石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」 2014/7

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(15)驚愕の数字

投稿日時:2014/07/12(土) 14:23

 タッチダウン誌8月号を見て驚いた。驚愕(きょうがく)といってもよい。
 そこには、ファイターズの強さをさまざまな数字で見てみよう、というタイトルでいくつかのデータを掲出。その中に、卒業生の「著名企業400社への就職率」というデータがグラフで示されていた。大学通信社が会社規模や知名度、大学生のランキングなどを参考に毎年発表している著名企業400社への就職率ランキングでトップになった大学と、ファイターズ卒業生の就職率を比較した結果、この4年間、連続してファイターズの方が上回っていたのである。
 就職率のトップになった大学は、2009年度が慶応大の47・1%、10年度が豊田工業大の65・8%、11年度が一橋大の52・0%、12年度が同じく一橋大の54・5%。それに対してファイターズ卒業生の就職率は09年から順に79・3%、69・0%、66・7%、70・5%であり、すべての年でトップ校を上回っていた。つまり人気企業への就職率の良さで天下に知られている慶応大や一橋大をはるかに凌駕(りょうが)する成績を、われらがファイターズの卒業生は毎年、毎年収め続けてきたのである。
 驚愕というしかない。
 実は、この数字についてはファイターズOB会の機関誌「ファイト・オン」4月号に、ディレクターの小野宏さんが「なぜファイターズは就職に強いのか」というタイトルで詳しく分析した原稿を掲載されている。OBの皆さんにとっては周知のことになるが、未読の方も多いと思うので、改めて紹介したい。
 「大学通信」の「著名企業400社への採用者の比率」でみると、関西学院大学のこの4年間の平均は26・1%、体育会卒業生の平均は41・8%。これに対してファイターズ卒業生は70・8%である。大学全体の就職率が高い慶応大や一橋大でラグビー部やアメフット部の学生たちが、これら400社からどのような評価を受けているのかは分からないので「就職でもファイターズが日本1」と言い切る自信はない。けれども、著名企業が関学の一般学生に比べて3倍近い評価をしている事実は動かない。思い切り自慢してもいいことだと断言したい。
 もちろん、世間で名の通った企業に就職することが人間としての価値に直結することではない。人にはそれぞれの生き方がある。小さな家業を継ぐことも大事なことだし、世のため人のために奉仕するのも尊い生き方である。地方の新聞社で、地の塩のような働きをすることだって立派な仕事である。
 そういうことを十分に承知した上でいうのだが、なぜファイターズの学生たちは名の通った企業から高く評価されるのか。
 これも小野ディレクターの原稿から引用させてもらう。正社員を採用するに当たり企業が重視する「仕事に対する意欲、熱意、向上心」「積極性、チャレンジ精神、行動力」「チームワークの尊重」「コミュニケーション能力」「社会常識やマナー」「ルールを守る」という能力に優れていると評価されているからだろう。
 小野さんの論考では、こうした能力はアメリカンフットボールという競技自体が内臓しているものであり、この競技でトップを目指す以上は、自らが鍛え、養っていくべきものであるという。
 具体的には、体を鍛え、プレー能力を向上させていくと同時に、プレーごとの改善点を議論する。その対応策を見つけ出していく中で、部員の論理的思考、批判的思考、数量的な思考能力、問題発見・解決能力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力が鍛えられていく。さらに「就職試験の面接以上に苦しい」監督との個別の面談で自分を見つめなおし、上級生、下級生が「日本1」という同じ目標に向かって精進する中で、コミュニケーション能力やリーダーシップ、フォロワーシップが養われていく。
 さらにいえば、そうした後輩たちを支援するOBの存在も大きい。就職を直接あっせんするというのではなく、さまざまな形で支援しましょうという組織や人材があちこちにある。卒業生とチームの風通しの良さ、という数値化しにくい分野でも、アドバンテージを持っているのである。
 ファイターズは、そういう構造を内包したチームである。人は変わり、時代が移っても不断の努力でその構造を維持し、発展させ続けているチームである。だから人は育っていくということだろう。
 こうしたファイターズの構造を一言で表しているのが鳥内監督のいう「ガキが男になる場所」である。そこで育ったファイターズのメンバーに、将来を担う優秀な人材を常時、求めている企業が注目するのは、当然といえば当然である。

