石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(9)登竜門

投稿日時:2016/06/07(火) 22:58

 登竜門という言葉がある。辞書には「中国・黄河上流の急流。ここを登り切る鯉は化して竜となるという言い伝えがあり、元来は出世の糸口をつかむの意」というような説明がある。「難しい関門とか運命を決めるような大切な試験のたとえ」とも説明している。
 ファイターズにおいては毎年、春のシーズン最後に行われるJV戦がそれに相当するだろう。1年間、みっちり体力を養い、学年を一つ重ねて飛躍を期している2年生や3年生。今春入学して2カ月余。ようやくファイターズの水に慣れ、チーム練習にも参加させてもらえるようになったフレッシュマン。昨秋の関西リーグでは出番のなかったそうした面々にとっては、ここで力を発揮し、鯉が竜になる手掛かりをつかむ大事な試合である。逆に、ここで力を発揮することができず、選手としての活動に見切りを付け、新しくスタッフとして転出していった先輩たちも少なくない。
 5日、上ヶ原の第3フィールドで行われたサイドワインダーとの戦いがそのような試合だった。
 先発メンバーを見ると、オフェンスでは左のラインに松永と川辺(ともに箕面自由)が並び、WRにはこれまた期待の阿部(池田)。今春、入学したばかりの新人が3人も名前を連ねている。主要な交代メンバーでは背番号の若い順にK安藤、WR平尾、DB小川、山本、畑中、RB斎藤、DB吉野、LB田中、藤田優、DL寺岡、OL長谷川、森、WR前田、勝部、DL本田、TE藤田統、DL藤本の名前が見える。先日の関大戦や近大戦に出場していたメンバーもいるが、この日が初めてというメンバーの方が多い。
 スポーツ選抜入試を突破して入学したメンバーの顔は分かるが、高等部や啓明学院から来た選手はまだ名前と顔が一致しない。それでも「今年のフレッシュマンはいいですよ」という話を折に触れて聞き、自分の目でも確かめてきただけに、彼らの活躍が楽しみでならない。
 もちろん2年生になって、ようやく出場機会を得た選手たちからも目を離せない。高校野球界で鳴らしたWR小田、QBからDBに転向した西原、DLからTEに転向したばかりの荒木。僕の授業の受講生であるDB徳田、DL筒井、LB倉西の動きもチェックしなければならない。
 おまけに相手は社会人。チーム練習の機会こそ学生が勝っているが、彼らには経験と実績、それに鍛え上げた体がある。見ただけでも気後れしそうな巨体を誇る選手もいるし、何よりチームを率いるエースQBが14年に卒業したばかりの前田龍二君だ。エースQB斎藤圭君のカバー要員として機敏な動きを見せていた選手であり、シーズン後半には立命館や関大を想定したスカウトオフェンスのリーダーとしても活躍した。おまけに彼からパスを受けるメーンターゲットが今春卒業したばかりのWR木村圭祐君である。JVのメンバーにとっては「胸を借りる」のに格好の相手である。
 試合はファイターズのキックで始まる。相手陣20ヤードから始まったサイドワインダーズの攻撃をこの試合から復帰したばかりのDL松本が完全にコントロールし、一歩も前に進ませない。3プレー目、たまらずに投じたパスをこれまた今季初登場の主将、山岸が余裕でインターセプト、そのまま30ヤードを走り切ってあっという間にTD。K泉山のキックも決まって7-0。
 けがや手術のため昨シーズン終了直後から長く戦列を離れていた二人だが、さすがに下級生の頃から守備の要として活躍してきた選手である。プレーのスピードはあるし、破壊力も抜群。相手の動きを読む目も全くブランクを感じさせない。秋の活躍は100%保証できるというできばえだった。
 しかし、彼らがベンチに引き上げたあとは両軍ともなかなか攻撃が続かない。せっかく攻撃が進んでも反則で帳消しにしたり、レシーバーが空いているのにパスが乱れたり。ようやく2Q10分42秒、QB西野が16ヤードを走り込んでTD。この日が初出場のK小川のキックも決まって14-0。
 後半になると、炎天下の戦いで疲れたのか、相手の反応が徐々に遅くなってくる。それに乗じて3Q8分43秒、西野からTE荒木へのパスがヒットしTD。最後にK小川が30ヤードのフィールドゴールを決め、24-0でファイターズが勝った。
 さて、注目していた鯉たちは龍門の急流を突破し、首尾よく竜になれたかどうか。この日の公式記録には次のような数字が並んでいる。ラッシングではそれぞれ2年生のQB西野が6回52ヤード、RB中村行が6回45ヤード、RB富永が7回33ヤード。そして1年生の斎藤が3回16ヤード。
 パスレシーブでは1年生の阿部が4回75ヤード。ともに2年生の小田が3回46ヤード、荒木が3回24ヤード。インターセプトは最初に紹介した山岸とゴール前で相手パスをもぎ取った1年生LB藤田優の2人。
 もちろん、わずか1回の試合で評価するのは難しいし、守備陣や攻撃ラインの活躍振りは、こうした記録にはほとんど現れない。けれども、この日の試合を見ただけで、秋には必ず登場し、活躍してくれそうな選手、竜になりそうな選手が攻守ともに何人も見つかった。大きな収穫だった。
 付記
 この試合で、終始学生に押されていた相手チームだが、その中にあってQB前田がWR木村にミドルパスを何本か通した。背番号11から10へ。パスが通るたびに、思わず二人に拍手を送った。ファイターズ・スカウトチームの中心になってチームを支えてくれた卒業生が社会人になっても活躍してくれているのがことのほかうれしかった。とくに付記しておきたい。

