石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2017/5

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(6)「グリーンボーイ」

投稿日時:2017/05/13(土) 09:39

 5月も半ばとなって、上ヶ原のキャンパスは一気に緑があふれてきた。
 ほんの1カ月前までは、花見だ、記念写真だと騒いでいた桜はもう濃い緑の葉で覆われている。葉を落として寂しかったケヤキは盛大に緑の葉を広げ、クスノキも古い葉を散らして、すっかり新緑に変わっている。
 中央芝生を取り巻くトキワサンザシの垣根は白い花を盛大に付け、独特の芳香をあたりに漂わせている。
 第3フィールドに入ると、ウグイスの鳴き声が聞こえてきた。グラウンドの南東の隅に雑木林があり、そこから「ホーホケキョ」と鳴き続けている。練習の見学を放棄して、じっと声のするところを眺めていると、その姿まで見つけることができた。
 ウグイスの鳴き声は誰でも気付くが、その姿はなかなか見つけにくい。それをいわば大学の構内で見つけることができて、幸せな気分になる。その前に、ウグイスの鳴き声が聞こえる環境で練習出来るなんて、都心の大学では想像もつかないことだろう。
 幸せな気分と言えば、今春入部した1年生、いわゆる「グリーンボーイ」たちの練習を見るのも同様だ。高校の頃から騒がれていた選手もいれば、他競技からフットボールを志願してきた選手もいる。高等部や啓明学院から進学してきたメンバーもようやく揃ってきた。
 ホームページのリストを数えれば選手が41人、スタッフが4人。総勢45人のニューカマーである。その中には、昨年夏、スポーツ推薦を目指して勉強会をともにしたメンバーもいるし、野球やバスケットボール、ラグビーなど他競技から志願してファイターズの門を叩いた選手もいる。
 彼らが4時限、あるいは5時限終了後、駆け込むようにしてグラウンドに顔を見せ、それぞれがグループをつくり、体作りのメニューに挑む。腹筋、背筋を鍛え、首から肩にかけての筋肉を鍛える。グラウンドとその周囲にある坂道を周回するコースを全力で走る「走りモノ」と称するメニューも必ず組み込まれている。
 一通りの練習が終われば、RBやWR、DBを志望する部員は武田建先生の元に集まってボールを受ける練習。まだ、ポジションの決まっていない選手もこの練習に参加し、楕円形のボールに馴染む。これはボールを受ける基本練習であり、同時に選手同士がどの程度の運動能力を持っているのかを披露し会い、互いにお友達になる練習でもある。
 もちろん、僕らの目に触れないところでも部活動は続く。授業の空きコマを利用してトレーニングルームで筋トレをしたり、ファイターズのフットボールを理解するための勉強会に参加したり。
 こうした練習は、当初は全員参加だが、1カ月ほどしてそれぞれ筋力数値が上がり、所定の体重をクリアし、走りモノのメニューに慣れてくると、徐々に上級生のパート練習に参加させてもらえるようになる。選抜された部員のヘルメットには赤いテープでバツ印が付けられ、同様、赤のテープで各自の名前が貼り付けてある。上級生にフルタックルをしないようにという配慮であり、早く名前を覚えてもらえるようにするための工夫である。
 この集団を率いているのが新入生担当トレーナー潮博史君、3年生。六甲高校のラグビー部出身で、昨季まではOLのメンバーだったが、いまは後輩の指導を担当している。彼の教え方が遠くから見ていても、恐ろしいほど上手い。力強く指示を出し、なすべきことを的確に伝える。見本を見せる。そこまでは誰もがすることだが、一人一人に向き合う姿勢に独特の雰囲気がある。息が上がった選手を上手く励まし、ぎりぎりまで力を発揮させる。自分が新入生のころ、この競技の未経験者として体験したことを上手く生かしているのだろう。決して怒鳴らず、それでいてやるべきことはしっかりやらせる。彼が高校や中学校の教員になれば、きっと課外活動の指導でも成功するはずだと思えてくる。
 新入生の指導と言えば、忘れてはならない名前がある。鳥内監督だ。この時期、グラウンドに出てくると、大半の時間を新入生の練習を眺めることに費やされている。気付いたことがあれば、即座に担当トレーナーに声を掛け、注意を促す。時には選手に直接声を掛け、当たり方を指導する。足の運び方から腕の使い方。目の動きから相手との距離感。新入生にそこまで、と思うほどの細かい指導が自ら模範を示して続く。
 これは今季に限ったことではなく、毎年、この時期に見掛ける光景である。監督にその目的を聞くと「はじめに悪い癖を付けたら、選手がかわいそうや。最初が肝心。はじめにきちんと教えといたら、後々迷うことがない」という答えが返ってきた。
 大学だけでなく、高校や中学校の部活の指導者は、どうしても試合に出る選手が優先になりやすい。控え選手や新入生を相手に時間を割くよりも、試合に出るメンバーを鍛える方が成果が出やすいと考えるからだろう。
 しかし僕は、かねてからそういう考え方に疑問を持っている。逆に、チームの末端にまで目を配っている指導者に恵まれたチームは、たとえ体格や運動能力に劣っていたとしても、成果を挙げている例が多い。それは記者として現場を走り回っていた頃の見聞や、日本高野連の理事をしていたころにつきあった指導者との交流から、確信となっている。
 部員が200人もいれば、一人の人間がその全員に目を配るのは至難の業だろう。しかしながら、新入生に分け隔てなく目を配り、初歩の形を丁寧に指導する。そういう機会を求めてつくることで、全体が見えてくる。組織が有機的に動き、力が発揮できる。その辺を心得たベテラン監督ならではの「目」であろう。毎年ことながら、新入部員を見つめる鳥内監督の「目」は興味深い。
 こうして丁寧に育てられた新人たちが、間もなくデビューする。まずは20日、京都産業大とのJV戦を注目したい。そこに登場しそうな1年生の顔を思い浮かべるだけでも、ワクワクしてくる。

