石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(11)メキシコでの戦い

投稿日時:2016/07/07(木) 15:54

 白状すると、僕は新聞記者でありながら、海外に出掛けるのが大嫌いである。異国の言葉がしゃべれない、飛行機に乗るのが怖い、狭いところに何時間も閉じ込められるのが耐えられない、という「三重苦」がその理由である。
 朝日新聞社の論説委員をしていたときには、それでも職場の同僚たちと(義務として)極東ロシア、台湾、ベトナムの3カ所に出掛けたが、プライベートでは一度も海外に出たことがない。ヨメさんから怒られ、子どもたちには見放されているが、それでも「三重苦」には勝てない。2年前、友人の作家、黒川博行さんが直木賞を受賞されたとき、「マカオツアーご招待、往復の飛行機とホテル代は全額、黒川持ち」という夢のような案内をいただいたが、これもパス。世間も大学も「スーパーグローバル」とか「GO GLOBAL JAPAN」とかいっているのに、まるで石器時代に生きているような毎日である。
 今回、ファイターズがメキシコ1の名門大学、メキシコ国立自治大学(UNAM)のフットボールチーム“PUMAS”から招待され、交流試合をするにあたっては、チームから非公式に「一緒に行きませんか」と声を掛けられたが、もちろん「辞退します」と返事。選手たちの奮闘振りを現地で見たいのはやまやまだが、ここでも「三重苦」には勝てなかった。
 代わりにというわけでもないが、帰国したチームのご厚意で、試合の模様を編集したDVDを提供していただいた。
 正直言って、テレビ局が中継用に撮ったビデオを見慣れている目から見ると、画像そのものは数段劣る。肝心のボールキャリアが写っていない場面もあるし、画像の質も悪い。それでも繰り返し繰り返し再生すれば、ファイターズの諸君の奮闘振りが伝わってくる。ありがたいことだ。
 例えばディフェンス。DLを率いる52番松本を中心に、柴田、藤木、安田、大野らの第一列が速くて強い当たりで、相手の動きをコントロールする。LBの動きもよい。つい先日までけがのために試合に出ていなかった主将山岸が右、左、前、後ろと、ボールのあるところに必ず顔を出し、松本や山本の的確な動きと相俟って、相手のランプレーを封じていく。最後列の小池、岡本、小椋の背番号も何度も画面に映っていた。相手のプレーに的確に絡んでいたという証拠である。
 1本目のプレーヤーだけではない。次々と交代して入ってくるメンバーの動きもよい。体が大きく、スピードがあり、闘争心をむき出しにして挑んでくる相手を時には力で圧倒し、時には技術で勢いをそいで、効果的な前進を許さない。
 得点こそ13点を奪われたが、そのうち1本は相手守備陣がファイターズのパスをインターセプトし、そのままゴールまで走り切ったTD。残る6点はフィールドゴールの2本であり、守備陣としては1本もTDを与えていない。
 逆に攻撃陣は苦労したようだ。何より得意とするランプレーでビッグゲインが出ない。ランプレーが思うように進まないからパスの成功率も芳しくない。画面を見る限り、OLは相手ラインと対等に戦っているようだったが、それでもRB陣は苦労している。相手の逆を突いた、これは抜けた、と思っても、横合いから予期せぬプレーヤーが飛び込んでくる。
 パスも同様だ。相手守備陣は背が高く、手も長いから、両手を挙げ、振り回すだけでも邪魔になる。どちらかといえば小柄なQB伊豆が投げにくそうにしている場面が何度も現れた。それでも、試合に勝つためにはパスを投げ続けるしかない。右や左に走り回り、ランのフェイクを入れてからの短いパスやショベルパスを織り交ぜ、時には長いパスを投じる。
 そうしてグラウンドを広く使っているうちに第3Qと第4QにWR亀山への長いパスがヒット。それぞれパスを受けてからの独走でTDにつなげる。K西岡のPATも決まってファイターズが逆転した。
 画面を見ている限りでは、もう少しファイターズがプレーの精度を上げていれば、もっと点を取れる場面があったようにも思える。とりわけ0-0で迎えた前半、短いパスとランプレーを交互に繰り出し、相手ゴールに迫ったときの攻撃が惜しまれる。あそこで一気に先取点を挙げていれば、終始、自分たちのペースで試合を支配できた可能性があったが、結果は無得点。その辺の詰めの甘さを今後、どうするか。夏休みの宿題をもらったような気がする。
 そうしたことを含めて、日ごろ親しくしている何人かの選手に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
 「確かに相手の当たりは強かったけど、自分だけが目立とうとする選手が多かった。その辺のほころびを見極めて攻めれば、もう少し点を取れていたのではないか。チャンスを確実にモノにできなかったのが、心残りといえば心残りです」(WR)
 「当たった感じでは立命のDLの方が強かった。メキシコの選手に勝ったといって満足していると、間違いなく立命にいかれます」(OL)
 「自分としては、できは普通です。秋にはもっと動けるようになって、チームを引っ張っていきます」(DL)
 それぞれ、国際交流試合で勝ったことよりも、秋の試合を見据えた発言ばかり。学生数約25万人。規模でも学力もメキシコを代表する大学を相手に、見事な逆転勝利を収めたことよりも、目の前に「本番」を控えた主力選手たちの、今後の戦いに向けた発言の方がはるかに力がこもっていた。
 勝利におごらず、そういう言葉を短い会話の中にさりげなく混ぜることができるようになったことが、今回の交流試合の成果かもしれない。

