石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(16)続・スタッフの力

投稿日時:2015/07/21(火) 08:31

 前回のコラムでは、ファイターズはスタッフが支えていると書いた。しかし、なぜスタッフが成長するのか、という点までは書ききれなかった。そこで今回は、その点について僕なりの考えを書いてみたい。
 まずは、スタッフについて語る上で必要と思える二つの場面を紹介しよう。
 一つは数年前、王子スタジアムでの出来事だった。選手証を首からぶら下げた控えの選手数人が一般客の入場するゲートから入ろうとしているのを見とがめた女子のマネジャーが「あんたら、どこから入ってんの。選手の出入口に回りなさい」と厳しく注意した。選手たちが不服そうな表情をすると、重ねて「選手は選手専用の出入口から出入りすることに決まってんねん。ちゃんと守って」とより厳しく命令する。その剣幕に押されて、大の男数人がすごすごと選手入口に回るのを見たとき、ファイターズのマネジャーは男女関係なく、すごい権力を持っていることを実感した。
 もう一つある。これは2年前、秋のシーズンも深まったころのことである。上ヶ原の第3フィールドでチームが練習中、準備したメニューが一区切りついた時を見計らって女子のトレーナーの一人が「スタッフ、全員集まって!」と声を掛け、主務をはじめスタッフ全員にハドルを組ませた。そこで「あんたら、やる気あんのん。スタッフがこんなことで、チームを勝たせられんのん」と怒鳴り上げた。
 わざわざ練習を止めてまで、スタッフをしかり飛ばしたその剣幕。彼女の言い分には確かな理由があったのだろう。男女問わず、集まったスタッフ全員が彼女の檄に従い、全力疾走で練習に戻って行くのを見て「これはすごい。こんなチームは日本中、どこを探してもないぞ」と僕は恐れ入った。
 ここにあげたマネジャーもトレーナーも、日ごろは優しい女子大生である。普段、顔を合わせても礼儀正しい応対をしてくれる。ともに嫌な思いをしたことは一度もない。しかし、いざ鎌倉!というときには、大の男でもしかり飛ばすエネルギーを全開にする。
 その凄さはどこからくるのか。
 僕のたどり着いた答えは一つである。彼女らには、日ごろから全力でチームのために尽くしているという自負があるからだ。日本1を目指すチームに男と女の区別はない。選手とスタッフという違いもない。同じ目標に向かって、学生生活のすべてを捧げているという自負を持ち、そのための行動を24時間、365日とり続けているという自信があるからだ。だから、ちんたらしている人間が許せない。心の底から声を上げてしかり飛ばすことが出来るのである。
 実際、ファイターズにおいてマネジャーやトレーナー、そしてアナライジングスタッフが担っている役割は果てしなく大きい。いま紹介した場面は、たまたま女子のことだったが、男子スタッフもそれぞれが自分の役割を全うするために全力を挙げている。マネジャーの中には、単位を取るのが苦手な部員のために、わざわざ勉強会を開き、授業のポイントを指導している部員がいるし、選手の栄養管理のためのメニューを準備するトレーナーもいる。選手から転向してきたメンバーも多いアナライジングスタッフは、練習の段取りを整え、ビデオを編集する。練習が始まればダミーとなって選手の当たりを受け止め、パスを受け続ける。
 グラウンドで称賛を受けるのは選手だが、その活躍を支えているのはこうしたスタッフであることは、当の本人が知っているし、選手もまた熟知している。同じ目標に向かってともに戦う仲間だとチームの全員が承知、承認しているから、当然、それぞれの役割に対する敬意も生まれる。互いをリスペクトする土壌があるから、スタッフが時に激しい怒声を浴びせても、その指摘に理由がある限り、上級生、下級生、選手、スタッフ、男と女、関係なく全員が一つになれる。
 だからこそ、監督やコーチも、女子のトレーナーが練習を止め、スタッフをしかり飛ばす現場を目撃しても、黙って見ているのだ。
 鳥内監督に先日、なぜファイターズの女子スタッフは敬意を払われるのか、と聞いてみた。答えは「うちに必要なスタッフは何でもどーんと受け止める肝っ玉母さんか、ばりばり仕事のできるキャリアウーマンタイプ。それ以外は要りませんねん」。
 なるほど、と思った。それは女子部員に限ったことではない。アナライジングスタッフもトレーナーもマネジャーも、それぞれの現場で全力を尽くす。それが特別のことではなくチームの標準になる。その標準をクリアし、なお一段上のレベルにチームを引き上げよと全員が努力する土壌があるから、その努力はリスペクトされる。
 創部以来、20歳前後の学生が主体となってそういう環境を作り、育て続けてきたからこそ、人は育つのである。

