石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
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(18)ファイターズ・ホール
投稿日時:2015/08/10(月) 21:42
7日も雷、8日も雷。上ケ原の第3フィールドは朝方、快晴の天気だったのに、夕方は2日続けて雷が襲来し、2日ともチーム練習が中止になった。10日から始まる夏合宿を前に、監督・コーチも選手たちも、いい加減に勘弁してくれ、という気持ちだったろう。
でも、地震、雷、火事、親父。ぐだぐだ文句を言っても勝てるわけがない。ピカッ、ゴロゴロ、バリバリ、ドーンという賑やかな天の協奏曲を聞かされては、練習は中止するしかない。
ということで、今日はチームから少し離れて、ファイターズ・ホールの紹介をしたい。
このホールのことは、OBの皆さんにとっては、これまでも節目節目に会議があり、その都度、進行状況も報告もされているようなので、いまさら、ということになるかも知れないが、一般のファンの方には、まだ正式なお披露目が終わっていない。そこで今回はその詳細をご紹介したいと思い、OB会長の竹田行彦さんに取材した。
ファイターズ・ホールは、西宮市上ケ原山手町の住宅街の一角にある。学生会館からは約300歩、第3フィールドまでは400歩ほど。昔の高等部と「松本商店」の間の通りを山側に突き当たったところの道路の上といえば、関学で学んだ人なら迷うことなく到着できる。ライトブルーの塗装をした瀟洒な2階建てが目的のホールである。
この施設は、鉄骨木造2階建ての民家(敷地は110坪、建物は66・52坪の2階建て)をOB会が購入し、全面的に改装した。費用はあわせて約1億円。「建築関係の仕事に携わるOBたちが全面的に協力し、相場より相当安い価格で改装工事と外構工事を引き受けてくれたので助かりました」と竹田会長。
以前は立派な庭のあった正面に、駐車スペースと自転車置き場が新設されている。とんとんと短い階段を上がれば玄関である。室内に入れば、米田満先生の寄贈になる戦後再スタートしたばかりの頃のユニフォームが迎えてくれる。まるでセーターのように見える立派な仕立てだ。戦後、すべての物資が窮乏していた時代に、誰がどういう手立てで、このような立派なユニフォームを調達されたのか。ファイターズの「兵站部門」の底力を目の当たりにする気持ちである。
玄関を入って右手の部屋がOBの方々を迎える応接室兼事務室兼管理室。真新しいフローリングの床、優勝カップやトロフィー、チームの関係資料や懐かしい試合を収録したDVDなどが壁面に飾られている。聞けば、ホールを管理するOBが在室の時には、室内の見学やDVDの鑑賞も可能だという。
しかし、このホールの心臓部は、玄関を入って正面の広間。ここは食堂にもなり、小規模なミーティングの場所にもなる。そして一角は治療スペースになっていて、専門的なメンテナンスを受けることも受けられるようになるそうだ。
グラウンドからほんの数分の距離に、こうした施設が出来ることで、通院時間やそれに伴う交通費などが不要になり、部員の負担は大いに軽減する。けがなどの早期治療が可能になり、回復を早める効果も期待できる。チームからOB会に「是非ともこうした設備をつくってほしい」という要望に応えた施設だという。
もう一つある。1階に設置された風呂場である。建物の規模の割には大きな風呂で、練習後の部員がさっさと入浴することができる。これもまた「シャワーだけでは疲労はとれない。ゆっくり入浴できる設備がほしい」というチームからの要請に応えた設備である。
そして2階。この日は見学できなかったが、ここの3室で4年生6人が共同生活をしている。毎日の練習やミーティングが終わり、解散した後もチームの運営について話し合い、互いの意思疎通をよくするためだ。自宅通学でも、4年生になると学校の近くに下宿し、24時間フットボール漬けの生活を送る幹部は以前からいたので、希望者に対して世間相場より安い部屋代でバックアップしようという目的だという。
こうしたある場面では現役学生の集会所であり、治療施設であり、宿泊施設。またある場面ではOBたちの心のふるさと、帰るべき場所となる施設。それがファイターズ・ホールである。
この施設をOB会が作り上げた。すごいことである。さすがは1460人のOB会員を擁し、そのうち会費支払いが免除となる65歳以上の会員を除く8割以上が年間2万円の会費を納入する(昨年度の納入率は88%、最近の卒業生では納入率100%の学年もあるそうだ)ファイターズOB会である。母校を応援し、後輩たちのため
に、少しでもよい環境をと努力される姿には頭が下がる。