(10)開かれた組織

投稿日時:2016/06/29(水) 09:34

 身辺多忙につき、しばらくコラムの更新が滞ってしまった。申し訳ない。
 なんせ、今年の誕生日がくれば72歳になるというのに、今も現役の新聞記者であり、編集の責任者。和歌山県の南部限定の小さな新聞社だが、地域の占有率は6割から7割。全国紙を圧倒する読者に支えられている新聞だから、それなりの覚悟を持って働かなければならない。週に3本のコラムと1本の社説を書き、若い記者を育て、時には経営にも口出しする。当然、気の休まる時がない。
 加えて週末には、母校の非常勤講師として「文章表現」の講座も担当している。昨年まではひとコマ20人のクラスだったが、今春からはふたコマに増え、学生も40人になった。授業の進め方も、スライドやパワーポイントを使う今時の手法ではなく、昔ながらの寺子屋方式。毎回、課題を出し、原稿用紙2枚、800字の文章を書かせる。
 僕は帰宅後、それを添削し、講評を書き、点数を付ける。わずか40人と思われるかもしれないが、学生たちが本気で書いた文章である。添削し、講評を書く方も本気で受け止めなければならない。当然、それに費やす時間もエネルギーも半端ではない。
 けれども、母校の後輩たちが少しでも文章を書く力を身に付けてくれれば、感受性を養い、思考力を育てる助けになれば、と思うと自宅から上ヶ原まで徒歩30分の坂道も苦にならない。毎週、授業の始まる20分も30分も前から教室に足を運ぶ。早めに来て、弁当を食べたり、お茶を飲んだりしている受講生との雑談が楽しくてならない。やっぱり大学の講師というより寺子屋のお師匠さんが似合っているのだろう。
 そういう日常にあっても、友人からお遊びの誘いがあれば、喜んで出掛けていく。年齢を重ねると、新しい友人との交際は億劫になるが、その分、古くからの気の置けない仲間とのお遊びは楽しい。家族から白い目で見られても、徹夜でふらふらになっても遊び続ける。
 加えて、6月はチームの主力がメキシコに出掛ける。このコラムのチェックやネットへのアップを担当してくれている小野ディレクターや石割デレクター補佐もそれに同行して留守になる。ここは早めの夏休みにしましょう、と悪魔がささやく。
 そういう次第で更新が滞ってしまった。今週からは気分を一新してまた書き続けます。
 本題に入る。開かれた組織ということである。
 これまでも折に触れて書いてきたが、ファイターズほど外に向かって開かれた組織は珍しい。どの競技、種目を問わず、少なくとも全国のトップレベルで活動する組織は、基本的に勝利至上主義。当然、他チームの情報を入手することには懸命だが、自身の情報を公開することはほとんどない。とりわけアメフットのような戦略と戦術を駆使して勝負する競技においては、まずは「保秘」が最優先の課題になる。
 ところがファイターズに関しては、その常識が当てはまらない。同じ関西学生リーグに属するチームとでも、合同練習をするし、シーズンオフに地方の大学が泊まりがけで練習に参加することも歓迎する。
 シーズンオフには毎年、小野ディレクターや大村コーチらが試合のビデオを公開し、勝負の綾となったプレーの解説や、その戦術を取り入れた背景などを説明する講座も開いている。
 学内から他の競技団体の部員がまとまって練習の見学に来ても、快く内情を披露するし、他競技の高校生が団体で見学に来ても、ていねいに応対する。練習の準備から進め方まで、参考になることはすべて持ち帰って下さい、そしてチームを強くして下さいというのだ。
 どうして、こうしたオープンマインドなチームができたのか。
 僕が出した答えは二つある。一つはフットボールという競技の魅力を広めるために、互いに切磋琢磨する環境を保証しよう、そのためには長い歴史を持ち、フットボールに関するいろんな知識を蓄えているファイターズがその知識を公開し、全体の底上げを図ろうという意図。もう一つは関西学院大学体育会の中でも、極めて優れた組織運営をしているノウハウを他の体育会メンバーにも公開することで、関西学院の課外活動のレベルアップを図ろうという目的。この二つがあって、他に類をみない「開かれた組織」が運営されているのだろう。
 こうした「開かれた組織」を裏付けるのが毎年、朝日カルチャーセンターで開かれる小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」。今年は8月26日午後7時から、阪急川西能勢口駅前の川西アステ6階アステホールで開かれる。今回はより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されている。
 詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/75384e9d-5946-b400-248f-5750e569c730
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