーが、その実力を披露するチャンス」「出来れば立ち上がりに3本ほどTDをとって、1年生にも出場機会を与えてほしい」なんて、勝手に想像していたのに、それが思いもよらない苦戦である。
 なんせ、あの強い立命や京大を零点に封じてきたファイターズである。関西リーグではまともに相手にTDを許さなかったチームである。それがなぜ、こんな試合を演じてしまったのか。主力を少なからず温存したとはいえ、スタメンはほとんどが先日の立命戦を戦ったメンバーである。交代メンバーの選手たちもそれぞれ監督やコーチが抜擢してグラウンドに送り出した期待の人材である。さらにいえば、甲子園ボウルの1Q15分の試合を心置きなく戦えるように交代メンバーの層を厚くしたいという願望のこもった選手起用である。
 その期待に応えられなかった選手が多かったのはどうしてか。監督の談話にある通り「もっと真剣にやれ」ということなのか。それとも、日ごろの取り組みに問題があるのか。
 こうした疑問に対して、僕なりの回答というのか、感慨はあるのだが、あえてここでは触れない。それよりも、この日の試合に交代メンバーとして出場した選手全員にいっておきたいことがある。
 ファイターズのメンバーとしてグラウンドに出る以上、そのすべてがあの立命戦を戦ったメンバーと同等の覚悟をもって試合に臨まなければならないということだ。もちろん、口先だけではダメ。日ごろの練習から、常時、その覚悟を確かめ、その覚悟にふさわしい取り組みが求められる。
 甲子園ボウルまで2週間足らず。練習出来る日は限られている。その限られた時間をチームの全員が火の玉となって過ごせるかどうか。チームに関わる者すべての覚悟が問われている。