しかし、それでもまだ、ホールの購入や改装に要した資金がすべてまかなえたわけではなく、OB会は今後10年間に3千万円の寄付を募るそうだ。今後は運営にも費用がかかる。大事業に取り組むファイターズOB会のパワーには敬意とともに驚きを禁じ得ない。
でも、地震、雷、火事、親父。ぐだぐだ文句を言っても勝てるわけがない。ピカッ、ゴロゴロ、バリバリ、ドーンという賑やかな天の協奏曲を聞かされては、練習は中止するしかない。
ということで、今日はチームから少し離れて、ファイターズ・ホールの紹介をしたい。
このホールのことは、OBの皆さんにとっては、これまでも節目節目に会議があり、その都度、進行状況も報告もされているようなので、いまさら、ということになるかも知れないが、一般のファンの方には、まだ正式なお披露目が終わっていない。そこで今回はその詳細をご紹介したいと思い、OB会長の竹田行彦さんに取材した。
ファイターズ・ホールは、西宮市上ケ原山手町の住宅街の一角にある。学生会館からは約300歩、第3フィールドまでは400歩ほど。昔の高等部と「松本商店」の間の通りを山側に突き当たったところの道路の上といえば、関学で学んだ人なら迷うことなく到着できる。ライトブルーの塗装をした瀟洒な2階建てが目的のホールである。
この施設は、鉄骨木造2階建ての民家(敷地は110坪、建物は66・52坪の2階建て)をOB会が購入し、全面的に改装した。費用はあわせて約1億円。「建築関係の仕事に携わるOBたちが全面的に協力し、相場より相当安い価格で改装工事と外構工事を引き受けてくれたので助かりました」と竹田会長。
以前は立派な庭のあった正面に、駐車スペースと自転車置き場が新設されている。とんとんと短い階段を上がれば玄関である。室内に入れば、米田満先生の寄贈になる戦後再スタートしたばかりの頃のユニフォームが迎えてくれる。まるでセーターのように見える立派な仕立てだ。戦後、すべての物資が窮乏していた時代に、誰がどういう手立てで、このような立派なユニフォームを調達されたのか。ファイターズの「兵站部門」の底力を目の当たりにする気持ちである。
玄関を入って右手の部屋がOBの方々を迎える応接室兼事務室兼管理室。真新しいフローリングの床、優勝カップやトロフィー、チームの関係資料や懐かしい試合を収録したDVDなどが壁面に飾られている。聞けば、ホールを管理するOBが在室の時には、室内の見学やDVDの鑑賞も可能だという。
しかし、このホールの心臓部は、玄関を入って正面の広間。ここは食堂にもなり、小規模なミーティングの場所にもなる。そして一角は治療スペースになっていて、専門的なメンテナンスを受けることも受けられるようになるそうだ。
グラウンドからほんの数分の距離に、こうした施設が出来ることで、通院時間やそれに伴う交通費などが不要になり、部員の負担は大いに軽減する。けがなどの早期治療が可能になり、回復を早める効果も期待できる。チームからOB会に「是非ともこうした設備をつくってほしい」という要望に応えた施設だという。
もう一つある。1階に設置された風呂場である。建物の規模の割には大きな風呂で、練習後の部員がさっさと入浴することができる。これもまた「シャワーだけでは疲労はとれない。ゆっくり入浴できる設備がほしい」というチームからの要請に応えた設備である。
そして2階。この日は見学できなかったが、ここの3室で4年生6人が共同生活をしている。毎日の練習やミーティングが終わり、解散した後もチームの運営について話し合い、互いの意思疎通をよくするためだ。自宅通学でも、4年生になると学校の近くに下宿し、24時間フットボール漬けの生活を送る幹部は以前からいたので、希望者に対して世間相場より安い部屋代でバックアップしようという目的だという。
こうしたある場面では現役学生の集会所であり、治療施設であり、宿泊施設。またある場面ではOBたちの心のふるさと、帰るべき場所となる施設。それがファイターズ・ホールである。
この施設をOB会が作り上げた。すごいことである。さすがは1460人のOB会員を擁し、そのうち会費支払いが免除となる65歳以上の会員を除く8割以上が年間2万円の会費を納入する(昨年度の納入率は88%、最近の卒業生では納入率100%の学年もあるそうだ)ファイターズOB会である。母校を応援し、後輩たちのため
に、少しでもよい環境をと努力される姿には頭が下がる。
しかし、それでもまだ、ホールの購入や改装に要した資金がすべてまかなえたわけではなく、OB会は今後10年間に3千万円の寄付を募るそうだ。今後は運営にも費用がかかる。大事業に取り組むファイターズOB会のパワーには敬意とともに驚きを禁じ得ない。
(17)開かれたチーム
投稿日時:2015/07/28(火) 09:08