(14)監督の目

投稿日時:2014/07/03(木) 08:29

 上ヶ原の第3フィールドで行われるJV戦の楽しみの一つは、相手ベンチの様子がすぐ近くで見られることである。ベンチに戻った選手の一挙一動が間近に見られるし、彼らを叱咤したり、元気づけ、励ましたりする監督やコーチの大きな声も丸ごと聞こえる。
 ファイターズのベンチでは、日頃、そういう大きな声を聞く機会がほとんどないから、聞いていて「これがチームの文化の違いか」と思わされることも少なくない。
 ではJV戦のとき、ファイターズのベンチでは、どんなことが行われているのか。監督やコーチは普段、何をしているのか。今回はそれをテーマに書いてみたい。
 攻撃と守備の指示を出すコーチは、もちろん忙しい。攻守交代の時はもちろん、選手が出入りするたびにあれこれと注意や指示を出すのは、普段の試合と同様である。スポッター席から大きな声で指示が飛ぶこともある。けれども、選手交代などは主として4年生とアシスタントコーチが行うし、元々が勝敗そのものににこだわる試合でもない。
 監督やアシスタントヘッドコーチは、一見、気楽に試合の進行を眺めているようにように見える。ところが、それにだまされてはいけない。監督やコーチは、普段の試合以上に真剣にチームの動向をチェックし、個々の選手の動きに目を配っている。普段、試合に出る機会の少ない下級生や故障上がりの選手を大量に出場させて、実戦で彼らがどのような動きができるのか、あるいはできないのかをチェックして、今後の指導の参考にしようとしているのである。
 ファイターズは、今年も50人以上の新入部員を獲得した。昨年入部した2年生とあわせると100人を超すフレッシュなメンバーがいる。当初は全員にチャンスを与え、体重や筋力数値をクリアした部員から順にチームの練習に加えていく。チーム練習の中で、彼らがどんな能力や可能性を持っているのか、それを見極めることは可能だが、試合になると、日頃の練習で見えてこないことがいろいろと見えてくる。
 当たりの強さやスピードはもちろん、相手との駆け引きや瞬間瞬間の判断力、実行力は、見る目のある人なら即座に見極められる。いまは未熟でも、可能性のある「未熟」か、それとも成長の余地があまり期待できない「未熟」なのか。フットボール選手に不可欠な闘争心や自分の役割に対する忠誠心も、試合の中でこそ見えてくる。その見極め。けがなどで出場機会の少なかった4年生や3年生がどこまで回復しているか。勝負勘は衰えていないか。けがを理由に、練習を手抜きしていたようなことはないか。そんなことまでが一つのプレー、一つの動作でチェックできる。日頃から、気の遠くなるほどの時間、練習につきあい、練習や試合のビデオを見続けている監督やコーチの目は、部員や観客が想像している以上に鋭い。
 その片鱗は毎回、試合後の監督コメントなどからも、ちらっとうかがえる。関学スポーツが伝える甲南大戦後の監督コメントにも「今日の試合で互角の勝負をしていた選手は、秋では交代メンバーになれない」「口だけで試合に出たい、といって、努力できていない選手は、もっと責任をもってやらなければいけない」という言葉があった。
 怖い言葉である。少し言葉を足して説明してみよう。最初のコメントは「相手チームに、1部レベルの選手がいたことを割り引いても、2部の選手と互角に渡り合っているようでは、1部の厳しい試合には通用しない」ということだし、2番目の言葉は「口先だけの選手はいらない。責任をもって努力する選手にのみ可能性が開ける」という意味であろう。
 大阪学院大との試合は70-0、甲南大との試合も36-0。ともに、スコアの上では圧勝である。2枚目といわず、3枚目、4枚目、場合によっては5枚目の選手まで投入した「見本市」のような試合であったが、それでも監督やコーチの目は「口先だけの選手」「努力しない選手」をチェックしているのである。ベンチで大きな声で叱ったり喝を入れたりするコーチや監督よりも、こういう厳しい目を持った監督やコーチの方がはるかに怖いということがお分かりいただけるのではないか。
 しかし、ここまで厳しく選手の動きをチェックしているということは、同時に可能性を持った選手、努力、向上の跡が見られる選手についても、必ず「記憶に叩き込んでいる」ということである。その「記憶」が選手の可能性を引き出す手がかりとなり、気が付けば秋のリーグ戦でも1部の強敵とも存分に渡り合える選手が育っている、という仕組みになっているのがファイターズである。
 JV戦といえども、見どころは満載、という意味は、こういうところにもあるのである。
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