(5)伝統の戦い

投稿日時:2017/05/02(火) 09:10

 4月30日は日大との定期戦。今年で50回目を迎えるライバルとの戦いが「フラワーボウル」と名付けて神戸・王子スタジアムで開催された。
 天気は晴れ。気温は20度以上に上がっている。競技場を取り巻く樹木が鮮やかな新芽を伸ばし、日の光にきらめいている。「薫風」という言葉を絵に描いたような爽やかな風が吹く。絶好の観戦日和である。
 ファイターズがコイントスに勝ったが、先攻の権利を放棄し、風上からの攻撃を選択して試合開始。赤と青の対決が始まる。
 近年は甲子園ボウルで対戦する機会も減り、現役の学生にとっては「特別の相手」という意識は薄いようだが、古いOBにとっては永遠のライバル。春の定期戦、秋の甲子園ボウルと激戦を繰り広げ、数え切れないほどの名場面を残してきた相手である。篠竹監督という個性の際だった指導者の下で、恐ろしいほどの運動能力を持った選手たちが縦横に走り回った過去の場面が脳裏に浮かぶ。日大が甲子園ボウルで5連覇した当時は、試合が始まって10分もすれば、もう勝敗の行方が見えてしまったこともあった。当時一緒に観戦した仲間と「対等に戦えるのは、試合前の校歌を歌うまでやな」と嘆きあったことが昨日の出来事のように浮かんでくる。
 例えば鳥内監督が現役だった4年間の甲子園ボウルのスコアを見れば、1年生から順に7-63、0-48、7-42、31-42。監督も2年後輩の小野ディレクターも、ともに一度も甲子園ボウルで勝ったことのない学年という十字架を背負い、その悔しい思いを背景に後輩たちの指導に全力を尽くされてきたということは、機会あるごとに聞かされてきた。
 そんな監督が試合前、選手達にこんなことを話されたそうだ。
 「いまの現役は、日大といっても特別の意識はないけど、OBにとっては特別の思いのある相手。ちゃんとした試合をせんかったらOBに失礼や。オレが代わりに出たろか、とかいわれんように、ちゃんとやれ」
 似たような話は、場内のFM放送で試合の解説を担当された小野ディレクターも試合前に振り返られていた。なんせ4年生の春の定期戦、28-19で勝ったのが対日大戦、唯一の勝利というのだから、その苦い思い出は察するに余りある。
 そういうOBたちの思いを乗せて始まった50回目の対戦。しかし、新しいシーズンが始まってすぐの試合とあって、両チームともまだまだという場面が相次ぐ。個々の選手には才能を感じさせるプレーが見られるのだが、チームとしての完成度は互いに今ひとつ。日大はパスプレーの精度に難があり、ファイターズの攻撃ラインも再三、相手守備陣に割られ、QBを孤立させる。
 それでもチームとしてのまとまりに一日の長があるファイターズは、QB光藤が学生界では群を抜いているレシーバー陣に的確にパスを通し、徐々にゲームの主導権を奪っていく。第2Q10分3秒、ゴール前2ヤードからの攻撃を執拗にランプレーで攻め抜き、3度目にRB山本が中央を突破してTD。K小川のキックも決まって7-0と主導権を握る。
 続く相手の攻撃を守備陣が完封すると、今度はWR前田へのパスで陣地を進め、ゴール前34ヤードからWR松井へのTDパス。これを松井が体を反転させながら見事にキャッチしてTD。続く日大の攻撃はDB木村がインターセプトで食い止め、攻守交代。前半残り時間17秒、相手陣28ヤード。今度は光藤がWR亀山へのパスを一発で決めてTD。わずか2分ほどの間に、3本のTDを決め20-0で前半を折り返す。
 こうなると相手は焦る。逆にファイターズは余裕をもって試合を進める。後半も終始ファイターズペースで進み、途中から攻守ともに交代メンバーを次々に投入する。終わって見れば36-6。得点差を見れば、ファイターズの圧勝だった。
 しかし、その内容はどうだったか。KGスポーツが伝える試合後のインタビューを見ると、そうそうお気楽な内容ではなかったことが伝わってくる。
 「下級生のミスを自分のミスと思い、次の2週間も取り組んでいく」(主務・三木君)
 「よいところも悪いところもしっかり出た試合。相手の自滅で勝てたようなもの」(副将・藤木君)
 「勝てたことより、内容が全然ダメ」(副将・松本君)
 先制のTDを決めた4年生RB山本君は「残り2ヤードから3本連続で同じプレーが続いた。4年生として意地でも決める場面だった。あそこで決めないと秋は勝てない。個人としても、オフェンスとしてもランで勝たせる試合をもっと詰めていきたい」
 こうした談話を並べて行くと、スタンドからとやかくいうことはない。チームを率いる幹部たちが現状の厳しさを十分に自覚しているのだから、あとはその言葉を普段の練習で個々の選手の成長につなげていくだけだ。気候もよし。学校の授業も軌道に乗ってきた。あとは部員一人一人が工夫と努力を重ね、チーム全体の底上げにつなげていくことだ。
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