ファイターズの諸君はいま、前期試験の終盤戦。部活動も制約を受け、チームとしての練習も停止されている。上ヶ原の第3フィールドを訪ねても「暑熱順化期間」ということで、試験の終わったメンバーが交代で日中の短時間、グラウンドに集まり、暑さに慣れるために体を動かしている程度である。本格的な夏の練習は8月1日から始まる。
その、いわば空白期間を利用して、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで開かれた小野宏ディレクターの講演の話をしたい。
講演のタイトルは「アメリカンフットボールの本当の魅力」。これに2014シーズンのターニングポイント、という副題がついている。目次でいえば
1、立命戦の戦略
2、甲子園ボウル 爆発したインサイドパワーシリーズ
3、ライスボウル第4ダウンギャンブルの裏表
4、スーパーボウルのプレー選択は大失敗か
5、1983年関京戦~2ポイントで考える人生哲学
それぞれのシーンを、ビデオで再現しながら、コーチの視点で具体的に解説された。
聴衆は約130人。試合会場でいつも一緒になる知人やアメフットが大好きと公言される関学の先生らの顔が見える。参加者の名簿を拝見すると、選手の保護者も何人かはお見えになっていたようだ。今年で4年目という人気講座であり、わざわざ東京からお見えになった方もいる。他大学の関係者らしき人も散見される。
そうした中で、関西リーグの優勝を決める立命戦で展開した「クイックノーハドル・オフェンスの意図と実際」について、最初のタッチダウンにつながる10プレーについて、1プレーずつ解説。なぜ、ここでWRへのドロップバックパスを選んだのか。なぜRB橋本に3回連続で中央のランプレーをコールしたのか。10プレー目で橋本がファンブルしたボールを、なぜC松井がカバーし、TDに結び付けることができたのか。その前に、なぜこのクイックノーハドル・オフェンスを選んだのか。そこにどういう意図があったのか。そしてそれは、どのような効果を挙げたのか。成功に導くために、選手やスタッフはどのような行動をしたのか、というようなことについて、具体的な解説が続く。
コアなアメフットファンなら、誰もが知りたい内容であり、ライバル校にとっては大金をはたいてでも入手したい情報である。それを惜しげもなく公開し、それぞれに懇切丁寧な解説を付ける。そして、急所なる点については、この日、特別ゲストとして関係者席に座っていた大村アシスタントヘッドコーチにマイクを向け、現場の生の感覚を聞き出す。聞いていて、ここまで情報を公開して大丈夫かいな、と心配になるほどのサービスぶりだった。
これは立命戦の解説だけではない。日大と戦った甲子園ボウルで展開した「インサイドパワー・シリーズ」の狙いと成果、そのための工夫と勘所。パスとランの有機的な組み合わせ、それぞれの裏に秘められたフェイクプレー。さらには、ライスボウルで徹頭徹尾追求した第4ダウンギャンブルの狙い。それぞれについて、これまた丁寧な解説を続け、フットボールがいかに知能を使うスポーツであり、かつ合理的なスポーツであるという点について力説する。
その上に、おまけが二つ。今年のスーパーボウル、24-28で迎えた最終盤、ゴール前1ヤードで追い上げるシーホークスが選択したプレーの解説と、小野さん自身がQBとして出場した1983年、京大との戦いの最終局面の解説。
二つの解説を聴きながら、フットボールのコーチは、なんと緻密に試合展開を考えているのか、一つ一つのプレーコールに、そこまでの深い意味があるのか、とあらためて感慨を覚えた。そして、理詰めに考え、あらゆる可能性を考慮した選択であっても、時には理屈通りには行かないのがフットボールであり、それも魅力の一つなんだと感じ入った。
フットボールには、競技そのもののおもしろさに加えて、その背後に宿っているコーチやプレーヤーの人生哲学までを視野に入れて楽しめるスポーツである。その面白さ、楽しさを広く知ってもらいたい。そして文化としてのフットボールを広くこの社会に普及させたい。そんな小野さんの願い、ひいてはファイターズの希望を込めて開かれたのがこの日の講演だった。
そういう大きな目的から考えれば、たとえチームにとっては秘密にしておきたいプレーであっても、惜しみなくその内実を公開する。その考え方が広く共有され、フットボールの奥行きの深さに目覚めたファンが仲間を誘ってスタジアムにきてくれるのなら、それで満足。一人でも多くのフットボールファンを開拓することが、トップチームの使命であり、責任だと割り切って解説を続ける。それに現場のコーチも全面的に協力する。
お二人の姿を目の前に見て、ファイターズは本当に開かれたチームであることよ、こうした姿勢があるから、常に新しい戦術、戦略を考え、導入し、それを遂行することが出来るチームに育っていくのだよ、と感じ入った次第である。