追記
ちなみに、今回紹介した二人の女子スタッフは卒業後、ともに誰もが知っている名門企業に就職。うち一人は、入社式で新入社員の代表として「入社の辞」を述べたと聞いている。これもまた、ファイターズが人を育てる組織であることの証拠であろう。

(15)スタッフの力

投稿日時:2015/07/16(木) 23:20

 いま、ネットで台風情報をチェックしていたら、リクルート担当の小桜マネジャーから電話があった。
 「明日の勉強会、午後3時の時点で阪神間に警報が出されていたら、中止にします。学校が休校になるので、課外活動についても、それに準じた扱いになるということです。よろしくお願いします」
 こんな内容だった。必要なことが要領よくまとめられているので、即座に話が了解できる。当方から連絡をとる前に、適切な電話を入れ、礼儀正しく必要な情報を伝えて、すぐに電話を切る。簡単なことだが、社会人でもこれが出来ない人が少なくない。こういう電話連絡一つをとっても、ファイターズスタッフのレベルの高さが分かる。
 これは小桜君だけではない。いつも部室に陣取っている主務の西村君、マネジャーの五嶋さんや重田君。部室を訪ね、用件を依頼して彼、彼女らの応対に不愉快な思いをしたことは一度もない。
 もちろん、マネジャーはグラウンドでの練習も仕切っている。トレーナーの毛利君、平田君、田中君ら、アナライジングスタッフの加納君や押谷君らを加えたスタッフが日本1のチームを動かしているということを折に触れて実感する。
 さて、勉強会の話である。この勉強会とは毎年、この時季にスポーツ選抜入試で関西学院大学を受験したいという高校生を対象に、小論文を指導する集まりである。監督やコーチをはじめ、ファイターズの誇るリクルートスタッフが勧誘したメンバー10余人が先週末から参加している。
 関東のメンバーは、ファックスなどでのやりとりになるが、関西地区のメンバーは毎週末、部活動の終わった後に西宮市内の会場に集合し、僕が提示した課題を基に小論文を書く。僕がそれを添削し、講評や注意点を書きこんで翌週の勉強会で返却する。書き方の実際についてもそれなりに指導するが、基本は高校生が「自分の考え」をまとめて文章に紡ぐこと。60分という時間制限の中で800字を書くのだから、日ごろ、まとまった文章を書き慣れていない高校生にとっては、なかなかの難行だ。
 けれども、これは毎年のことだが、回数を重ねるごとに急激に上達する。最初の1、2回こそ書きやすいテーマを与えるが、それをクリアすると、少々書きにくそうなテーマでも、何とか制限時間内に、規定の分量を書き上げる。その内容もしっかりしている。もともと運動神経の発達している生徒だから、ちょっとしたコツを指摘しても、それを理解するのが早いのだろう。書くことに不安がなくなると、ますます上達する。
 振り返れば、こうした「特訓」を始めたのは1999年の夏。あの平郡君と池谷君が第一期生である。今は取り壊されて新しい高層ビルの建設が始まっている大阪・中之島の朝日新聞に集まってもらい、社内にある従業員専用の喫茶室などで、寺子屋のような指導を始めたのがスタートである。喫茶店のおばちゃんたちが物珍しそうに眺めていた光景が懐かしい。
 次の佐岡君たちの代になると、人数が増えたので、1階に新設された読者のサービスコーナーや地下の喫茶店に場所を変えて、飲み食いをともにしながら勉強した。どうみても高校生とは思えないイカツイ体つきの兄ちゃんたち(佐岡君や石田貴祐君ら)が本社の受付に集合する様子を見て、受付のかわいい女性が目を白黒させていたことを思い出す。
 この勉強会を世話してくれるのが担当のマネジャー、小桜君。昨年と1昨年はいま主務をしている西村君。卒業生でいうと、新しい順に多田健一郎、鈴木裕章、森田義樹、蔀保裕、酒井祐輔、岩辺憲昭、佐々木啓、水野康二、祝翼、澤井紘平という名前が浮かんでくる。1年間の付き合いだった人もいるし、2年、3年とつきあったマネジャーもいる。出合った当初は「頼りない子やなあ」と思ったメンバーもいるが、4年生の時にはそれぞれチームを支えるスタッフとして活躍してくれた。
 こういうメンバーとつきあっていると、ファイターズという組織は、実はスタッフで持っているという気がしてならない。逆にいうと、毎年毎年、選手とともにスタッフが成長を続けているからこそ、大学選手権で勝ち続けることが可能になるのだろう。
 では、こういうスタッフはどうして成長していくのか。その話はまた機会を改めて説明したい。
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