石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(5)魂の故郷

投稿日時:2014/05/03(土) 14:29

 大型連休とあって、上ヶ原のグラウンドには、新しい卒業生が次々と懐かしい顔を見せている。
 僕は出会うことができなかったが、先日は、今春卒業したばかりのLB池田君や2013年の卒業生、RB望月君が顔を出し、後輩たちの練習台をフル操業で務めてくれたそうだ。今日も、九州の勤務先から帰省した13年卒のWR南本君が顔を出し、チーム練習の開始前からDBの個別練習の相手を繰り返し繰り返し務めていた。
 今年に限らず、ここ1、2年は特に若手のOBが機会を作って顔を出してくれる。昨年暮れは、ドイツで勤務する13年卒のDL前川君が空港から直接、グラウンドに顔を出してくれたし、東京勤務が決まったのでお別れに来ました、といってグラウンドに顔を見せてくれたOBもいる。
 もちろん、ファイターズは卒業したが、就職活動の都合で5年目の授業を受けている面々も、今年は例年になく数多く顔を出してくれている。アシスタントコーチの池永君、上沢君、梅本君、友国君はいま、第1回世界大学選手権日本代表チームの一員としてスウェーデンに行っているが、その隙間を埋めるように最近はDB足立君、OL田渕君、OL長森君らが練習に顔を出し、積極的にそれぞれの役割を果たしてくれている。
 若手OBたちがグラウンドに顔を出しやすい環境が生まれてきたのだろう。
 もちろん、いつの時代のメンバーも、それぞれがファイターズに対する特別な思いを持っているはずだ。良い思い出があれば、嫌な思い出もある。苦しいことも多かったに違いない。プロ野球の金本選手が引退した時のセリフを借りて言えば「しんどいことが7、8割で、喜びや充実感は2割、3割しかなかった。でもその2割、3割を追い続けての野球(フットボール)人生でした」というところだろう。
 でも、いかに苦しいことが多くても、それに負けることなく、自分を追い込み、成長させてきたのがファイターズの面々である。途中で脱落することなく、自らの意思で人間としての力を磨いてきたから、ファイターズの卒業生です、と胸を張って言えるのだ。
 そういう自負を持った卒業生が続々と自分を育ててくれたグラウンドに帰ってくる。そして同じ目標に向かって努力した下級生たちの練習相手を務めてくれる。そんなOBが年々増えている。うれしいことだ。
 社会人になった当座は、自分の仕事を覚えることに追われる。職業人としてのスキルも磨かなければならない。グラウンドに顔を出したくても、時間的、精神的なゆとりがないことの方が多いだろう。家庭を持つ年代になると、家族に対する責任が優先順位の上になる。30歳代から40歳代と年齢が進み、仕事を任されるようになれば、その責任を果たすことに追われる。アメフットどころではなかろう。体力も衰えてくるから、防具をつけて練習台になるなんて、とてもとても、ということにもな
る。
 そんな風に考えると、積極的にグラウンドに顔を出せる時期は限られる。その限られた時間を最優先でチームのために充当する。それを支えるのが「自分を育ててくれたのはファイターズである」という強い思いであ。
 例えば、今春の卒業生たちが卒業文集に綴った文章からも、その一端がうかがえる。自分とチームとの関係を赤裸々に綴った彼らの文章から、人を人として成長させるファイターズというチームの底力が見えてくる。
 例えば主将の池永君は、こんなことを綴っている。「仲間やから本気でなんでも言い合える。厳しいことを言うのは、それは同じ目標を見て、日々取り組んでいるからや。そいつは絶対、それ以上のことができるから、厳しく要求できる。それが一生の仲間や」
 副将の池田君は自分に妥協するな、と次のように求める。「自分が何を成し遂げたいのか、どんなプレーをしたいのかを決め、それを達成するために妥協せず、しんどいことや嫌なことから逃げないでほしい。もし妥協があったり、目をそらして逃げているところがあれば、目標は達成できないし終わった時に必ず後悔する」
 右ひざ前十字靭帯断裂を3度も経験し、そのたびにそれを克服し、オフェンスの支柱として活躍した副将、友国君の言葉も熱い。「けがを言い訳にするな。前十3回切っても復帰して選手としてやれる。たった1回や2回でわめくな。俺が3回切ってもできると証明したから、他のやつもできる」
 そして、もうひとりの副将、鳥内君。「ファイターズでの4年間は本当に価値のあるものだったし、大きく成長できたが、現役はそんなことを一切考えなくていい。どん欲に勝ちを目指すこと。それに尽きる。それが一番価値のあることなのだ」
 それぞれ言葉は異なるが、自分たちとともに戦った下級生たちに「何かを伝えたい」という必死懸命の気持ちがあふれている。
 この4人だけではない。それぞれの卒業生がこういう気持ちを文集に綴っている。上ヶ原のグラウンドに引き寄せられるように顔を出し、下級生の練習を手伝いたい、自分を育ててくれたチームにお礼がしたいという気持ちが駆り立てられるのはよく理解できる。
 そういうメンバーを引き寄せる場所。それが上ヶ原のグラウンドである。そこには人を人として成長させる磁気が流れている。卒業生たちにとっては帰るべき場所、魂の故郷である。