(8) 残り34秒からの思惑

投稿日時:2016/05/25(水) 11:36

 春の関大戦は、毎年のようにきわどい勝負になる。ここ10年をファイターズ側から振り返っても、2006年から順に16-10、28-10、3-0、11-10、18-0、31-7、30-34、21-20、38-14。昨年は、最終のスコアこそ23-3だったが、前半は6-3。互いに秋の試合を想定して、決定的な手の内は見せず、双方ともに基本的なプレーだけで戦っているように見えるが、毎年、中身の濃い戦いを見せてくれる。
 今年も例外ではなかった。22日午後2時、晴れ渡ったエキスポフラッシュフィールドでキックオフ。その直前にカリフォルニア大学バークレー校の華やかなマーチングバンドのドリルがあり、大いに盛り上がったフィールドで、双方ともに一歩も引かない戦いを繰り広げた。互いに好敵手と認め、気力、体力、知力を存分にぶつけ合うからだろう。前半、双方ともに急所で相手の攻撃の芽を摘み取り、0-0で終わった展開が激しい攻防を証明している。
 試合が動き出したのは第3Q。自陣14ヤードから始まった攻撃で関大がランと短いパスを組合わせて2度ダウンを更新。ファイターズ守備陣の目が中央に引き寄せられたところで、相手QBが長いパス。それが見事に決まってTD。それまでの膠着状態が嘘のような65ヤードのTDパスとなった。
 しかし、相手のトライフォーポイントが決まらず得点は0-6。
 その直後のファイターズの攻撃。伊豆から交代したQB光藤が歯切れのよい攻撃を指揮する。まずはWR前田への短いパスとRB橋本の14ヤードランでハーフライン近くまで陣地を進める。初めて対戦するQBに相手守備陣が「勝手が違うぞ」と戸惑っている様子がスタンドにも伝わってくる。その隙をついてチームが選択したのがQBキープ。光藤が鮮やかなステップで1、2列目を抜き去り、一気に55ヤードを走り切ってTD。K西岡のキックも決まって7-6と逆転。
 試合が動き出すと、相手の攻撃陣にもリズムが出てくる。関大は自陣26ヤードから始まった攻撃をパスとQBのスクランブルを組合わせて立て続けにダウンを更新。あっという間に関学陣34ヤードまで攻め込んでくる。
 ここは守備陣が奮起してなんとか攻撃を食い止めたが、相手のパントが絶妙で、ファイターズの攻撃は自陣5ヤードから。まずはRB野々垣のランで5ヤードを稼ぎ、最悪でもパントを蹴れる位置まで陣地を回復。その直後のプレーがすごかった。
 2年生RB山口がオフタックルを抜けた途端、抜群の加速力で相手守備陣を突破して独走する。スピードのある相手DB2人が追いすがるが、ファイターズWRの的確なブロックと山口自身の切れのよいカットで振り切り90ヤードのTD。90ヤードをあっという間に走り切ったスピード、トップスピードで駆け抜けながら瞬時にカットを切れる能力。これぞファイターズの最終兵器、と呼ぶにふさわしい走りを見せてくれた。
 光藤の独走TDに続く山口の独走TD。ともに2年生になったばかりの二人の思い切りのよいプレーに守備陣も奮起する。相手がランとパスを組合わせてゴール前まで攻め込んできたところでDB小池が鮮やかなインターセプト。そのまま47ヤードを走りハーフライン付近まで陣地を回復、攻撃陣を楽にする。
 続く攻撃シリーズは、光藤が同じ2年生WR松井にパスを通し、仕上げは西岡のFG。17-6として、ようやく勝利が見えてくるところまで持ち込んだ。
 この前後からファイターズは攻守ともに交代メンバーを続々起用。つい先日のJV戦に出場していた面々が次々に登場する。よく見れば、今春入部し、まだ上級生の練習に加わったばかりの1年生も出ている。僕が確認できただけでも、背番号の若い順にDB小川(高槻)、DL寺岡、LB大竹(以上高等部)、OL川辺、松永(以上箕面自由)が物怖じしないプレーをしていた。ほかにWR阿部(池田)、OL長谷川(啓明学院)の名前もメンバー表に掲載されていたから、どこかで出場していたのかもしれない。
 驚いたのは、試合終了間際。関大がインターセプトからTDを決め、17-13と追い上げた後のファイターズの選択である。相手が攻撃権の続行を狙ったオンサイドキックをファイターズが抑えたところで、残り時間は34秒。次のプレーでニーダウンすれば試合終了という場面だったが、なんとファイターズベンチが選択したのは攻撃の続行。残された2度のタイムアウトを立て続けにとって時計を止め、とうとう3プレーをやりきった。
 万一、ファンブルでも起きて、攻撃権を相手に渡したらどうなるのか。独走されたら逆転の目もあるのに、なんと危険な選択であることよ、と思ったが、その場に出場しているメンバーを見て納得がいった。
 「普段、出場機会の少ない選手に、関大の強力なメンバーの当たりや動きを体験させるための仕掛けに違いない」「普段の練習は味方の選手達。血相変えてかかってくるライバルの当たりとは質も違うし強さも違う。せっかく強い相手と戦うのだから、たとえ1回でも2回でも本物の当たりを体験させたい」。そう考えたのに違いない。
 試合終了後、帰り支度をしている鳥内監督に聞くと、その通りの答えが返ってきた。
 それにしても貪欲なことである。
 「あらゆる機会を捉えて、選手に成長のきっかけをつかませたい」「目先の勝ち負けにこだわって、新たな戦力の育つ機会を失ってはもったいない」。常にそういうことを考え、実行する監督やコーチの本音を「残り34秒からの2度のタイムアウト」に見ることができて、僕はライバルとの試合に勝った以上にうれしかった。
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