その、いわば空白期間を利用して、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで開かれた小野宏ディレクターの講演の話をしたい。
講演のタイトルは「アメリカンフットボールの本当の魅力」。これに2014シーズンのターニングポイント、という副題がついている。目次でいえば
1、立命戦の戦略
2、甲子園ボウル 爆発したインサイドパワーシリーズ
3、ライスボウル第4ダウンギャンブルの裏表
4、スーパーボウルのプレー選択は大失敗か
5、1983年関京戦~2ポイントで考える人生哲学
それぞれのシーンを、ビデオで再現しながら、コーチの視点で具体的に解説された。
聴衆は約130人。試合会場でいつも一緒になる知人やアメフットが大好きと公言される関学の先生らの顔が見える。参加者の名簿を拝見すると、選手の保護者も何人かはお見えになっていたようだ。今年で4年目という人気講座であり、わざわざ東京からお見えになった方もいる。他大学の関係者らしき人も散見される。
そうした中で、関西リーグの優勝を決める立命戦で展開した「クイックノーハドル・オフェンスの意図と実際」について、最初のタッチダウンにつながる10プレーについて、1プレーずつ解説。なぜ、ここでWRへのドロップバックパスを選んだのか。なぜRB橋本に3回連続で中央のランプレーをコールしたのか。10プレー目で橋本がファンブルしたボールを、なぜC松井がカバーし、TDに結び付けることができたのか。その前に、なぜこのクイックノーハドル・オフェンスを選んだのか。そこにどういう意図があったのか。そしてそれは、どのような効果を挙げたのか。成功に導くために、選手やスタッフはどのような行動をしたのか、というようなことについて、具体的な解説が続く。
コアなアメフットファンなら、誰もが知りたい内容であり、ライバル校にとっては大金をはたいてでも入手したい情報である。それを惜しげもなく公開し、それぞれに懇切丁寧な解説を付ける。そして、急所なる点については、この日、特別ゲストとして関係者席に座っていた大村アシスタントヘッドコーチにマイクを向け、現場の生の感覚を聞き出す。聞いていて、ここまで情報を公開して大丈夫かいな、と心配になるほどのサービスぶりだった。
これは立命戦の解説だけではない。日大と戦った甲子園ボウルで展開した「インサイドパワー・シリーズ」の狙いと成果、そのための工夫と勘所。パスとランの有機的な組み合わせ、それぞれの裏に秘められたフェイクプレー。さらには、ライスボウルで徹頭徹尾追求した第4ダウンギャンブルの狙い。それぞれについて、これまた丁寧な解説を続け、フットボールがいかに知能を使うスポーツであり、かつ合理的なスポーツであるという点について力説する。
その上に、おまけが二つ。今年のスーパーボウル、24-28で迎えた最終盤、ゴール前1ヤードで追い上げるシーホークスが選択したプレーの解説と、小野さん自身がQBとして出場した1983年、京大との戦いの最終局面の解説。
二つの解説を聴きながら、フットボールのコーチは、なんと緻密に試合展開を考えているのか、一つ一つのプレーコールに、そこまでの深い意味があるのか、とあらためて感慨を覚えた。そして、理詰めに考え、あらゆる可能性を考慮した選択であっても、時には理屈通りには行かないのがフットボールであり、それも魅力の一つなんだと感じ入った。
フットボールには、競技そのもののおもしろさに加えて、その背後に宿っているコーチやプレーヤーの人生哲学までを視野に入れて楽しめるスポーツである。その面白さ、楽しさを広く知ってもらいたい。そして文化としてのフットボールを広くこの社会に普及させたい。そんな小野さんの願い、ひいてはファイターズの希望を込めて開かれたのがこの日の講演だった。
そういう大きな目的から考えれば、たとえチームにとっては秘密にしておきたいプレーであっても、惜しみなくその内実を公開する。その考え方が広く共有され、フットボールの奥行きの深さに目覚めたファンが仲間を誘ってスタジアムにきてくれるのなら、それで満足。一人でも多くのフットボールファンを開拓することが、トップチームの使命であり、責任だと割り切って解説を続ける。それに現場のコーチも全面的に協力する。
お二人の姿を目の前に見て、ファイターズは本当に開かれたチームであることよ、こうした姿勢があるから、常に新しい戦術、戦略を考え、導入し、それを遂行することが出来るチームに育っていくのだよ、と感じ入った次第である。
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