(32)負けない試合

投稿日時:2013/11/26(火) 13:09

 お見事!という言葉がこれほど似合う試合は、そうそうお目にかかれない。11月24日、長居スタジアムで行われた関西リーグの最終戦。甲子園出場権をかけた関学と立命の決戦は、両チームの力と力、技と技、意地と誇りが真っ向からぶつかり、それに両軍ベンチの采配が火花を散らせる熱戦だった。
 結果は0-0。長いフットボール観戦歴で初めて体験するスコアだった。
 両チームともに点をとることが出来なかったが、それほど試合は拮抗していた。互いの守備が相手の得意とする攻撃を徹底的に封じ込め、ミスを最小限に抑え、にもかかわらず両チームのオフェンス陣が果敢に攻め続けた、これが結果である。得点は1点も入らなかったが、見応えは満点だった。
 コイントスに勝ったファイターズが前半は守備からという選択をしたところから、ゲームはスタートした。いつもの立命戦なら「先行、逃げ切り」を目指すはずだが、ベンチに「今日は守り合い」というこの日のシナリオがあったからに違いない。
 今シーズン、ファイターズは攻守が互いに連携して順調に勝ち星を重ねてきた。ところが立命は前節、京大に完敗して遅れをとった。それを挽回するには、この日の試合に勝ち、再度、甲子園出場権をかけてファイターズに勝つしかない。もちろん、ファイターズも負けられない。たとえ1敗しても決定戦があるなんて甘いことを考えた瞬間に、相手を勢いづかせてしまう。まして相手は、手負いである。死にものぐるいで立ち向かってくる。それを受けて立つには、相手を上回る強い意志とチームの結束が必要だ。
 「とことん守りきって勝つ。点を与えなければ負けることはない」。守備を担当する堀口コーチの言葉の意味するところがチームの全員に浸透し、攻守ともにその方針に徹した結果が0-0というスコアである。
 互いに爆発的な攻撃力を持ち、パスでもランでも、いかようにも得点する力を持っている。キッキングチームも鍛えられているし、守備陣が点を取って突破口を開いてきた試合もある。スペシャルプレーを入念に準備してきたことも、過去の戦いを振り返れば、ともに想定の範囲だろう。
 そういう両チームが試合終了の笛が鳴るまで、互いに相手の攻撃の芽を摘み、得意技を封じ、ミスを防ぎあって戦った試合である。ファイターズの守備陣があの強力な立命オフェンスを相手に、ラン攻撃を0ヤードに封じたという一事を見ても、その素晴らしさが証明されている。見事というしかない。
 それでも、互いに付け入るチャンスはあった。ファイターズにとっては、第2Qの半ば、自陣40ヤード付近からの第4ダウン、パンター伊豆がスナッパーの横山にパントフェイクのパスを通して敵陣38ヤード付近に攻め込んだ場面はそのひとつである。だが、この好機も、立命守備陣の奮起で逸してしまう。
 立命も2Qの終盤、アグレッシブなパントカバーチームのプレーで好機をつかむ。高く上がったパントをキャッチしたWR木戸が相手DB二人から強烈なタックルを浴び、腕からボールをもぎ取られてしまったのだ。ターンオーバー。ゴール前23ヤードで攻撃権を失うという厳しい局面だったが、ここでもファイターズ守備陣が奮起した。
 立命の第1プレー、QBからのパスをLB池田が指先ではじき、少し浮いたボールを今度はLB吉原がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森がキャッチして、またまた攻撃権を奪い返した。
 この場面、最初にQBの前に立ちはだかった池田、飛び上がってボールをカットした吉原、そのボールを冷静に確保し11ヤードをリターンした大森の3人の息がぴたりとあって、絵に描いたようなインターセプトが完成した。
 こうなると、後半は完全に守り合いと時間のつぶし合いである。
 ここでも特筆すべきは、ファイターズ守備陣の活躍だった。相手にレシーバーを捜す余裕を与えない機敏な動きでパスを封じ、決定的なチャンスを一度も与えなかった。なんせあの強力な立命オフェンスを相手に、前後半に5度のQBサックを決め、ロスタックルを何度も浴びせて、(繰り返しになるが)ラン攻撃を0ヤードに封じ込めたのである。
 攻撃陣もこれに呼応して、徹底的に時間を消費する作戦を展開する。力の梶原、技の飯田、スピードの鷺野という3人のRBと、終始冷静に判断して自らボールをキープするQB斎藤のキーププレーを組み合わせ、ごりごりと陣地を進め、時計を進めていく。
 記録を見れば、この試合の攻撃時間は立命が約20分、ファイターズ約28分。ファイターズがいかにリスク管理をしながら、負けない試合運びをしたかかが、こうした時間の使い方からも理解できるだろう。
 時間の使い方で、特筆しておきたいことがひとつある。タイムアウトの取り方をめぐる両軍ベンチの駆け引きである。
 立命はこの試合、前半と後半に2回ずつまとめてタイムアウトを取った。ともに第4ダウンショート。ファイターズはパント隊形をとったが、立命ベンチは何か不穏なものを感じたのだろう。プレーの直前にタイムアウトをとって、万一のフェイクプレーに備えた。
 なにしろ、まだ第2Qに入ったばかりなのに伊豆から横山へのパントフェイクのパスを成功させてダウンを更新しているファイターズである。過去にもこうしたフェイクプレーで、ファイターズは活路を開いてきた。その記憶が相手ベンチに刻まれているから、入念な打ち合わせでカバーチームに備えさせたのはよく分かる。
 もちろん、僕のような部外者にはファイターズベンチがそれぞれの場面で、どんなプレーを用意していたのかは分からない。それでも、グラウンドで戦う者同士、互いに不穏な気配が流れていたのだろう。だからこそタイムアウトを連発したのだろうが、結果として終盤、ファイターズの「時間を消費する攻撃」が進めやすくなったことは確かである。
 こういう両軍ベンチの微妙な駆け引きを含めて、本当に奥の深い見事な試合であり、見応えがあった。
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