(4)長いハドル

投稿日時:2014/04/24(木) 22:28

 先週は、今シーズンの初戦。慶応との戦いだった。天気は晴れ。さわやかな風が吹いている。絶好の観戦日和である。
 聞くところでは、相手はこの試合に照準を合わせ、存分に準備をして乗り込んできたそうだ。ファイターズも、今季初めての試合とあって、気合いが入っている。何より両チームはこれまで、いつも見応えのある試合を繰り広げている。今年も好ゲームになりそうだと見込んで、いそいそと王子スタジアムに足を運んだ。
 ファイターズのキックで試合開始。だが、悪い予感はいつでも当たる。LB山岸が相手ゴールまで蹴りこんだボールを確保したリターナーが一気に100ヤードを走り切り、あっという間に慶応が先制。滞空時間も飛距離もあったキックだったが、カバーに問題があったのか、それとも相手リターナーの能力が傑出していたのか、あれよあれよという間に独走されてしまった。
 白状すると、僕は試合前、どこかでこんな場面があるのではないかと危惧していた。まだ新しいチームがスタートしたばかりで、チームとしての練習が足りていないことが、素人目にも歴然としていたからだ。冬季から春先は体の鍛錬と基礎的な動きが中心。チーム練習でも、個々のスキルをアップすることが主眼になっている。より多くのメンバーに機会を与え、新しい戦力の見極めもしなければならない。だから、試合を想定した練習がどうしても不足する。
 そのしわ寄せがキッキングゲームやパスプレー、パスカバーなどの精度に表れてくる。実際、1週間前の紅白戦でも、その問題点は露呈していた。QBが素晴らしいパスを投げても、レシーバーがそれを捕れない。1本目のメンバーが出ているときは目立たないが、攻守とも交代メンバーが出ると、ほころびが出る。ここで決めろよ、というときに決めきれない。
 そういう状態で迎えた初戦である。出番のある選手がそれぞれの力を発揮してくれることを期待しつつ、間違いなく不本意な結果も出てくるだろうと危惧していたのである。
 予感は当たった。冒頭のキックオフリターンTDだけでなく、ファイターズにとっては不本意なプレーが続出した。
 それでも、QB斎藤の落ち着いたプレー、LB吉原の鮮やかなインターセプトTD、鷺野主将の95ヤードキックオフリターンTDなど、経験豊富な4年生の活躍でペースをつかみ、試合は37-28の勝利。しかし、それを喜んでいる場合ではないのはチームの誰もが感じていたようだ。
 試合後、長いハドルで鷺野主将が厳しい檄を飛ばしていたのがその証明である。普段の試合なら、比較的短時間でハドルは解かれるのだが、あの日は違った。次の試合に備えて他校の選手がグラウンドで練習を始めてもなおハドルは解けず、幹部からの厳しい指摘が続いた。
 記者団に囲まれた鳥内監督も厳しい表情。「今年のチームは」という質問に答えて「仲良し」と一言。4年生の仲が良いのはいいけど、厳しさが足りないと補足し「ごめん、次は頑張る、じゃすまない」「秋になったら次はない。練習から、どうすんねん、と考えてやらんとあかん」と、奮起を促していた。
 こんな風に書いていくと、ファイターズにとっては「しょうもない試合だった」と思われるかもしれない。もちろん、そんなことはない。よい方の予感も結構当たった。
 一つは、前回のコラムで活躍すると予想した2年生RB橋本の奮闘である。昨年はJVの試合にちょこっと顔を見せただけの選手だが、ファイターズの水にも慣れたのだろう。180センチ、80キロの身体を生かして、再三相手守備陣を突破し、12回のキャリーで65ヤードを獲得。タフなところを見せた。TDも2本。「ラインのみんなが開けてくれた穴を走っただけ」という謙虚なところも好感が持てる。
 どちらかといえば、小柄で俊敏なRBが中心のファイターズとって、久々に当たって走れるRBの登場である。まだまだぎこちないところもあるが、13年卒の望月君のような当たりの強さを身につければ、大いに期待できる。望月君より足が速いのが心強い。
 もう一つは守備ラインの踏ん張りである。先発メンバーが顔をそろえていた第1Q終了間際、ゴール前3ヤードから相手に力勝負を挑まれたが、LB陣と協力して4回のラッシュをすべて食い止め、得点を許さなかった。就職活動を終えてからずっと練習を見ているアシスタントコーチの池永前主将に言わせると「まだまだ弱い。もっと鍛えなければ」ということだったが、今後、大いに期待できそうだった。
 ともあれ、今季の初戦。例年通り、いいところも悪いところもたっぷり見ることができた。問題はこれからである。いいところを伸ばし、悪いところを改善する。例年、卒業生を送り出すたびにやってきた新チームの道のりを今年もまた歩まなければならない。「社会人に勝って日本1」というのなら、それを過去3年以上の高いレベルで達成する必要がある。異例ともいえる試合後の長いハドルで、鷺野主将が言ったことを全員が肝に銘じてやり遂げなければならないのである。
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